「今、そこにいる僕(TVアニメ動画)」

総合得点
68.7
感想・評価
283
棚に入れた
1451
ランキング
1952
★★★★☆ 3.6 (283)
物語
3.8
作画
3.4
声優
3.6
音楽
3.6
キャラ
3.5

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ネタバレ

蓬(Yomogi) さんの感想・評価

★★★★☆ 3.5
物語 : 4.0 作画 : 3.5 声優 : 3.0 音楽 : 3.5 キャラ : 3.5 状態:観終わった

タイトルなし

ギャグアニメでおなじみの大地丙太郎監督のシリアス異色作。

まっすぐな性格の少年シュウが謎の少女ララ。ルゥと出会い、荒涼とした異世界に飛ばされ戦争に投げ込まれるファンタジー作品。

子供アニメ向らしい線が少なく丸みを帯びたキャラデザインで作画そのものは非常に良かった。
動きもアクティブに、丁寧に動かしていたと思うし、作画陣も有名どころが手がけている。
背景も落ち着いた安定感のあるもので言う事がない。
音楽については要所要所に流れるテーマ曲が本当に美しく、作品に深みを与えていたと思う。
演出も大変良い。

戦争に巻き込まれて生きる人々の心情に踏み込んで描いた点が、この作品の評価の高い所以だろう。
可愛らしいキャラクタデザインや第一話の冒険活劇を彷彿させる導入を見事に裏切る展開にびっくりした事は確かだ。

見終わったあとに憂鬱になるアニメ5本の指に入れてもいい。
それくらい重かった。
見て良かったと思う。
思うがしかし、言いたい事もある。

まず第一に、リアリティの軸が最後まで定まらなかった事が不満。
アニメを見る時、その作品がどのくらいリアルさで描かれているのか無意識に判断するのが普通だ。
たいていはキャラクタデザインがデフォルメならファンタジー、写実的ならリアル系と判断すると思う。

この作品はデフォルメデザインであるし、第1話で主人公シュウがロボット相手に大立ち回りを演じる。
高さ20mくらいのところから飛び降りても脚は骨折しない。
しかしシュウと同じく異世界に連れてこられたアメリカ人の準ヒロイン・サラが登場すると話のリアリティが迷走する。

アメリカ人と日本人なのに言葉が通じる事については、低リアリティで見ていたのでなんら疑問はない。
しかし、その後サラのレイプ、妊娠、堕胎未遂とつづくと
「一体これはどのくらいリアリティを感じればいい物語なのだろうか?」
と混乱してしまった。

またシュウの主人公としての感情移入のしにくさがあげられる。
ララ・ルゥのペンダントの在処を自白させられるために拷問にかけられるのだが、そのあと彼は拷問によるPTSDの症状を全く見せないのである。
サラは2度と癒えない傷を負ったのに対し、シュウは拷問前と同じく「生きていればいい事がある」との主張を繰り返すだけでケロッとしているのだ。

その後シュウは兵士として略奪行為をさせられる隊に編入されるのだけれど、このときも正論を振りかざすだけ。
終始シュウの存在だけがファンタスティック。
周りの人間が容赦なく死ぬ作品世界の中、主人公だけが違うリアル軸の上にいるようだ。

視聴者の媒介として、また作品世界のマレビトとして、こうした主人公の位置づけしたのはわかる。
しかし、傍観者から一歩もでない主人公に「生きていればいい事がある」というメインテーマを力説されても説得力がない。
人を説得しようとするならばまず本人の実績が伴わなければならない。
もしシュウにテーマを語らせようとするならば、期待→挫折→葛藤→再起の過程を経ないと視聴者は彼の言葉に共感はしない。
その過程を見せるのが物語の力なのでは?

大地監督は「その世界に放り投げられた主人公が感じたものを描きたかった」と語っていたらしい。
それは確かに描けていたと思う。
しかしそれではただの傍観者の観察日記だ。
だからシュウは主人公格として失敗したのだと思う。
ついでにいえばララ・ルゥをメインヒロインとしているのはいただけない。
彼女の役割は少女型でなくても(例えば動物型やペンダントそのものでも)十分だと思う。

最後に誰を想定した作品なのか分からなかった点があげられる。
やっぱり、ここまで重たい話を作るならそれなりの形をしていないと、子供が間違って見てしまうのではないか?
子供にもリアリティある物語を!と標榜して作られたアニメもあるけど、これはそうじゃない。
作り手の真剣さが伝わってくる感じだけれど、それは青少年や大人を相手にするレベルだと思う。

実際、同じようなテーマ、モチーフを扱いつつも子供が理解できるよう作られた優れた児童文学はかなり多い。
それらの秀作にくらべるとこの作品の文法は乱暴過ぎ。
また大人向けに作られたにしては、子供向き要素の残像(異世界の少女と謎のペンダントとか)が見え隠れしていて据わりが悪い。

やはりきちんと話をまとめようと作ったのではなく、感情的に突っ走った感がある。
広げた風呂敷の畳み方も拍子抜けするほどあっけない。
いろいろ不満点はあげられるのだが、見た人誰もが語りたくなる作品、という意味では本懐を遂げたのではないだろうか。
見た人に語られない作品ほど虚しいものはないのだから。

うーん。
個別のエピソードでも語れることがまだまだあるなあ……。

投稿 : 2014/04/13
閲覧 : 265
サンキュー:

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