「クズの本懐(TVアニメ動画)」

総合得点
83.1
感想・評価
1023
棚に入れた
5250
ランキング
332
★★★★☆ 3.6 (1023)
物語
3.5
作画
3.7
声優
3.6
音楽
3.6
キャラ
3.5

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ネタバレ

九会 さんの感想・評価

★★★★★ 4.4
物語 : 4.5 作画 : 4.0 声優 : 4.5 音楽 : 4.5 キャラ : 4.5 状態:観終わった

欠片を求めて

今作のタイトルにある『クズ』、漢字で書くと『屑』という言葉には切れ切れになったもの、即ち『欠片』という意味があります。この作品はそんな欠片が嵌らなかったり、抜け落ちてしまったパズルのような人々のお話だと思います。

・メインキャラ4人について
女主人公である「花火」と男主人公である「麦」は叶わぬ恋をしたままお互いを自分の想い人に当てはめる代償行動として恋人を演じる事になります。求め合う度に惹かれてはいくが、やはり身を焦がすように恋をした人ではない。しかしながら互いを代替ではなく、個人として認識した後は、似たもの同士で通じる部分があり『心地が良い』『このままで居たい』『そばに居て欲しい』というような思いが芽生えます。
ただ矢印としては花火から麦に向けている感情の方が大きく、これは母子家庭である事が一因だと思います。花火にとって兄のような存在である「お兄ちゃん」が憧れの存在でありつつも自分を守ってくれたり、大事にしてくれる父親の役割を担っていました。しかしながらそのお兄ちゃんが離れて行ってしまう、そうして代わりに求めたのが麦だったのです。もしも花火にきちんとした父親がおり、彼女に無償の愛を与えればここまで拗れるような恋愛をする事もなかったのでないのかと思うぐらいに彼女は愛を渇望していたのだと思います。
一方の麦は明らかに女の趣味が悪いです。彼が恋焦がれる「先生」は『自分が大好き』『人が欲しいものを欲しくなってしまう』『自分が価値あるものだと認めて欲しい』そんな承認欲求に加えて恋破れた乙女が苦悩する姿が見たいという悪役のような趣向のある歪んだパズルのような女性です。本性を知らないならともかく、知っててこんな女性に惹かれるのは正気か?と思いましたが、麦はそんな彼女を変えて見せたかったようです。残念ながら彼女を変えることが出来たのは彼ではありませんでしたが。
花火の苦悩する顔が見たいという理由の為だけにお兄ちゃんと付き合い始めたので、早く別れようとしていた先生でしたが、彼女の本性が明かされた後もそれに動じず、『付き合い続けて下さい』と言いのける彼に驚き、思わず『はい』と返事をしてしまって以降、彼女の心境に変化が生まれます。男を自身の勲章のように扱って来た彼女でしたが、終盤にて遂に陥落。魔性の女がおもしれー男に絆される構図はニヤニヤしてしまいますね。そんなこんなで温泉旅行ではラブコメのそれに近い感じでゴールイン。デスノートや地獄通信に名前を書かれそうな彼女が作中で一番幸せになるというのは何とも皮肉なものですが、そんな歪んだり抜け落ちたりしていた彼女の欠片を埋めたのが、花火が大好きだったお兄ちゃんだったのだと思います。
一方でそんなおもしれー男であるお兄ちゃんですが、他キャラと比べて聖人過ぎて正直浮いてるような印象を受けました。これまで散々人間の感情の汚い部分を見てきただけに彼はいったいどんな思いを秘めているのかと期待していたところがあったので、最後まで綺麗なままだったのは正直拍子抜けしました。花火が人を見る目があるっていう事ですがね。ただ母に似た先生に惹かれたのは父親がいない花火との対比として良かったと思います。

・好きなキャラ
キャラクターとして気にいったキャラは「えっちゃん」と「最可」です。えっちゃんと最可は花火と麦にとってそれぞれ特別な存在です。かたや親友、かたや幼馴染という間柄です。そんな近くに居た二人だからこそ花火と麦が普通の恋人同士という甘い関係では無い事に気づきます。しかしながら恋愛的な意味で彼女達は花火と麦とは決して交わらぬ事のない「平行線」にいます。
えっちゃんは花火の親友の女の子です。高校入試の際に痴漢にあった所を花火に助けて貰った事がきっかけで彼女は花火に恋をします。同性愛、百合ですね。これまで性格があまりよろしくないと思っていた花火でしたがこれはカッコイイ、えっちゃんが惚れるのも無理はないと見直しました。初めて出逢った時のえっちゃんは弱々しく、一方の花火は芯がある子という印象でしたが、本編では花火がえっちゃんを頼る側になり、立場が逆転しています。入学後に今度は自分が好きな子を守るんだと背伸びをして頑張ったのかと思うと可愛らしく、髪型が変化しているのもそんな決意の現れであるように感じます。そんなえっちゃんですが、親友という立場に甘んじない肉食系女子でした。自身でも狡いとわかっていながら花火が弱っているところにやって来ては『私は代わりで良い』と花火を自分の物にします。身体を重ねて以降、ふっ切れてオラオラ系になった彼女にはカッコ良さすら感じました。えっちゃんがえっちちゃんになってる……!(言いたかっただけ)
しかしそんな関係は長くは続かず、この関係に終止符を打つ事に、雨の中での心情を吐露した恋と友情を巡る終着点はとても美しく感じました。

麦の幼馴染である最可は登場時はキャンキャンとした子犬のような女の子という印象で、この作品のムードメーカーなのかな?と思っていたキャラクターでしたが、「私には麦しかいない」という悲痛さを感じる叫びや自分なりの可愛さを追求する努力家な部分がギャップが感じられて一気に好きになりました。それだけでなく、自分の可愛さを活かした強かさも持ち合わせてる点も良いと思いました。女の子は少し狡いぐらいが良い(?)
また麦とのシーンでは麦に恥ずかしがりながらコンプレックスを伝えている部分がとても可愛いらしい。さすが最も可愛い「のり子」、可愛いのマネジメント能力が高い……。
麦とは悲恋に終わった彼女でしたが、最後には自分の進む道を見つけられて、たくさんの人から認められて良かったなと。

総評
男性陣は正直女々しいなと思ったり、女の趣味が悪いなと感じたので感情移入は出来ず、あまり好きにはなれませんでしたが、好きだった人の門出に『おめでとう』と言えた麦は褒めてあげたい。
一方で女性キャラクターどのキャラも魅力的だったと思います。先生はキャラとしてはともかく実際にこんな人間が居たら最悪ですがねw
使用された楽曲のOP「嘘の火花」は反対から読むと「花火の嘘」になりますが、本編で自分の気持ちに嘘をつき続けた花火を表していたり、EDの「平行線」は結ばれない恋がテーマのこの作品に合っていたと思います。作画も演出の癖は強めですが、際どい描写を艶かしく描いていたと思いますし、キャラの声を当てる声優陣も力を入れていたと思います。掲載誌は青年誌ですが、少女漫画のドロドロ要素を更にドロドロさせた感じであるのでそれに耐えられて、ベッドシーンなどに抵抗がなければ視聴しても良いかな……嫌悪感だったり、フラストレーションは溜まる人がいるのも納得の作品ではあります。ただ視聴前からドロドロな作品だということは知っていたのですが、視聴をとても爽やかな気持ちで終えることが出来たのは全く予想外でいい意味で裏切られました。因果応報を考えると散々掻き回した先生が一番幸せになってるのどうなの?となる部分もあるかと思いますが、この作品のタイトルを一番表していたのが彼女であるので、意外性もあってよかったと思います。人をかなり選ぶ作品ですが、自分は長々と感想を書いてしまったくらいには印象に残った作品でした。

投稿 : 2022/05/23
閲覧 : 234
サンキュー:

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