「新世界より(TVアニメ動画)」

総合得点
87.4
感想・評価
3340
棚に入れた
15913
ランキング
149
★★★★☆ 3.9 (3340)
物語
4.2
作画
3.6
声優
3.9
音楽
3.9
キャラ
3.8

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ネタバレ

ナルユキ さんの感想・評価

★★★★☆ 3.9
物語 : 4.5 作画 : 2.0 声優 : 5.0 音楽 : 4.0 キャラ : 4.0 状態:観終わった

素晴らしい原作を使ったが、やややっつけ仕事で冗長なアニメ化

原作小説は第29回日本SF大賞を受賞。原作小説は未読だが、アニメだけでもその肩書きに恥じない素晴らしく重厚な物語に感じた。
ただその原作に胡座をかいてしまったのか、色々と勿体無いアニメ化になってしまったのではないかとも思う。

【ココがすごい:情報量と開示のコントロール】
見出して感じるのは「わけがわからない」ということだろう。
序盤から何の説明も無く、様々な用語が飛び交う中でストーリーが展開していき、その独特な雰囲気に視聴者は呑まれていく。1000年後の茨城という舞台設定に未来的な要素はまるで無く明治か、最新で昭和時代かのような田舎で後進的な風景が続く。1台の車でさえ通る気配も無い。
そんな中で唯一『呪力』と呼ばれる超能力をどんな人間も持っているという設定だけが誰でも解る筈だ。主人公・渡辺早季(わたなべ さき)ら子供たちは呪力の使い方を学ぶために『全人学級』と呼ばれる学校へ通っている。
手を使わずにトランプタワーを作ったり、砂絵を描いたり、駒を動かす大規模なゲーム大会を開いたり────いかにもラボ的な授業の様子が描かれるのだが、その日々の中でクラスメイトが1人、また1人と姿を消してしまう。
『ネコダマシが悪い子を連れ去ってしまう』なんて噂も広まる中で子供たちは「規則を破れば何者かに消されてしまう」恐怖を少しずつ心に刻みつけていくものの、12歳の子供であるが故に迂闊な行動や危険な好奇心も抑えられない。そして────
1話からかなりの情報量がある。独特な生態系と人間社会で構築された本作だけの世界観。そして意味深に挟まれる回想やモノローグ。この大量な情報を納めるために主題歌はEDの1曲のみで、本来OPが入る尺をも本編描写に充てている。それらを全て理解できなくとも「子供がいつの間にか消える」というホラーサスペンスな現象が視聴者を物語に惹きつけていく。
わけのわからない謎の展開は1話から3話まで続くのだが、4話で「何故子供が消えたのか」が一気に説明される。それまでわからなかった謎がパズルのピースを嵌めるように1つずつ確実に埋まっていく展開は一種の快感ですらある。思わず「なるほど」と口走ってしまうほど伏線と情報開示のやり方が上手く、複雑なストーリーもつっかえることなくしっかり呑み込ませてくれる。

【でもココがひどい:ボノボってんにぇ!】
1話から4話までである程度は世界観に説明がつき、その後は主人公たちがピンチになりそれを打開する。ここまでは割と素直に作品を楽しめるのだが、ピンチを打開した後は急に時系列が2年も流れる。
主人公らは禁断の知識を得て自分たち「人間」が何者かを知った筈なのだが、その知ったことはとりあえず後に置いておかれてしまい、代わりに何故か恋愛描写が描かれる。それも同性同士で、いやに生々しい。キスは舌を絡み合うフレンチキス、女の子同士なら相手の胸に顔を埋めるB行為まで描写している。
これはファンの間で『ボノボる』と呼ばれており、その必要性を説く場面もあるのでこのような展開になるのは分かるのだが、1話前まであれだけ緊迫した状況だったのに、急に同性同士の恋愛という展開に変わるのはついていくのが大変だ。私自身は百合やエロシーンには殆ど抵抗は無いが、やはりそういった描写を入れた作品はどこか俗っぽくも感じてしまう(事実として、漫画版の作者は「サービスシーン」として捉えていた旨を巻末コメントで残している)。
またこのようなエロティシズムを描写するにあたって本作には「作画力」が足りない。キャラクターデザインはかなり淡白な仕上がりで洗練されてはおらず、漫画版の方が早季やマリアといった女性キャラを圧倒的に可愛く描いている。本作の地上波放映は2012年に遡るが、類似作品の『ひぐらしのなく頃に(2007年)』よりも粗雑な印象を受けた。作画レベルが5年ほど古いのである。

【そしてココがつまらない?:ダレる】
展開が変わっても、この作品のやり方は変わらない。謎をばらまきながらストーリーを展開し、パズルのピースを嵌めるかの様に謎を明かす。決してワンパターンというわけではない。ばらまかれる謎はどんどん大きく、そしてどんどん主人公らの身近へと接近してくる。嵌めるピースは「パズルの大きさ」が把握できないほど大きな物が実に気持ち良く嵌まっていくのだ。
ただ、それ故に「パズルの大きさ」が把握できないため物語の終着点が中々見えてこない。当然最終話まで観ればいいだけの話だが、そこへ辿り着くまでは常に五里霧の中を彷徨わされることを覚悟して観なければならない。
常に伏線を残し、少し解決したと思ったら新しい伏線をばらまく。物語がどこへ向かっているのかが掴みにくく、2クールという長さも相まって「ダレ」のようなものを感じてしまうのは残念である。
話の冗長さは情報量とストーリーの構成上、致し方ないのだが本来は回避できた筈だ。この作品は決定的に「アニメーション」としては微妙であり、独特の世界観を作るために奇抜な演出がとられることも多い。
普通の作品にならよく使われる止め絵やキャラクターの表情のアップ等、視聴者に強い印象を残し物語の決定的な部分を作り込む技巧。これを殆ど使用せずに敢えて濁した演出をとっているので、この作品のわかりづらさを助長してしまっている。

【でもココが面白い:重厚なストーリー】
それでもわからない部分をちゃんと理解しようとする気概で観ればこの作品はとても面白い。ストーリーは序盤から中盤までは「伏線」と「積み重ね」だ。
{netabare}本作は8話毎に主人公らの年齢が重なり『12歳』と『14歳』、とんで『26歳』の時のエピソードの3部作で成り立っている。しかし全員がその年を迎えられるわけではない。14歳では実に3人もの友人(班員)が物語の舞台から降ろされ、大きな禍根を遺してしまう。呪力と呼ばれる超能力を持った人間の中に生まれる『悪鬼』と呼ばれる殺人鬼。そんな悪鬼を恐れるあまり、この世界の大人は「間引き」をする。
主人公らはこっそりと行われた間引きに気づいてしまう。やり方は残酷で恐怖の募るものばかりだ。1000年後の日本は人間から溢れる呪力の影響で異形の生物が多く、人間が意図して異形にした生物もいる。そんな異形を大人は間引きに使う。
しかし、それは仕方のないことだ。悪鬼が生まれてしまえば対処方法は無いに等しい。多くの人間の命を守るために大人は子供を間引く。主人公らはそんな世界で「間引いている」事実に気づき怯える。ここまでが序盤のストーリーだ。{/netabare}
{netabare}今、ここまで読んでいただい方はこの展開から「異生物と人間の戦い」という展開に変わることを想像できるだろうか?
これまでの伝奇ホラーのようなストーリーから一変、終盤は血塗られた歴史の再来───「戦争」へと展開する。人間を神と崇めていた筈の「バケネズミ」たちは、物語の序盤から徐々に徐々に反乱を仕組んでおり、主人公らの行動も戦争の引き金となっている。
それは幼いが故の過ち。それは幼いが故の思いからの行動。それまで丁寧に描写した設定を積み重ねるように終盤のストーリーを作り上げていく。
大人たちが子供を殺してまで生み出さないようにした「悪鬼」、人間が意図して生み出していた「不浄猫」、言葉を喋れる「バケネズミ」──── 全ての要素が終盤のストーリーを紡ぐためのものである。
18話からの展開は怒涛の展開だ。保っていた平和の崩壊、力関係の逆転、そして現れる悪鬼……。そして、それまで見てきた視聴者だからこそ「悪鬼の正体」が否が応にも分かってしまい、わかっているからこそストーリーが気になって仕方ない。
そして訪れる最終回。あまりにもあっけない、あまりにもあっさりとした最後だ。
だが、全てが終わった主人公たちの気持ちは視聴者にも痛いほど伝わり、美しいほど悲しい物語だ。{/netabare}
{netabare}この物語に「悪」や「罪」というものはないだろう。誰が悪いともいえない、恐怖に囚われた人間が取った行動ゆえの業、人が人を思うからこそ行った罪。それは主人公側も敵である「バケネズミ」側も変わらない。
敵である筈の「スクィーラ」の最後の叫び、最後に描かれるバケネズミの正体、そして、この作品の最後の最後で安堵できるシーンが描かれ物語は「新世界へ」と紡がれる。{/netabare}

【総評】
『魔法少女まどか☆マギカ』と同じくシナリオの力で視聴者を圧倒し、批判すらもねじ伏せていくタイプと評する。なのでアニオタ界隈でも本作はまどマギと並び2010年代初頭を代表するアニメ作品として名が挙げられることもある。その名作扱いに大きな異存はない。円盤はあまり売れなかったようだが現在ではもう評価のアテにならん指標だし
高評価の前提として「原作」の出来の良さがあるだろう。序盤は独特な雰囲気と設定の難しさでとっつきにくさを感じるものの、それを乗り切ってしまえば「人間の業」を描いたようなストーリーは他作品では中々味わえない、じっくりと様々な物──世界観──を描写しており、それがいつか私たちの世界に訪れる「未来」、もし私たち人間が「呪力(超能力)」を持ってしまったらという「IFの世界」として魅せているのも上手く、その時どうすれば本作に起きたような惨劇を回避できるのかを夢想する楽しみ方も出来る。
ただ、そんな素晴らしい原作を決して高くない品質で、恐らく全部分をアニメ化してしまったのが残念だ。
「あまりに壮大なSF作品であるためにアニメ化は不可能とされてきた『新世界より』を数々のヒット作を生み出してきたアニメーション会社『A-1Pictures』が実現化させた!」と書くと聞こえはいいが、淡白なキャラデザや作画は最後まで安定することがなく、表情の変化も乏しいためにせっかくの緊迫感や臨場感が削がれてしまっている。夜や洞窟を舞台とすることが多く基本的に画面が暗いのだが、そこにいるキャラクターたちの「色彩」も淡いので背景の暗闇に呑まれがちになっており、何が起きたのか観てもちゃんと解らないようなシーンが何度もあった。
同じシーンでも原作の小説なら文章による想像でシーンを頭の中で描けるが、絵として画面に出てしまっているアニメで中途半端に描写してしまったことでストーリーをより難解にしてしまっている。本作はストーリーとしての盛り上がりは十二分に備わっているのだが、アニメーションとしての盛り上がりはいまいち薄い。
{netabare}全体的なストーリー構成も、もう少しテンポを良くして『業魔』の部分を思いきってカットしてしまえば、もしかしたら1クールという観やすい尺に収まったのでは?というのが個人的な意見。終盤に関わる用語が『悪鬼』や『愧死機構』の方であり、業魔はそこまで深く関わらなかっただけに中盤のエピソードがダレる要因になりかねないなと思ったり思わなかったり。人気ファンタジー作品『ハリー・ポッター』の原作小説をそのまま映像化したかのような冗長さも感じてしまい、初見ならまだしもふとした時に2回、3回と本作を周回できる人はそこまでいないんじゃないかと思う。{/netabare}
そういった欠点で傾きがちな本作を支える「声優」さん方の演技が素晴らしい。独特な世界観を後押しするよう深刻に緊迫感のある演技をしており、登場人物が12歳から26歳と成長していくことによる声優の変更も自然に行われ、違和感が無い。作画のせいで表情の乏しさに加えて子供時代と大人時代の人物の外見年齢でさえブレブレだったが、種田梨沙さんを始めとする役者さんの奮闘により耳から区別がつくようになっている。熱演が光る部分も多く、最後のスクィーラ(CV:浪川大輔)の叫びは深く突き刺さった。
正直な所、アニメだけを観ても本作の基本設定や1000年の歴史は解りづらい。公式ではYouTube「tvasahi」チャンネルで『新世界より 超スッキリ講座』という解説動画を出しているのでそちらの視聴も強くお奨めする。

投稿 : 2023/10/23
閲覧 : 148
サンキュー:

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