「アルスラーン戦記 風塵乱舞(TVアニメ動画)」

総合得点
70.7
感想・評価
513
棚に入れた
2732
ランキング
1458
★★★★☆ 3.7 (513)
物語
3.7
作画
3.6
声優
3.7
音楽
3.7
キャラ
3.7

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ネタバレ

蒼い✨️ さんの感想・評価

★★★★☆ 3.3
物語 : 2.5 作画 : 3.5 声優 : 4.0 音楽 : 3.5 キャラ : 3.0 状態:観終わった

王太子殿下、簒奪宣言せり!

アニメーション制作:ライデンフィルム
2016年7月3日 - 8月21日に放映された全8話のTVアニメ。

田中芳樹によるファンタジー戦記小説『アルスラーン戦記』
アニメ版1期が原作小説の1~4巻を扱った全25話なのに対して、今回の2期は5~6巻を扱っている全8話。
漫画家・荒川弘のアレンジでキャラ付けが改変されたコミカライズ版がベースだが、
2017年6月時点で荒川版漫画は原作小説3巻の途上にあり、
予め決めておいた荒川版のとシナリオのアウトラインとキャラデザを元にアニメのほうが大幅に先行する事態に。
監督は、阿部記之。

【概要/あらすじ】

屈強の大王アンドラゴラス三世が治めるパルス王国。
世界の中心に位置することで東西交易で世界中の富を集め、
大陸随一の精強なる軍勢と華麗なる文化が謳われている大陸公路の覇者。
パルス暦320年の第一次アトロパテネ会戦で西方の蛮族のルシタニアの侵略も、
パルス軍22万人によって軽く踏み潰されてしまうかのように見えた。
だが、味方の裏切りで罠にかけられたパルス軍は主戦力の騎兵隊を封じられた上で分断されて、
燃やされて各個撃破。パルス軍は壊滅し、王都エクバターナはルシタニアの手に落ちた。
生き残った王太子アルスラーンは大陸公路に武名が鳴り響く黒衣の騎士・ダリューンらと共に、
故国の奪還を目指す。

政戦両略に長けた天才軍師のナルサス。ダリューンの親友でダイラム地方の旧領主。
ナルサスの侍童のエラム。ナルサスの弟子として有望な少年。
流浪の楽士ギーブ。楽器より剣や弓の腕前に更に優れた実力を持つ。食えぬ性格のプレイボーイ。
ミスラ神を信仰する女神官ファランギース。文武両道に傑出した才女。『うる星』のサクラがモチーフ?
など、王太子アルスラーンの周りには続々と有能な人材が集まっていく。

パルス人でありながら敵国に協力した銀仮面の男の正体。
国王に信任されながらも裏切った万騎長カーラーンとの決着。
王太子一行を追撃するルシタニア軍。
謎の魔道士たち。
パルス王国の混乱に乗じて攻め入ってくる隣国シンドゥラの第二王子。

様々な思惑が交錯する中、アルスラーン王子は経験を重ねて王都奪還への道を進んでいく。
聖マヌエル城を陥落させ王都エクバターナへの行軍を進める中、その王都では異変が起きていた。

【感想】

普通は1クールで12~13回やるものを、話数が少ないですね。大人の事情なのでしょうけどね。
第1部完の原作小説7巻を残してオレタタENDに。仮に3期をやるにしても、分量が少ない。
アニメの脚本では第2部に繋がる場面が全部カットされていますし、どうすんの?て感じ。

話数が少ない短縮の煽りでカットされたストーリーが多すぎて、消化不良の2期でしたね。
尺がない旧アニメと同じタイミングで老将バフマンの死期を早めて、
対シンドゥラ戦に従軍するバフマンのシーンを全部無かったことにした1期を見るに、
短縮せずに尺があっても、どっちでも同じでしょうけどね。

2期も結構不満が多かったです。

“草原の覇者”トゥラーン戦が短すぎ。単に脳筋ヒャッハーを策に嵌めて大勝利しただけになってしまいました。
問題は、小説ではダリューンと壮絶な一騎打ちを演じた勇将タルハーン将軍をアニメでは瞬殺にしたこと。
尺の都合?そんなの知らない。
パルス最強とトゥラーン最強の強者同士の息を呑む名勝負をぶち壊しにしたアニメスタッフに乾杯。
おかげでね、正面からぶつかりあえばパルス軍と共倒れになるトゥラーン人の強さが全然表現できてないじゃない?

銀仮面と縁のある亡国マルヤムのイリーナ内親王が登場。荒川版のイリーナは、ふっくらしていて生命力ありそう!
あれ?イリーナって生来の盲目で、ひとりでは生きていけない儚く可憐な深窓の姫君じゃなかったっけ?
荒川版では日本人に例えればどんぶり飯平らげていそうな立派な身体つき。何故こうなったのか?
旧アニメでは、顔を覆うヴェールの下は花を背負った少女漫画の如く絶世の美女で高貴な貴婦人でしたのにね。

荒川版では回想シーンで自分から銀仮面に、つま先立ちキスをするわと随分とキャラが違いますね。
荒川弘が自立した強い女が好みですので、守られるだけのか弱い女性にNGを出した疑惑。
でも、同時に市井の女っぽくなってしまって気品が下がってるのどうにかして欲しいですね。
脚本家の暴走なら荒川さんは冤罪ですが、荒川案が原作ですので漫画ではどうなるのか気になります!

その回想シーンも不可解。小説では銀仮面とイリーナは10年前から会ってない。
どちちかというとイリーナの片想いで銀仮面は諸国を遍歴していて彼女の存在すら忘れていたというのに、
それが、アニメ版設定では2年前にマルヤムがルシタニアに攻め落とされる日までイチャコラしてた模様。
復讐一途だった銀仮面の動機が女の居場所をつくるために王座を手に入れると改変。
いやいや、恋愛脳は田中芳樹作品には不要でしょ?
女の国を滅ぼした国と手を組んで祖国の民の虐殺に手を貸すサイコパスな銀仮面。
原作通りだとマルヤム王国にも思い入れ無く内親王のことも忘れていたから手を貸したのにね。
アニメ設定だと女一人の居場所づくりのために侵略の手引をしてパルスの民100万人の生命を生贄にした銀仮面に対し、
1期第24話でアニオリ改変された展開にて、『国と民をおもう気持ちは、あなたと違いない!』(原作には存在しない台詞)
と説得を試みたアルスラーン王子の認識がただでさえおかしいのに、益々救えないことに。

その場のノリでアニオリの展開を作っているがためにシナリオを俯瞰してみると矛盾だらけに変化していますし、
良かれと思ってラブロマンスを加えたアニメ脚本が破綻しているのですよね。
尺の都合で情報を8回のエピソードに全部収めるための改変かもしれませんが本末転倒ですね。

他にも、父王が生きているかもしれないのに『王になる』宣言を、
原作とは全く違う早すぎるタイミングで主人公にさせてしまったために、
それを正当化するために、父王に「暴君」として近隣諸国に知れ渡っている設定を捏造。
安直ですね。田中芳樹の論法では、「暴君」とは民を飢えさせ圧政を敷いている君主を指すのです。
父王のやったことって、宮廷内では手が汚れてて邪魔者を追い払ったりしているものの、
物語開始まで戦争では無敗。国は古い制度を守り繁栄。政治に関心が薄く家臣団に丸投げしているものの、
自ら進んで民を害している描写は皆無なのですね。脚本家は田中芳樹の小説をきちんと読んでないような気がします。

1期の感想でも書いたのですが、エトワールを持ち上げよう持ち上げようとするのが露骨。
そのくせに難民となったルシタニア人一行が生きていけるための、袋にずっしり詰まった金貨という、
アルスラーンからの隠れた餞別にエトワールが涙を堪える名シーンが、アニメでは金貨五、六枚に減らされた挙句に、
袋を手に『奴らと比べてルシタニア人は冷たい…ブツブツ』と上から目線で同胞への恨み言を漏らすシーンに改悪。
荒川さんは強い女性が好きなので、荒川さん好みに脚本家がシナリオを弄った成果でしょうかね?
未熟な子供扱いされながら必死に頑張り、理を以て説得されれば自らの誤りを認めるだけの素直さがあり、
相手の嘘を嘘と見抜くだけの聡明さを見せることもある、原作のエトワールは好きですが、
アニメのエトワールは終始、悪役のように頭がカチンコチンに固まっているクセに、
偉ぶった小賢しい上から目線発言のキャラに感じられてしまいます。

エトワールの出番が多い「列王の災難」を読んだら原作のほうが断然良かったです。
改変が改良になってないですね。

最終回でエトワールがアルスラーンたちに無理な懇願をしているのですが、
原作ではナルサスの正論で完全に否定された上で、アルスラーン王子の賢明さで、
外交といった政治的な判断を踏まえた上で形式的に整えられた返答で受け入れられたエトワールの願いが、
アニメでは、アルスラーン王子の満面の笑みから口にする理想主義に装飾された台詞に調整されてしまったために、
他民族には原作通りの対応なのに、祖国の仇敵であるルシタニア人に対する甘さが加わった印象。
一見甘く見える判断もパルス王国にとっての利益と打算に裏打ちされているはずなのですが、
アニメ版の表現ですと、ヒューマニズムが前面に押し出されている感じがあるのですよね。

原作のアルスラーン王子は、エトワールの言い分に間違いを感じれば反論をし認識の違いに激昂することもあります。
それが、アニメではエトワールが王子を感化するキーパーソン設定ですので不自然すぎるほどに全肯定なのですよね。

ルシタニア人である彼女の考え方を完全否定してしまうと、荒川版で付加されたテーマに反してしまい、
アニメでは王子を導くヒロインポジションを与えられた荒川版エトワールの立ち位置が崩壊してしまいますので、
そうならないために王子がルシタニアに対して不自然に寛大な台詞回しになっているのですよね。

対トゥラーン戦で見せしめに民間のパルス人を10人殺したトゥラーン国王に対しては、
原作通りに殺意を示したアルスラーン王子。
民を守るのが王族の務めであると自らの在り方を示したのではありますが、
パルスの民100万人を殺害し、そのことに何の疑問も抱かなかったルシタニアのお飾り国王が、
王弟から幽閉されているのを救い出してくれとのエトワールの願いを、
原作ではナルサスの正論で封じ込めた上で王子の政治的判断で、玉虫色にした上で受け入れて出兵。
アニメでは人道的な台詞を追加したうえで承諾した王子。
台詞の微妙な違いだけならず、そのときの表情も手伝って甘さが増していってダブスタになっている感。
キャラがブレていますね。

ルシタニアはパルスを侵略して殺戮と破壊をしたけど、奴隷制度で豊かさを満喫してたパルスも悪いんだよ!
だからルシタニア人の彼女の言うことに耳を貸さないといけないという方向性で、
アニメ版では視聴者を誘導したいみたいですね。
だから、それの障害になる旧勢力の象徴である父王が悪王扱い。
でもルシタニアがパルスを侵略したのは、『異教徒は皆殺しじゃああ!』『異教徒が金持ちなのは許せん!』
と教義と欲望に基づいた行動であって、彼の国の行いは民衆100万人を虐殺して財貨を収奪して文化財を大量破壊。
パルスの奴隷制度の是非とは一切無関係ですよね。

原作では、ルシタニアが一方的に攻め込んでパルス人の民を100万人虐殺したし、
その後も妻や娘を浚われ強制労働で酷使され逆らうものは腕を切り落とされたりと数々の暴虐行為で民は苦しんでいる。
だから国民が平和に暮らせるように侵略者を追い出す。悪いのは狂信的で視野が狭いルシタニア人だ!
ルシタニア人は変わらなければならない。そして変わりつつあるルシタニア人の代表がエトワール。

アニメでは、戦争を仕掛けたルシタニアも乱暴だったかもしれないけど、パルスも綺麗事を言える国じゃないよね!
憎しみの連鎖は不毛だから譲歩して乗り越えよう。
エトワールによって感化される、お花畑なアルスラーン王子という図式。

うん?金持ちの家に説教強盗が忍び込んで取っ組み合いになった挙句に、
家族を刺殺され家の中を散々に破壊されて金品一切を奪われた遺族が強盗の御高説を聞いて、
更に遺族が強盗と殴り合いを演じながら『ハイ!君の言うことも一理あるかもしれません!』
と変心していくようなストーリー。
抵抗の際に強盗が怪我してしまい、『怪我をした。許さない!』と遺族に対して逆上するような理不尽さも追加。

2期最終回の王太子一行と荒川版エトワールのやり取りを、
ルシタニア軍の大虐殺によって家族を殺された王都エクバターナの生き残りが聞いたら、
暴動が起きてアルスラーン王子が公開処刑されても不思議ではないですよ。
余計な台詞を付け加えた結果がそれです。

アニメ版アルスラーン戦記の改変ストーリーに賛同できない理由というのが、
新たに加えられたテーマ性に基づく原作に無い台詞に理不尽な部分が多いことがあり、
シリーズ構成の人なり、もうちっと田中芳樹作品をイチから勉強し直せ!て気分になりましたね。
銀河英雄伝説などを見て分かる通り、田中芳樹作品の戦争観に権力争いやイデオロギーの対立はあっても、
人類同士仲良くするための理想主義なんて入り込む余地が無かった気がしますが記憶違いでしょうか?

荒川翻案が入ってるからって、変えるにしても変え方がおかしいと思いました。

「アンドラゴラス大王無双の脱出劇」「イノケンティス七世がマトモになる」
などカットされたシーンが多いことも気にはなりますが、物語の根幹に関わる他の問題点と比べたら枝葉ですね。

アニメ版アルスラーン戦記に触れて良かったと思うことは、
第1部の原作小説は面白かったんだな!と私の中で再評価に繋がったことぐらいでした。


これにて感想を終わります。
読んで下さいまして、ありがとうございました。

投稿 : 2017/06/21
閲覧 : 336
サンキュー:

40

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