「本好きの下剋上~司書になるためには手段を選んでいられません~(TVアニメ動画)」

総合得点
79.3
感想・評価
509
棚に入れた
2034
ランキング
497
★★★★☆ 3.6 (509)
物語
3.8
作画
3.4
声優
3.7
音楽
3.5
キャラ
3.7

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ネタバレ

蒼い星 さんの感想・評価

★★★★★ 4.2
物語 : 4.5 作画 : 3.5 声優 : 4.0 音楽 : 4.5 キャラ : 4.5 状態:観終わった

作者の思う道理の世界。

【概要】

アニメーション制作:亜細亜堂
2019年10月3日 - 12月26日に放映された全14話 + OVA1話のTVアニメ。

原作は、「小説家になろう」に連載し完結したweb小説を改訂し、
TOブックスから刊行されている、香月美夜による小説。
原作イラストは、椎名優が担当し、1期にあたる『第一部 兵士の娘』は、
ニコニコ静画の『comicコロナ』にて漫画家の鈴華の作画によるコミカライズ版が連載され、
完結した。(同氏は第二部も担当)

監督は、本郷みつる。

【あらすじ】

本須麗乃(もとす うらの)は重度の活字中毒の日本人であり、
色んな学問を知識として教えてくれる本を心から愛していた。

その彼女は母子家庭育ちで実家から通う大学生であり、
司書資格を取り、大学図書館への就職が決まったのだが、
その日に地震で倒れた書架に押しつぶされて、22歳の若さで亡くなってしまったのだった。

死の間際に、来世でも本がたくさん読めるように神様に祈った麗乃。
彼女が目覚めると、粗末な木造りの部屋の清潔とは言い難いベッドで、
高熱で死にかけの状態で寝ていた、とても虚弱な幼い女の子になっていた。
その病床の自分に母親がかけつけたとき、女の子の記憶が流れ込んできて、
自分は日本人の本須麗乃ではなくて知らない国のマインという女の子になったことを理解。
前世の記憶が覚醒したことで体調がある程度安定したのと同時に、
自分が本須麗乃だと自覚した記憶と人格が元のマインから置き換わっていた。

中世の城壁に囲まれた都市エーレンフェストの兵士の次女に転生してマインとなった彼女は、
父・ギュンター、母・エーファ、一つ年上の姉のトゥーリと家族として過ごす。
現代日本の生活水準の価値観に慣れきっていたマインにとって、異世界の暮らしは不便で不潔で野蛮。
何よりも本が無い生活にかなりの不満。この世界では本は貴族の持ち物で途轍もなく高価なのだった。

現代日本で本で得た知識と母親の趣味に付き合わされて得た日用品の雑学で、
生活環境を改善していくマインは幼馴染みのルッツをモノづくりのパートナーとしていくが、
本以前に紙自体が平民の大人の給料が軽く吹き飛ぶ高級品であり、
ならば、知識を辿って紙の代用品を試行錯誤しては失敗続き。

『本がなければ作ればいいじゃない!!』の精神のマインであるが、その道程は険しかった。

これは、マインのささやか?な野望が、やがて歴史を動かしていく始まりの物語である。

【感想】

原作小説が本編だけでも30巻も現在あり、全部をアニメ化しようとすると気が遠くなる話。
自分は、なろう版と漫画版4種類を見てる程度のライトな読者ですね。

原作者が設定を作るのが大好きなのか、膨大なキャラクターと設定がある作品ですが、
実際の中世の庶民の暮らしを参考に、貧しくて不衛生な下町の生活を描いていたのですが、

アニメでは煤汚れや埃くささが美術で表現されてなかったり、
不衛生な日常描写が外伝である14.5話まで扱われていなかったりでして、
世界観にリアリティを持たせる作画や演出の比重が軽かったりしたのが、
口の開き方と歯の形が特徴的過ぎるキャラクターデザインよりも気になりました。

シナリオの性質上、日常生活の他にモノづくりの工作をする場面が多めで、
作業の手の動きを止め絵で誤魔化さずにアニメーションしていますので、

シンエイ動画で有名作品の監督業をされたベテラン演出家である監督の本郷みつる氏は、
作画のリソースは潤沢でなくても基本的な部分をおろそかにしないなど、
このアニメのスタッフの仕事への誠実さは信頼していいと思います。

この作品では、マインを麗乃が乗っ取って元のマインはどうなった?
との疑問がよく呈されていますが、

原作者によりますと、

『前マインはエーファ母さんに熱を出している間の夢の中の話をしてた…って事は生まれ変わり』

との質問に対して、

『まぁ、そんな感じです。
 麗乃と今のマインは同じようでいて別人ですね。
 環境が人を作ると私は思っているので、全く同じではいられないと思っています。
 その中でも変わらない物がありますけれどね。』

自覚がないマインの思い込みによって作中でミスリードされていますが、
元のマインに麗乃が上書きされたのではなくて、前世を忘れたまま麗乃がマインに転生して、
病弱なマインが麗乃時代の22年間の記憶と知識を思い出してインストールされた結果として、
人格が変わってしまっただけであって、乗っ取られたのでも消滅したのでもないらしいですね。

マインはわがままで常識のないみたいなことをよく言われますが、
成人女性の知識と記憶があっても、元のマインに後付でくっつけられたものであり、
子供である本来のマインの情緒に引っ張られて衝動が理性を上回ってしまう、
子供と大人の使い分けみたいになっていますが、そんなキャラなんだと思うことにしました。

トゥーリとマインの他にも死産と早逝をした子供が上と下に二人ずつで合計四人が本当は両親にいて、
六人のうち姉妹二人しか生きて育たなかった環境を知ってしまうと、
変なマインでも以前より元気に生きているだけでも両親と姉は嬉しいであるとか、
体調管理では過保護な扱いで無理したら本気で叱ったりするのも納得であったり、

(ルッツの兄たちが丈夫に育ってることとの差が気になりますが、
 マインの家は身食いで熱病に冒される体質が産まれやすい血筋なのかな?)

日本人の感覚ならば健康に生きて行くのが厳し目で我慢するのが難しい、
中世の貧しい庶民の生活に順応するのにある程度の時間を要したであるとか、
マインの家族に対する心の声が麗乃目線のお客さん気分から情が移って自分の大切な家族になる。
転生者マインが世界と家族の一員として同化するそれらの過程を味わうのが1期のメインのお話ですね。

原作者は子供を持つ母親ということですが、その親目線での価値観の多くが物語に含まれていますね。

子供には躾と教育が必要で、無くてもそれなりに生きていけますが、
社会でそれなりの責任を背負う地位を目指すのであれば、勉強や行儀作法は必要。
人はひとりではできることが限られていて知恵や自分の実力だけでなくて、金もコネも大事。

第一部では5歳~7歳でしかないマインとルッツですが、
転生者でないルッツに大人の社会の話は早すぎないか?
幼いときから子供は親の手伝いをするのが当然&識字率が極端に低い平民世界で環境が大違いですが、
日本で言えば未就学児童に過ぎないルッツに最初から中学生程度の自我と理性が芽生えていまして、

子供ってこんなんでしたっけ?
自分が経験や交流した限りでは,幼児はぼーっとしてて喋らないか、
口が達者でもテレビの受売りだったり自分の好きなことをべちゃくちゃと喋りばかりで、
感情のままに動くばかりでして、ルッツみたいな自立精神を持った幼児は現実味がないですね。

商業ギルド長の孫娘のフリーダも普通の子供でなくて賢すぎますし、
原作者の考える子供の望ましい姿なのかはわかりませんが、
ルッツやフリーダの年齢不相応の幼さのない立ち振舞の不自然さが、
中身が人生二回目?みたいで気になるのですが、
彼らが普通の子供ではなくて、この世界の神童だからと思うことで納得でしょうかね。
大人も子供も関係なく理性に欠けて直す気のない人間には容赦のない原作者ですけどね。

最初の数話のパピルス、粘土板、木簡、竹簡の作成に失敗して友人や親を睨むマインを見ても、
面白いアニメではなかったです。それが、マインたちを叱ったりきちんと導いてくれる、
仕事の心得の師匠の大商人のベンノさんの登場から楽しく見られるようになりましたね。
マインやルッツらの幼児と言って良い年齢にはアンバランスな説教臭さと正論ですが。
前世の知識で富をもたらしてくれるマインでも、
この世界の常識に欠けている子供として彼女には学ばないといけないことが沢山ある。

やはり、この作品の根底には人間教育の大切さみたいなものが、
子育てをする母親として作者が描かずにはいられなかった。それは、マインが巫女見習いになったり、
貴族社会と接していくようになる続きの物語でも一貫していることですね。

元々は漫画版が好きで、アニメ版のキャラデザや演出の仕方に違和感があるにはあるのですが、
とりあえずは安心して観ていられるレベルのアニメではありますね。
現在は3期まで作られていて、そこから先は不明ですが、長らく見守っていこうと思いました。


これにて感想を終わります。
読んで下さいまして、ありがとうございました。

投稿 : 2022/12/12
閲覧 : 227
サンキュー:

31

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