「ガサラキ(TVアニメ動画)」

総合得点
66.1
感想・評価
113
棚に入れた
690
ランキング
2942
★★★★☆ 3.6 (113)
物語
3.6
作画
3.6
声優
3.5
音楽
3.7
キャラ
3.5

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ネタバレ

どらむろ さんの感想・評価

★★★★★ 4.2
物語 : 4.5 作画 : 4.5 声優 : 4.0 音楽 : 4.0 キャラ : 4.0 状態:観終わった

超リアルロボット、軍事SF、和風伝奇サスペンスそして日米経済戦争…から日本人の精神を問うた意欲作

「装甲騎兵ボトムズ」の高橋良輔監督が手掛けたロボットアニメ全25話です。
特殊な状況以外では戦車や戦闘機より弱い超リアル路線ロボットと、1998年当時の日本を取り巻く国際情勢からの軍事・政治・経済を絡めたドラマ、そして古代日本から受け継がれる謎のアーティファクト、能や狂言など和風テイストな伝奇ミステリー要素も。
…「コードギアス 反逆のルルーシュ」の谷口悟朗さんが助監督を務めており、本作ロボットはナイトメアの前身っぽい。
故にコードギアスファンも一見の価値あるかも。
※ついでに「クロムクロ」の和風伝奇路線の先輩かも。

極めてとっつき難い上に完成度もイマイチなんですが、それでも不朽の名作です。
「日本的右翼思想」の極致ともいえる、ある意味非常に危険なアニメ。
…ちなみに当時、日曜朝に放送されていたのが凄い。いい時代だった…。

{netabare}『物語』
事あるごとに「急に能を舞うよ~」
予告編で和歌を詠んだり、全編に渡り和風テイストです。ポエット!
予告編の言語センスは、流石は高橋良輔監督。ボトムズより地味ですが、素晴らしいです。

豪和(ごうわ)家という軍事産業一族の末っ子・豪和ユウシロウ(17歳)がタクティカルアーマー(通称「TA」)というロボット兵器のテストパイロットなんですが、TAの基礎が実は骨嵬(クガイ)という古代日本より伝わる謎のアーティファクトであり、ユウシロウは嵬(カイ)という異能者で…
能や狂言っぽい古典芸能が古代アーティファクト発動のカギになっている、近代科学SFと伝奇ファンタジーが融合した感じの不思議な雰囲気です。
…TAはボトムズのAT(アーマードトルーパー)を彷彿とさせるし、嵬(カイ)はPS(パーフェクトソルジャー)っぽいし、高橋良輔監督テイスト満載です。

物語は自衛隊を海外派遣するか否かで揺れていた当時の情勢を下敷きに、特自という自衛隊組織がTA部隊を海外派遣したり、TAの既存兵器に対する優位性を見せたり。
「シンボル」という謎の巨大組織(たぶん、ユダヤ系資本がモデル?)の陰謀や、対する豪和家長男・一清(かずきよ)の野望などの政治劇と、TAのリアル軍事バトル、そしてユウシロウと謎の少女ミハルの邂逅と互いのアイディンティティーを求める旅が、やがて古代日本のアーティファクトにまつわる謎に繋がっていく伝奇ミステリー…
…嵬(カイ)であるユウシロウが能を舞う事で空間が歪み、なにやらトンデモないモノを召喚しようとしている。
そんな伝奇的予感を感じつつ、混然一体となって物語が進行していく。

「TAというリアルロボット兵器と軍事SF」
「日本の現状に対する問題提起という政治劇」
「ユウシロウとミハルの邂逅…からの、古代日本伝奇ミステリー」
…主にこの3つの視点で進行するストーリーは複雑でちょっと分かり難いのですが、じっくり見ていくと堪らない魅力があります。
(私好き過ぎて時折何度も観返してます)


本作のロボット兵器の位置付けは「普通に戦ったら戦車や戦闘機より弱い」けど「市街戦や閉鎖空間など局地戦ならロボットならではの活躍できる」
むろん、空なんて飛べません!

TA(タクティカルアーマー)の実力は、序盤で(模擬戦とはいえ)最新鋭戦車(12式戦車という架空戦車。多分現実の10式より弱そう)相手の市街戦で、圧倒的な強さを見せつけてくれます。
障害物多く建造物で立体的な都市部において、TAはワイヤー使ってビルの上に登り…三次元的機動で戦車の死角かつ弱点からの攻撃で圧倒していく。
…リアルだと人型ロボットって戦車より弱くね?
という(ロボットアニメのタブー)を受けて立ちつつ、でも局地戦なら戦車より強いよ!
を、説得力ある描写で見せてくれた。なるほど~、こう戦えばロボットが戦車を倒せるんだ!
※このTAの戦い方は、後続の作品「コードギアス」にも影響与えてそうです。
コードアスのロボット・ナイトメアは普通に戦車より強い超兵器という違いはありますけど。
…「TAが戦闘機に勝てるワケ無いじゃない!」と女性兵士に言われつつ、輸送機にブラ下がりながらの銃撃というムチャなシチュエーションで逆転して見せる、燃える!

軍事SFとしても現実の諸兵器の描写が良い。
無人偵察機など、当時はあまり知られていない兵器システム使ったり、砲撃シーン、後方のオペレーターの支援が大事だったり。
これら細かい描写が軍事物としての雰囲気バッチリ出してます。

戦闘に至る流れが、軍事企業豪和の野望やシンボル(ラスボス組織)の陰謀が複雑に絡む政治劇…からの、危険なシチュエーションに追い込まれる展開ハラハラします。
「ベギルスタン」(独裁国家。多分現実のフセイン政権イラクがモデル?)では、ユウシロウがシンボルのロボット兵器「フェイク」を駆る少女ミハルと邂逅し、共鳴していくミステリアスなボーイミーツガールも。
…主人公とヒロインどっちも無口系なので、非常に地味です。
地味なんですが、運命の出逢い…からの惹かれ合うのはちょっぴりロマンチック。
※ユウシロウとミハルは、ボトムズのキリコとフィオナですかね。
2人とも異能パイロットで敵同士で惹かれ合いますので。
ラブコメの波動…はイマイチ大人しいのが本作がとっつき難い要因の一つかも。

日本に帰国してから、ユウシロウの出生の秘密、自身のアイディンティティーへの葛藤が、豪和一族の秘密、古代日本に遡る伝奇ミステリーを孕んでいく…。
ミハルもまた古代アーティファクトのカギを握る少女、ボーイミーツガールっぽさは控え目ながらも、宿命を共にする少年少女の逃避行とその果てに見る真実…謎が深まる展開ハラハラしました。

…その一方で、相変わらず豪和一族上層部が進める野望や政治的攻防も熱い。
一見異質な伝奇と政治劇が、ユウシロウの嵬(カイ)の秘密と密接に絡んでいく。
中盤以降、本作の真の主役と言える人物「西田さん」登場で、本作の大テーマ「日本人のあるべき姿や理想」「日米関係に対するアンチテーゼ」がジワジワとベールを脱ぐ。
一清と西田さんの会見で互いに思想ぶつけ合う…
西田「日本人の精神性は研ぎ澄まされた日本刀(のようであるべき)」
西田「物質的豊かさへの疑問、日本人は貧しくなるべき」
一清「理想は分かるけど大勢の日本人はついていけなくね?」
西田「それでもなさねばならぬのです」
……すいません、正直何度観返しても私にはよく分からんです。

大人たちが小難しい政治劇やっている間、ユウシロウとミハルは、過去の(多分前世の)記憶から、餓沙羅鬼(ガサラキ)や骨嵬(クガイ)そしてそれを操る嵬(カイ)の哀しき宿命を知る事に。
※中盤過去編というか前世編、2014年度の「曇天に笑う」でも見ました。
前世編が、その後の物語に大きく絡んでいく。
…前世のふたりの方が感情豊かでラブコメの波動を感じるなぁ。
過去編、ちょっぴり「火の鳥」っぽかったです。
強大なる力を操る一族の悲劇が、時代を超えて現代に蘇る…

…伝奇路線はここまでが面白く、以降はひたすらキナ臭くなっていく日米対立と、西田さんを首魁とする政治劇に。
伝奇と政治劇の食い合わせがイマイチなのが本作の泣き所かも…。
ユウシロウがミハルを連れての逃亡生活で、華僑の王さんたちと交流していく話も良かったのですが、ユウシロウが地味、ミハルもお人形状態でラブコメしてる余裕なかった。
…主人公とはいえ17歳の少年では大局に絡めない、リアル路線。
でもお話としてはイマイチ地味なんですよねぇ。

終盤の山場は、アメリカの日本への穀物輸出停止政策、それに対する西田さん一派(実質、クーデター成功済み)の対抗策「日本の海外資産20兆ドル(円じゃありません、ドルです!)全放出」という経済攻撃。決まればアメリカ経済は崩壊する!?
テーマは日米同盟(アメリカへの追従姿勢)への疑問符…なんですが。
1998年時点で、既に時代遅れな面が。
「沈黙の艦隊」の80年代的な発想であって、21世紀的な日米同盟深化の時代背景には合ってない。
…という評価(ウィキペディア参照)
でも、これはアニメだし、現実とは違う路線見せてもそこは別に悪くないような。
現実で日米同盟強化でも、これに異を唱えるフィクションがあってもいい。
是か非かは別問題ですが。

西田さんの日本人論は高潔で美しい…
でも、私は到底受け入れられないです。
堕落してても、享楽主義でも、何が悪いのか。
何と言われようが日本人は一生懸命生きてきたんですよ。
私は今のこの日本が好きなので。平和で豊かで…アニメ沢山作られるこの日本が♪

…日本とアメリカの国運を賭けた壮大な抗争劇から、最後の戦いの舞台が地下拠点のロボット兵器同士数台の防衛戦、という局地戦に収斂する流れが巧い。
TA部隊は所詮「局地戦では戦車よりちょっと強い程度」兵器数台に過ぎず、この弱小戦力が天王山となる戦いのカギを握る展開に説得力ありました。
…この期に及んでは、アメリカ問答無用で爆撃(核含む)してもおかしくないんでは?
という懸念あり、アメリカ大統領が傑物だったから良かったものの、ちょっと相手頼りなご都合主義を感じるのは若干惜しいかも。
とはいえ、TAというリアルロボットの晴れ舞台を自然な流れで用意する脚本は見事でした。

24話が実質最終話。
最終25話は、伝奇路線の伏線強引に纏めてくる謎なラストで困惑。
まあ過去編での伏線もあるので話は分かりますけど。
…進化し過ぎた異星人が、地球人にナニかを託したって話ですかね?
結局ガサラキて何なのよ!?

総じて中盤までの和風伝奇ミステリーと、後半の政治劇が面白かった。
西田さんの思想には賛同できないけれど、言葉のひとつひとつは深く考えさせられました。
超リアル路線ロボットバトルが圧倒的にカッコ良かった!
2クールでは伝奇部分の伏線消化不良だったのが非常に惜しいです。


『作画』
キャラデザは地味ですが悪くない。ミハルも美鈴(みすず)も可愛いんですが、作風と性格上、笑顔が乏しかった。
真骨頂は超リアル路線ロボットバトル!
出渕裕さん、荒牧伸志さんが担当したロボット兵器の泥臭いデザイン、骨嵬の鎧武者ベースな禍々しさ。
リアルロボットの戦闘シーンは、今なお最高傑作のひとつなのでは。

『声優』
ユウシロウは勇者王に続く檜山修之さんの主演キャラ。無口でクールな美少年でした。
ミハルは金月真美さん。静かな美声が印象的。
ふたりとも無口キャラなので地味ではありました。
美鈴のこおろぎさとみさん流石に可憐。
女性陣は他にも高山みなみさんのカッコイイお姉さん、丹下桜さんの可愛らしいオペーレーターも印象的。

男性陣では、速水奨さんがかなり若い感じの善良な青年役で珍しい。
高田祐司さんの曲者っぷり、秋元羊介さんの老師キャラも流石。
МVPは西田さんの岸野幸正さん、高潔な憂国の士、鬼気迫る信念が伝わります。


『音楽』
OP、ED共に種ともこさんが歌い、かなり独特な曲調。古典芸能っぽさが本作の雰囲気引き立てます。
特にEDの間奏(ミハルが弓引き絞って撃つシーン)が美しい。
TA戦のBGMもテンション上がります。


『キャラ』
ユウシロウは空気主人公と言われてますが、彼だってちゃんと己のアイディンティティーを求めて葛藤する主人公でした。
無口だけど仲間想いな良い子ですし、同僚のお姉さんたちに可愛がられるのもわかる。
後半話のスケールが政治的にデカくなると空気なのは、まあ仕方が無い…。

ミハルはミステリアスな美少女。ユウシロウと邂逅した辺りはミステリアスなキャラ立っていたけれど、華僑に匿われる辺りでお人形だったのがヒロインらしくない。
主人公ヒロインともに無口系だと話が地味ですねぇ…。
保護者ポジのメスと最後に心温まるシーンありますが、そこまでの描写が乏しい。

ユウシロウお兄様を一途に想う妹の美鈴ちゃん可愛かったです。健気。
結局最後まで蚊帳の外なのが、本作らしいところ。

特自の同僚のお姉さんたち、特に安宅(あたか)大尉がステキな女性。高山みなみボイスかっこいい。
彼女の方がユウシロウより目立っていた。
ムラチューこと村井中尉本作で一番かわいい。

速川中佐は理想の自衛官、違憲の軍隊としての己の意義を問い続けた…
上司としても理想的でした。

豪和一族は一清が主役。ザビ家のギレン・ザビっぽい感じ。
彼の野望の炎は、最終話のような謎展開ではなく、他の形で見せてほしかった。
清継兄さんはユウシロウに優しくしてくれる好人物だが影が薄い。

華僑の王さん好人物でした。頼れる兄貴っぽくてかっこいい。


ガサラキファンの多くが真の主役だと認識してそうな、西田さんという人物がインパクト大でした。
多分モデルは三島由紀夫ですかね。
高潔!苛烈!でも理想高すぎてついていけません…!
地味だけど合衆国大統領も偉かった。彼の英断なければ日本終わってた…

どのキャラにも愛着沸いてますが、主役が地味なのと、西田さん傑物だけど賛同しかねるので、キャラ評価少し下げてます。{/netabare}

投稿 : 2016/05/18
閲覧 : 530
サンキュー:

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