「機動戦士ガンダム サンダーボルト DECEMBER SKY(OVA)」

総合得点
67.9
感想・評価
67
棚に入れた
390
ランキング
2213
★★★★☆ 3.9 (67)
物語
3.8
作画
4.3
声優
3.9
音楽
3.9
キャラ
3.8

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ネタバレ

STONE さんの感想・評価

★★★★★ 4.4
物語 : 4.0 作画 : 4.5 声優 : 4.5 音楽 : 5.0 キャラ : 4.0 状態:観終わった

強く感じた「戦争映画」らしさ

 原作は未読。
 全体的な印象で強く感じたのは「戦争映画」感。「戦争を描いた作品なんだから、そりゃ
そうだろ」と突っ込まれてしまいそうだが、ここで言いたいのは「戦争」感ではなく、
「戦争映画」感。

 戦争映画は作品によっては戦局全体を描いた歴史劇的側面の強い群像劇作品もあるが、多くは
キャラクタードラマとしての魅力を強く打ち出すために大局の中の局所に絞ったものが大半で、
本作も一年戦争の中の一部分を描いたという点で多くの「戦争映画」に似たようなものを感じた。
まあ、こういったコンセプトはガンダムシリーズのサイドストーリーに多いものではあるんだけど。
 特に連邦軍のイオ・フレミングとジオン軍のダリル・ローレンツの個の戦いに焦点を当てたという
点では、独ソのスナイパー対決を描いた「スターリングラード(原題:Enemy at the Gates)」や
米独の駆逐艦と潜水艦の1対1の対決を描いた「眼下の敵(原題:The Enemy Below)」辺りに繋がる
ものを感じたり。
 「機動戦士ガンダム(以後ファーストと表記)」なんかもホワイトベースのクルーを中心とした
局所的描写ではあったが、ホワイトベース自体が戦局を左右する要所要所に身を置いていたため、
ホワイトベースという局所を通じて一年戦争全体を描こうとしていたように思える。
 それに対して、本作の主舞台である「サンダーボルト宙域」はそれなりの重要拠点では
あるものの、身も蓋もない言い方をすればイオが勝とうが、ダリルが勝とうが一年戦争の趨勢
そのものは変わりそうになく、あくまで一戦線を切り取って描いていたよう。
 そしれ、局所ゆえの現場の生々しさが強く感じられた。

 自分の感覚だと昔の戦争映画はアクションやスペクタルが主の娯楽性の高いものと、戦争の
悲惨さや残酷さを前面に押し出した反戦映画的なものに別れていたものが多かったが、1970年代
後半のベトナム戦争を扱った作品群辺りからエンターテインメント作品でありつつ、戦争の残酷さや
狂気をも描いた作品が増えていき、現在の主流になっているような感があるが、本作もそういった
作りになっていて、これも「戦争映画」感を感じさせる要素なのかなと思ったり。
 戦争の悲惨さなどはファーストの頃から描いていたガンダムシリーズだけど、本作はやけに
生々しくて陰惨な印象。
 その辺に関してはジオン軍はダリルを始めとする兵士達の四肢欠損が、連邦軍は動員された
少年兵達が印象深い。
 特にダリルに関しては健常な右腕さえ、軍の命令で切断されてしまうなど、より悲劇性が
感じられるが、失った肉体の代わりをサイコ・ザクに見出すようなくだりは視聴している方としても
悲しみと喜びが入り混じったようななんとも言えない感じ。
 一方の狂気という点では、戦争やモビルスーツに魅入られたイオは割と判りやすいが、あくまで
任務のためといった感だったダリルもイオと同種であったという点が興味深い。
 こういった心情描写という点ではクローディア・ペール、カーラ・ミッチャム、J・J・セクストン
などの人間の弱さ、汚さ、あるいはそこから派生する葛藤などが印象深い。

 映像と並ぶ形で印象深かったのが音楽で、単なるBGMではなく作品内のモチーフの一つに
なっているところがより印象深くさせてくれる。
 まずイオの好むフリージャズ。これまで戦闘要素のある作品の音楽と言うと勇壮さを演出する
マーチ、重厚さ感じさせるためのオーケストラアレンジの楽曲(クラシック、またはオリジナル)、
あるいは戦闘時の攻撃性をイメージするヘヴィメタル、ハードロック、パンクなどのラウド
ミュージックの要素を持つ楽曲などが思い出される。
 そのために最初は「ジャズとは意外な」という印象だったが、いざ戦闘シーンにフリージャズが
流れると、戦闘時の混乱状況とフリージャズのある種の無秩序さがよく合っている。考えてみると
戦闘時はその場その場の状況判断が求められるわけで、この辺がインプロヴィゼーションを主とする
フリージャズとは親和性が高いかも。
 一方、ダリル絡みでよく聞かれたのが1950年代のアメリカンオールディーズを思わせるような
楽曲。
 この辺は聞く者にある種の郷愁を感じさせるが、これが作中キャラ達の平和な時代に対する郷愁を
思わせているよう。
 そして、郷愁はもう戻ることのない淋しさをも感じさせるが、これも戦争が終わって、平和な
時代が来ても、もう戦争を経た後では以前とは同じにはなれないことを示唆しているよう。

2020/03/09

投稿 : 2020/03/09
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サンキュー:

3

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