「この世界の片隅に(アニメ映画)」

総合得点
82.8
感想・評価
693
棚に入れた
3065
ランキング
346
★★★★★ 4.2 (693)
物語
4.3
作画
4.2
声優
4.2
音楽
4.0
キャラ
4.2

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ネタバレ

岬ヶ丘 さんの感想・評価

★★★★★ 4.2
物語 : 4.0 作画 : 4.0 声優 : 5.0 音楽 : 4.0 キャラ : 4.0 状態:観終わった

時代や人に、真摯に向き合う

原作未読。

突然ですが、私の出身は広島県。思い返せば小学生の頃は毎年、夏休み中にも関わらず特別登校して平和学習をしていた。そしてその学習の一環が「アニメ」だった。上映されるアニメは年によって違ったが、基本的に広島への原子爆弾の投下の悲惨さ、あるいは二度と戦争の惨禍を繰り返さない旨のものだった。作品のテーマ性や映像的に過激な演出が、幼い私に一種のトラウマを植え付けるのには十分なクオリティーだった。思い返せば、戦争アニメは私にとってアニメーションの大きな原点だった。

前置きが長くなったが、本作は大きく「戦争」という題材をアニメーションで表現するという、商業的・エンターテインメント性の観点から見ると、難しい試みに挑戦している。それがメディアや数々の賞で評価されることは素直に素晴らしいことだと感じる。

お話について。物語の本筋は追いかけていけるが、序盤からやや駆け足で作品の世界に入っていくのにやや時間がかかった。原作は未読なのだが、恐らく原作を最大限生かし、可能な限り忠実に再現しようとする監督の思いがあったからだと思う。はじめはそのリズムに慣れなかったが、中盤以降、軽快かつ穏やかで、ユーモア溢れる作品の速度についていけるようになった。
後半は大切な姪っ子が亡くなりすずも大切な右手を失うなど、重苦しい雰囲気もあった。この一連のシーンは映像・音声的にも色々な演出で畳みかけてくるので、映画館で鑑賞できてよかったと思う反面、いたたまれない気持ちだった。

作画に関しては柔らかで温かみを感じる独特のキャラクター像が世界観とマッチし、戦争という重たいテーマにも馴染んでいたと思う。ただ全体的に顔つきなどが幼いので、特にすずは最初から最後まで子供の印象で、キャラクターの画から感じる時間の経過というものはあまり感じられなかった。

またお芝居はとにかくすず役の、のんさんの好演が光った。地元の人間からしても違和感のない広島弁。それも最近アニメなどでよく聞かれる、形式化されたコテコテの方言ではなく、きちんと生きた方言だったと思う。のんさんについては若手の人気女優さんという認識しかなかったが、素晴らしいお芝居をする方なのだなと認識を改めた。
音楽面もテーマに合わせて曲が用意されており、透明感あふれる柔らかな声色が作品を彩ってくれたと思う。


作品を通して大きな視点で「反戦争」、「平和」のメッセージを訴えるというよりも、市井の視点から柔らかく緩やかな形で戦争という時代の一側面を丁寧に表現している、という印象を受けた。
激戦地で戦う兵隊の姿でもなく、戦艦や戦闘機のアクション溢れる激しい戦闘でもない。あくまでも戦争という激動の時代の前後を懸命に生きたすず達の日々の営みに特化している点が本作の大きな特徴。そちらのほうがかえって、戦況の悪化や戦争によってあっけなく失われる尊い命の価値をより一層浮き彫りにしていると感じた。

本作で最も強く感じたのは、アニメ製作者の原作者への強いリスペクトや、当時の時代、そしてそこに生きた人に対する最大限の敬意と真摯さ。戦時下の広島・呉の風景・風俗・言葉など歴史的・文化的な側面からも価値も高い作品だと思う。自分の知らないもう一つの広島が、この世界にはあった。

作品のエンドロール。幸せそうなすずさんの笑顔を見て、ふと幼い私の中にあった戦争アニメへのトラウマが完全ではないが少し払拭された、そんな気がした。

投稿 : 2017/07/08
閲覧 : 206
サンキュー:

24

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