「僕の心のヤバイやつ(TVアニメ動画)」

総合得点
79.0
感想・評価
329
棚に入れた
1099
ランキング
517
★★★★☆ 4.0 (329)
物語
4.0
作画
3.9
声優
4.0
音楽
3.8
キャラ
4.1

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ネタバレ

フリ-クス さんの感想・評価

★★★★★ 4.2
物語 : 4.5 作画 : 3.5 声優 : 4.0 音楽 : 4.5 キャラ : 4.5 状態:観終わった

灰かぶりの男子たち。

唐突な書き出しで申し訳ないのですが、
僕は『シンデレラ』というお話の、
解釈の変遷みたいなものがけっこう好きであります。

はじめの頃の『シンデレラ』は、ラッキーガールの物語。

継母や義姉からのいじめをけなげに耐え、
お先まっくら生活に身をやつしていたシンデレラさんが、
小動物や魔法使いのお世話で舞踏会に行き、
『たまたま』落とした靴を王子さまにに拾われてハッピ-エンド。
まさに『他人まかせ運まかせ』の下剋上ストーリーですね。

これってもちろん、
女性にガマンと従順性が求められていた時代性が背景にあります。
「おとなしくガマンしてりゃ、いつかイイコトあるよ」
みたいな、本質的には何のなぐさめにも解決にもなっていない夢物語。
とはいえ、男性中心社会で女性たちは、
さしたる抵抗もできす王子サマの来訪を夢見るしかなかったのです。

で、そういうのおかしくね? というのが最近の読解傾向。

ジブンの道は自分で切り開く。
きびしい状況にあってもひねくれずジブンをしっかりもち、
静かに、だけど虎視眈々とチャンスをうかがう。
で、チャンス到来と見るや、
ジブンの知力だの美貌だの友だちだの使えるものは何でも使い、
継母や義姉をだしぬいて幸せを自力でつかみとる、
というのがネオ・シンデレラ像。

  従順で素直そうな笑顔を浮かべながらも
  心の中ではファイティングポーズをけっして崩さない、
  バリバリの肉食系、美しきケモノ。

                 かっけえ。


で、最近の日本アニメを俯瞰して見てみるとですね……、
ヒロイン像は『ネオ・シンデレラ的造形』が主流なのかなと感じます。
オトコに媚びて引っ張ってもらうタイプというのは、
ヒロインの引き立てモブか、
あるいは悪役的なポジションになることが多いですよね。

それで男子のほうはどうなのよということを申し上げますと、
もちろん作品にもよるわけですが、
旧式シンデレラ(ボーイ)タイプが主流じゃないかと愚考するわけです。

  シンデレラよりもいささかタチの悪い、
  なんの努力もせず自己肯定にばっか必死になってる男の子が、
  なぜか学年イチの美少女に見初められてなんだかんだ。

  やさしそうな言葉をちょいちょい口にするだけで、
  いつの間にか友だちもいっぱい寄ってきて、
  なんにもしないまま人生勝ち組ハッピーシュガーライフ。

  まあ、ユメを見るのは個人の自由ですが、
   あのねおまえね、
  とオジサン的にセッキョ-したくなる側面がなきにしもあらずです。


本作『僕の心のヤバイやつ』も、基礎フレームはそれに似ています。
中二妄想大満開のぼっち男子に、
ややポンコツだけどクラス一美人の女の子が『次第に』グイグイくるラブコメディ。

だけど、ちょっと違う。見ていて妙に面白いんですよね。

たいしたストーリーが隠されているわけでもなく、
ポンコツ下ネタてんこもり。
おまけにけっこうなご都合テンカイもあるんですが、
そういうのがほとんど鼻につかず、
わかるわかる的に見られるところがすっごく多いんです。

  ストーリーはシンプルそのもの。
  クラスになじめずおひとりさまで中二妄想満開の男の子(京太郎)が、
  ひょんなことから
  クラス一の美少女(杏奈=中身ポンコツ)と
  毎日、お昼休みを図書室で一緒に過ごすようになります。

  で、最初はフラットに接してるだけだった安奈が、
  徐々に京太郎のいいところを発見して気に入りはじめます。
  で、そのうち、とまどう京太郎を尻目に、
  マンガ貸したり家まで給食のデザート届けに来たり、
  けっこうグイグイくるようになる、みたいなおハナシであります。


で、なんでこのお話が妙に面白いかというと、
そもそも内容が『ラッキーラブコメ』なんかじゃないわけです。
ちょっと露骨な言い方をすると、
  『狩るもの』と『狩られるもの』、
  つまり、ライオンさんとうさぎさんの、ほのぼのラブストーリー
という構図になっているからなんですね。

もちろんライオンさんが安奈で、うさぎさんが京太郎くんです。

  京太郎くん、自分でジブンを闇落ちしたケダモノっぽく思ってますが、
  実体はなんにもできない草食系。
  人さまを攻撃どころか、ジブンの意見すらはっきり言えません。  

  いろんなコンプレックスがアタマの中で交錯していて、
  常に『どうせ僕なんか』モードに入っているため、
  ほとんどブレーキ踏みっぱなし。
  なんかあったとき自分のことより『相手が困らないか』を先に考える、
  心やさしきうさぎさんなんです。

  かたや安奈の方は、モデルで巨乳で高身長で美少女。
  外観的なポジションはまさしく『百獣の王』なのでありますが、
  中身はポンコツで、ただのデカい女の子。
  ご本人もヒエラルキーなんかまったく意識せず、
  食べたいものを食べ、しゃべりたい相手としゃべります。

  で、京太郎とフツーに話してるうちに何となく興味がわき、
  前足でちょんちょんとつついていたら、
  リアクションが面白いしやさしいしでさらなるお気に入りへ。
  グイグイいったら迷惑かな~とは考えず、
  お気に入りに素直にじゃれつく、まさしくライオン(ネコ科)さん。

ただまあ、どっちも『いい子』であることは変わりないわけです。
ですから見ていて嫌味も不自然さもありません。
表面上は、
おどおどしてる弱者(うさぎさん)にじゃれつく強者(ライオンさん)。
だけど中身はどっちもピュアで、しかも好きどうし。
ある意味で寓話的な、ほのぼの系ラブストーリーなんですよね。


まあ、それでもありがちな話っちゃありがちな話なんですが、
このお話のスグれているところは、
  安奈が京太郎くんを『お気に入り』にいれていくプロセス
が、きっちりしっかり、しかも楽しく描かれているところかな、と。
(このあたり、さすが女性マンガ家の原作だなあと)

  世の男子どもの多くが誤解してることなんですが、
  女の子みんながみんな、
  イケメンで高身長のスポーツマン好きということはアリマセン。

  だからと言って、安直な男性視点マンガみたく、
    たまたまこういうタイプの男が好きなオンナだったんだよっ!
  と強引に突破するのは、あまりにもランボー。

  この点、安奈はほんと等身大。
  好きもきらいもなくただ一緒にいるうちに、
  いろんな京太郎くんを発見し、
  ゆっくりじっくり一歩ずつ、彼を見る目が変わっていきます。

  イケメンじゃないけどビミョーなおかしみがあり、
  肩ひじはらず素のジブンで接しられて、
  どうやらこっちのことを好きっぽく(似顔絵くれたりとか)、
  しかも『見返りを求めず』自分に一所懸命やさしくしてくれる。

  いつ寝首をかかれるかわからないイケメンに主導権をとられるよりも、
  そういうけなげで安心できる男の子をそばに置き、
  主導権を握りながら一緒に楽しく過ごしたいというのは立派なニーズ。

  これ『からかい上手の高木さん』にも通じますよね。

  ある意味『彼氏のポチ化』と言えなくもないけれど、
  しょっちゅう発情しているハァハァ男子に辟易している女子にとっては、
  むしろこっちの方が『現実的な選択』だったりもするわけです。



僕的なおすすめ度は、特に対象を選ばないAランク。
ラブコメ好きの方はもちろん、
  あ~なんか最近のラブコメってウザいんだよなあ、
なんて思っておられる方にも、
モノは試しで最初の三話ぐらい、見ていただけたらなと思います。

  実を言うとワタクシも、
  最初はAパ-トどころかアバンで脱落したんですよね。
  キャラデが好みじゃないし中二くさいし世界観わかんないし。

  ところが、あにこれで女性からの評価がすごい高かったんです。

  女性の評価が高いラブコメは良作が多いので、
  半信半疑で再視聴してみたところ。
  妙に面白くて、結果どハマりしちゃったという次第であります。


作画は、そもそも基礎造形があまり好きじゃないんですが、
これは原作モノなので仕方なし。
いやほんと、最初ガチで抵抗あったんですが、
見ているうちにまったく気にならなくなってきました。

  あの『高木さん』シリーズのシンエイ動画+赤城監督コンビなので、
  じわっとくるタメだの素朴な演出だの、
  おさえるべきところをきっちりおさえた優良設計。

  シリーズ構成と脚本を花田十輝さんに依頼したのも大正解。
  過美・過剰な表現がひとつもなく、
  そのくせキャラの心情がひたひた伝わってくる脚本、きゅんです。


キャラ・役者さんはナニゲに豪華キャストなんですが、
みなさんリアル寄せで黒子に徹しており、
(それゆえ物語全体に妙なリアリティ出てるんですが)
目立つ部分とか『惹き』は、
杏奈を演じた羊宮妃那さんが総どりしちゃったみたいな感じかと。
{netabare}
拙個人としては、
席替えでリフジンなやきもちを焼くシ-ンがお気に入り。
ちゃんとつきあってるワケでもないのに、それ口に出すんだ? みたいな。
だけど、いじけ方と言い方がカワイイので、よし。
良くも悪くも、すっごくおトクなキャラになっております。
{/netabare}
  羊宮さんは『着せ恋』から個人的に注目していて、
  今年の四月には、
  青二のジュニアから準所属へと昇格を果たした期待の若手役者さん。

  順調に育てば上田麗奈さんみたく育つ可能性、大ありの方です。

  ただ……心配なのは、リアルもけっこう『カワイイ』んですよね。
  こういう方って、まだ新人でギャラが安いこともあって、
  ラジオだのアイドル活動だの顔出し仕事だのに引っ張り回されて、
  ツブされることがけっこう多いんです。
  ファンの方々が応援してる『つもり』で、よってたかってツブしちゃう。

  まあ、青二さんだから、そのへん大丈夫だとは思うんですが……。

  シンエイ繋がりで『高木さん』の高橋李依さんみたく、
  踊らされてるフリをして『稼ぎ場』と『本業』をしっかり区別できる、
  したたかな役者さんに育って欲しいものであります。


音楽は、ヨルシカさんのOP『斜陽』が出色のでき。
EDも悪くないし、
牛尾憲輔さんによる劇伴も、作品にうまく溶け込んでいます。

  どれもこれも派手さのあるキャッチーな曲じゃないけれど、
  作品の世界観にぴったりハマり込み、
  静かにイメ-ジを増幅させる働きかけがあって、実によき。

  こういう、
  自己主張を控えめにして世界観を大切にしている音作りって、
  僕的にはすごく好感抱けます。


青春群像劇、みたいな側面はまるでなく、
ほんとに単純な思春期どきどきラブコメディ。
人生とは、青春とは、みたいなムズカシイことは一切訴えておらず、
バカだね~と笑って見ていて、
見終わった後、ほっこりしている自分に気づくような作品です。

ムリしてまで見るような作品なのかと言えば、
決してそんなことナイのですが、
けっこう楽しい時間つぶしにはなると思います。

    御用とお急ぎでない方は、一度おためしあれ。


***************************************************************

ちなみに、
こういう『女子に見初められること』をユメみる灰かぶり男子って、
けっこう少なくないんじゃないかと思います。
ぶっちゃけ思春期の男子って、
自分ラブコメみたいなイタい妄想しているケース多いですしね。

まあ、それはそれでよし。
内面的クロ歴史というのは、誰にでも(もちろん僕にも)あるんです。
ほんと、通過儀礼みたいなものなんです、思春期バンザイ。

ただまあ、それを『選ぶか、選ばないか』は女子がきめること。
その点本作は、
原作者が女性だけに、線引きが『甘くはない』んですよね。

  ほわほわしているようで、
  実はちゃんと相手のことを『見切って』います。
  見てくれだの身長だのに惑わされず(不潔なのはたぶんダメですが)
  一線のこっちかあっちか、しっかりと。
  その境界線が、われら愚鈍男子にはわかりづらいだけでありまして。

そこんところが本作に対する評価の分水嶺なのかな、と拙は愚考しています。

  A:ありえね~、なんでこんなヤツが、ただの妄想じゃん。
  B:うんうん、わかるわかる、思春期ってこうだよね。

ABどっちが正解かなんて、もちろん答えなんかありません。
ありませんが、ポチ化を所望する男子たちは、
京太郎くんから学べること、けっこうあるように思うんですよね。
(あ、いえ、上から目線なんてそんな……ごめんなさい)

僕は、ひゃあひゃあ言いながら女の子追っかけてた側なので、
エラそうなこと言える立場じゃありません。

ほんとそういう立場じゃぜんぜんナイんですが、
いまさらにして思いますに、
あの頃、もう少し京太郎くんみたく、
  ジブンのことより相手のことを先に考えることができる
男の子であったなら、
けっこう違った青春になっていたんだろうな、と。

    ま、そういうのを『後の祭り』と言うんですけどね。

投稿 : 2023/06/24
閲覧 : 318
サンキュー:

28

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