「思い出のマーニー(アニメ映画)」

総合得点
66.9
感想・評価
339
棚に入れた
1776
ランキング
2607
★★★★☆ 3.8 (339)
物語
3.8
作画
4.2
声優
3.5
音楽
3.8
キャラ
3.7

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ネタバレ

ダリア さんの感想・評価

★★★★★ 4.6
物語 : 5.0 作画 : 5.0 声優 : 3.5 音楽 : 5.0 キャラ : 4.5 状態:観終わった

自己を肯定するための物語

随分と前に予告で百合の気配を感じ取り録画したものの、いつまでもHDの肥やしにしているのも勿体ないと思って視聴しました。

この評価は考察をメインにしていきたいので私の感想はサラっと済ませますが、個人的には結構好きな路線でした。ベタな演出ではありますが、杏奈がおばさんの事をひさ子さんに紹介する時、「母です」と堂々と言った所ではウルッときてしまいました。杏奈は中々賛否の分かれる娘ではありますが、個人的には聡明で、ちょっと自罰的で繊細な大人の女の娘だと思います。マーニーの生涯と同じように、決して明るい事ばかりではない人生であっても最期まで懸命に生きる、強い女性になるのでしょう。

{netabare}

☆条件について
さて、海辺での暮らしで見つけた屋敷、そこは長らく誰も住んでいない空き家。しかし杏奈は七夕祭りの夜、のぶ子に酷い言葉を浴びせてしまった後マーニーと出会います。彼女と会うためには
・夕暮れ時
・満ち潮
・小舟で
屋敷まで向かう必要があります。昼間、干潮の状態で屋敷に行っても荒れ放題の空き家があるだけ。美しい使用人も煌びやかな祝宴もない描写がありましたね。

☆夢を見ている時の杏奈
この作品は安奈の心象にある精神世界と現実を複雑に行き来するという特殊な性質上、解釈を視聴者に委ねる場面が割とあります。基本的に見えているものはあくまでも杏奈の精神世界。
少なくとも作中で描写されている客観的描写では、杏奈は第三者に道端で熟睡している状態で発見される描写が数多くあります。その割には服装は泥で汚れ、失くした靴は翌日屋敷へ向かう道中で見つかる等、ただ大人しくジッと寝ている(つまり全て夢だという説)ではないよう。身体が眠っているのであれば夢遊病のような状態だし、そうでなければ夢と現実でそれぞれ別々な行動を意識を持ってしている?

☆忘れる、という事
作中何度か、杏奈とマーニーはお互いに忘れられてしまう事を恐れるような発言をします。また、大岩さんの所でゆっくりとして、マーニーの事を忘れかけてしまう杏奈の描写も。
軽くググってみると、原作のアメリカの児童文学では長い尺をかけて、前半後半と、湿地の屋敷の事、マーニーの事が思い出せなくなっていくという対になる描写がされているらしいです。映画では尺不足で消化不良の未回収な伏線として放置されてしまったのかな。

☆貴方が羨ましい、の意図
マーニーの細やかな言動には、少なからず杏奈のそうであって欲しい、憧れる在り方が反映されているのではないでしょうか。自己を肯定出来ない杏奈から見て、かつての祖母のビジュアルと自分の理想そのものな内面を掛け合わせたハイブリッド美少女マーニーは、羨ましくて当然。
そんな羨望の眼差しを向けられるマーニーに、「私は、貴方が羨ましい」と言われる事によって自己を肯定できるようになっていったのではないでしょうか。
杏奈の理想そのもの、なんならこのシーンのマーニーは杏奈の光の部分。自己を肯定出来ない状態の闇の杏奈と抱き合うのは冷静に意味合いを考えればちょっと宗教的ですらあります。そうして杏奈の中で一つに混ざり合うのかな。後述するマーニーの別れのシーンとは対照的に、杏奈がマーニーをわかりやすく作って脚色している部分と言えます。

☆サイロでの出来事
サイロに行く道中、雷雨の吹き荒ぶサイロの中、マーニーは何度か杏奈の事を幼馴染の和彦と呼び掛けます。そしてマーニーは迎えに来た和彦と共に、杏奈を置いて二人サイロを去って行きます。
これに関しては、割と説明がつく謎だと思います。杏奈の体験した事は、全て遠い記憶の彼方の祖母、マーニーその人が語ってくれた思い出話であったという種明かしがされます。そのエピソードの中の登場人物、幼い日のひさ子さんと和彦が、杏奈の中で明確に区別出来ておらず混濁した結果だと思われます。前半は祝宴で和彦と踊るマーニーに嫉妬する描写からひさ子さんの追体験、後半、互いに世界で一人だけの理解者だと水辺で抱き合うシーンあたりからは和彦の追体験をしていた状況とすれば、心象世界で状況を作っておきながらそれを自覚できない杏奈が混乱していたのは割と納得のいく落としどころです。

☆幼き日の杏奈の人形
幼き日に、親戚同士押し付けられていた杏奈が手に持っていた金髪の人形。これは単なるミスリードだったのではないかと思います。ファンタジー路線で進めるのならばマーニーは人形が意思を持ったイマジナリーフレンドになります。私は視聴中ずっとそのオチを疑っていたのでまんまと引っかかったわけです。

☆マーニーとの別れ
高熱を出して苦しむ杏奈は、作中でも珍しく明確に夢の中という描写で「何故自分を置いてサイロから出たのか」と糾弾します。
そんなつもりじゃあなかった、だってあの場に本当は貴方はいなかったと返答すマーニー。あなたとはさよならをしなくてはならない、だから許すと言って欲しいと許しを乞うマーニーを赦す杏奈。そして、貴方の事をずっと忘れない、私も貴方のことが大好きと、涙ながらに強く言い放ちます。
しかし夢から覚め、見舞いの品を持って訪ねてきた彩香に、「マーニーの事をよく覚えていない」と話す杏奈。これはまた解釈の分かれる所ですね。個人的には、サイロに置いて行ってしまったことへの謝罪ではなく祖母としての状況への謝罪だったのかなと思います。このシーンだけはマーニーがどこか客観的に見えたり。詳細は後述。

☆マーニーの容姿
そもそもの話として、杏奈が実際に会っていたのは晩年のマーニー。幼い頃の彼女の容姿など、何か写真でもなければ分かる筈がない。なのに、ひさ子さんは杏奈の描いたマーニーを見て、よく似ていると評していました。

☆作品が描いているのは、一人の少女の挫折からの再生
思い出のマーニーが描いているのは徹頭徹尾、再生の話。終盤、マーニーを赦した杏奈は精神的に大きな成長を遂げます。自己をしっかりと認識しつつ肯定できるようになり、自分の不始末を片付けに居候している間にのぶ子に謝罪しに行ったり、自分を引き取ってくれ無償の愛を持って育ててくれるおばさんを自信を持って母と人に紹介したり、杏奈なりに出来る事をしています。

つまりマーニーとの別れでの"赦す"という言葉は、当時幼かった杏奈を孤独にして死んでしまった不甲斐ない祖母マーニーを赦してくれないかという、時を越えたマーニー本人からの謝罪だったのではないかという事。他のシーンのマーニーは全て杏奈がエピソードから深層心理で作り上げたとしてもおかしくない発言、行動をしている気もしますが、そうにせよここだけはおかしいんです。
「貴方は本当はあの場にいなかった」
これは明確に杏奈の意思に背いた、反逆の言葉です。この言葉を告げてしまえば、杏奈は心地良いひさ子さんと和彦の追体験という夢から覚めてしまう。だから、このシーンのマーニーは確実にマーニー本人でなければ成立しない。

総じて、結果論だけを言えば、「杏奈はかつて祖母に聞いたエピソードを元に、現実から逃避するため精神世界で妄想の追体験をし、そこで自己と向き合う事によって自己を肯定できるようになった」という話なのですが、私は前述の通り、全てが全て杏奈の妄想だったわけではないと思っています。夢をみていた時の杏奈には少なくとも行動していた形跡がある事、実際にマーニーと遊んでいたエピソード元であるひさ子さんとマーニーの正しい容姿の認識を共有していた事、更にマーニーのラストシーンでの「貴方はあの場に本当はいなかった」という極めて客観的な発言。
杏奈は、あの屋敷で本当にマーニーの、祖母の幻を見たのかもしれません。それはとてもロマンチックな話だと思いませんか?

{/netabare}


☆蛇足
ちなみにですが、この映画では妄想説、私が前述している本当に会った説の両方を解釈できるように作られていますが、原作の童謡では明確に"タイムスリップ"と描写されているそうです。時空を超えて会話しているので、大岩さんの事を思い出そうとしたりマーニーの事を思い出したりしようとすると、魂の在りかが二つの時間軸の狭間で曖昧になってしまうため忘れてしまったりするとか……夢でもなんでもなく、過去のおばあちゃんに普通に会ってるやんけ!

投稿 : 2018/05/19
閲覧 : 281
サンキュー:

4

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