「映像研には手を出すな!(TVアニメ動画)」

総合得点
80.1
感想・評価
584
棚に入れた
2215
ランキング
461
★★★★☆ 3.8 (584)
物語
3.8
作画
3.9
声優
3.8
音楽
3.7
キャラ
3.9

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ネタバレ

101匹足利尊氏 さんの感想・評価

★★★★★ 4.3
物語 : 4.5 作画 : 4.5 声優 : 4.0 音楽 : 4.0 キャラ : 4.5 状態:観終わった

コンクリートジャングルで育まれた冒険者

アニメ制作のため部活を立ち上げ奮闘する
女子高生3人の青春を描いた同名コミック(未読)のアニメ化作品。

【物語 4.5点】
生産性の論理だけでは制御できない、
クリエイティブな作業をスケジュール管理する難しさ、
コミュニケーション不全が招いた危機、
といったアニメを形にする際の苦労を描くだけでなく、

制作環境や発表会場、協力者、資金の確保。
といったプロデュース業に当たる部分にまで踏み込むことで、
無からリアルに「最強の世界」を生み出す驚異を表現。


{netabare}“金策”を教育的でない金儲けと断じる
学校上層部に反発する“プロデューサー”金森氏に共感しました。

子供の頃に、汚い金儲けとやらを体得しないことで、
大人になってから資産運用等が上手くいかず、
買わなくて良い苦労をしている日本人の何と多いことか。

第9話にて金森氏のカネへの執着の原点が語られますが、
あのシーンこそ義務教育で流すべき教材だと私は思います。{/netabare}


【作画 4.5点】
背景は写実より、空想世界への移行を重視した、組み替えしやすいデザイン。

ふと始まる空想により、組み上がる「最強の世界」の構想は、
絵コンテがそのまま動いているような一見簡素な映像だが、
ワクワク感を醸す演出が秀逸で、作品完成への期待が高まる。


原作の大童 澄瞳氏は、面白い動作を再現した動画こそ作画の本質との考えをお持ちで、
SNSでも、動画成立に必要な一部の描画の崩れまで“作画崩壊”と騒ぎ立てる風潮に、
釘を刺す投稿などもされる方。

本作の作中アニメ制作過程でも、限られたソースの中で、
工夫した演出、カットを是とする思想が滲む。

資金と人員を掛けた豪華な作画のみを称賛する、
評価基準を矯正される圧力を感じますw
(単に、私がソースが乏しい昔のアニメの工夫を
高評価する言質を得たと、はしゃいでいるだけという説もありw)


【キャラ 4.5点】
監督・浅草氏、作画・水崎氏が細部にこだわり招く工程遅延を、
プロデューサー・金森氏が外部交渉含めてフォローし(尻を蹴り)
プロジェクトを完遂させる構図。

浅草氏のべらんめぇ調、金森氏の論破調、
互いに“氏”を付けて呼び合う三人独特の掛け合いがリズムを生み出す。


ロボット研究部との議論も印象的。
巨大人型ロボットの現出という非リアリティの極みを空想しながら、
“リアリティ”も加味したディティールにこだわり論争をこじらせる。
自己矛盾に満ちたロボットファンの性に共感しつつ、ツボにハマりましたw


【声優 4.0点】
浅草氏役・伊藤 沙莉さん
声優にも関心があった女優。独特の声質を買われノーオーディションで抜擢。

金森氏役・田村 睦心さん
ハスキーな声を操る円熟の女性声優。オーディション選出。

水崎氏役・松岡 美里さん
本作が初出演・初メインの超新人。勢いを買われオーディション選出。


以上の多様なキャリアと配役経緯。
だが、声は各キャラにマッチしており、
特に浅草氏と金森氏は、このキャスト以外で見るのが怖くなるハマりよう。

伊藤さんは浅草氏が空想世界に“効果音”を吹き込む演技もフォロー。

俳優・タレントの類をお客様、広告塔感覚であてがって品質低下を招くのか、
れっきとしたキャストとしてムードに乗せて、作品向上に貢献させるのか。
結局、現場の熱意次第なんだなと再認識させられました。


【音楽 4.0点】
劇伴担当はオオルタイチ氏。特に浅草氏の空想解説時に流れるBGM。
ギターとパイプ中心の無国籍感溢れるアレンジで、自由自在な世界創造をアシスト♪

OPはchelmico「Easy Breezy」、EDは神様、僕は気づいてしまった「名前のない青」
上記の自由度はOPのラップでも存分に解放。
ヘンテコな動き等によりアニメーションへの興味を喚起するOP映像も〇。


【感想】
この業界、面白かったのは、あの頃まで。
この種の主張はどこのエンタメ界隈でもあるもの。

挙げ句、かつて自然に囲まれ、外で友達と遊んで育ち、
業界を確立した、昭和の偉人たちには、
ひとり部屋にこもって完成品を楽しむ現代っ子は到底及ばない。
題材も掘り尽くされ、あとは劣化コピーが量産されるのみ……。
などと嘆く輩まで現われる始末……。


本作の浅草氏は確かに草むらの虫から発想を得たりもするが、
幼少の頃は、部屋で「残され島のコナン」を見て
アニメに目覚めたボッチな団地住民。
けれど、映像研が生み出した「最強の世界」には
劣化コピーと一笑に付せない勢いがありました。

作中、水崎氏が祖母との交流の中で、
インスピレーションを得た茶や介助の動作を
アニメーション制作にフィードバックする件も好きです。


感性を研ぎ澄ませば、どんな時代、場所からでも、「最強の世界」は爆誕し得る。


平成生まれの原作者の漫画を、昭和生まれのスタッフがアニメ化した本作を、
令和時代のNHKで目撃した子供たちが、いずれ新たな世界を創造するのか。
そんな希望も抱かされた、刺激的な一作でした。

投稿 : 2020/08/27
閲覧 : 723
サンキュー:

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