チョビ0314 さんの感想・評価
4.3
物語 : 4.5
作画 : 4.5
声優 : 4.5
音楽 : 4.0
キャラ : 4.0
状態：観終わった
「万感」という言葉が良く似合う
先日最終回を視聴し、見終わった直後は心地の良い喪失感と満足感で満たされました。
本作は素晴らしい作品で自分の中で圧倒的な今期ナンバーワンです。
この作品が始まって視聴した時にすぐ高揚感を含んだ魅力を感じましたが、正直言って主人公の一人リコが好きなれませんでした。
理由は保護したもう一人の主人公レグに対する好奇心に駆られるままに調べ回す姿勢(下手をすれば相手が死ぬor壊れる可能性もある行為)や、周りの迷惑に全く頓着せず突き進む良く言えば一本気悪く言うと自己中な彼女を、どうしても好意的に見る気になれなかったからです。
その後も魅力的な作品だとは感じつつも彼女の行動にモヤモヤしたままの視聴は続きます。
タマウガチの毒に侵され腕の切断を迫られる衝撃的なシーンでも、彼女の「自業自得」な部分もある気がして同情する気がいまいち起きませんでした。
その後登場するナナチに助けて貰うけど、リコは意識を失って動けませんから働くのはレグな訳でモヤモヤは続きます。
しかしながら１２話と１３話最終回で印象は少し変わりました。
意識を失った彼女には目覚めるまでほぼ台詞は無いし、目覚めても以前とそんなに変化はありません。
だがそれまでの話と違い、新たな仲間と共に冒険の準備を進める彼女に魅力を感じました。
今までは「レグに守られるだけの存在ではないのか」と感じるフシもあったが、激しい痛みにも必至で耐える姿や自分の特技を活かし準備をし、失った感覚を前向きにどうにか補おうとする姿勢。これは冒険者として重要な資質であり、今後の冒険で必要な存在であると理解させてくれました。
誠に見事な展開と演出だったと思います。
次にメイドインアビスを見ていて他の作品からはあまり感じない事を挙げようかと思います。
架空の世界で世界観や常識等が違うのは当たり前なのに、かなり現実社会との相互性を感じさせられました。
人間は必ず何かを食べたり摂取する。その食べ物の多くは動物や魚類や植物に菌類、場合によっては昆虫だって食べますよね。
あと多くの作品では食事って食べるシーンはあっても料理アニメとかじゃないと調理シーンは省かれますし、ファンタジー物で森の中とかならいいとこ焚き火で肉を焼く程度だし、お風呂シーンはあってもトイレのシーンとか排泄物に関しては描かれない事が多い。
本作では「危険を犯し食材を調達→調理→食事後」を描き、嘔吐したり痛みのあまり失禁したりするシーンもしっかり表現していました。
こういったシーンがあったので「登場人物たちが自分と同じ感覚を持つ人間である」と意識出来て、アビス内では誰もが捕食者にも獲物にもなる事があるという彼らの過酷な状況を理解できます。
それに倫理観でも色々考えました。
極端な例で黎明卿ボンドルドの行いを見た時に、非人道的な実験の数々に憤りつつ同時にそれが＝絶対悪ではないのでは？という考えが浮かびました。。
ボンドルドの行いは酷すぎるが、現実世界の歴史でも人体実験は山ほどあります。(動物実験なんかは今でも当たり前だし)
例えば冷戦時代の東ドイツで財政難に悩む政府が、西側も含む製薬会社と密約を結び病院等で患者に内緒で投薬実験を繰り返した。
その実験結果から様々な薬が生み出され、今でもかなりの薬が使われています。
他にも好奇心に駆られた研究者が様々な恐しい実験を行いました。
人の歴史には必ずそういう裏側が存在する、これは事実です。
もしかしたら本来の目的とは違った形でも、ボンドルドの発明が人を救っている可能性は否定出来ない。
それに特殊な生態系のアビス内で生き抜くには、何かしら特化した所が無ければ即死亡し淘汰されるという事を作品を見る内に自然と理解していたので、「すっげームカつくけどボンドルドみたいな人非人が存在するのもまぁ仕方ないのかな（苦しみ抜いてから滅びて欲しいと切に願うけどね！」みたいに感じました。
例え見ている側が目を覆いたくなるような表現でも、描くべき所ではしっかり描かないと緊張感が生まれないし、やりすぎでも食傷気味になり魅力は薄れますよね。
本作はそういったバランスがとても良かったです。
出会いと別れ、非情な現実、様々な哀しみ、そして喜びと感動。
まるで映画の様に終えた本作品の続きを作るのは大変でしょうが、是非素晴らしい続編を期待したいです。
