「人狼 JIN-ROH(アニメ映画)」

総合得点
69.3
感想・評価
274
棚に入れた
1318
ランキング
1790
★★★★☆ 3.8 (274)
物語
3.9
作画
4.0
声優
3.5
音楽
3.7
キャラ
3.6

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ネタバレ

無毒蠍 さんの感想・評価

★★★★☆ 3.6
物語 : 3.5 作画 : 4.0 声優 : 3.5 音楽 : 3.5 キャラ : 3.5 状態:観終わった

押井守が築きあげた世界観。派手さはないが温かみと儚さを併せ持つ、哀愁漂う良作です。

Production I.Gが制作した長編アニメでは最後のセルアニメだそうです。
作画監督は忍空やNARUTOでも有名な西尾鉄也。
視聴したのはブルーレイ版。
人狼のブルーレイはレンタルでも取り扱ってると思うので
まずはレンタルで一回観てみて気にいったら購入するというのもありかもしれないね。

この作品は約100分ほどと尺でいえば結構な長編ですが
一つ一つのシーンを丁寧にじっくり描写してるので情報量としてはとても少なく、
物語としてはギュッと詰められてます。

人はどこまで非情になりきれるのか…
共存することの難しさを地味なんだけど丁寧に仕上げた本作は良作だと思います。

首都警の戦闘部隊【特機】の存在、そして都市伝説ともいえる影の秘密部隊【人狼】
政府内での内部抗争、騙し騙され殺しあう…
地味なんだけど見応えのあるお話でした。

主人公は伏一貴という大柄な男性で特機隊に所属しています。
射撃、格闘技など様々な分野で抜群の技量を持つ彼ですが情緒面に難あり。
通称「赤ずきん」と称されるグループの構成員、阿川七生を目の前にし撃つことができず、
追い詰められた彼女に自爆を許してしまう…その事が彼にとって深い傷として残ることになるのです。
その時の失態で査問にかけられ彼は訓練校での再訓練を命じられます。
実践さながらの訓練で見事な動きを見せながらもやはり撃つことのできない伏一貴ですが
しょせん獣はどこまでいっても獣でしかない…作中でそう言われたような気がします。
伏一貴は「どうして撃たなかった?」と問われ「自分は撃つつもりだった」と答えています。
じゃあなぜ撃たなかったのか?そして撃つつもりだった少女の死になぜそこまで傷つくのか…

彼はもしかしたら生粋の獣なのかもしれません…
撃たなかったのは情などという感情ではなく追い詰められてる彼女を目の前にして気分が高揚…
そんな彼女の絶望に照らされる表情をもう少しだけ見つめていたいと思っていたのかも。
彼女の自爆で彼が傷ついてるように見えるのも、
実は彼自身の手で殺せなかったことによる悔いなのかもしれません。

伏一貴という男は血を求め肉を喰らう人の皮をかぶった「狼」なのです。

そしてこの作品のヒロイン的ポジションにいるのが雨宮圭という少女。
伏一貴とは自爆した阿川七生の墓前で知り合うことになる七生の姉…
というのは嘘っぱちで本当は七生と同じく「赤ずきん」の構成員。
公安に捕まったことにより政府の駒として内部抗争に利用されます。
伏一貴との接触もすべては仕組まれたことだったのです。
「赤ずきん」として活動してきた彼女の本質はいったいどこにあるのでしょうか…
駒としてしか機能してなかったはずの彼女が伏一貴という男と出会い、
共に時間を過ごすことにより駒としてではない雨宮圭としての生き方を想像してしまう。
しかし彼女はしょせん「赤ずきん」
決められた物語に沿ってしか生きることのできない登場人物にすぎないんだよね…

そんな感じで伏一貴を騙し接触した雨宮圭でしたが実は最初から泳がされていたんですな。
伏一貴は査問にかけられたときから常に監視されていました…

誰に?
【人狼】に。

なぜ?
彼も【人狼】だからです。

都市伝説などではなく人狼はちゃんと存在していました。
伏一貴は特機の隊員であると同時に人狼の隊員でもあったのです。
伏一貴は獣です…間違いなく人の皮をかぶった「狼」なんです。
雨宮圭の正体に気がついていながら丸々太るまで泳がせていました。
なぜならそのほうがお腹いっぱいになりますから…
現に作戦が成功したと思い込み「餌」たちが大量に誘き出されてきました。
あとは「人」の皮をかぶった「狼」が美味しくいただくだけです…

そして最後のメインディッシュは「赤ずきん」
伏一貴は彼女を食すとき悲愴にも似たような表情でしたが
私にはずっとお預けをくらってたご馳走を
ようやく食べれたときに見せる嬉々とした表情にもとれましたね。
そして彼女もまた彼に食べられることを望んでいたかのような、そんな気さえしてしまいます。
彼は食べることで愛を伝え彼女もまた食べられることで愛を受け取ったのかもしれません…

「赤ずきん」が「狼」を前にして生きのびられるなんて童話のなかだけでのお話。
そういった童話にはないリアルさが作中に散りばめられており、
押井守が持つ世界観というのを知らしめてくれました。

『ROTKÄPPCHEN』
むかし、一人の女の子がいて母親に七年も会っていませんでした。
女の子は鉄の服を着せられて、たえずこう言い聞かせられていました。
「服が擦り切れたらきっと母さんに会いにいけるよ」
女の子は必死に服を壁に擦りつけてやぶこうとしました。
とうとう服がやぶけミルクとパン、
それにチーズとバターを少しもらって母親の元へ帰ることになった女の子は、
森の中で狼に出会い「何を持ってるのか?」と聞かれました。
「ミルクとパン、それにチーズとバターを少し」と答えると、
狼は「わけてくれないか?」と言い「母さんへのお土産が減るから」と女の子は断りました。
狼はピンの道と針の道のうち「どちらから行くのか?」と聞き、
女の子が「ピンの道を行く」と答えると自分は針の道を急ぎ女の子の母親を食べてしまいました。
やがて女の子は家につきました「母さん開けて」「戸を押してごらん、鍵はかかっていないよ」
狼はそう答えました。
それでも戸が開かないので女の子は穴をくぐって家の中へ入りました。
「母さん、お腹がペコペコよ」「戸棚に肉があるからおあがり」
それは狼が殺した母親の肉でした。
棚の上に大きな猫がきてこう言いました「お前が食べてるのは母さんの肉だよ」
「母さん、棚の上に猫がいて私が母さんの肉を食べてる、そう言ってるわ」
「嘘にきまってるさ、そんな猫には木靴を投げてやるがいい」
肉を食べた女の子はのどが渇いてきました。
「母さん、私のどが渇いたわ」「鍋の中のぶどう酒をお飲み」
すると小鳥が飛んできて煙突にとまっていました。
「お前が飲んでるのは母さんの血だよ、母さんの血を飲んでるんだよ」
「母さん、煙突に小鳥がとまって私が母さんの血を飲んでる、そう言ってるわ」
「そんな鳥には頭巾を投げてやるがいい」
肉を食べぶどう酒を飲み終えた女の子は母親にむかって言いました。
「母さん、なんだかとっても眠くなったわ」「こっちへきて少しお休み」
女の子が着物を脱いで寝台に近づくと
母さんは頭巾を顔のほうまでかぶって奇妙な格好をして寝ていました。
「母さん、なんて大きな耳をしてるの」「だからお前の言うことが聞こえるのさ」
「母さん、なんて大きな目をしてるの」「これでなけりゃお前がよく見えやしないからさ」
「母さん、なんて大きな爪なの」「これでなけりゃお前をうまくつかめやしないからさ」
「母さん、なんて大きな歯をしてるの」「………」

【そして狼は赤ずきんを食べた】

【A82点】

投稿 : 2013/01/13
閲覧 : 871
サンキュー:

4

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