「竜とそばかすの姫(アニメ映画)」

総合得点
69.7
感想・評価
217
棚に入れた
607
ランキング
1684
★★★★☆ 3.6 (217)
物語
3.1
作画
4.1
声優
3.3
音楽
4.0
キャラ
3.3

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ネタバレ

蒼い星 さんの感想・評価

★★★★☆ 3.4
物語 : 2.5 作画 : 4.5 声優 : 2.5 音楽 : 4.5 キャラ : 3.0 状態:観終わった

良いところがあるはずなのに、好きになりきれない。

【概要】

アニメーション制作:スタジオ地図
2021年7月16日に公開された121分間の劇場版アニメ。

原作・監督・脚本は、細田守。

【あらすじ】

高知の片田舎に住む17歳の地味な女子高生の内藤鈴(すず)は、

幼い頃に水難事故で仲の良かった母親を失ったことと、
増水した川で他所の子供を助けて死んだ母親の行為がインターネットで、
『ヒーロー気取り』『自分の子供に無責任』『自殺行為』とバッシングされたことで、
幼かったすずの心に深い傷を残していた。

母親と一緒に歌うのが大好きだった子供が、
高校生になった今では、卑屈で内向的になってしまっていて、
他人との距離感が掴めない。たまにカラオケに誘われても歌えない。
クラスメイトと一緒に笑ったりして馴染むことが出来ない浮いた存在。
家でも父親と会話がギクシャクとした湿っぽい状態になっていた。

そんなある日、たったひとりの親友のヒロちゃんから、
全世界で50億人のアカウントを持つ、
インターネット上の仮想世界の「U(ユー)」への、
招待メールが鈴に送られた。

仮想世界のユーでは、ユーザーアカウントには「As(アズ)」
と呼ばれるアバターが作成される。

鈴がアズの外見設定でクラスの集合写真を使ったら、
一つ隣に映っていたクラスの人気者であるルカちゃんを、
AIが拾ってしまい。ルカちゃんを元にした美人なアバターが出来てしまった。
キャンセルしようとした鈴ではあったが、
アバターの顔に現実の自分の顔にもあるそばかすが合成されたことで、
そのまま自分の名前を元に「ベル(Belle)」と名付けた。

ユーの世界に入り込んだベルは、ボディシェアリング技術が、
その人の隠された能力を無理やり引っ張り出すことで、
現実の鈴がトラウマで出せなくなってた歌声を出せるようになっていて、
最初は冷ややかな反応を浴びながらも、
歌唱力と心を打つメロディとヒロちゃんのネット上のプロデュースで、
数ヵ月後にベルは、数多の称賛と批判を浴び続ける、
ユーを代表する世界的な歌姫となっていた。

ユーではベルの正体は誰?という話題で持ち切りだが、
世界の誰もが、極東の島国の冴えない女子高生であることに至らず、
鈴も自分がベルであることをヒロちゃんと二人だけの秘密にしていた。

現実での鈴は、女子から人気のある幼なじみの忍に気にかけられては、
俯いてしまう内気なままであったが、
それが忍を好きな女子たちからの不評を買う原因になっていた。

そして、ユーの世界で数億人の視聴者の前での、
ベルの初ライブが開かれることになったのだが、
途中で竜と自警団の乱入がして暴れまわったことでコンサートは中止に。
コンサートが潰されたことでネットの住民の怒りは竜に向かうことになり、
竜の正体暴きでネットがヒートアップするのだった。

【感想】

知名度や売上では日本では上位の存在なのにも関わらず、
「おおかみこどもの雨と雪」「バケモノの子」「未来のミライ」
が面白いと全く思わなかった自分には、細田守は鬼門なのかもしれません。

アニメ監督という職業は存在しなく、監督とは役職ですが、
監督の仕事は、自分ができない仕事を人にやってもらって、
作品としてまとめていく。特に演出家が各話の実質監督であるテレビシリーズと違い、
劇場版は監督の色が強く出やすいものですが、細田監督作品は、
作画芝居が魅力的でなかったり、家庭を持った細田監督の固有の女性観や家族観が、
映画にダイレクトに反映されていくのが個人的に苦手でした。

今回も評価が真っ二つなアニメである「竜とそばかすの姫」ですが、
まずは、主人公ベルのライブシーンと仮想世界ユーの説明が導入部であり、
超高層ビルが乱立して巨大なクジラが浮かぶバーチャル空間(メタバース)
はカラフルで派手な視覚の演出で彩られていて、
今回はどうすれば目を引くかと顧客の目線を意識したかの内容でしょうか?
それは、国内外問わず多数のクリエイターの力を借りて、
CGの非現実的なインターネット空間がデザインされています。
やはり、アニメとは大勢の力が寄り集まって出来るものですね。

開始から3分までずっと仮想世界でベルが歌っていて、
やはりアニメは自分の主張や趣味を表現するだけでなくて、視聴者が楽しめないと!
ということで、細田守氏もエンタメに目覚めたのでしょうか?

と思ったのですが、そこから続く現実世界のシーンが意図的なのでしょうけどパッとしないですね。

マイナス思考からのスタート。メソメソウジウジしていた陰キャ少女の鈴が、
ネットでベルという大スターになったのをきっかけとした出来事を通して、
幼少期に他所の子供を助けて自分を残して死んでいった母親の思いを理解してのトラウマ克服。
その心の流れを理解して鈴に感情移入できるか?が評価が分かれるポイントでしょうかね。
コンプレックスを抱えて生きる現代の若者に向けた、弱い人に向けた希望を与えるメッセージ。
それを志向した作品であるように見えました。

この作品を最初見たときは、主人公の鈴は見た目も声も湿っぽくて、
彼女がトラウマで黄土色に嘔吐するシーンで、このアニメ大丈夫か?と思いました。

心にヒビが入っていて深く落ち込んでいて、そこから這い上がる苦しさに勝てないのが鈴ですが、
コミュ障で喋り慣れてない人間という彼女のパーソナリティの再現には、
本職の声優さんと比べれば聞き取りにくい声質と滑舌であるのは事実ですが、
主演の中村佳穂さんの芝居は役に入り込んで合致してたと思います。

前作の「未来のミライ」のクンちゃんの声があまりにもアレ過ぎたので、
比較すると寛大な気持ちで聴いていられるのも大きいですけどね。

その鈴の人柄や前進や脇役らの青春ぽい話は実はそれほど嫌いじゃなかったりします。
しかしながら、多くの方のご指摘どおりにシナリオが変といえば変かも。

細田監督の大ヒット作である「サマーウォーズ」と比較すると、
ネット社会の暗部や病理に踏み込んでいるのですが、
基本匿名で暴れたり誹謗中傷するのが心無いネット住民。
管理しないユーの運営会社。その運営に成り代わって管理者気取りの狂った自警団。
というのがこのアニメでのネット世界の病理。

現実のネットでは実名・匿名関係なく攻撃的なアカウントが存在しますし、
マスコミや市民団体などと結託して特定個人の名誉を根こそぎ破壊しようとする、
亡くなった人の生前の業績を貶めたり、悪いことをしたから死んだ自業自得!
と逆に殺人犯を被害者として美化する狂った人たちも居ます。
それは根拠の薄い思い込みで、自分が絶対的に正しいと魔女狩りに等しい狂気。
反証をいくら見せられても事実を脳内で改ざんする、ご都合主義。
それは、陰謀論を信じる者や反ワクチン派にも共通する精神的な特徴です。

創作で『酷いネット民』を見せつけても、
リアルのネットでの一定の人々が創作の何十倍も酷い心の持ち主である事実を知ってしまうと、

フィクションはどんなにうまく出来たとしても虚構であり、
アニメの中で「本物の歌」と「偽りのない心」で人々の心を感動させる話を作っても、
その伝えたい事がしょせんはふわふわした絵空事に見えてしまうのですよね。
アニメで表現された理想や希望を否定するのも本当は虚しい行為ですけどね。

・単純に、このアニメを観た時期が悪かった。
・この手の話を素直に信じられなくなった自分の心の問題でしか無い。

もし、この感想を読んで気を悪くした方がいましたら、そう受け取ってください。

美しい歌と美しい映像が、細田守氏の演出力と合体して、
ライブシーンは本当に素晴らしいことは認めます。
クライマックスの歌うシーンは本当に圧巻でした。

しかし、ライブのあとの結末にいたるまでの話はパッとしませんね。
ユーの世界で乱暴者だった竜の正体を知って救いに行くのですが、
ラストの感動シーンの状況を作り上げるための下準備として、
合唱隊の5人の中高年女性など鈴の周りの登場人物の行動がいちいち不自然なのですよね。
それは、鈴の母親が死んだ事件で河原には何十人もの大人がいたのにも関わらずに、
天候が悪くて中州に取り残された危ない状況の子供を助けにいったのが鈴の母親一人で、
周りの大人たちは全員がカカシ同然で不注意でもなく鈴の母親を見殺しにしてしまった。

みたく、話の都合でキャラが動かされてるなって感じが随所にありまして、
結局は感傷に浸るよりも、登場人物の動きなどの脚本のアラが個人的には勝ってしまったかな。

考えるより感じろなアニメに対して、それに重箱の隅をつつくに等しい行為ですが、
私としては、しっくりこない話ということで体感時間で冗長に感じられたり、
内容的にも没入して感動するといったことが出来なかったというのが正直なところでしたね。


これにて感想を終わります。
読んで下さいまして、ありがとうございました。

投稿 : 2022/07/26
閲覧 : 254
サンキュー:

37

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