えりりん908 さんの感想・評価
4.5
物語 : 4.5
作画 : 5.0
声優 : 4.0
音楽 : 5.0
キャラ : 4.0
状態:観終わった
儚い季節。「倖せ」の意味。
2021年に劇場公開された、40分ほどの短編アニメです。
秀逸な作画が際立つのが、まるで絵画のようで。
静逸な劇伴が流麗なのが、まるで夢のようで。
そして{netabare}
夏に巡り合う、三人の少年少女。
苛烈な虐めに耐えられなくなって死を望むアオイ。
生きる意味を見失って生の実感をもてないトモヤ。
病魔にむしばまれ余命9ケ月と宣告されたリョウ。
そこに3人の望むままに現れる、一人の少女。
軽やかで可愛らしくて明るくて、生き生きとした幽霊のアヤネ。
そこにある、少年少女たちが、夏の夕景と相まって、
本当に綺麗で。
花火という小道具が、幽霊というモチーフと合って、とても良いです。
はかなくて、さびしくて。でも、あたたかくて。
それぞれに暗い心を抱え込んで集った三人は、
幽霊と出会うことで、何かを掴もうと、もがくことになります。
トモヤはひとり、アヤネに再び逢うことで、
アヤネにいざなわれて、魂を空へと飛翔させられるようになります。
ここの表現が、いいです。
空を飛ぶアニメ作品は数多ありますが、
空高くで、アヤネに手を離されると、
トモヤの魂はいっぺんに地面へと!
ここで、地面に衝突するのでなく、魂は台地を、
水のように沈潜し、地中に浮遊するのです。
ここが劇的で。
不思議な感じ。
そして、上手い!
ストーリーの原動力なんですね。
やがて自分の真情を吐露できるようになって、
トモヤは少しずつ、生きることの意味を、
人生の価値を、獲得していって。
そして、
アヤネこそが、
いちばん痛切な思いを抱えたままに死んでいったと、
やがてわかります。
いちばん明るかったアヤネの、
いちばん沈鬱な願いを、
三人でなんとかしようと、
あがき、手繰り、探します。
そうやってアヤネの探す「真実」に辿り着こうとしたトモヤに、
アヤネ自身がそれを妨げようとして冷酷に拒んでしまう?!
でも、それは実は・・・
ここがダイナミックで!
トモヤの真情を獲得するための痛み。
確りと伝わって来ます。
三人それぞれに、
生きる意味と、生きるちからと、死と向き合う強さを預けて、
アヤネはいちばんの心残りを、
解消して、倖せに、いきます。
1年後の夏の、
エピローグのような花火。
リョウもきっと、倖せだったのかな?
悲しくて、愛しくて。
美しく、
{/netabare}夏のかおりが感じられる、そんな掌編でした。