「リズと青い鳥(アニメ映画)」

総合得点
85.7
感想・評価
555
棚に入れた
2307
ランキング
222
★★★★★ 4.1 (555)
物語
4.0
作画
4.3
声優
4.0
音楽
4.2
キャラ
4.0

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ネタバレ

USB_DAC さんの感想・評価

★★★★★ 4.7
物語 : 4.5 作画 : 5.0 声優 : 4.5 音楽 : 5.0 キャラ : 4.5 状態:観終わった

because of love.

★物語
・原作 : 武田 綾乃 ・監督 : 山田 尚子
・脚本 : 吉田 玲子  ・演出 : 石原 立也(他4名)

TVシリーズ「響け!ユーフォニアム2」の続編にあたる原作『波乱の
第二楽章』の前後編を基に制作されたスピンオフ的劇場映画。進級後の
新たなコンクール自由曲に決まった「リズと青い鳥」。その第三楽章で
ある『愛ゆえの決断』のメインパート鎧塚みぞれと傘木希美の二人に焦
点を絞り、美しい童話(オリジナル)の世界と重ねながら、互いの揺れ
る想いや葛藤、そして依存への決別と新たなる旅立ちを描く。

非言語表現に伴う情報量の多さに一瞬戸惑うものの、物語との結び付き
は比較的理解し易く、それ故にひと時も疎かに出来ないほど画面を注視
する必要があり、何気に緊張を強いられる作品。一新したスタッフ編成
を見ても分かる通り、本編とは一線を画した、よりリアルさを追求した
写実的な作風に仕上げられています。


★作画
・作画監督 : 西屋 太志(他8名)
・美術監督 : 篠原 睦雄
・色彩設計 : 石田 奈央美

物語同様この作品は新たな京アニクオリティとスタイルを目指したもの。
単なるリアルな作画というのとはまた違い、効果として描き込む静物や、
誰も居ない空間にまで表現力を生み出すリアリティ。まるで実写映画の
映像を通して伝わってくる様な時間の流れ、生きた空間と言うべきモノ
をこの作品からは感じられます。またキャラデザもシリーズとは違った
リアル志向に振ったデザインで、より作風に見合うものとなっています。


★声優
・鎧塚 みぞれ : 種崎 敦美  ・リズと少女 : 本田 望結
・傘木 希美 : 東山 奈央  ・剣崎 梨々花 : 杉浦 しおり

童話のCVに本田望結さんの起用は上手い下手は別として、メリハリと
いう点に於いては正解だと思います。極普通の少女が童話を読みながら、
双方の役に成り切り演じているという印象です。

また今回新たなキャストとして登場した剣崎梨々花役の杉浦しおりさん。
なかなか味のある印象的な演技をされていました。個人的に今後も注目
していきたい声優さんの一人です。


★音楽
・主題歌 :「Songbirds」 / Homecomings
・ECS :「girls, dance, staircase」/ 牛尾 憲輔(歌:小野 豊)
・音楽 : 牛尾 憲輔、松田 彬人(劇伴協力:洗足学園音楽大学)

演奏シーンとしては、二人がメインパートとなる第三楽章「愛ゆえの決
断」のみ。しかし実際は全楽章で20分(コンクール用は編曲)を優に
超える壮大な世界観を持つ合奏曲。ハープやコントラファゴットなど大
型楽器を用いた編成はかなり本格的で、聴き応えはなかなかのものです。

そして一際耳を惹く「girls, dance, staircase」。
ボーイソプラノの神秘的且つ無垢な歌声と儚さ漂うその歌詞は、とても
印象的な一曲でした。


★キャラ
・キャラクターデザイン : 西屋 太志

シリーズで好評だった所謂アニメ的美少女要素を極力抑え、それでいて
しっかりと個々の特徴を携えたキャラ達。台詞もトーンをやや抑え気味
にして作風に合せた穏やかな雰囲気となっています。また女性らしさを
感じる仕草や癖がふんだんに描かれ、シリーズには無い魅力を持つ作品。
繊細な表情から伝わってくる巧みな心情表現は実に見事です。



[感想]

ゆっくり歩きながらふと立ち止まり、後を振り返っては校門を見つめる。
そして校舎に繋がる階段にゆっくりと腰を下ろし、両足を延ばしながら
溜め息をつくみぞれ。

いきなり冒頭から求められる集中力にやや緊張が走る。

響く鳩の鳴き声とテンポの違う足音。やがて風がそっと木々の葉を揺ら
し始め、それと同時に彼女の心が騒めき出す。聴き慣れたいつもの足音。
そう、大好きなあの人が近づいて来る。教室までの短い道のりをまるで
小鳥の様に踊り歩く希美。そんな彼女をただ見つめながら、必至に歩幅
を合わせその後を追うみぞれ。

明らかに異なる歩くリズム。それは互いに惹かれながらも擦れ違う二人、
これからの波乱の展開を予感させるもの。台詞がほぼ皆無な中での巧み
な演出と音だけで感じさせるこの心情表現に、徒ならぬ気配を感じます。
また授業中の「互いに素」の語りも、共通点を持たないが故になかなか
噛み合わない二人の関係という意味合いを色濃く示している気がします。

まるでガラス細工の様な脆さと儚さ。そんな二人の関係。人見知りせず、
クラスで孤立するみぞれを何となく部に誘った希美。そんな彼女が突如
開花し奏でる至高の音色につい涙してしまう。そのあまりに残酷で重い、
胸に深々と突き刺さる絶望という名の一矢。凡人が幾ら努力しても絶対
に手にすることは出来ないと言われるたった1%の才能を知ってしまう。
そして「無闇に積み重ねた努力は必ず崩れる」。高みを目指す者の多く
がいつか味わうことになる現実です。しかしその悲しみを乗り越え受け
入れることもまた、自身の成長の為には必要な事なのかも知れません。

そしてラストの「Happy Ice Cream!」

相変わらず演奏以外では全く噛み合わない二人。しかし、みぞれが語る
その台詞は、漸く人との良い意味での競い合いを意識する様になった証
とも受け取れます。完璧では無いにしても、少なくとも以前の依存体質
から無事に抜け出し多少でも自己主張が出来る様になったことは、自身
の才能を開花させたことよりもずっと、彼女の今後の人生に於いて大変
重要な出来事だったはず。そんな気が何となくするのです。

愛ゆえの決断。これからそれぞれの大学生活、そして社会生活を送る上
で、恋であれ何であれ、いつか必ず訪れるだろう至福を感じるその瞬間、
改めて互いの出会いと決別を思い出し、共に送った高校生活に笑みを浮
かべ懐かしむのではないでしょうか。

総勢60数名からなる北宇治吹奏楽部員それぞれにドラマがある。実際
それを描き出したら正直キリがないと思いますが、それに興味を抱ける、
または何となく思い描いてしまうほど充分な説得力を持った作品でした。

本来ならシリーズを観てからの視聴がセオリーでしょうが、逆でもまた
違った楽しみ(本編との比較)が味わえる作品だと個人的には思います。




以上、拙い感想をお読み頂きありがとうございました。

投稿 : 2020/08/03
閲覧 : 253
サンキュー:

26

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