「図書館戦争 TV未放映話(OAD)」

総合得点
63.0
感想・評価
46
棚に入れた
179
ランキング
4494
★★★★☆ 3.7 (46)
物語
3.9
作画
3.6
声優
3.7
音楽
3.4
キャラ
3.8

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ネタバレ

fuushin さんの感想・評価

★★★★★ 4.4
物語 : 5.0 作画 : 4.0 声優 : 4.5 音楽 : 4.0 キャラ : 4.5 状態:観終わった

作品名は、「恋ノ障害」。(図書館には、障害者への差別の問題を考えられる本がたくさんあります)

図書館戦争シリーズで、TV放送に乗せられなかった回。

突発性難聴で、中途失聴になって、補聴器を使っている女の子。
中澤 鞠江(なかざわ まりえ)が主人公です。

{netabare}

この子は、小牧教官の幼なじみなんです。

小牧教官が、鞠江に「オススメとして渡した本」が原因で、メディア良化委員会が「聾唖者に差別を行なった」として小牧を連行してしまう。

そう、この作品のテーマは、通常回の「書籍への検閲」ではなくて、「差別」の名を借りた「図書隊員と図書隊そのものへの直接攻撃」がメインテーマです。


小牧が鞠江に渡した本の題名は「レインツリーの国」でした。
実は、この「レインツリーの国」は、新潮文庫から2009年に実際に刊行されています。ですから、私たちも本当に読むことができるのです。

その内容は、鞠江と同じ、中途失聴の女の子(ひとみという名前の女性です)が主人公の「恋バナ」なのです。
小牧と鞠江の「恋バナ」と、レインツリーの国の主人公ひとみの「恋バナ」がリンクしあっているのです。なかなか粋な仕掛けですね。

鞠江とひとみの2人の女性が、紆余曲折の困難を乗り越えて、やがて幸せを手にし、恋のヒロインになっていくストーリー。
鞠江とひとみの、難聴者ならではの複雑な心情を、深く細やかに、そうしてふたえかさねに織り上げて、上品で落ち着いた「純愛作品」として昇華させているのです。

本作の「恋ノ障害」では、小牧がこの「レインツリーの国」を鞠江に勧めていましたが、実際に読んでみると、正真正銘、純愛作品だということがよくわかると思います。私も、みなさんにお勧めします。
{/netabare}


原作者の有川浩氏のねらいはもうひとつ別のところにあると思います。

{netabare}
「恋ノ障害」の原作は「図書館戦争」シリーズ二作目の「図書館内乱」(2006年刊行)に見られます。
アニメ化は2008年。
そして「レインツリーの国」は、新潮文庫から2009年に実際に刊行されています。

つまり、アニメ化する前に、すでに鞠江も、アイテムとしての「レインツリーの国」も、初めから原作に存在していたのです。

しかし、この作品は、TV放送されることはありませんでした。なぜか?

その理由は、新潮文庫版「レインツリーの国」の解説、236ページに端的に記されています。
そこを読むだけでもストンと腹に落ちるのですが、この解説、全文にわたって本当に素晴らしいのです。もしよければ全文をお読みになってください。わずか9ページです。


この「恋ノ障害」のエピソードは、TV放映されないばかりか、DVDのレンタル版にも収録されていません。

視聴するには、パッケージ版の3巻を購入するしかありませんでした。
(ネットでも視聴できるのでしょうか?万一、不正規版でしたらよくありませんが、どうなのでしょうか?)


2016年、「聲の形」が大ヒットしましたが、この作品も世に現れるまでは大変なご苦労と紆余曲折がありました。
その背景は、あにこれの多くのレビューに、十二分に書き記されていますので、すでにご存知のことだと思います。
同時期の「君の名は。」と並ぶ高い評価をえていますが、それは、たぶん「恋ノ障害」が乗り越えられなかった壁、そのリアルな壁を、「聲の形」が正真正銘、正面突破して突き破ったからでしょう。

かくして、障害をお持ちの方たちの「恋バナ」は、アニメ化できるし映像化もできる時代になりました。

鞠江も、ひとみも、硝子も、難聴者や、未成年である以前に、一人の女性として尊重され、恋する一人の人間として大切にされ、それぞれの思いと、行動と、人としての権利(人権)は、誰にも冒すことはできない時代になったのですね。

こうした人間賛歌の考え方は、未成年であってもなくても、女性でも男性でも、障害があってもなくても、たとえ弱者であっても、みな平等です。

自分が自分らしくありたいと願う心が、恋に向かうことも、本に向かうことも、至極自然なことだと思うのです。

「恋ノ障害」や「聲の形」を先陣にして、難病の方、高次脳機能障害の方、精神障害の方、そのほかの方も含めてたくさんの「恋バナ」があってもいいんじゃないでしょうか。私は素晴らしいことだと思います。

アニメは、きっと、その役割を担えるはずだし、そういう文化を作り出せるはずです。

それは「障害をダシにした感動ポルノ」ではないはずです。また、感動の押し売りでもないと思います。
ひたすらに、普通でいいのです。暮らしも、恋も、仕事も、普通で。
特別な何かを、欲しがっているわけではなくて、普通でいいのです。

ただ、「合理的配慮」は必要です。
このあたりを説明するとなると、膨大な量と質になりますので、ここで述べることはふさわしくないと考えます。ごめんなさいね。

かわりに、ぜひ、図書館に足を運んでいただいたり、いろんな講座に参加していただいたりされますと、どうもよく分からないな~っていうことが、きっと今まで以上に分かるようになると思います。

「検閲」は、「猜疑心や疑心暗鬼」から生まれます。
それを「法律」にしてしまうと、人の作ったルールが人の良心を腐らせ、ついには殺してしまいます。

合理的配慮は、相手の方の心に寄り添い、思いやることだし、相手の方への具体的な方法と技術です。

「抱擁と、忍耐と、寛容」があれば、おのずから「自由と平等」が生まれてくるような気がします。
そんなことを感じながら見終わりました
{/netabare}

そのことを、腹に括って・・・素敵なアニメをこれからも楽しみたいですね。

長文を最後までお読みいただきありがとうございました。
この作品が、みなに愛されますように。

投稿 : 2018/04/04
閲覧 : 374
サンキュー:

7

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