「昭和元禄落語心中(TVアニメ動画)」

総合得点
81.1
感想・評価
900
棚に入れた
4138
ランキング
414
★★★★☆ 4.0 (900)
物語
4.1
作画
3.9
声優
4.3
音楽
3.9
キャラ
4.0

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ネタバレ

明日は明日の風 さんの感想・評価

★★★★★ 4.2
物語 : 4.5 作画 : 4.0 声優 : 5.0 音楽 : 3.5 キャラ : 4.0 状態:観終わった

昭和を生きた噺家の物語、人間臭さを全面に出す良作

まるでNHKのBSドラマを見ているような良質なアニメでした。太平洋戦争前後から昭和の終わりまでを扱っているのですが、話のほとんどは主人公の師匠である菊比古の回想に費やされます。菊比古の回想には同日入門の親友であり、ライバルであり、兄弟分であり、切っても切れない仲の助六が登場します。菊比古と助六の物語といっても過言ではありません。この二人を軸に落語家の生きざま、戦争前後の昭和とはなどが描かれていきます。

思うところはたくさんありました。最初のうちは助六という、豪放磊落な落語家の魅力に引かれました。まさに芸事のためだけに生き抜く天才肌。今の時代には皆無な存在になった人物像なだけに、懐かしいというか、いたかもしれないなと。伝説の春団治、知っているところでは横山やすしみたいな、芸は最高だが私生活がめちゃくちゃで自ら幕を引いてしまった芸人。助六もまたそんな感じなのですが、憎めない人懐っこさがあり、上の人たちを小バカにして食って掛かるところなどは応援したくなります。{netabare}真打ち昇進後、一向に改まらない助六は師匠から大叱責を受けて破門されます。その後、一人の女性と駆け落ち同然に行方をくらまします。{/netabare}

菊比古は助六とは正反対。真面目で几帳面、上のうけは抜群だけど人嫌い。花柳流の家元の家のお坊っちゃまだが、足を痛めて踊れなくなり、七代目有楽亭八雲に引き取られた。はじめのうちは生真面目すぎてツマラナイ人物なのですが、助六と交わりあい、自分の落語を見つけて、一人立ちする頃からすごい魅力的になっていきます。{netabare}特に助六が破門されて出ていき、探して連れ戻そうとするところの動きは感動さえします。{/netabare}

この二人に加え、一人の女性が大きな存在になります。名前は三代吉。{netabare}素性は良くわからない、満州から七代目が妾として連れてきた女性。この女が菊比古を好きになってしまい、つきまとうようになりますが、菊比古はなかなか本性を見せません。そこがまたみよ吉にはたまらないらしい。最後は菊比古からフラれ、ボロボロの精神状態の時に助六と一緒になろうと言われ、二人で消えるのです。しかし、最後まで菊比古への思いが消えなかったことが分かります。{/netabare}

助六が継ぎたかった八雲の名跡菊比古が継ぐことになるのですが、そこへ至る過程、特に助六が破門された後の七代目と菊比古のそれぞれの立場、思いがこの物語のポイントになります。そして最後のヤマ。消えた助六を探しだすところは本当にドラマです。{netabare}助六が居たのはとある温泉街。みよ吉の生まれたところ。菊比古が見たのは相変わらずぐうたらな生活を送っている助六、愛想つかしてこどもを置いて出ていったみよ吉、助六の落語をこなす二人の子供の小夏。菊比古は少しずつ助六の心をほぐし、温泉宿の小さな舞台に助六を上げることに成功します。このあたりの話が本当に良いです。そしてクライマックス、助六の「芝浜」。人情話の傑作。それは助六が贈るみよ吉へのメッセージでもありました。この話は泣けます。助六はみよ吉が好きだったんですね。これから大事にすると心に決めた時にはみよ吉は居なかった。別の部屋でひっそり菊比古を待っていたのです。そして菊比古を招き、思いを伝えようとしますが、菊比古は拒みます。その瞬間、助六がやって来て、みよ吉への思いを伝えます。みよ吉は動揺し、欄干から落ちそうになり、寸前で助六が飛び込み、さらに菊比古がかろうじて手をさしのべて繋ぎ止めます。しかし、助六は無理なことを悟り、みよ吉もようやく助六と向き合うことを決意して落ちていきます。まさに心中でした。三人は時代に翻弄され、人の思いに翻弄されて、別れていきました。菊比古は二人の忘れ形見の小夏を育てることを決意して八代目を襲名します。{/netabare}
このあたりの話はぜひ視聴していただきたいと思います。

話はもちろん面白いのですが、なんといっても声優さんの凄さ。石田さんに、山寺さんに、林原さん。重厚な演技がまた、この作品を引き立てます。落語の場面はアニメでしかできない表現だったと思います。また、節々に出てくる言葉の重みもすごいです。助六が発していた落語の今後、まさに高度経済成長からどうなるかを暗示する表現で、ずっしり重かったです。

二期は主人公の与太郎が助六を継ぐこと、小夏がワケわからない子供を産むところから始まるようです。バブルで「古くさいもの」となっていた落語をどうしていくのか、そこも見物だと思います。

昭和とはなにか、人の生き方とはなにかを感じるアニメです。人間臭いドラマをみたい人にはお勧めの重厚なドラマアニメです。

投稿 : 2016/12/08
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サンキュー:

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