「劇場版「幼女戦記」(アニメ映画)」

総合得点
85.8
感想・評価
471
棚に入れた
2466
ランキング
214
★★★★★ 4.1 (471)
物語
4.0
作画
4.2
声優
4.1
音楽
4.0
キャラ
4.0

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ネタバレ

蒼い星 さんの感想・評価

★★★★★ 4.5
物語 : 4.5 作画 : 4.5 声優 : 4.5 音楽 : 4.5 キャラ : 4.5 状態:観終わった

笑顔で挨拶をして敵を殲滅する幼女。

【概要】

アニメーション制作:NUT
2019年2月8日に公開された101分間の劇場アニメ。

原作は、小説投稿サイト「Arcadia」に投稿していたweb小説を元に、
KADOKAWA(レーベルはエンターブレイン) での書籍化で筆者である、
カルロ・ゼン氏(日本人)がリライトしている辞書のように分厚いライトノベル。

漫画家の東條チカ氏による原作研究と独自解釈の賜である、
コミカライズ版が2016年6月号から「月刊コンプエース」から連載中で、
2022年9月現在では第25巻まで単行本を刊行中。

アニメ版の1期は、2017年1月-3月に放送済みですが、
情報や設定のすり合わせが事前に行われてなかったために、
キャラデザがメディアごとに大きく異なります。
(のちに漫画版がアニメ版の設定やシナリオ展開を取り入れながら、
 独自の発展を続けています。) 

アニメ版の監督は、上村泰。

【あらすじ】

日本の都心の企業のエリートサラリーマンである男が、
人事部の仕事として能無し社員の解雇を勧告したところ、
逆恨みで駅のホームの線路に突き落とされて列車に轢かれて死亡。

男は死の瞬間に神を自称する存在(存在X)に見(まみ)えるが、
平和な国で経済的にも恵まれたそれなりに地位のある男性の立場で、
神への信仰など必要のないというその主張から、
信仰心の欠片もないこの男は自称・神からの不興を買い、

前世と正反対の境遇であれば信仰心が芽生えるだろうという意図で、
西暦でいう100年前の地球に酷似した世界の平和でない時代の帝政ドイツに似た国に、
経済的に恵まれない非力な孤児である女の赤子に男は転生させられた。

そこは、人類からの信仰が年々薄らいでいることを危惧した自称・神が、
奇跡を目にすれば、人類が再び我を崇め奉るだろうとの理由で、
魔法が発現できるようになった世界。

だが、人類は魔法を使える魔導師に軍事教育を施して、戦場に送っていた。
魔法の資質さえあれば強力な兵士になる貴重な戦力なので、男女の区別なく徴兵される世界。

男の生まれ変わりである、孤児院育ちの幼い女の子であるターニャ・デグレチャフは、
前世の記憶と知識をそのまま受け継いでいて、魔法の適性検査で素質が見いだされたことから、
黙ってても徴兵で軍人になる以外の将来もなく、
ならば下っ端よりは階級や指揮権を有する将校になるべく志願して士官教育を受けて、
幼い子供の身でありながら、
年離れた男性の士官候補生らに混じった教育課程でも異彩を放つ存在であり、
卒業後は21世紀の軍事マニアの観点から、
20世紀初頭の軍事の常識を覆す戦略・戦術の様々な提言で、参謀本部からは驚きを持って迎えられて、
死と隣合わせの様々な戦場で華々しい武勲を立てて昇進し、自ら大隊を育成して率いることとなった。

だが、目覚ましい活躍で「ラインの悪魔」と呼ばれるターニャの本心を上官も部下も誰も知らない。
ターニャは十分に昇進して後方勤務に転属して前線からさっさと離れて終戦を迎えて、
戦後を悠々自適に平和裏に暮らしたい!

だが、目覚ましい逸材であるターニャを軍部が後方で遊ばせておく選択肢は無く、
最前線でこき使い続ける有様は、ターニャ本人にとってはブラック職場に違いなかった。

そして、ドイツを思わせるターニャの所属国の皇帝に忠誠を誓う精強なる帝国軍は、
虎の子の精鋭部隊である、ターニャ率いる第203遊撃航空魔導大隊を最大限に有効活用して、
ダキア大公国(ルーマニア)、レガドニア協商連合(ノルウェー+スウェーデン)、
フランソワ共和国(フランス)らに勝利を重ねて版図を広げて、欧州における覇権国家となった。

だが、周辺国がそれを黙って許容しておくはずもなく、
南方植民地にて再起して、ド・ルーゴ少将が軍を率いて祖国解放を目指す、フランソワ共和国(フランス)
帝国への警戒心を強め、打倒帝国でフランソワに手を貸す、アルビオン連合王国(イギリス)
共産主義革命でロマノフスキー王朝を根絶やしにしてヨセフ・ジュガシヴィリ書記長のもと、
一党独裁の政権を築き、更には貴族・資産家・聖職者・知識階級を目の敵にして、
彼らの血で世界を赤く染めて共産主義を世界中に広めようとする、ルーシー連邦(ソビエト)

更には、大西洋を隔てた大陸に位置する自由と民主主義を掲げる大国である合州国(アメリカ)もあり、
各国の不穏な動きの中、帝国を標的とした世界大戦に向かって着々と時代は動いていた。

【感想】

20世紀の西暦の世界での二度の世界大戦をモデルにしたフィクションではありますが、
戦史や世界情勢についての観点を学ぶきっかけになる知的レベルの高い作品であると、
この「幼女戦記」について思います。戦争はなぜ起こるのか?
イデオロギーではなくて地政学的な駆け引きや資源確保が理由。

ロシアのウクライナ侵攻も、ウクライナがNATO(元は対ソ連軍事同盟)加盟を強く望んでおり、
ロシアを刺激したくないという理由からNATOから却下されているのですが、
そのNATO加盟が承認されれば、ウクライナという緩衝地帯を失ったロシアは首都モスクワを、
西側諸国から守りにくくなる。ウクライナの立ち回りに痺れを切らしたプーチン大統領は、
ならば先手を打ってウクライナを手に入れてやろう!
侵攻されたウクライナの国民からみれば迷惑極まりない話ですけどね。

昭和の時代から日本には反戦プロパガンダ的な要素を持った創作物はたくさんありますが、
大戦下の日本国民が当たり前の民衆でなくて洗脳された衆愚のように描いて、
それに抗う反体制の少数派を美化したり、皇室への敵意を剥き出しにした作品があったりで、
昭和の戦後教育を受けた中高年の人間の多くがその影響下にあり、思想に染まった中高年の方たちと、
平成生まれの若者との政治と軍事への意識のギャップが大きく溝が深くなっていますね。

この「幼女戦記」にしたところで、昭和の昔では考えられなかった作品だと思います。

共産主義がどれだけ人類の害毒であるかをターニャの口を借りて力説したり、
連邦の134万人の自国民を大粛清してその半数を死刑にした最高権力者のヨシフおじさんや、
その右腕として大粛清の執行者であり、私生活では100人以上の少女に暴行を加えて殺された者もいる、
歴史に残るロリコン殺人鬼であるベリヤを元ネタにした当てこすった作品を、
映像化して全国のスクリーンで上映するとかね、本当にすごい時代になりましたね。

軍人である父親を戦争で殺されて、仇であるターニャに戦場でつきまとうことになる、
正義の名のもとに神の過度な恩寵を受けて化け物みたいな魔力を持ってしまった少女の、
正視に耐え難い暴走であるとかも含めて絶大なインパクトを持つアニメですよね。

シナリオが更にブラッシュアップされたのか、劇場版はTV版より面白かったですね。
ターニャの副官であるアニメではムーミンなヴィーシャなどのキャラデザさえ差し替えれば、
漫画版との内容のギャップが相当に小さくなっています。

ただ、その十分に素晴らしいアニメですら、
漫画版を読んでしまえば見劣りするのが本当に意味不明ですよね。

なんせ、この劇場アニメでは開始7分ぐらいで終結する南方戦線(北アフリカ大陸)の話が、
漫画版では、第21巻~第24巻で700ページ近くの頁数で色濃く描かれてますからね。

もちろん、映画の尺でまとめられたシナリオは優秀ですし、
メディアごとに最適化された形がありますので、漫画もアニメも両方が正解でしょう。

このアニメ映画を見て面白かった!という人にも、
漫画版の面白さも十二分に理解できると思いますし、
丁度、「月刊コンプエース」で連載中の話が劇場版と重なっていますので、
毎月の頁数が多い作品ですが、未読の方は是非とも漫画版も読んで欲しいと思いました。


これにて感想を終わります。
読んで下さいまして、ありがとうございました。

投稿 : 2022/10/28
閲覧 : 234
サンキュー:

43

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