「この世界の片隅に(アニメ映画)」

総合得点
82.8
感想・評価
692
棚に入れた
3063
ランキング
346
★★★★★ 4.2 (692)
物語
4.3
作画
4.2
声優
4.2
音楽
4.0
キャラ
4.2

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ネタバレ

四文字屋 さんの感想・評価

★★★★★ 4.6
物語 : 4.5 作画 : 5.0 声優 : 4.5 音楽 : 4.0 キャラ : 5.0 状態:観終わった

すずは、私たち全ての象徴として、どの時代にも生きている。

珍しく原作既読。
というか、もともとこうの史代さんのマンガのファンなので、アニメ化とは関係なく読んでいます。


これはジャンルとしては反戦映画ではなく、日常ものアニメ作品。
平沢唯ちゃんだってココアだって、昭和のはじめの時代に生きていたらこんな風に生活しただろう、と思わせてくれる垣根の低さが、この作品には通底していて、
どんな時代だって、生きていくのは大変だし、その大変な中に生きる喜びも悲しみも包まれている、と静かに知らせてくれている。


映画では、こうのさんの作風を生かして、
すずの生活が、日常のディテールの積み重ねの中、淡々とつむがれる。
{netabare}演出は、こうのさんならではの、微妙にずれる感じの笑いを上手に織り交ぜつつ、
繰り返される日常がまるで当然のように、戦禍の渦に飲み込まれていく様子を、静かに描いていくので、まるで日常の延長線上に悲劇が普通に佇んでいるように見えてくる。
そこでは、日常感覚に麻痺させられて、戦争という異常事態さえ当たり前のことのように存在すると錯覚させられることに、見事に成功している。{/netabare}

すずは、絵を描くのが好きで、上手。
{netabare}この設定が主人公の性格を踏まえて、作画が上手くまとめられている。
そして、すずの絵を描くのが好き、ということを生かして、表現技法の工夫が随所に詰め込まれていて、マンネリにもなり兼ねない日常生活を、鮮やかに演出している。

これが、笑ってしまうようなエピソードにも、後に訪れる悲劇にも生かされている。

右手を主人公は被弾によって失うのだ。同時に義姉の娘も命を失う。
すずは、絵を描く右手を失い、義姉は愛娘を失い、それでも日常は続いていく。
その悲劇的なシーンにおいて、精密な写実アニメとは違う独特の仕上げがほどこされることで、戦争という悲惨な事実をまるで夢のように描いていて、
すずが、戦争の現実を受け止められず、絵のように感じてしまうという作画に結実している。{/netabare}

この表現によって、映像作品として、反戦映画や戦争賛美とはまったく違う世界観を醸成することに成功している。


この作品は何も押し付けては来ない。
平凡な人間の平凡であるべき日常を描ききった、人間のドラマであり、
どんな状況でも前向きに生きることの意義を、
押し付けでなく、当たり前のこととして見る者に、手渡してくれる。

投稿 : 2017/10/30
閲覧 : 370
サンキュー:

43

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