「デカダンス(TVアニメ動画)」

総合得点
82.5
感想・評価
621
棚に入れた
2242
ランキング
357
★★★★☆ 3.8 (621)
物語
3.8
作画
3.9
声優
3.8
音楽
3.7
キャラ
3.8

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ネタバレ

ナルユキ さんの感想・評価

★★★★★ 4.4
物語 : 5.0 作画 : 4.0 声優 : 4.0 音楽 : 4.5 キャラ : 4.5 状態:観終わった

既視感を逆手に取った名作

最初の印象は失礼ながら『進撃の巨人』や『空挺ドラゴンズ』のオマージュと思ってしまった。その実ハイテクだがそうは見えない簡易な装備で立体起動のように戦う戦闘シーン。「ガドル」と呼ばれる怪物も独創的とは断言できず、その怪物らが人類の安住の地である移動要塞「デカダンス」を度々襲撃しているという世界観……既視感は拭えない。拭えないがだからこそ「面白い」と確信できる第1話だった。
片腕を喪おうと前向きに戦士を目指し、この手でガドルとの戦いを終わらせようとする少女・ナツメと、彼女を現実的目線で嗜めつつも面倒見は良い男・カブラギの掛け合いが微笑ましく、そんな男女が過ごす終末的な世界観を楽しめるのだと期待していた。
しかし、その期待は2話の途中で天地をひっくり返すが如く裏切られる。それは良い意味でも悪い意味でもあり、人によっては受け入れがたいもののように感じた。

【ココがひどい?:面白そうな世界観が実はゲームでした】
《デカダンス。それはソリッドクエイク社が送る、かつてない興奮を体験できる超巨大娯楽施設────》
容赦なく奪われた命を弔うシーンが描写された後、こんなナレーションが挿入されていく。誰もがその間、頭をバグらせてしまうだろう。
改めて書くと、『デカダンス』は体感型ゲームだったのである!
本作の真の世界観は人類の代わりにカートゥーン調の姿をした「サイボーグ」が蔓延り、そのサイボーグらが安全圏で「命のやり取り」をしたいがために1つの大陸をサバイバルゲーム場にしてしまった────というもの。そのサバゲー場と化した大陸を延々と彷徨うのが移動要塞デカダンスであり、ナツメら人類はゲームの「NPC」に位置づけられて真実を知らずに暮らしている。人類の敵であるガドルもサイボーグによる量産生物、ゲームにおける「エネミー」の立ち位置だ。そんなものに人類が存続の危機に立たされていることになる。本来はそんな天敵など存在しないというのに……。
そんな人類側の1人かと思われていたカブラギも実は精巧に人間に似せて作られた「素体」にログインするサイボーグの1体。かつてはデカダンスでハイスコアを競い、ゲームを盛り立てる上位ランカーだった。
だからこそ彼は「戦いを終わらせる」と息巻くナツメを思わず嗜めてしまう。ガドルは全滅しない。自分たちサイボーグが娯楽のために延々と造り続けているのだから。
1話ではナツメの視点、2話ではカブラギの視点で描かれることで多角的にこの作品の世界を描いている。1話で描かれた世界はスチームパンク、ポストアポカリプスというジャンルであったがその実、2話で描かれたのはAIが管理社会をひくディストピアだ。

【でもココが面白い:バグから始まる反逆のストーリー(1)】
早々に爆弾のような新設定が明かされて戸惑いが続くが、ナツメとカブラギの小粋な掛け合いは変わらない。実態はゲームプレイヤーでも何も知らない人間にとっては怪物と戦う一級の戦士だ。成り行きでやむを得ず戦場に出たカブラギに、ナツメは戦い方を教わろうと食い下がる。
一方でカブラギはデカダンスを運営する「システム」の懲罰で、真実を垣間見た人間=「バグ」を摘発し予め埋め込まれた管理チップを回収する「回収人」として夜に活動していた。その魔の手をナツメにも伸ばそうとしたが、意外な展開になる。
{netabare}ナツメは片腕を喪った時の重傷によって管理チップが死亡判定を下し、システムの管理から外れていたのだ──正直、こんな事例はいくらでも起こりそうな世界観なのにAI管理社会がずっと気づけないのはどういうこっちゃ?とは思ってしまったのだが、細かい粗なのでこれ以上は書くまい──。
システムの犬であるカブラギはナツメがバグであることを報告しなければならない。しかし彼もまたシステムによって束縛される自身の在り方を疑問視する“バグ”であった。サイボーグの活動源でもある万能エネルギー「オキソン」の供給を断って緩やかに自殺しようとしていたカブラギは、何者の指図も受けない自由意志を見せるナツメに“生の希望”を見出し、オキソンを補給する。
「どうして戦い方を教えてくれる気になったんですか?」
「そうだな……この世界でバグがどうやって生きていくのか確かめたくなったんだ」
ここから始まるカブラギとナツメの一時の師弟関係のような描写が何だか微笑ましい。{/netabare}

【でもココが面白い:バグから始まる反逆のストーリー(2)】
カブラギの手解きによって初めての戦場で大活躍できたナツメは同じ人間の部隊に入隊することが叶う。ここから彼女ら人間にとっては「本物」の死闘が待ち構えている筈だった。
しかし再三書いているが『デカダンス』はゲームである。ゲームで遊ぶサイボーグのプレイヤーたちの投機心を煽るため、運営側もただ作ったガドルをデカダンスに向けて放つばかりではない。
{netabare}負けイベント────絶対に勝てないガドルがいる巣にデカダンスを向かわせ、人類共々「これで戦いが終わる」と吹聴する。戦いに出た戦士を壊滅して絶望させたその後に伝説の戦士たち──その1人にカブラギ──が舞い戻る、という筋書きを用意していた。この筋書きを通せばナツメら人間の戦士が殺されてしまう。
ナツメだけでも戦場に出ないよう説得するカブラギ。ただし真実は告げられない。彼女らの本気を、生きようとする足掻きを、「ゲームなんだ、作り物なんだ」と伝えることが忍びない。伝えたら絶対に傷付く。絶望する。しかしそこを省くせいで全然要領の得られない説得になってしまう。そんなカブラギの葛藤が視聴者に如実に伝わってくる。
中途半端な説得にはナツメも屈しない。「その腕じゃ無理だ」「仕方ない」「諦めろ」。生きてて何千何万と言われ続けてきただろう言葉によって、彼女は普段の明るさとは裏腹に自分に自信を持てずにいた。そんな自分を
変えるため、彼女はデカダンスに篭るのではなく戦場に赴くことを選んだのだ。{/netabare}
無理を通して世界の平和と自らの自信を勝ち取ろうとするナツメ。真実と惨劇の未来を知り、“生の希望”であるナツメを助けようとするカブラギ。そのどちらにも感情移入することができ視聴者はその間で板挟みになってしまう。
ナツメは生き残れるのか。そして世界の本当の姿を知ってしまうのか。
カブラギはナツメの命を救えるのか。しかしその行動如何によっては彼もまた無事では済まない。
立場も性格も異なれど、共通して“自由”という概念を求め始めた2人のキャラクターの行く末が本作のストーリーを追うに値する絶対的なモチベーションとなる。

【総評】
1クールながら非常に満足度の高い作品だ。滅亡の危機に瀕した人類の決死の足掻きを描くポスト・アポカリプス、その世界にVRMMORPGとして紛れ込む上位存在────サイボーグを描いたSFファンタジー……両極端とも言える2つの世界観を世界の安寧・秩序のために管理しているというディストピアでまとめた世界観構築は秀逸であり、それら世界観のかけ合わせで内容も濃い味に仕上がっていた。
トゥーンのようなサイボーグたちのキャラデザと作画はシリアスなパートでその雰囲気になりきれないという齟齬も生んでしまっているが、その分人類や素体は荒々しくも精錬された作画で描写されており、そこで雰囲気をしっかり引き戻す。アクションシーンも映えており設定上、重力を考慮しない低空中戦でのダイナミックな視点移動や足を使って弾(針)を装填するといった柔軟な身体の使い方に強い印象を与えてくれる。人だけでなくデカダンスは対巨大ガドルとの決戦用兵器としてパンチングマシーン型の巨大ロボットに変形し、ロボットアニメ好きを唸らせる圧巻のロケットパンチをかましてくれる。
主題歌は鈴木このみのパンチ力ある歌声で本作の幕を開け、EDには元歌い手の男性シンガーソングライター・伊東歌詞太郎氏を起用してしんみりと〆る。このセットによる視聴了感がたまらない。
そして様々なジャンルを組み合わせて作られた世界観で動く生き生きとしたキャラクターたちが本当に魅力的だ。デカダンスのNPCである人類とゲームプレイヤーとして入り込むサイボーグという「本気」と「遊び」の対比が素晴らしく、どちらの行動原理にも説得力がありその板挟みになりがちだ。さらに真実を知る者と知らぬ者、限界を決めて萎縮する者と決めずに突っ走る者との不和と和解も描いて実に情緒的なストーリーにも仕上がっている。ナツメとカブラギ以外のキャラの掘り下げはやや浅いものの、脇役は脇役なりにW主人公を引き立て、けれど2人とは精神的な影響を与え合っているのでそこまで不満に感じる所はない。カブラギにはミナトが、ナツメにはフェイが彼らの行動を「ついてこれない」と見限ろうとする部分がシンクロしており、されど旧知の仲を捨てたくないと自身に出来ることまでを最大限やろうとする所が質素に尊い。そんな彼らが真の「自由」を勝ち取ろうとシステムに反逆していくストーリーが本当に面白かった。
アニメも60年作られ続けた今日、どうしても何かしらの過去作と被ってしまうことは避けられず、本作も1つ1つの要素は決して珍しくないかも知れない。しかしその組み合わせ方や見せる順番、もしくは視点を変えることで見慣れたものがここまで変わるのかと新鮮な驚きを与えてくれた。正に“既視感”を逆手に取った名作だ。アニメを沢山観てきた人にこそ本作の既視感と驚愕のストーリーを味わってもらいたい。

投稿 : 2022/07/23
閲覧 : 324
サンキュー:

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