どらむろ さんの感想・評価
3.8
物語 : 3.5
作画 : 3.5
声優 : 4.0
音楽 : 3.5
キャラ : 4.5
状態:観終わった
トルコ風の架空戦略戦記&成長譚。力作だけど原作ファン的には惜しいです。
中世のトルコや欧州や地中海をモチーフにした漫画原作の架空戦記、全26話。
主人公の国がトルコ風だったり、世界史の文明の衝突を政治や戦略面から描く、異色の力作です。
アルスラーン戦記がイラン風&王道な無双系ヒロイック戦記、対してこちらはトルコ風&異色な戦術戦略重視リアル戦記。
美少年主人公の成長や、若干女性向けな作風あり。
…原作ファンとしてはアニメ化自体が嬉しい反面、大満足とはいかなかったです。
とはいえ2クールもかけてアニメ化してくれたのは僥倖ではあります。
世界史や歴史戦記が好きな層にオススメ。
(…あ!この国は現実のあの国がモデルだな!?)とそれだけでワクワクしちゃうタイプならば。
{netabare}『物語』
主人公のマフムート(読者からの愛称「マフ君」)は美少年にしてトルキエ将国(オスマン・トルコっぽい、アルスラーンだとパルスポジ)のパシャ(将軍)、幼少期に敵国・バルトライン帝国(ヨーロッパ風の大国、アルスラーンだとルシタニア相当)の侵略で悲劇を味わい、その悲劇を繰り返さぬため、再び侵略してきたバルトライン帝国に立ち向かっていく…
見所は希少なトルコ風な世界観。
日本の戦記は欧州か中国か日本戦国が殆ど、稀にペルシャ(イラン)風なアルスラーン戦記あるくらいなので、トルコは珍しい。
トルコは敵役多い気がしますが、本作は主人公陣営。
「パシャ」とか「デイワーン(将軍会議)」とか「ディナール(お金の単位)」などトルコ風な固有名詞多くて戸惑いますが、そこがエキゾチック。
固有名詞よりも、「パシャ」が軍事・行政官僚的な立ち位置、などの認識が中々とっつき難そうです。
マフ君の個人バトルは頼れる相棒の鷹イスカンダル使役する独特の戦法、イスカンダルつよい!
バトル面はイマイチですが、戦い方が変則的なのでまぁ飽きさせず。
序盤は平和主義・理想主義で青臭いマフ君が苦戦していいところ無しな展開多い為、ややスロースターター。
ポイニキア(多分、東ローマ帝国に古代フェニキア要素合わせた国)での攻防戦辺りから面白くなってくるものの、未熟。
一見有能に見えた副市長が危うく、一見無能腐敗政治家に見えた市長が立派など、一筋縄ではいかぬ理念と現実の葛藤が、本作全般のテーマとして見えてくる。
次に訪れたヴェネディック共和国(ヴェネチアっぽい、これは分かり易い)での冷徹な政治的打算の洗礼。
マフ君は葛藤しつつ、成長していく。
…中世の鉄壁都市コンスタンティノープル攻防戦がモデルと思われるなど、中世世界モチーフの架空戦記という時点で、戦記や歴史好きとしては堪らん魅力あります。
(ポイニキアってコンスタンティノープルじゃん!ポエニ戦争っほいネーミング、フェニキア要素かな!?ワクワク♪)
面白いんですが、ポイニキア編もそれ以降も、戦術面の描写が原作より省かれており、戦記としての面白味は微妙なのが本作の泣き所…。
ヒロイック戦記(無双系)ではないので、痛快さが乏しい。
帝国の策士・ルイ大臣(最大の敵。恐るべき戦略家)の謀略により、トルキエ将国の衛星国な四将国で内乱…
銀河英雄伝説でもあった展開。
ここから面白さが加速していく。(ここから長いけれど終始加速しっぱなし)
序盤からいいところ無かったマフ君も本領発揮してようやく戦記らしい合戦で活躍したり、若き将王(スルタン)たちの愛憎劇などドラマも良し。
袂を別けた兄弟の愛憎劇も、ある意味ナイスカップリングであろうか。
「経済面から敵国の動き妨害する」他の戦記では中々見ない政略や駆け引きも面白い。
…最大の注目点は世界観的にオーパーツな火薬兵器(海皇紀の魔道の兵器みたいな)投入で、現実のオスマントルコの得意分野ついに!
なんですが。
原作よりもマフ君が慎重な思想に変更された為か、戦記的な興奮度が期待したよりは薄れていた感。
話は帝国に対抗するために各国と同盟結ぶ政治的な展開に。
ウラド王国(多分、串刺し公で著名な東欧ルーマニアっぽい小国だが強い)やルメリアナの心臓(クオーレ)地方のフローレンス共和国(多分、イタリアの小都市国家フィレンツェ辺り?モチーフ)など、国際色豊かな諸文明の交錯が見所、トルコっぽいトルキエ将国が主導して欧州っぽい覇道帝国に立ち向かう、という架空戦記としてワクワクせずにおれようか!
…ここら辺の話は十分面白かったのですが、傭兵団との模擬戦が大幅に省かれててザンネン。
ついでにヴェネディックVSリゾラーニの海戦が丸々省かれててションボリ…。
腹黒狐・元首(ドージェ)ルチオのカッコイイ見せ場でヴェネツィアもといヴェネディックの強さ見せてくれる展開が…
まあ主人公出ないし騎馬民族の話なので、尺の都合は致し方があるまい。
終盤戦、バルトライン帝国も強く、革新的な戦術思想や技術を見せつけてくれる等、架空戦記ならではの醍醐味十分。
チェロ(天上の都)共和国での籠城戦も見事、院長カルバハルの理念と結末も圧巻だったです。
序盤のポイニキア編との対比で、理想に現実の覚悟が伴った生き様見事。
ラストは苦しくなった帝国に逆襲開始!
…といいところで終了。
キリが良いラスト、原作は続きで更に面白くなるけれど、致し方が無い。
原作改変として、トルコもといトルキエの超兵器・大砲は封印する路線っぽいのが残念。
とはいえ、理想を見失わず厳しい現実的センスも磨き続けたマフ君のこれからの活躍が楽しみでもあり。
…総じて?
オンリーワンな題材と国際色豊かな魅力的な戦記、2クールかけて描かれたのは良かった。
各章のドラマも抜群。
2クールでも尺が足りず、特に面白い戦記部分が省かれがちなのが惜しいです。
序盤地味で飽きがちなのも難。
戦記というジャンルをアニメにする難しさを感じました。
『作画』
概ね原作のイメージ通り。
本作の醍醐味なエキゾチックな風俗描写はまぁまぁ。
合戦は頑張っていたものの、まぁまぁ。
『声優』
美少年マフ君の村瀬歩さんはイメージ通り。
その他概ねイメージ通り、カリル将軍の緒方賢一さんの温かみと凄味兼ね備えた好演お見事。
カテリーナの能登麻美子さんは密かに脳内イメージ通り♪
ルイ大臣の津田健次郎さんの黒幕感も。
ウラド王ドラキュラもといジグモンド3世まさかの速水奨さん!
(密かな脳内イメージでは速水さんはルイ大臣かと…)
『音楽』
OPはマフ君のテーマとして、まあ無難な印象。
悪くは無いテーマ曲だけど、印象には残らず。
もう少し、BGMなどで世界観出してほしかったです。
『キャラ』
若干17歳の美少年にして将軍(パシャ)な天才児・マフムート通称マフ君。
カタルシスのある活躍するまでがスロースターターで悩み多き主人公なので、好みが割れそう。
理想と実力が釣り合っていないのが目につく序盤はともかく、次第に本領発揮し出せば無双するヒーローではある。
…女装させられたり、お姉さま(国家元首)に弄ばれたりの萌えポイントが人気の秘訣(原作ファン的に)
仲間や上司が頼れたり人間的に魅力あり。
四将国編では将太子(プレンス)オルハンの泣き虫っぷりが萌えポイント、人気ヒロインの洋梨の将姫アイシェの苛烈な気高さがステキ。
踊り子ファラなど女性陣も華あり。
各章に魅力のあるキャラ非常に豊富、意外なキャラが信念見せてくれる展開多いのも良し。
帝国軍のピノー大将以上に、若き知将フレンツェンが有能、他作品なら主人公だったろうに。{/netabare}