「機動戦士ガンダム 水星の魔女(TVアニメ動画)」

総合得点
75.1
感想・評価
385
棚に入れた
1232
ランキング
821
★★★★☆ 3.7 (385)
物語
3.5
作画
3.9
声優
3.7
音楽
3.8
キャラ
3.6

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ネタバレ

ナルユキ さんの感想・評価

★★★★★ 4.1
物語 : 4.0 作画 : 4.5 声優 : 4.0 音楽 : 4.0 キャラ : 4.0 状態:観終わった

百合は所詮、只の「撒き餌」なのだろうか

女性主人公、学園、そして「百合」とキャッチーな要素を揃えた新ガンダム作品の登場に、今までガンダムシリーズにちゃんと触れてこなかった私もようやくその重い腰を上げることに成功した。
流石はロボットアニメの金字塔。本作も劇中の序盤から終盤にかけての打率は高めだ。しかしseason2にバトンを繋ぐ最終話に関しては今後の展望を考えると萎えずにはいられない、衝撃的ながらもロボットアニメに“ありがち”な展開だったように感じた。

【ココが面白い:百合と学園とガンダムファイト(1)】
「百合」といってもこの作品は由緒ある『機動戦士ガンダム』シリーズの1作でもあるため、展開には尺を要するし演出も控えめ。ガンダム初の女性主人公であるスレッタ・マーキュリーも別段、女食家の気は見られない。それ以前に学校に通うのが劇中で初となる内向的な性格だ。劇中でも話す時はどもったり声が裏返ったり、そもそもろくに言葉を発せない等、他者とのコミュニケーションに苦労する様がよく見られる。なんだか親近感が湧きますね(笑)
そんなスレッタのパートナーになるのがミオリネ・レンブラン。どちらかと言えば彼女の父親であるデリング・レンブランの方がこの物語の鍵を握っており、ミオリネと結婚すればその父親が現在取りまとめている巨大企業グループ『ベネリット』を婿側の親族の会社が跡取りできるということで、様々な人物が学園全体を捲き込み婚約者の座を懸けて争っているのである。そんな自分がまるで「景品」のような扱われ方にウンザリなミオリネは令嬢として敷きつめられたレールを歩かせる父親含めて反発し、全寮制の学園コロニーから無謀な脱出を図るにまで至っていた。これがスレッタとミオリネの出会いとなる。

【ココが面白い:百合と学園とガンダムファイト(2)】
このミオリネとの婚約をモビルスーツ(以下、MS)というシリーズ通して呼称されるロボット同士のバトルで決めているのが本作の舞台『アスティカシア学園』。ここでは全ての事象を「決闘」で決めており、敗者は勝者の望みを聞かなければならない。そして決闘を制し学園で1番のMS操縦者(パイロット)となれば彼女との婚約の証でもある白い制服『ホルダー』を得ることができる。
────あとはキービジュアルも見てもらえればお察しでしょうが、これをスレッタが獲得してしまうんですよね、第1話で(笑)
シリーズ通して「ガンダム」は普通のMSより遥かに強い。オマケに令和という1つ先の時代にシフトしたこともあってかその強さもインフレーションを起こしており、なんと初めから遠隔操作型砲台(ビット。ファンネルとも)を使った全方位(オールレンジ)攻撃を披露できる大盤振る舞いな性能である。その所持者の1人が主人公のスレッタというわけでだ。そうとは知らず彼女を退学に追い込もうとしたそれまでの学園No.1パイロット、グエル・ジェタークの駆る機体が10本近い光刃で細切れにされて地に転がる様は圧巻の一言────あ、一応機体の頭部に付けられたブレードアンテナを折れば決着が着くのでパイロットは殺されませんご安心ください。
まるで10年前のラノベ作品のような展開でヒロインとお近づきになれた女主人公・スレッタ。常識と照らし合わせて女性と女性の婚約はおかしいと慌てる彼女に対し、相方のミオリネは言う。
「水星ってお堅いのね、こっちじゃ全然アリよ。よろしくね、花婿さん」
女である自分が女と婚約する。これは自分の人生を勝手に決めてきた父親や周囲の大人、学園や経済界に反逆できるいい契機だ。
そんなノリで叩いただろう彼女の軽口を言葉通り受け取ることは間違っているのだが、それと同時に「自分は同性愛に対して理解がある」とでも言いたげな余裕を持った台詞回しに今後十中八九深まるであろうスレッタとの関係への期待。百合ファンとしては彼女が主人公をリードする「タチ」になるだろうと妄想せずにはいられない。

【ココも面白い:呪われしMS、GUND-ARM】
しかし2度目だがこれは由緒あるガンダムシリーズの1作である────といっても『機動戦士ガンダム』とは繋がりの無い、所謂「アナザーガンダム」と呼ばれるカテゴリーに含まれている。対して「宇宙世紀シリーズ」と呼ばれる本編とはガンダムそのものの定義も随分と違っているようだ。
この作品においてなぜガンダムが他のMSより強いのか。それはガンダムにのみパイロットの思考と操縦と、機体の運動との間に生じるラグを解消する『GUNDフォーマット』という機構を使用しているからである。端的に書けば「MSより速く動き、よく反応し、パイロットが思考するだけで複数のビットが扱える」。そんな夢のような人型兵器を『GUND-ARM(ガンドアーム)』、略して「ガンダム」と呼称している。こういったMSとガンダムの明確な違いが説明されているのはガンダム初心者としては大変、ありがたい。
しかしパイロットという有機物がガンダムという機械──無機物──とより強く結び付いてしまうことで人体に有害が発生する。劇中でもスレッタを除きガンダムに搭乗した者は出力に応じて過呼吸を患い怪しい紋様を身体に浮かべており、そのまま乗り続けていればじきに死亡するという設定に納得できる描写がある。
パイロットの命を脅かすガンダムタイプのMSは倫理的に大きな問題があるとして本作開始時点から開発も使用も禁止されている。しかしスレッタにガンダムの副作用が一切出ないのをいいことに母、プロスペラ・マーキュリーはガンダム・エアリアルを「普通のMS」と偽って託し、彼女をアスティカシア学園へ編入させたのだった。

【ココも面白い:株式会社ガンダム】
{netabare}弁舌に長けるプロスペラ、何も知らされていないスレッタ、そんな彼女を守るミオリネの尽力で中盤までは「疑惑」に留まっていたものの、第7話で遂にエアリアルがガンダムであることが公然で暴かれてしまう。
協定によりガンダムは廃棄処分。パイロットも抹消。製造した会社もタダでは済まない。
そんな重い罰則からスレッタを守るためにミオリネが立ち上げたのが「株式会社ガンダム」。劇中ずっと忌避されてきた呪いのMS、そしてシリーズのIP(知的財産)でもある「ガンダム」の名をそっくりそのまま使った会社名には驚きと共に一抹の笑いが浮かぶ。しかしここまでの展開は至って大真面目であり、カーストの根強い学園物を描き続けた本作の大きな転機にもなっている。{/netabare}
{netabare}事業内容はガンダムという兵器を売る死の商人────ではなくGUNDフォーマットに使われている技術『GUND』を使った医療分野での研究開発。プロスペラにあるような高性能な義手や義足、最終的には過酷な宇宙環境に耐えうる「身体」を作り出すという、荒唐無稽だが実にヒーローチックな理念を掲げて無骨な学生企業は動き出す。
この回答に行き着くまでの登場人物の葛藤と軋轢、ガンダムひいては「ロボットの本質」に切り込んだ第8話は単発ながらもヒューマンドラマとして大きな見どころがあり、今後どういった形でその理念を実現させるのかを期待して物語を追える。「部活のようだ」と楽しくそうに取り組むスレッタの表情が、主人公ゆえに編入からずっとトラブル続きであった彼女の心情を鑑みるととても微笑ましい。{/netabare}

【でもココがひどい?:人殺し】
{netabare}立ち上げた会社を賭けた決闘を仲間の力で制する第9話、軌道に乗り始めた事業とスレミオのすれ違いを描く第10話、そして頼られない不安をたどたどしく告げるスレッタと「私から逃げないで」と泣きつくミオリネの尊い描写で中盤を飾った第11話────と良回が続く。ここまでは本当に最高のロボット作品に出会えたと信じて止まなかった私がいたし、終盤にシャディクが動かしたテロ組織による襲撃も2人なら真っ当に乗りきってくれるとも信じてもいた。曲がりなりにも日5(日曜17時放送)だったしね、ぶっちゃけガンダムを舐めてましたよ{/netabare}
{netabare}テロリストの標的はデリング・レンブラン。第1話でも何気に実行されようとしていたグエルパパによる暗殺計画のアレンジ。そのために開発元不明の地球産ガンダム2機が出張ってくるという未曾有の危機を描く。
重傷を負ったデリングをミオリネが単身、搬送する。顔を合わせれば互いに罵り合っていた親子関係は奇妙にも株式会社ガンダムを立ち上げた時の融資をする・受けるの関係で改善されつつあった。そして死の間際に打ち明ける「父親」の真意……まあベタだけど感動できるし、貴方が死ねば敵方の思惑通りなので視聴者も生き残って欲しいと願える場面だ。
その2人に銃口を向けるテロの構成員。絶体絶命かと思われた時にスレッタがエアリアルに搭乗して駆けつけてくれた。そしてテロリストに向けて、
「やめな────さいっ!!」

グシャッ

18mある合金の巨人の平手を振り下ろしてしまったのである。まるで机に止まった虫を叩き潰すかのように。指の間から吹き出る血飛沫にスロー演出で舞う片腕────普段は虫も殺さなそうなスレッタが何の躊躇もなく人間を殺めてしまったのは確実だ。
全ては花嫁であるミオリネを守るため。そんなことは助けられた本人も頭が良いので理解していることだろう。しかしスレッタはその後の所作が酷すぎた。
「えへへっ、締まらないなぁ。助けに来たよミオリネさん」
そう言って差し伸べた手は血がベットリと付いており、何故か笑顔。口調も不気味なほど朗らか。直前には確かに母親から「逃げたら1つ。進めば2つ。今みんなを救えるのは“あなた達”だけよ」と鼓舞されていたのだが、神の視点である私たち視聴者から観ても如何せん気持ちの切り替えが速すぎたのである。
「……なんで……笑ってるの?…………人殺し」
良心の呵責を全く見せないスレッタに対し、ミオリネが絞るように出した罵倒を最期に物語は一旦、幕を閉じる。{/netabare}

【他キャラ評価】
グエル・ジェターク
割ともう1人の主人公として観れる男性キャラクター。百合の間に挟まる男は邪魔だと他作じゃ言われがちだけども、本作は形式的な百合を描いているので逆にキャラの本心が乗った吐露する告白や見え隠れする愛情といったものが際立つ。百合ファンってお堅いのよね、私はNL(ノーマルラブ)も全然アリよ
傍若無人に振る舞うその実、パイロットとしてのプライドが高い彼はそもそも不正も是とする企業間の代理戦争の側面も持つ学園の決闘制度とはどこか相性が合わなかったかも知れない。その綻びがたった一度の敗北から生じて絶頂だった学園生活がゴロゴロと転落する様は決闘前口上の「ただ結果のみが真実」という言葉の残酷さを如実に表している。一部では「グエ△キャン」とか「泊まるんじゃねえぞ…」とネタにされていたけれど個人的にはそこまで盛り上がれなかったかな。
{netabare}父親まで殺めてしまった{/netabare}彼の今後の再起は如何に。

【総評】
今までのガンダム作品には無かった学園物と百合を取り入れつつも、これまでのガンダム作品と同じように血塗られた宇宙進出とロボット開発の歴史が根底にあり、その歴史に続くドロドロな企業間戦争も描いた見所の豊富な作品だ。
ガンダムが強く、他のMSと明確に差別化するよう一新された設定は劇中で禁忌とされつつも様々な思惑の絡む立派なキーワードとなっており、それを裏付けるバトルシーンの作画は全て動きが素早く鮮やかである。
圧倒的な部分を描きすぎてちょっと“なろう”みが出てしまっているのが玉に瑕だけども、だからこそその絶大な性能をノーリスクで引き出すスレッタやエアリアルの謎にも注目して作品を追うことができる。放映途中で配信された『PROLOGUE』や公式サイトにある短編ノベル『ゆりかごの星』から彼女らの正体を今後の展開より先んじて考察することも可能だ。
終盤には敵方にもガンダムがあることが判明し、2クール目ではさらに激しい、また機体を削り合うようなバトルが見られることだろう。
{netabare}最終話Cパートに関してはやや否寄り。シリーズでも類を見ない衝撃展開を描いたことで当時、ちょっとした話題にもなりつつ愛想が尽きかけていた往年のガンダムファンと“よりを戻す”ことが出来たようだが、やはり最初の「学園」「百合」といったものに惹かれて観始めた者からすれば“梯子を外された”ような感覚を抱いてしまうだろう。
ロボットで人を殺し、ヒロインからドン引きされる主人公という展開も新しいようで結局、往年のロボットアニメに帰属していってしまうのではないだろうか。いやむしろスレッタが生命の重さを自覚するのはこれからになる筈なので(そうでなければミオリネと行動することは今後一切あり得ない)往年の作品より時間(尺)がかかるかも知れない。
時間差で良心の呵責を抱いてガンダムに乗らなくなったり、攻撃を躊躇したり不殺を目指したりして戦いがグダグダになるといった展開が容易に考えられるような次クールへの引きとなってしまっており、そういう意味でも趣がない。
仮にそういった展開を描かない、もしくは描くのを遅らせれば遅らせるほど代わりにスレッタとミオリネの関係に罅(ひび)の入った鬱々とした展開を描かなければならず、それでは「新規ファンの獲得」を目的とするアナザーガンダムの役割すらも果たせなくなるだろう。{/netabare}
百合は所詮、只の「撒き餌」だったのか。
そんな結論しか出ないような作品ではないと信じたい。

投稿 : 2023/03/20
閲覧 : 120
サンキュー:

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