お茶 さんの感想・評価
4.4
物語 : 4.0
作画 : 5.0
声優 : 4.5
音楽 : 4.0
キャラ : 4.5
状態:観終わった
感情形成に至るプロセス
感情を持たない少女が、代筆業を通じて感情や物事を知る物語。
※(1)「ウィーナー サイバネティックス ─動物と機械における制御と通信」を紹介したい。
自動機械や人間が、どのようなプロセスで学習していくかを主にまとめた書籍で、コミュニケーション、コントロール、フィードバックの3要素が重要と記されている。大まかな結論として、この要素を通じて記憶(データ)を取得しアルゴリズムを形成するというもの。
代筆業という舞台装置が感情形成に至るプロセスとして機能している。
仕事を通じた群像劇は感動できるし、彼女が感動媒体として機能しているのも中々観ない作風と感じた。彼女が分からないから他の人が理解を促したり、どうするべきかを検討したりして、群像劇としても代筆の上達(感情の形成)としても上手く成立させていた。
傭兵期間で、少佐と戦闘に関する記憶、知識以外ないのが劇としても、感情を得るプロセスとしてもよく機能していて、少佐の記憶はエピソード記憶として残ったんだと思う。五感を使ったり、何かと結びつけることで記憶力が高まる。
自分がいつどこで何を行ったのか。その人といつどこで出会ったかを思い出すという過去を再体験するような意識状態はメンタルタイムトラベルと呼ばれ、エピソード記憶の最も重要な特徴であると考えられている。
過去の出来事の記憶を再体験するかのごとく思い出した際には、エピソード記憶の特徴である自己内省的意識が深くかかわった状態で、記憶の想起によって、未来の出来事を想像し、プランニングする機能と関連し、あるいはプランニング機能の向上に寄与する可能性がある。
これはエピソード的未来志向とかエピソード的シミュレーションと呼ばれ、記憶が欠如していても、自分のエピソード記憶によって、脳の記憶を司る領域の活動が高まるという報告がある。記憶が戻ったり、感情を理解するきっかけとなるらしい。
本作における重要な記憶は、少佐という人物。この記憶が彼女の学習と感情を得るための鍵になっていて、代筆によるコミュニケーションやフィードバックを通して学習、感情形成に繋がっていた。
幼少期の記憶が辛いものだった場合、その後の人生で幸せな出来事があったとしても、最初の記憶と結びつき、幸福に感じられないというケースもある。
ターミネーターやフランケンシュタインや本作にしろ、どのような記憶が鍵となっているかで闇落ちするか否かが分かれると思う。もし少佐への記憶がネガティブなものだったなら感情形成も違っていたかもしれない。
また、テクノロジーを得ることによって、封鎖された社会から出られることも示唆されているように思えた。あと感動的なのは作品が鎮魂歌として機能している点にある。
***
とまあ、記憶について長々と書いてしまいましたが、
全体として高水準な作品でしたが、期待値が高すぎた。
お話としても進行としてもベタで、手垢まみれもいいところの直球すぎる展開だったかなと。さらに表情で伝えられないという枠の中で、どのように表現するか、というのは非常に難しいことだと思います。
作画の芝居と言うべきか、定評のある京アニの得意とするところですが、少々、やりすぎというか、分かりづらいというか、作風とマッチしていないというか、なんとなくモヤモヤとした印象。正直なところ、真面目なんですよね。新鮮味にかけるというか。
とはいえ、好きな描写もありました。
・噛むことによる感情表現。
・ホッジンズも中佐の「ではご無事なのですね」と言われ、ポケットに入れた左手を揺らして無言。
「いつ合流すれば宜しいでしょうか」にも無言のまま左手が映される。
・タイプライターに「武器」という比喩が台詞で用いられ、打鍵で激しく打ち続けた時にマシンガンなどの映像を入れたりなど。
作画の芝居による情報量の多さ、これは感覚のよりけりに思われる。こういう作品だと知って見るといいかもしれません。