「かげきしょうじょ!!(TVアニメ動画)」

総合得点
85.1
感想・評価
488
棚に入れた
1433
ランキング
247
★★★★★ 4.1 (488)
物語
4.2
作画
3.9
声優
4.2
音楽
4.1
キャラ
4.2

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ネタバレ

フィリップ さんの感想・評価

★★★★★ 4.6
物語 : 4.5 作画 : 4.5 声優 : 4.5 音楽 : 4.5 キャラ : 5.0 状態:観終わった

想い、重ねて

アニメーション制作:PINE JAM、監督:米田和弘
シリーズ構成:森下直、キャラクターデザイン:岸田隆宏、
総作画監督:今岡大、髙田晃、福永智子、牧孝雄、
音楽:斉藤恒芳、原作:斉木久美子(白泉社『メロディ』連載)

何度も観られるほど面白いかどうか。
私が、作品の評価をはかる上で重視している点だ。
もちろん、全ての作品を複数回観るわけではないので、
この点のみを指針にしているわけではない。
しかし、やはり良質な作品は何度も観たくなり、
観るたびに新たな発見があったりする。
『かげきしょうじょ』もそんな作品だった。

扱っている題材はミュージカル。
作品内では「紅華歌劇団」となっているが、
内容は大阪府の宝塚市に拠点のある
未婚の女性だけで構成された宝塚歌劇団そのままだ。
(作品での拠点は神戸市となっている)

宝塚歌劇団をしっかりと取材・調査して描かれている
原作漫画を元にしたアニメ化。
個人的に歌劇団の内情をこれまで知る機会がなかったので、
とても新鮮だった。
と言っても、今回描かれているのは、
歌劇団ではなく、その前の段階である予科生。
いわば、就職の決まった女子高みたいなものだ。
作者は女性で女性ならではの視点からの心情描写が特徴。
ある意味、『響け!ユーフォニアム』のような
スポ根要素のあるリアル感たっぷりの作品となっている。

中心人物は、身長が178㎝もある歌舞伎がルーツの渡辺さらさ、
アイドルグループJPX48の元メンバーだった奈良田愛、
入試トップ合格を果たした予科生委員長の杉本紗和、
3代続けて紅華に在籍することになった星野薫、
実家がパン屋で抜群の歌唱力をもつ山田彩子、
双子の姉妹の沢田千夏、沢田千秋という
7名となっている。

主役は、さらさと愛のふたりだが、
中心人物全員の心情を深く掘り下げ、
それが演技につながっていくさまを
しっかり描いているのが見どころだ。

さらさは、歌舞伎との関係性が深く、
幼いころから「演技」をすることが
生活の一部のようにして育った。
しかし、いくら頑張っても歌舞伎は「男のみの世界」。
女性役も男が「女役」として演じ、
演者は、基本的に血縁で引き継がれていく。
さらさは、物語上で歌舞伎役者と血縁のあることが
匂わされているが、女性であるため舞台で
演技することはかなわない。
そこで選んだのが、今度は「女性のみの世界」である
紅華歌劇団だった。この対比はとても興味深い。

一方、愛はアイドルグループJPX48の元メンバー。
幼いころに母親の恋人から迫られた過去があり、
そのことがトラウマとなり、「女性だけの世界」を求めて
歌劇団に入ってきた。
このふたりがお互いのことを次第に理解しながら、
歌劇団のトップだけに許される「銀橋」を渡ることを目指す。

キャラクターの人生と演技が交差する。
スポーツものなどではよく使われる手法だが、
ひとりの人間のドラマを見せていく必要があるので、
リアリティがないと陳腐な物語になる。
そういう意味では、この作品はとても優れている。

役者が物語上の人物になり切って演技するとき、
一体、どのようなことが胸に去来するのか。
作中で山田彩子は迷い続ける。

「現実が自分の期待以上には絶対にならない。それが私だ。
一目惚れして、一目惚れされて、
初恋を成就したジュリエットを演じるなんて、説得力皆無」
「私は、いつも自分の予想を超えたことがなくて(中略)
いままで彼氏とかいたことないし
<好きだ>と言われたこともないし」
だから、ジュリエットを演じられないと考えている。
それに対して、杉本紗和が、自分が演じるティボルトについて
「私も人を殺したことがないのだけれど?」
「同じよ。両想いになったことがない彩と、
人を殺したことのない私は、未経験という点で同じだわ」と。
そして、「大丈夫、彩は可愛いよ」と励ます。
この「彩は可愛いよ」という言葉を以前にも言われたことを
山田彩子は思い出す。
{netabare}学生時代に自分が人から愛されたことがあったことに、
今ごろになって初めて気づくのだった。
それをジュリエットの演技に生かしていく。{/netabare}

いちばん好きなエピソードだ。
想いのこめられたこのようなお話がいくつも重ねられ、
物語全体に深みを与えている。

{netabare}さらさが、幼馴染で歌舞伎役者の白川暁也と
付き合うことになる思い出も演技に生かされる。{/netabare}
求めても求めても、自分が得ることができない
歌舞伎の登場人物・助六への道。
歌舞伎の世界では女性は、舞台には上れない。
助六にはなれない。
そのせつなさを、悔しさを『ロミオとジュリエット』で、
ジュリエットを深く愛しながらも手が届かず、
最後にはロミオに殺されるティボルトの役へと重ねていく。
怒り、諦め、悲しみの複雑に交じり合った感情を
役のなかで自分に重ねて表現する。

オーディションが描かれる12話と13話が秀逸。
観るたびに発見があり、深みを感じさせてくれる。
キャラクターの過去や生きざまが
とても深くまで考えられている。
そのため、一つひとつのお話が
しっかりと心に残っていく。

ただ、おそらく原作をかなり忠実にアニメ化しているため、
全13話で、いかにも中途半端なところで
終了しているのが残念だった。

花咲く少女たちの未来。
想いの行き着く先はどこなのか。
改めて原作で追ってみたい。
(2022年8月28日初投稿)

投稿 : 2022/08/28
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サンキュー:

49

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