「この世界の片隅に(アニメ映画)」

総合得点
82.8
感想・評価
691
棚に入れた
3062
ランキング
346
★★★★★ 4.2 (691)
物語
4.3
作画
4.2
声優
4.2
音楽
4.0
キャラ
4.2

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ネタバレ

fuushin さんの感想・評価

★★★★★ 4.8
物語 : 5.0 作画 : 4.5 声優 : 5.0 音楽 : 4.5 キャラ : 5.0 状態:観終わった

何を語ろう・・。

この作品のレビューはなかなか書けませんでした。思うところがいろいろありまして、筆が進まなかったのです・・・。
で、あらためて皆さんのレビューを読んでみて、やはり、まとめておくべきかなと思いました。

この作品のレビューはどれをとってみても、真摯に、一生懸命に書かれてありました。作品についてもそうですが、なにより、戦争と平和について、きちんとした考察がされているし、思いを巡らしてみえるし、すずさんらに思いを寄せているのがありありと伝わってきました。
それはきっと、作品自体に、観る人の心を揺さぶる魅力や内容があるということですよね。

実は、高齢になる母にぜひ観てもらいたいなと思って、一緒に映画館に観に行ったのですが、鑑賞後の母の感想が「あんなふうだったな~。みんな大変だったよ。」と、これだけでした。

実際に戦争を体験してきた人たちは、一人一人の体験は違うのだけれども、共通しているのは「それが普通だった。当たり前だった。みんな同じだった。ことさらに語ることでもなく、アピールすることでもない。」ということです。

この作品。すずさんはたしかに主人公だし、フィクションのひとつとして観ていていいのですが、72年前、たしかにそこにいただろうすずさんにとっては、真実のノンフィクションだし、呉にまで届いた爆風も、広島を焼き尽くした炎も、すべて事実なのですね。

スクリーンを通じて伝わってくる真実と事実、戦争を体験した当事者が語る真実と事実、それぞれに確かな歴史があります。

その歴史から何を学び、未来に向けてどのような「価値観」を作って、何を選択し、どう行動をしていくのがいいのか。未来の子どもたちに、どのような責任を果たすべきなのか。

すずさんが体験した、ささやかな喜びと、深い悲しみと耐え難い悔しさに、どんな形でも、真摯に向き合わなきゃならないなと思いました。

いや、本当。この作品、ほんわか、ゆるり調だったね〜で終わらせては済まされない価値がありますね。
私の日本人としてのアイデンティティの根幹に、時限爆弾を仕掛けられてしまったような感じになってしまいました。

その爆弾の正体を、覗き見たくて、私は今年、呉と広島に行ってきました。呉には、海上自衛隊の基地があり、艦船が何隻も係留されていました。観光船で呉港艦船巡りをし、ヤマトミュージアムに入り、港を見下ろす山にも足を延ばしました。広島市内では、原爆ドームや平和記念公園、資料館も見て回りました。
G.Wでしたので、大きなお祭りが開催されていました。たくさんの道行く人が、生き生きとした表情でお祭りを楽しんでいました。もしかしたら、その中にすずさんがいたのかも。そう思うと、スクリーンにいた可愛らしいすずさんがお祭りを楽しんでいるようにも思えて、ふと笑みがこぼれてしまいました。

広島や呉の街並みは、すっかり変わったのでしょうが、第2次世界大戦を生き抜いてきた方たちには、変えられない、変えがたい価値観や手放せない人生観があるかもしれません。
そう思うと、スクリーンに蘇ったすずさんの当時の笑い顏や泣き顔に、何だか分かったようなつもりで、観終わることは、正直、なかなか心苦しいものを感じます。

戦争をくぐってきた方たちのその知見、体験、生き様はリスペクトする必要があるでしょう。
もし、すずさんが生きていたら92歳でしょうか。

私は、この作品に、親和性を感じながらも、同時に違和感も持ちました。

親和性は、作品の視点が徹底した庶民目線だからでしょう。たぶん。
知らなくて、知らされていなくて、それでも済んでしまう日常。
見なくても、気づかなくても、声を上げなくても、流れていく暮らし。
何だか、怖いくらい今の私のようです。
この作品のもつパワー。すごい親和性です。

違和感のほうは、私が学校で学んできたデータとの違いでしょうか。憲法の前文を丸暗記し、9条は一字一句間違えずに書くことができました。はだしのゲンを通読し、戦争被災者や傷痍軍人さんを街中の商店街で普通に目にしていました。
「戦争は人には害悪で、悲惨なもの。再び繰り返してはならないもの」という強烈なインプットがありました。自分の目で見たものがすべての事実である少年時代、それが私の戦争の追体験でした。

だからでしょうか。すずさんの日常に描かれている風景や暮らしや人情のなかに、ひたひたと迫ってくる戦争の影響がまとわりついておらず、当時のさまざまな実相が今ひとつ伝わってこないのです。

それが、不思議なのです。

単に、私個人のバイアスとの違和感だとも考えましたが、若い世代とのバイアスには違和感なくコネクトするのでしょうか。

すずさんらは、厳に、大日本帝国憲法による臣民としての存在。
ついに、民主主義に出会えなかったすずさんらの不幸な結末。
とてつもなく大きく、とてつもなく深い喪失感。
すずさんの不幸を、不幸として声を出すことさえ憚 ( はばか ) られる国家統制。

その実相が、ダイレクトに伝わってこないこの作品。それが私の違和感なのですが・・。

でも、「この世界の片隅で見つけてくれてありがとう」と言うすずさんの、ささやかな幸せの、とてつもない、計り知れないほどの重みを、観た人は皆、感じ取り、胸にとどめているようです。
それは、私にとっては望外の喜びです。

長文を最後までお読みくださってありがとうございます。

この作品が、皆に愛されますように。

投稿 : 2017/10/28
閲覧 : 431
サンキュー:

50

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