昭和で嫉妬なおすすめアニメランキング 3

あにこれの全ユーザーがおすすめアニメの昭和で嫉妬な成分を投票してランキングにしました!
ランキングはあにこれのすごいAIが自動で毎日更新!はたして2024年05月07日の時点で一番の昭和で嫉妬なおすすめアニメは何なのでしょうか?
早速見ていきましょう!

81.2 1 昭和で嫉妬なアニメランキング1位
昭和元禄落語心中(TVアニメ動画)

2016年冬アニメ
★★★★☆ 4.0 (900)
4137人が棚に入れました
昭和の落語界を舞台にした噺家の愛おしき素顔と業を描いた作品

師匠と交わした約束を 胸にしまって芸を磨き ついに与太郎、真打に。 射止めた名跡は三代目助六。 八雲師匠の為め、助六の血を継ぐ小夏の為め、 焦がれて手にしたはずなのに、 おのれの落語が揺るぎだす――。 八雲と小夏、二人の中の助六を変える為めの 与太郎の落語とは――!?

声優・キャラクター
関智一、石田彰、山寺宏一、小林ゆう、林原めぐみ、家中宏、牛山茂、山口勝平、加瀬康之、須藤翔、茶風林、遊佐浩二、林家しん平
ネタバレ

ピピン林檎 さんの感想・評価

★★★★★ 4.6

芸道修行と愛憎トライアングル - BLコミック出身作家、畏(おそ)るべし -

「落語」「人情噺」「ホモ/BL(※因みにこれは誤情報です)」といったタグがついている本作を視聴する予定は、元々全くなかったのですが、2016年放送・上映アニメの個人的BEST10を作ろうとして、同年の本サイト作品ランキングを確認したところ、本作が第14位(2017/1/31時点)に入っており、かつ、総合 4.0 (物語も 4.0)という高い評価を取っていたので、これを見ないでBEST10を作るのは拙(まず)いだろう・・・と考え直して、さらっと流すつもりで視聴を始めました。

そうしたら、これが第1話(※実質2話分のスペシャル回)から退屈する暇なしの面白さで、ラスト手前(第12話)の山場+謎の回収もピッタリ決まり、最終第13話は投げっぱなしだった第1話ラストに確り話を繋げて、かつ今後の新展開をも期待させる上手い締めくくり方で、見終わった直後から「これはもう一回、最初から確り見直さなければ・・・」という思いに駆られて、そのまま2周目に突入してしまいました。

そうやって、

(1) 1周目は、全体シナリオの整合性が確り保たれている作品なのか?にとくに留意して完走し(=シナリオ・チェック型視聴)、
(2) 2周目は、今度はシナリオは頭に入っているので、それを踏まえて個々の登場キャラクターが、各々のシーンでどのような心の動きをしているのか?そして、そうした心情が果たして映像として過不足なく描き出されている作品なのか?を見極めることに留意して完走し(=感情描写チェック型視聴)、
(3) さらに念を入れての3周目は、OP/EDや、作品中に登場する小ネタ(落語の演目内容や登場キャラクターたちがふと口にする言葉など)に、何か隠された/見落としている含意がないか?等を慎重に見極めつつ、もう一度、シナリオ&感情描写の両方を総合的に確認していく気持ちで完走して(=総まとめ的視聴)、

・・・結局、見始める前は考えもしなかった3周完走となってしまいました。
こうした3周コンプは、2016年放送のTVアニメでは、『Re:ゼロから始める異世界生活』(※個人評価 ★★ 4.6)、『響け!ユーフォニアム2』(※個人評価 ★★ 4.8)に続いて3作品目で、本作に関しては、

①全体シナリオの整合性が確り取れており、
②個々の登場キャラクターの感情描写も的確で、
③なおかつ、OP/EDや個々の会話に秘められた謎解き・含意も楽しめる、

・・・三拍子揃った《優秀作》と認定して、個人評価を『Re:ゼロ』と同点の ★★ 4.6 とすることにしました。


◆作品内容

本作の原作者(雲田はるこ氏)はBLコミック作家として商業デビューした方とのことですが、本作自体は、決して《ホモ/BL作品》ではありません。

本作の内容を強(し)いて挙げるなら、
{netabare}
①同日に落語名人の師匠に弟子入りし、兄弟分として育った落語家の青年同士の、厳しい《芸道修行》と、
②師匠の妾(めかけ)として彼らに出会った年上女性と彼らとの間に生じる《恋情と執着》の進行過程、
③そして迎える《悲劇的な結末》、を描き切った《濃密トライアングル愛憎劇》
{/netabare}
・・・といったところでしょう。


◆制作スタッフ
{netabare}
原作コミック     雲田はるこ
監督         畠山守
シリーズ構成     熊谷純
キャラクターデザイン 細居美恵子
音楽         澁江夏奈
アニメーション制作  スタジオディーン{/netabare}


◆各作品タイトル&評価

★が多いほど個人的に高評価した回(最高で星3つ)
☆は並みの出来と感じた回
×は脚本に余り納得できなかった疑問回

============ 昭和元禄落語心中 (2016年1-3月) ============

- - - - - - 与太郎放浪篇 (昭和50年代) - - - - - -
{netabare}
第1話 ★★ 強次の出所、弟子入り、寄席(出来心、初天神)、失態、八雲師匠の長話 ※約48分(2話分){/netabare}

- - - - 八雲と助六篇 (昭和初期~30年代) - - - -
{netabare}
第2話 ★★ 坊(ぼん)と信さんの弟子入り、初高座(菊比古、初太郎)、二人の実力差
第3話 ☆ お千代との逢瀬、満州皇軍慰問と疎開、終戦、寄席の復活、師匠・信さん帰国、二つ目昇格、みよ吉登場 
第4話 ★ 信さん助六に改名、菊と助六の共同生活、菊とみよ吉の馴れ初め(踊り・小唄の稽古)
第5話 ★★ 助六・菊それぞれの嫉妬、菊とみよ吉の逢瀬、美鈴座(鹿芝居、女形(弁天小僧))
第6話 ★★ 何のための落語、菊の開眼(艶笑噺(えんしょうばなし)・廓噺(くるわばなし)・・・品川心中)
第7話 ★ 助六人気と増長・反感、師匠の巡業同行要請、菊・みよ吉の心のすれ違い
第8話 ★★ 上方巡業、鬼灯(ほおずき)市の宵(助六の懸想、菊・みよ吉破局)、落語の将来、先代助六、名跡の重み
第9話 ★★ 真打昇進披露、別れ話と恨み、助六破門、傷心同士の同棲・転落、助六の本心吐露
第10話 ★★ 入門志願(樋口少年)、師匠の過去話(初代助六との因縁)・葬儀、祖谷(いや)温泉(小夏との出遭い)
第11話 ★★ 助六との再会、芸の肥やし、助六の借金返済、子夏の髪切り・野ざらし
第12話 ★ 有楽亭二人会、助六の人情もの(芝浜)、みよ吉との再会、違え心中 ※脚本は良いが演出が残念×
第13話 ★ 小夏引き取り、八雲襲名・落語心中の断、因果、与太郎の真打昇進内定、三代目助六 ※後半は昭和末期~平成初期{/netabare}
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★★★(神回)0、★★(優秀回)8、★(良回)6、☆(並回)1、×(疑問回)0 個人評価 ★★ 4.6

OP 「薄ら氷心中」(第3-8話、10話、13話) ※第1話のみEDとして使用(背景は文字のみ)
ED 「かは、たれどき」(第2-9話、11話、13話)


※本作(アニメ第1期)は、原作マンガの第1巻~第5巻途中までの内容を収録。
※2017年1月より放送が始まっている続編(アニメ第2期)は、原作マンガの続き~最終第10巻までの内容を、おそらく幾分改変しつつ収録するものと考えます。


◆視聴メモ

{netabare}・昭和16年(1941年)の時点で、信さん・菊比古とも18歳(1923年頃の生まれ)、そして、みよ吉はその5歳年上なので23歳(1918年頃の生まれ)
・第9話で、みよ吉が、まもなく「赤線(※売春防止法施行以前に公娼認可のあった区画)」が廃止されるので置屋(※芸者を置いていた店)から出なくてはいけない、と言っているので、この時点で昭和32年(1957年)頃(→助六&菊比古34歳、みよ吉39歳)
・第10-11話で登場する小夏は、かなりの才覚があるにも関わらず未だ小学校に通っていない様子なので、この時点での彼女の年齢を6歳と仮定すると、昭和38年(1963年)頃(→助六&菊比古40歳、みよ吉45歳)
・第1話で、助六没後20周年特集の落語雑誌が出て来るので、この時点で昭和58年(1983年)頃(→八代目八雲師匠(=もと菊比古)60歳、小夏26歳、与太郎21歳くらいか?)
・第13話後半は、第1話からさらに10年近く経った後の話なので、平成5年(1993年)頃(→八代目八雲師匠70歳、小夏36歳、与太郎31歳くらいか?)
{/netabare}


◆本作のモチーフ考察 : 歌舞伎の《助六心中》の落語家バージョンを狙った?

落語家といえば、《滑稽噺(こっけいばなし)》を次から次へと繰り出して、ひたすら寄席の客を爆笑させる人、という楽しいイメージが強くて、たまにシンミリとする《人情噺》や、冷やっとする《怪談噺》を語りだすことがあっても、さほど深刻な内容にはならずに適当なところで切り上げてしまうもの、という先入観があって、本作についても、見始めたばかりの頃は、《落語》を題材にした作品ということで、幾らかシリアスな展開があるとしても一定の限度があるのだろう、とばかり思ってました。

ところが、第3話で初めて映像付きで流されるOP「薄ら氷心中(うすらひしんじゅう)」を見て、その曲調や歌詞の醸し出す雰囲気が、自分のそれまで持っていた本作のイメージと大きくズレていて、ことにその映像中の女性の描かれ方が、「心中」を示唆する歌詞とともに半端ない違和感を喚起して、本作の主要キャラクターの一人が、「助六」という落語よりは歌舞伎由来の名前であることと併せて、視聴を進めながら不穏な気持ちになってしまいました。

そして、物語に大きな動き({netabare}※助六が師匠から破門され、みよ吉は菊さんから捨てられてしまう{/netabare})があった第9話の真ん中ほどで、{netabare}失意のまま桜咲く河原を一人歩く助六に、同じく傷心のみよ吉が初めて自分から声をかけるシーン{/netabare}が来て・・・

{netabare}「ねえ、お花見は花川戸に限るわね。・・・・花川戸の助六さんね。」
「あたし、菊さんに振られちゃった。」
「何かあったの?話、聞いてあげる。」{/netabare}

ここにでてくる「花川戸(はなかわど)」は東京都台東区の浅草寺境内と隅田川の間に今もある地名で、とくに花川戸公園は桜のちょっとした名所になっているそうです。
だけど、ここで注目すべきは、{netabare}みよ吉が、わざわざ「花川戸の助六さん」と声をかけたこと{/netabare}で、引用が長くなりますが・・・

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◎助六(wikipedia)https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%8A%A9%E5%85%AD

『助六』(すけろく)は、歌舞伎の演目の一つの通称。
本外題は主役の助六を務める役者によって変わる。
江戸の古典歌舞伎を代表する演目のひとつ。
「粋」を具現化した洗練された江戸文化の極致として後々まで日本文化に決定的な影響を与えた。
歌舞伎宗家市川團十郎家のお家芸である歌舞伎十八番の一つで、その中でも特に上演回数が多く、また上演すれば必ず大入りになるという人気演目である。
(※以下、省略)

◎すけろく【助六】(旺文社古語辞典)

〔人名〕「助六劇」の主人公。
江戸中期、京都で男伊達(おとこだて)万屋(よろずや)助六と島原の遊女揚巻(あげまき)が心中した事件は、上方(かみがた)では「京介六心中」「助六心中紙子(かみこ)姿」など、歌舞伎(かぶき)・浄瑠璃(じょうるり)の「助六心中物」に仕立てられた。
これが江戸に移され「助六所縁江戸桜(すけろくゆかりのえどざくら)」などの「助六劇」として定着した。
江戸では主人公は花川戸助六という侠客(きょうかく)(実は曾我五郎(そがごろう))とされ、江戸っ子の代表として理想化された。

◎すけろく-しんじゅう【助六心中】(精選版日本国語大辞典)

(1) 宝永年間(1704-11)初年に大阪であった万屋助六と島原の遊女揚巻との心中事件。
(2) (1)を脚色した浄瑠璃「紙子仕立両面鑑(かみこじたてりょうめんかがみ)」、歌舞伎脚本「助六心中紙子姿」、一中節(※浄瑠璃節の一流派)「万屋助六道行」などの通称。

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・・・ここまで来て、ようやくOP「薄ら氷心中」のおどろおどろしい曲調・歌詞・映像に合点がいきました。
この後、{netabare}傷心の二人は同棲を始めて、もろともに転落していく{/netabare}のですが、その結末は既にここで暗示されていますね。

以上から、本作は《落語家》の世界を作品舞台としながらも、実際には、《落語》の「滑稽噺」「人情噺」「怪談噺」ではなく、《歌舞伎》の「心中もの」をモチーフとするストーリーを展開させている、という構成になっており、それによって、

(1) 表面上は、「滑稽さ」「人情噺っぽさ」を上手く醸し出しつつも、
(2) その基底部分に、どうにも逃れられない「悲劇性」を潜ませる。

という、両様の魅力を作品に与えることに成功しているように私には感じられました。


現在放送中の第2期にも大いに期待したいと思います。

※2018.8.22 第2期のレビュー投稿。
事前に期待していたほどの出来ではなかったけど、第1期の後日譚としてまずまず楽しめる内容でした(個人評価 ★ 4.1)。

投稿 : 2024/05/04
♥ : 36

タケ坊 さんの感想・評価

★★★★★ 4.8

大人が酔える本物の味わい深さ

第17回「文化庁メディア芸術祭」マンガ部門優­秀賞受賞。
第38回「講談社漫画賞」一般部門受賞。

と、原作漫画が高く評価されているアニメ化作品だが、
これはアニメ化大成功、と言える素晴らしい作品になったと思う。

どうしても、漫画では落語そのものの臨場感や空気感を伝えるのには限界があると思われるが、
(読み手の想像力次第で悪い方向へは行かないと思う)
アニメ化して中途半端なものを作ってしまうと、世界観をぶっ壊してしまう恐れもあるなか、
製作陣の気合いの入りよう、原作へのリスペクトが伝わってくる見事な仕上がりで、
大人だからこそ楽しめる、このような作品が世に出てきたことは非常に喜ばしい。

物語が楽しめるかどうかは、観る人間の年齢や好みによって異なるかもしれないが、
純粋にアニメとしてのクオリティは、全ての要素が高い次元で纏まっているし、
また全13話、1話たりとも退屈しなかった。
これは年に何本もある秀作レベルではなく、素直に傑作と言ってしまっても差し支えない作品だと思う。

自分はこの作品を40代や50代の一般人にも自信を持って薦めることができるが、
大人が観て本当に満足できる「質」と「深み」「味わい」を備えた作品は、
ここ数年の「深夜アニメ」では「蟲師」(続章)以来かも知れないと感じた。
2期で物語が完結するだろうということを考慮すると早計かもしれないが、
いずれにせよ、恐らく原作同様「文化庁メディア芸術祭」のアニメ部門でも認められるだろうと確信している。


☆物語☆

タイトル通り、内容は「落語」そのものも見どころの一つだが、
たとえ落語に興味が無くても(正直自分は落語そのものには大して興味はない)
登場人物たちの深い人間ドラマには非常に引き込まれる。

尺を拡大して放送された1話は現在を描いているものの、
(1話の掴みは今期の作品の中でもベストだと思うし、最終話観てからまた観直すとより感動的)
終盤まで主に八雲の過去の回想がメインに描かれている。

菊比古(八雲)と助六、みよ吉との関係は一言では語れない、様々な感情が渦巻いており、
3人共に人間らしい過ちを犯していて、またそれぞれに同情も出来るものであり、
本当に深く絡み合った人間模様が描かれていると思う。

また一方で、八雲と小夏の間にある因縁、八雲(師匠)と助六、
八雲と与太郎の数奇な運命の巡り合わせ、とは...
これは是非本編をご覧頂きたい。

また、各キャラがここぞという場面で、
非常に含蓄のある言葉を語っているので、そこにも注目して貰いたい。

この作品に関しては、あまりネタバレで、あーだこーだと書いてしまうと無粋な気がするので、
(最初は色々書いてたんだけど)
とにかく登場人物達と落語を巡る「想い」「運命」「宿命」「因縁」を観て、
それぞれの立場と心情を慮ってもらいたいと思う。

物語が完結してないし、点数は4.75、ってのがあると良いんだけど、
まぁそんなに出し惜しみしてもしゃぁないし、物語の作り方、設定にはほぼ不満がないので、5点。


☆声優☆

MBSで放送していた「アニマゲ」の中で、この作品を特集していたのを観たが、
一風変わったオーディションで選ばれた声優さんたちは、結果的に落語に造詣のある面々で、
声優としての実力も折り紙つきの精鋭が揃っていて、演技自体も当然素晴らしい。
そして、驚くべきことに、落語の部分も通常のアフレコで録ってるらしい。。

正直ここまで純粋に声優陣の「技量そのもの」が試された作品というのは、
近年でも、というか、アニメ史上でも稀なんじゃないだろうか。
「質」を求めるアニメファンなら声優陣の演技だけでも、
この作品を観る価値は充分にあると思う。

1話の与太郎、後半10話の菊比古、11話の菊比古と助六のコラボ、
12話の助六の想いの込もった熱演には感銘を受けた。
また、2週目繰り返して観てみると、弟子入りした当初のパッとしない落語から、
上達し味が出てくる落語の変化も巧みに演じ分けられていることに気付く。

初見ではあまり何とも思わなかった回の落語も、2回目の視聴では惹きこまれて観ることが出来た、
というのも不思議な感覚だった。。
落語の部分の演技ばかりに注目しがちだが、5話の芝居の場面の演技も実に艶があり見事。

また、みよ吉演じる林原めぐみさんの、円熟味を感じさせる「女」の演技も実に巧い。
これは声のトーンや表現力も含めて、若手の声優には到底演じれない役回りでしょうね。

一聴して判る小林ゆうさんの低音ハスキーボイスは幼女役でも炸裂しており、
正直こんな声の子供居るかよ笑、と思いつつも実に可愛らしく演じられていた。

脇役的な役どころの八雲(師匠)と松田さんの演技も、実に渋く味わいがある。

点数は文句なしに5点、というか今後なかなか5点を付けにくくなった。。


☆キャラ☆

各キャラクターの心情が非常に丁寧かつ繊細に描かれていて引き込まれる。

八雲(菊比古)と助六の対照的な落語への動機、性格が印象的で、
2人の関係性など、きめ細やかな描かれ方は女性作家ならではだなと感じた。
(BL臭が全くしないと言えば嘘になるが、腐女子を引き込むほどのものではないだろう)

最初に出てきた小夏の出番が少なくもの足りないなと思っていたら、
後半に幼女で登場、これが何とも愛らしい。

また、みよ吉のようなキャラは昨今のアニメでは極めて珍しいが、
ラノベ作家なんかが描くリアリティの欠片もない女性キャラとは違い、
(それはそれで良い面もあるんだが)
女性作家だからこそ描ける、「生身の女性らしさ」、愛憎渦巻く内面が非常に良く伝わってくる。

一見すればどうしようもないアバズレだが、
彼女の置かれた境遇、あの時代の女性の立場を考えると、
過ちを犯していることや性格に問題があるとはいえ、自分は彼女にも同情することが出来る。

また八雲(師匠)の背負った名跡の重圧、助六を巡る因縁や後悔、
昔気質な性格も非常に上手く描かれていると思う。

全てのキャラに言えることだが、やはり声優の演技あってのキャラ、
と言うのはこのアニメに限ったことではないが、本作を観て改めて思い知らされた感がある。

点数は5点。自分はキャラの性格が好きか嫌いか、は点数の判断基準には無くて、
そのキャラの掘り下げ具合、心理面がどれだけきっちりと描かれているか、を見ている。
本作でのキャラの描かれ方は非常に丁寧で、観ているこちら側にまで伝わってくる。


☆作画☆

最近の作品は技術の進歩もあり、
デジタルでも非常に凝った手描きのような質感を持った背景描写のものが増えてきた感があるが、
本作でも昭和の空気感や雰囲気をよく伝えるものとなっており、趣があり味わい深い。

またキャラに関しては、落語を演じている場面や、それ以外でも細やかな表情の変化やしぐさなど、
かなり丁寧に描かれていて、作画力があるからこそ、キャラの内面や落語の魅力が伝わってくるのが実感できる。

派手な動きやCGなどは殆ど無く、純粋な作画枚数的にはそこまで多くはないと思うが、
キャラが全話通して巧く描かれているので、自分は全く不満は感じない。

普段付けてる点数から言うと4.25くらいにしたいところだけど、無いのでおまけで4.5。

※やっぱり付けすぎかな、と思ったので4点に直しました。


☆音楽☆

椎名林檎作編曲、林原めぐみが歌うOPは本作の大人な雰囲気にピッタリで、
ハイセンスで個性溢れる楽曲はいかにも「らしさ」がよく出ていて、改めて凄い才能だなと実感した。。

また、歌詞に着目すると、これはみよ吉の菊比古を想う心の内をこれ以上ない、
と言うほど見事に表現しており(もはや狂気を感じる、女の怖さや情念に心を打たれる)、
これは単なるタイアップ曲を越えたアニソンとして、非常に高く評価されるべきものだろう。

それに対するEDはノスタルジーとロマンを感じる、
まるで映画一本観終わった後のような、味わい深さと余韻に浸れる見事なインスト曲でこちらも絶品。

作中BGMは「生音」への拘りが半端なく感じられ、楽器そのものの魅力が存分に伝わってくるもので、
バリエーション自体も非常に多彩で、クオリティの高さに疑いの余地はない。
これは通常のTVアニメと比べると、かなりの予算が掛かっているだろう。

点数は文句なしに5点。


最終話は回想から時間が現在に戻り(1話より時間は進んでいるが)、
終わり方がちょっとこれで終わるには勿体無いな、と思ったところ、
本編後の最後に2期制作決定が明らかになり、既に続編を作り始めているように見受けられたので、
今後には大いに期待したいと思うし、楽しみが増えた。
(予め2期、というか分割はある程度は既定路線だったのかもしれない)

本作はアニメーター自身が観て楽しめる、
本当に自分達が純粋に作りたいものを作った、そんな情熱と新たな挑戦、拘りが実感できる作品だと思うが、
このような作風のものは、今の時代そうそう売れるものじゃない。

商業的な理由で特定の円盤購入層に受けるような、似たようなアニメばかりが量産される昨今、
敢えて大人が観て楽しめる、この作品を「深夜枠」でアニメ化したスタジオディーンには本当に感謝したいと思う。
(NHK辺りが率先して予算を出し制作してもおかしくない内容だと思う)

同時期にディーン制作の「霊剣山」「このすば」と比較すると、どれに力を入れて作っているか、
は火を見るよりも明らかだが、「霊剣山」が中国でのネット配信権で利益をもたらし、
「このすば」が低予算で円盤売上好調、結果的には本作が円盤売れなくても制作費回収できて2期決定、
という流れだとすれば、これは大いに歓迎すべきことではあるが、
同時にかなりの皮肉だといえるかもしれない。。

投稿 : 2024/05/04
♥ : 21
ネタバレ

アレク さんの感想・評価

★★★★★ 4.1

落語って、笑いって

時は昭和50年頃八代目有楽亭八雲に弟子入り志願のムショ上がり与太郎から物語は始まり落語とそれに関わる
人達が織りなす漫画原作作品。

一時期寝る前に落語を聞くことが習慣になってたくらいで(飽きてすぐやめちゃいましたが)
落語の知識はほとんど、いや全くないんですがそんなまっさらな状態だからこそ
落語の魅力というのが変な先入観なしで見れたような気がして無知が逆に功を奏することもあるようですね(^^;)

それに加えてこのアニメからは抽象的物言いで恐縮ですが日本的、和的良さというか価値観が
全編から漂ってくる感じで同じ日本人の自分としても見ている間心地いい時間でした。

{netabare}
落語は舞台で座布団に座りながら務めるため所作が限定される、そのうえ漫才のように掛け合いで
空白の時間をつぶすこともできない、しかしそんな制約が逆に工夫する余地となり扇子や手の動き
果ては目つきに至るまで様々な人物を自分に憑依させ掛け合いができない不利も「間」として有効活用し
一幕の劇を創り上げる、そんな自分なりに感じた落語の魅力というものが落語の演目の最中に
登場人物ごとに変わるカット割りやBGMなどの演出的工夫から感じたし
さらに演目を何度も練習していく中でにじみ出るその人独自の芸
同じ演目でもやる人によって独自の魅力が醸し出される再現芸術の醍醐味みたいなのが
何気ない会話に織り込まれていてうなずきながら共感しながら
1話からガッツリ引き込まれていきました。

そんな1話で一番印象に残ったのは与太郎の落語のシーン、題目は「出来心」
さっき書いた演出に加えて舞台前の緊張が、首筋に流れる汗が
無意識に身を乗り出す与太郎の懸命さがノリノリの演出と合わさって
そんな細工って落語好きの方から言わせると邪道なのかもですが
落語ってこんな面白いんだぜといわんばかりの演出は見ていてとても楽しかったです。
さらにそんな与太郎の噺を何度も稽古する姿を見たであろう小夏が気が気でなく見守る様子
下らねぇなんてて軽蔑していたが思わず笑っちまう兄貴
同じ演目でも見る人によって感じ方が違う
与太郎に関わりがある2人ならなおさらですが
観る人の心境によっても同じ演目でも感じ方に個人差がある
ここでも再現芸術の面白み、不思議さが出ていてそれをちょっとした
言動に織り込まれ匂わせてくれる演出の粋さ
このアニメの世界観、好きだなぁ。

そこから話は変わり菊比古の回想になるわけですが
辛苦をなめた満州の慰問を経て他人のために落語をやると決めた助六、
おまえはどうなんだと菊比古に問うが
彼は演目の最中自分のために落語をやっていたと自覚する。

お客とともに盛り上がりライブ感を前面に押し出す助六と完成された領域に客を招き
酔わせる菊との芸の違いがそのまま二人の生き方を分ける、稽古を重ね演目を
自家薬籠中していく過程でその人の個性と不可分に結びつきその人だけの芸となる
ここでも落語というか再現芸術全般の面白さがさりげなく描写されてますが
それよりも強く感じたのは2人の道の分け方が実に自然といいますかどちらを
肯定するわけでも否定するわけでもなく共存している、そんな曖昧さというか自然さを素直に
抵抗なく受け入れてる自分も日本人なんだなぁとしみじみ自覚してしまうわけで・・・

そしてそんなことを思わせてくれる押しつけがましくないが
さりげない言い回しや行動で感じる義理人情の世界観を演出するスタッフの手腕
いやはや脱帽です。ただ舞台が戦前、戦後で落語が主題だから、道具や食べ物が和風のものだから
日本的に感じるというわけでなくそれもあるが古き良き義理人情、白黒つけない曖昧さが美徳の
価値観がこのアニメ全篇から感じられるようでそんなところから和的麗しさを感じるわけで。

師匠の愛人をやっておきながら弟子に色目を使うみよ吉の身勝手さもこの作品にかかれば
この上なく洒脱で粋、普通こういった恋の駆け引きって自分はこざかしさを感じてしまうんですが
声優さんの演技に裏打ちされた嬌態たっぷりに科を作る姿態は何とも妖艶。

特に印象に残ったのは別れ話のシーン
黄昏時、秋風が吹きみよ吉に気付いていながら
素通りしようとする菊比古から始まり互いに決定的な言葉は口にしないが
察しておくれといわんばかりの菊、いやよとみよ吉、
本人たちにとってはそれどころじゃないと思うし物見遊山気分で恐縮ですが
散り際に感じる日本的美意識が魅せる一瞬の抒情は例えようもなく婉美。


菊比古の心理をひるがえって考えればいよいよ師匠にも認められてこれからだというとき
結局色恋より仕事、芸を取ったという事で
森鴎外の小説にありそうな結構ドライな話なんですがこのアニメのフィルターを通すと
ため息が出るほど耽美的、その後のみよ吉が助六に愚痴る身の上話から顔を覗かせる
一抹の寂寥感、これも恋愛ゲームの駆け引きの一部なのか、いや、それすら心地いい
日本古来の萌たっぷり堪能させていただきましたm(__)m

しかしそんな曖昧さ、粋さを美徳とする世界でも必ずしもいいところばかりではなく
みよ吉や助六さらには幼少期の菊比古もそんなしがらみや暗黙の了解に割を食った代表であるわけで
みよ吉や助六は自業自得な部分がないわけではないが思わず同情しちまうのがこのアニメの世界観
声優の演技力に圧巻の助六決意の芝浜もみよ吉には届かず
2人の事故にも似た心中(いや逆か)で回想は幕を閉じるんですが見終わった後は
与太郎の言葉を借りると只々いい気分だったんですが冷静に振り返ると
いい出来事ばかりではなかったし結末もハッピーエンドとは行かなかったと思います。

ですが見終わった後の気分は不思議と心地いい、その理由を自分なり考えてみると
このアニメを見終わった後興味が出ていくつか古典落語を
ググってみたりしたわけでそんなことをやってたりこのアニメの作中で披露される演目を
振り返ってみて気付いたんですが登場人物が全員善人というわけでは
決してなくむしろあさましい欲望とかちょっとした出来心から
端を発しそこから展開する話が多く人間には善人の部分と悪人の部分がある
そんな清濁併せ持つしょうがない性分を持ち寄りながらなんとか日々寄り添いながら生きていく
そんな日々の生活を面白おかしく描写できた深い観察眼と心意気、それが人々の心を打ち
共感を呼び落語は時代を超え愛され続け今日まで伝統として残ってきたのかなーと
そしてそんな人々が織りなす人間模様がこの作品からもまざまざと感じられて
自分がこの作品に引き込まれた理由もそこら辺にあるのかなーと
思えば最初のほうは義理人情が前面に押し出されすぎ
与太郎がすぐ口座に上がれたりちょっと甘いんじゃないの、と思ったりしたのですが
弟子の雑務や辛いところをあえて映さない武士は食わねど高楊枝の精神だったのかもですね。
笑いの中に哀しみがある、いや哀しみを笑いに変える
チャップリンや松本人志さんを引き合いに出すまでもなく笑いの本質って案外そこら辺にあるのかなぁ
なんて自分がどや顔で指摘するまでもなく落語好き、お笑い好きの方にとっては
自明の理かもしれませんが、とにかくそんな自分にとって新しい発見をさせてくれるほどに
夢中になり引き込まれそして心地いい
作品でした。

最後に助六の名を継ぎたいと申し出た与太郎に見せた菊比古の狼狽の表情は
日陰に追いやられた3代にわたる怨念が過去から有楽亭八雲である自分に
追いついてきた恐怖かそれとも・・・

それでもそんな思いすら飲み込みながら今日も人の歴史は紡がれていく
ってこんなところで終わられちゃ続きが気になるに決まってるでしょう!
全然御後よろしくないよっ!ってことで二期はよ(/・ω・)/
{/netabare}

投稿 : 2024/05/04
♥ : 43

71.9 2 昭和で嫉妬なアニメランキング2位
千年女優(アニメ映画)

2002年9月14日
★★★★☆ 3.9 (445)
2149人が棚に入れました
芸能界を引退して久しい伝説の大女優・藤原千代子は、自分の所属していた映画会社「銀映」の古い撮影所が老朽化によって取り壊されることについてのインタビューの依頼を承諾し、それまで一切受けなかった取材に30年ぶりに応じた。千代子のファンだった立花源也は、カメラマンの井田恭二と共にインタビュアーとして千代子の家を訪れるが、立花はインタビューの前に千代子に小さな箱を渡す。その中に入っていたのは、古めかしい鍵だった。そして鍵を手に取った千代子は、鍵を見つめながら小声で呟いた。「一番大切なものを開ける鍵…」
少しずつ自分の過去を語りだす千代子。しかし千代子の話が進むにつれて、彼女の半生の記憶と映画の世界が段々と混じりあっていく…。

声優・キャラクター
荘司美代子、小山茉美、折笠富美子、飯塚昭三、津田匠子、鈴置洋孝、京田尚子、徳丸完、片岡富枝、石森達幸、佐藤政道、小野坂昌也、小形満、麻生智久、遊佐浩二、肥後誠、坂口候一、志村知幸、木村亜希子、サエキトモ、野島裕史、浅野るり、大中寛子、園部好德、大黒優美子、山寺宏一、津嘉山正種
ネタバレ

ぺー さんの感想・評価

★★★★★ 4.3

千代に八千代に千変万化

オリジナルアニメ劇場版


『東京ゴッドファーザーズ』に端を発しての今敏監督作品3本目の視聴。『PERFECT BLUE』を挟んで本作です。

氏の作品については、“虚構”と“現実”入り乱れる作風が特徴との交流あるレビュアーさんの言及があり、まさにその通りなんだろうと思います。
前作『PERFECT BLUE』でも、本作『千年女優』でも物語の主役は“女優”です。作り手が発信したいメッセージを表現するには、虚構を演じる職業柄“女優”という属性は語り部にふさわしいのかもしれません。

両作品とも現在進行形の今(現実)があって、そこに撮影シーンいわゆる劇中劇(虚構)が挿入されて次第に溶け合っていくのを基本構成としてました。
基本構成のみが前作とすれば、本作では女優藤原千代子の過去語り(回想)も加わることでより一層カオス度合いが増した印象。それでいて最後はきっちり収束するので観てて心地よかったです。
“女優”を扱った同氏の作品を続けて鑑賞したのはよい対比となりました。視聴順の推奨というほどでもありませんが、これからご覧なられる方は片隅にでも留意いただけるとよいかもです。


隠居した往年の名女優のインタビューをとりに女優宅を映像制作会社の社長さんが訪れるところから物語はスタート。
女優の名は藤原千代子。千代子の大ファンでもある社長さんは立花源也。千代子の半生を辿るドキュメンタリー製作が口実での訪問だったが、その半生がどういったものかもそしてインタビューを千代子が受けようとした理由も、鍵を握るのは立花が持参したあるおみやげでした、と。
以後、千代子が女優になったきっかけからの回想が始まり、出演映画のシーンも織り交ぜながら想い人である絵描きの青年を追いかけるストーリーが展開されていきます。はたして想いは成就されるのされないの?に視点を置いての鑑賞になるでしょう。


以下2点の両立がなされているところは高く評価したいです。

 1.上っ面だけかすめても面白い
 2.小難しく考えても面白い

どっちかに特化しても良いんですけどね。


1.上っ面だけかすめても面白い

映画の大半を占める千代子の半生語りの回想は、劇中劇と合わせて独特の空気を醸し出してます。普通は回想と現在との2本立てなところを、“回想”“劇中劇”“現在”3本立てで構成されているのは先述の通りです。それが溶け合ってチャンプルーしてるのが特徴となります。
複数場面が溶け合ってることのみならず、そこに登場するキャラにも捻りを加えてきます。過去の千代子、役を演じてる千代子、現在の千代子とその場面に合わせた登場人物たち。加えてインタビュアーたる立花と同行のアシスタントくんが回想と劇中劇にも顔を出してくるのです。なかなかお目にかかれない演出です。視聴者が??となりそうな箇所ではアシスタントくんが適度なツッコミを入れてくれるので置き去りにならない設計になってるとも思いました。
ここまででも新鮮味がある作品設計という強みがあるのですが、なによりテンポがよいのです。そして美しいのです。そんなお金かけてる気はしないんですが。。。
{netabare}馬賊に襲われているところからの戦国への転調シーンなど本来なら不自然なはずなのにカット割りが自然で気にならない。{/netabare}
{netabare}町娘が追いかけてる時の背景が浮世絵絵巻物風で、美しいと思える背景美術となっている。{/netabare}
{netabare}映画全盛期の昭和30年代。街並みから映画チラシ。家の中の家具調度品などの郷愁感。すなわち『三丁目の夕日』感っていうやつです。もしくは『新横浜ラーメン博物館』感のどちらでも。{/netabare}
{netabare}印象深いのは雪景色。絵描きの青年との出会い/別離のシーンであったり、「国境の長いトンネルを抜けると雪国であった」的なシーンもありました。そのまんまでも綺麗なのですが、{netabare}絵描きの青年(役名は鍵の男)の郷土北海道の暗喩だったんでしょうね。{/netabare}{/netabare}

そもそもの話で、おばあちゃん千代子さんの佇まいの品の良さとたまに見せる少女のかわいらしさには触れておきたいかも。ヒロインへの感情移入の土台となるのは、往年の名女優の現在の立ち居振る舞いだったと感じます。
めくるめく場面展開の独創性が面白さの源泉であり、本流である想い人を追いかけるエモさは古今東西受け入れやすかろう物語でした。締めの一言がラブストーリーとして見立てた本作の評価に直結するくらいでしょうが、賛否両論あるくらいがこの作品にスパイスが利いていた証左です。


2.小難しく考えても面白い

やはり幕の降ろし方が気になります。
頭を使いそうな作品に遭遇した時、理解の手助けの一つとして冒頭シーンの意味をよく考えたりします。作品の開幕に監督がどのような意図をもって何を用意したかが表れているから、が理由。
その視点で本作を眺めた場合、※以下視聴済の方向けネタバレ

{netabare}千代子にとって想い人を追いかけることを止めて女優も引退したという人生の分岐点があの宇宙飛行士役の一幕でした。
“鍵”“地震”“老婆”“鍵の男”なにかしら示唆する暗喩めいたものは数多く配置されてるのが本作です。この宇宙飛行のシーンは冒頭と中間そしてラストと都合3回出てきますが、中間部分で二度目の鍵の紛失という事態に見舞われます。
一度目の紛失の際、千代子は結婚し家庭に入ってしまいます。劇中劇は「もう顔も思いだせない」と咽び泣いた教員役の1カットのみ。触れられてませんが、鍵が見つかるまで教員役以外の“女優”藤原千代子の描写がありません。
二度目の紛失の際には女優を引退し鎌倉だか葉山に引っ込んでしまい今日に至るといった具合です。
鍵とはどういった意味を持つものか?について鍵の男は言いました。

 {netabare}一番大切なものを開ける鍵{/netabare}

鍵を無くした時期に失っていたもの = 一番大切なもの ということなのでしょう。振り返れば劇中劇の多くは想い人を追っている描写で埋められてました。
どこかに辿りついて鍵を開けるのがゴールだと見えてたのはミスリードで、鍵が手元にあるから一番大切なものを開放できていたのです。こちらも振り返れば、千代子は鍵をネックレスにして首からかけてました。宝箱は千代子自身だったのでしょう。
となると、回想でも劇中劇でも想い人である“鍵の男”を追っている時に女優藤原千代子の人生が輝いていたと言えます。恋に恋してという陳腐さではありません。

{netabare}想い人を追う現実の自分{/netabare}
{netabare}想い人を追う演技をしている役の自分{/netabare}

“現実”と“虚構”が溶け合いました。導き出される答えは女優という職業に人生を捧げた一人の女性の凄味です。そして女優という職業の業の深さでしょうか。
そもそも“鍵の男”がちょんまげ姿で登場した時点で気づくべきでした。想い人は何かしらの象徴的な意味合いを持ち、好きな男を追いかけるシンプルな話ではなくなっていたのです。

人生は舞台であると言ったのはシェイクスピア。
浮世は舞台でメケメケの世界と言ったのは桑田佳祐。
本作を通じて、人生という舞台を演じ切るのが大事なのでは?との問いが投げられたと受け止めることができます。

{netabare}空襲後に「いつかきっと」の石版絵{/netabare}

完成することはきっとないのだと思います。だからこその「尊き哉人生」です。{/netabare}


小難しく考えると、ラストがストンと腑に落ちるのでした。
人生を愛した一人の女性の物語です。名作と言って差し支えありません。

{netabare}みたび鍵を手にすることができた千代子は、半生を振り返るインタビューの中で久方ぶりに女優となるわけです。
病床のベッドの上で立花からの「また追いかけられますね?」との励ましに「どっちでもいいのかもしれない。」と答えた千代子。

“わが人生に一片の悔いなし”{/netabare}



最後に余談。

■どこが千年?
千年とは物理的な時間の意味に非ず?
「千代に八千代に」ずっと
「千変万化」いくらでも
で使われる“千”の意味合いが強いと思う。


■声優“荘司美代子”のお仕事
藤原千代子役には年代に合わせて三名の役者さんが声を当てられてます。

荘司美代子:70代
小山菜美:30~40代
折笠富美子:10~20代

そのうちの荘司美代子さんのお声が凛として気品がありました。調べてみたら「ちはやふる(2期)」の山城今日子専任読手の声の方だったんですね。声の仕事はあまりない方ですが印象に残る演技です。



2019.02.17 初稿
2019.08.04 修正

投稿 : 2024/05/04
♥ : 34
ネタバレ

renton000 さんの感想・評価

★★★★☆ 3.7

考察多めです

あらすじは他の方のレビュー等をご参照ください。

 初見でした。90分ほどの作品です。2002年の作品なので少し古いのかなと心配しましたが、そんなことはありませんでした。「猫の恩返し」と同年ですので、まだ見ていない方にとっても無用の心配かもしれません。ただ、昭和感を重視しているためか、ポップで明るい要素は乏しいので、そこを踏まえてから視聴した方がいいでしょう。

 完成度の高い作品ですが、好みは分かれると思います。謎解きのような要素が強く、考察対象が多いのが特徴です。考察好きに好まれるかもしれませんが、頭を空っぽにして楽しめるというわけではなく、90分という時間以上に疲れてしまいました。エンターテイメントよりは文学です。アニメを楽しみたいというより、映画を楽しみたいときに見た方が良いでしょう。
 称賛されるべき作品ではありますが、残念ながら私の好みには合いませんでした(評価に好みは反映させていません)。私自身が、あまりワクワクできなかったことが原因かもしれません。終盤の山場でも盛り上がれませんでした。


ジャンル:
 形容しがたいのですが、謎解きでいいと思います。「一番大切なものを開けるカギ」というのが何なのかを探っていきます。この問いに対する答えをより積み上げられるとエンディングでのカタルシスが増すのだと思います。
 語りべである元女優が、各年代での出演映画に自分の人生を投影し、徐々に映画と現実が邂逅していく、という展開です。やや難解に感じるかもしれませんが、解説役がいますので迷子になることはないでしょう。序盤では同じようなシーンが続きますが、少しずつ変化していきます。個別の循環構造ではなく、全体としてのスパイラル構造として描かれます。


テーマ:
 初恋から始まりますが、元女優の人生観を描いたという方がよいでしょう。


一番大切なものを開けるカギ:{netabare}
 絵具箱のカギなのか画材箱のカギなのか分からなかったのですが、「七色の女優」とチヨコが表現されていたので絵具箱が正しいのだと思います。
 まぁ、大事なのはもちろんそこじゃないですね。。。

 チヨコは、各年代で様々なジャンルの作品に出演しています。この点からは「七色の女優」と呼ばれるのは正しいのでしょう。ですが、キャラクター的には常に男性を追う役であり、多様性には疑問が残ります。逆に言うと、「七色の女優」と称されるほど様々な役を演じていたのに、その全てに自己投影できてしまったということです。チヨコにとって女優という職業が人生と同じ重みを持っていたということなのだと思います。
 カギは、初恋の象徴でもありますが、女優になるきっかけを与えてくれたものでもあります。つまり、カギは女優としての象徴でもあるのです。事実、カギを失ったチヨコは「主婦」であり、書斎からカギを見つけた途端に演技を始める「女優」となります。
 以上から、カギ=女優=人生であるといえます。初恋の男の絵具箱を開けるとか初恋の男に渡すとかは、強調されるほどは重要な意味を持っていないのではないでしょうか。チヨコがカギを持っているときだけ「一番大切なもの」が開く、すなわち、チヨコの人生が色彩鮮やかになるのだと思われます。{/netabare}


初恋の男:{netabare}
 初恋の男に会えないことと初恋の男が死亡することは、予測がついてしまいました。むしろ、予想できるように作っていたのだと思います。月の表現と、男が反体制派(反主流派)であることによるものです。
 月の表現は暗喩です。男は「十四夜の月」が好きだと言っています。「十四夜の月」は、どんな作品に使われたとしても、一般的に次の二つをイメージさせます。一つ目は「満ちることがない」ということ。二つ目は「満ちたときに何かが起こる」ということです。この作品では、両方が描かれます。
 老婆の「未来永劫恋の炎に身を焼く」というセリフは、初恋の男について「満ちることがない」、つまり、会えないことを示します。初恋の男が反体制派として描かれるときには、常に死の匂いが漂っていたため、死亡は不可避のように思えました。これも会えないことを補強しています。なお、終盤での拷問による死亡という告白は、死亡自体を伝えたというより、死亡時期を伝えたという印象を持ちました。
 そして、月が満ちるとチヨコは男の死を確信します。{/netabare}


千年の呪いとエンディング:{netabare}
 あの老婆はチヨコ自身だと思われます。何も説明がないのですが、説明が多いこの作品で何も説明がないことが逆に強烈な特徴になっています。他と関連しないからこそ、チヨコ以外あり得ないのだと思います。
 老婆はチヨコに千年の呪いを与えます。千年の呪いは、いとぐるま・ロータス(蓮)・出演映画と関連付けられて、輪廻観を示します。蓮といとぐるまで輪廻転生です(※)。女優としては、確かに1000年分の役を演じてました。そのどれもが男を追う役だったというのは前述の通りです。チヨコは役を通して1000年分の輪廻転生を繰り返していました。
 ところで、チヨコの女の幸せについて述べておかなければなりません。序盤で「国のために尽くすこと」「結婚して子を産むこと」が提示されます。いずれに対しても、チヨコは許容を示しませんでした。中盤では「結婚して子を産むこと」だけが残ります。このとき、チヨコは強い拒絶を示していました。

 輪廻転生と女の幸せへの答えがエンディングです。地震は生(再生)と死を意味していたようです。地震とともに、チヨコは「明日になれば思い出せない」といい、次の転生を否定します。チヨコに実際の死が訪れます。
 最後のセリフは「あの人を追いかけている私が好き」です。「あの人を追いかけている私」というのは、「カギを持っているチヨコ」を言い換えたものです。カギ=女優=人生ですので、初恋ではなく、女優人生への賛美です。「国」や「結婚出産」ではなく、女優として生きたことに一人の女性として満足したのだと私は思いました。宇宙飛行士という最後の役を演じることで、1000年目が終わり、呪いからの解放、輪廻からの解脱となりました。
 また、地球と月(宇宙)が対比されていたように感じました。月は男であり死、地球はチヨコであり生で、彼岸と此岸の関係です。月に降り立ったチヨコが見るのは男との別れであり、チヨコの死(解脱)も地球からの離脱として描かれます。だから、最後の役が宇宙飛行士だったのでしょう。

 実は視聴後、オープニングでなぜ未完成のはずの宇宙映画を見ていたのか、しこりのように残っていました。ですが、このレビューを書きながら分かったような気がします。
 あれは、現実と映画の邂逅の始まりであり、チヨコの最後の映画の開幕(カギを得て最後の転生をすること)を告げたのではないでしょうか。地震が起きてましたし、大きく外れた解釈ではないと思います。
{/netabare}


※千年の呪いへの補足(蛇足):{netabare}
蓮単独では、象徴されるのは「清浄」が基本となります。
蓮+円環(ループ構造)で「輪廻転生」。
蓮+食で「現世苦難からの解放」です(Lotus Eater)。
 上二つは、ヒンドゥー教・仏教から来るもので、三つ目はギリシャ神話から来るものです。老婆のいとぐるまは必須のアイテムでした。食が強調されたシーンは(多分)なかったので、エンディングで3つ目の要素を意識する必要はないと思います。テーマ的にもミスリードする可能性は少ないですが、念のため言及しておきました。{/netabare}


 考察として、どのシーンを取り上げるかは個人差があるかもしれませんが、説明が多い分、多様な解釈を許す作品ではないと感じました。「千年の呪い」に関連して、「明日」とか「若さ」とか、時間の表現に注目するのも面白いと思います。1回の視聴ですべての要素を掴むのはおそらく困難なので、少しずつ視点を変えて周回していくと、より楽しめるのかもしれないと思いました。念のためにもう一度述べておきますが、私の好みはともかくとして、名作ですよ。


対象年齢:
 高校生以上が望ましいと思います。重要なアイテムに気付ける力とそれを読み取る力が必要となります。これらがなくても楽しめることを否定はしませんが、この作品の持つ魅力が半減してしまうとは思います。

投稿 : 2024/05/04
♥ : 12
ネタバレ

大滝政人 さんの感想・評価

★★★★☆ 3.9

映画の映画

お気に入りの棚に入れてるのに、
いつまでもレビューを書かないのは、
どうかと思ったものなので書いてみますかね。

私的に今敏監督作の中で最高作でありますが、
根本的に面白くはない(観る人によるかな?)ので、
私は何度も観たいとは思いません。
レビューを書く為に今一度、視聴しましたが、
おそらくもう観ないでしょう。

一度でも良いので観てもらいたい作品ではあります。

例えば貴方が日曜の午前中にTVを点け、
何かのヒーロー物を観たとしましょう。
ヒーロー達は色分けされており、
リーダーのレッドを初めとして、
他にブルーやイエロー、グリーン等がいます。
ヒーロー達は、それぞれ得意な分野がありますが、
主人公のレッドには得意な事がありません。
しかしレッドは恐るべき素質を秘めていて、
それを見抜いた博士にスカウトされ今に至るのだった。
なにしろレッドは条件さえ満たせば、
どんな敵をも必ず一撃で打ち砕くスゲー技が使えるのです。
その条件とは悪に対する怒りが頂点に達した時である。

とまぁネタバレを避け微妙な話をしましたが、
予備知識ゼロから本作を観るよりは、
マシではないかと思い書いてみました。

本作の内容の半分は、こんな感じでありますが、
これを、そのままやってしまったら、
とてもじゃないが大人が観る作品とは言いがたい。
それに本作が描いている事は、もっと深い意味を持つ。

以下、ネタバレ。
{netabare}
では早速、言ってみます。

開始早々に元大女優は鍵の意味を口にしてくれます。
本来は何の鍵であるかは、すぐ後で出てくるし、
絵描きですから中身も予想がつくでしょう。
それを特別な物の様に言う質問に対し、
恥ずかしがり屋な少女の自然と出た勇気が微笑ましい。
もちろん鍵の君にとって大切の物であるのはウソではない。
仮にも招待するのだし、もう少し自分と、
好きな世界の事を話したいのだろう。
そんな鍵が彼女にとっても特別な物になるのです。

これまでの人生において、
貴方にも憧れのあの人に位置する人物が、
一人くらいはいただろう。
本作は愛よりも恋の割合の方が多い。
愛の力…と言うよりも恋に焦がれる無限の可能性、
つまりはその無敵さを描いています。

しかし、どんな偉人であっても人である以上、
老いからは逃れられません。
人は自分の欠点や認めたくない何かを、
自己防衛の為か目を背ける事が出来ますが、
彼女の場合は、どうでしょう。
彼女の身から鍵が離れていく時、恐怖が訪れます。

最後のセリフは「PERFECT BLUE」と同じく、
不評な方もいるでしょうが、
私は本作の場合は素直に良かったですね。
彼女は自分自身を認め答えを出すのです。
かくして大女優は大女優として幕を閉じるのである。
終盤の彼女のセリフは鍵の君に会う為のものだと思います。

要点だけ整理してみます。

まずは老婆について。
「あやかしの城」以降も彼女を苦しめる老婆の正体…
それは…なんと俺だぁ! (ウソです、ごめんなさい)
真面目に答えるとセリフの内容からして、
未来の彼女でありましょう。
そして彼女は「いずれ分かる時」が来て隠居する。

次は鍵について。
彼女にとって何を開ける鍵なのかだが、
それは俺の…もとい、
純真な少女たる心を開く物でして、
過去の彼女でありましょう。
少女時代の時は元々、少女ですから、
純真な少女たる心を保つ鍵であり、
開ける物ではなく閉める物となります。
彼女は少女のまま大人になれたのではなく、
大人になっても少女の強みを振るっていたのですから。
大人の彼女が外から鍵を開く度に、
少女の彼女が内から大切に閉めてくれるのです。

最後は本作において私が最も重要視している、
教えて先生!について。
ここでは鍵を所持していないので、
なんだか棒読みと言いますか抜け殻の様ですが、
映画の時とは違う「演技」になっていきます。
現代の彼女は鍵を所持しているからである。
「好きだった」と過去形なのが痛々しい。
彼女は隠居したとはいえ、
あやかしの老婆に近い存在なのは変わりはない。
だから彼女は忘れる様に努力した。その後悔。

まとめます。

これまでの彼女の演技は演技ではないはず。
ですが彼女は最後に本当に演技をするのです。
鍵の君の事が好きだからこそ、
「その想いの先は鍵の君ではない」という演技を。
そこには、あやかしの老婆の姿はありません。
老婆の千年の運命(さだめ)から解放され、
鍵の君に会えるのです。
これまでの彼女の映画は、どうでしたか?
演技ではない演技を続けていては、
千年の運命からは逃れられません。
いくら追いかけても鍵の君には会えない事を意味します。
約束を守る為の愛の意志が終盤のセリフなのです。

一応、最後のセリフを言葉通りに受け止めてやるとだ…
時は満ちた。いざ行かん境界の向こうへ。
少女の心を吸収しパワーアップした老婆は、
死後も生き続けるクリーチャー千代子となり、
「神演技をさせろ!理由?輝きたいからに決まってんだろ!?」
という悦楽の為だけに鍵の君は、この怪物に追われ続ける事となる。
そして彼女の恋が実る日は今後も来はしない。
まさに千年女優…どこまでも行け。
なんて解釈を貴方はしたいですか?
私はしたくありません。

正直、私の解釈は外れです。
なぜなら私的な願望なので…
{/netabare}

投稿 : 2024/05/04
♥ : 3

64.0 3 昭和で嫉妬なアニメランキング3位
キャシャーン Sins(TVアニメ動画)

2008年秋アニメ
★★★★☆ 3.8 (66)
382人が棚に入れました
荒廃した世界にて、長い眠りから目覚めたキャシャーン。目覚める前の記憶を失っていた彼は、何故か襲い掛かってくる敵と戦いながら自らの記憶を取り戻さんとする。荒野をさすらうキャシャーンは、やがて様々なロボットや人間と出会い、自身の背負った“罪”を知ることになるのだった……。

声優・キャラクター
古谷徹、宮原永海、皆口裕子、チョー、矢島晶子、森川智之、小山茉美、内海賢二

Witch さんの感想・評価

★★★★★ 5.0

雰囲気だけで御飯3杯はイケる?!傑出したダークな世界観

【レビューNo.100】(初回登録:2023/12/24)
オリジナルアニメで2008年作品。全24話。
「レビュー100本記念」はこれでいきたいなと。
他のレビュアーさんとやりとりして、昭和のアニメ「ガッチャマン」や「キャ
シャーン」を知らない世代に軽くショックを受けたので。
(冷静に考えるとウチの娘たちも絶対知らんわwww)
なので、その辺りのアニメも取り上げてみようと。
とはいえ、今更昭和の作品そのものを取り上げるものいかがなものかと思い、
平成にカムバックしていた本作を紹介しようと。

(ストーリー)
長い眠りから目覚めるも、それ以前の記憶を失っていたキャシャーン。
しかしその間にロボットを含む全世界は「滅び」が進む荒廃した世界へと変わ
ってしまっていた。
「キャシャーンを食らうと永遠の命が手に入る」
そんな噂に群がり、キャシャーンに襲い掛かってくる「滅び」に冒されたロボ
ット達。そして
「お前が犯した『罪』を思い出すまで許さない!!」
と、キャシャーンに付きまとう女ロボットのリューズ。
荒野をさすらうキャシャーンは、襲い掛かってくる敵と戦いながら自らの記憶
を取り戻さんとする。やがて様々なロボットや人間と出会い、自身の背負った
「罪」 を知ることになるのだった。
※ロボットの「滅び」
 → 体中に錆が発生し、部品交換も適わず朽ち果てていく現象。
   (それまで不死身に存在だったロボットに訪れた「死」という概念)

(評 価)
・昭和の名作を大人向けに見事にブラッシュアップ
 ・「キャシャーン」は昭和アニメで、ブライキング・ボス率いる「アンドロ
  軍団」に立ち向かうべく、東博士の息子の鉄也が「新造人間キャシャーン」 
  となり、人類を守るために戦う子供向けのヒーローもので、私も子供の頃
  お世話になった作品です。
 ・その「キャシャーン」から、主要キャラや終末期という世界観を引き継ぎ
  ながらも、単純な「懲悪もの」から「死生観」や「罪」といった哲学的な
  要素を取り入れ、大人向けにストーリーを一新したものが本作になります。
 ・主要キャラも前作から下記のように変更。
  ・キャシャーン
   悪を倒すヒーロー
   → 記憶を失った放浪者。唯一「滅び」から逃れた「不死身」の存在
  ・ルナ
   キャシャーンの相棒(ヒロイン的存在)
   → 他者に「生」と「死」を与える力を持つ存在
  ・ライキング・ボス
   アンドロイド軍団を率いる悪玉ボス
   → 狂言回し的な存在。(「滅び」のきっかけを作った張本人ではある)
  あと前作のような変身機能はないですが、ロボット犬フレンダーも引き続
  き登場するのは嬉しいですね。

・誉め言葉としての「雰囲気アニメ」
 元々キャシャーンは前作から、
 「終末感漂う荒廃した世界で繰り広げられるシリアスなストーリー展開」
 というダークさが漂う作品ではあるのですが(一応子供向けだったので強く
 は押し出してはいないですが)、本作では上述に加え
 ・「滅び」という「死」の概念が蔓延した鬱々とした空気感
  またそれから逃れられないという閉塞感やぺシニズム
 ・キャシャーンが犯したとされる「罪」という十字架の重さ
 ・大人向けの辛口な演出
 ということで、重厚でダークな世界観がホントたまらない!!
 そしてすべてを明確に語らず、ミステリアスな余韻が残る演出も相まって、
 本作が纏う「傑出した雰囲気」を創り出してるって感じですね。
 この雰囲気を味わうだけでも、本作を視聴する価値はあると思います。 

・秀逸なメカデザインと戦闘シーン
 前作から引き継いだ戦闘用量産型ロボットに加え、ならず者(?)のロボッ
 トのメカデザインはどこかレトロ感がありホントに秀逸です。
 また戦闘シーンでキャシャーンに破壊される際の部品が飛び散る作画や金属
 音など、メカ好きには堪らない描写も多いです。
 それにキャシャーンと同タイプで同等の戦闘能力を有するライバルキャラも
 登場しますが、この辺りの戦闘シーンスピード感や迫力があり熱の籠ったも
 のに仕上がっています。
 人間タイプのロボットも登場しますが、幼女のリンゴ以外はどこかにロボッ
 トと分かるデザインがなされており、それでいて人間らしい感情のセリフを
 吐き出したりとギャップも上手く作用しています。

・「生」と「死」を扱った割と重い作品
 前作が「懲悪的ロボットバトルモノ」ということもあり、そういう描写が多
 いですが、本作の本質は「滅び」というロボットに訪れた「死」の概念がも
 たらす、各ロボットの「死生観」にあります。
 ・「死」から逃れるためあがく者
 ・「死」受け入れる者、そしてそれにより気付きを得た者
  → 「他者と限りある時間を過ごすのが愛おしい」と感じる恋愛感情っぽ
     いもの
  → 「死があってこそ生がある」という生きている実感etc…
 しかし一度は死を受け入れたものの、キャシャーンという「蜘蛛の糸」が目
 の前に現れた時その者は・・・といった結構エグイ描写もあり「生」と「死」
 というテーマに対し、ロボット達は様々な答えをみせてくれます。
 そしてそれと対比しての「不死身」の存在となったキャシャーンの苦悩。
 
 またテーマから少しそれますが「ロボット軍団」を率いて一時頂点に立って
 いたライキング・ボスが目指した世界とは・・・
 哲学的な要素を含む面白い作品に仕上がっていると思います。

昭和の「ヒーローもの」だった子供向けだった作品を、「大人だからこそ楽し
める」作品にブラッシュアップしてきたタツノコプロの手腕は賞賛に値すると
思います。それに何といっても傑出したダークな世界観!!
それをしっかり24話で魅せてくれるという・・・
もう15年位前の作品となりますが、今なお十分楽しめる作品だと思います。

あとOP「青い花/カラーボトル」はかなりの名曲です。
(私の記憶が確かなら多分最後に買ったCDになるかな)

投稿 : 2024/05/04
♥ : 10

鉄のあくま さんの感想・評価

★★★★☆ 3.8

私がアニメにハマるきっかけとなった作品!

実写映画の「CASSHERN」のファンだった私は、この作品で初めてアニメを1話から最終話まで完走しました。
今思えば、これがきっかけでアニメを観るようになっていました。

基本的に「もうダメだ」ってくらい退廃的な世界の中で、主人公キャシャーンが小さな"生きようとする力"と出会っていき、自分の為すべきことを模索していく物語。

原作のキャシャーンを知っている人からすると「なんでキャシャーンを名乗る必要があったのか」というくらい独自の世界観・ストーリーになっていて、リメイク版とは決して言い切れない感じなんですが、原作アニメから実写映画、そして今作に受け継がれる作風で、シリアスかつシンプルで強いメッセージ性のある作品に仕上がっていると思います。

今観かえしてみると、特別なにかに優れていた作品とは思いませんが、なぜか人を引き寄せる"覇気"があります。
これは観れば感じて頂けるはずです。

観ている方が少ないようですが、序盤だけ観ても面白いと思うので、時間があれば是非とも。
おすすめです!

投稿 : 2024/05/04
♥ : 4

knightgiri さんの感想・評価

★★★★★ 4.5

死があるからこその生

オススメです。
24話でちょっと長いので一気にとはいきませんが。
意外に評価されてないんですね。

70年代のアニメ「人造人間キャシャーン」のその後の世界が舞台。人類との戦いを制したブライキングとそに配下のロボット達。永遠に続くロボット達の繁栄かと思いきや謎の腐食がロボット世界を滅びへと導いていく。

その世界を旅するキャシャーン。滅びゆく世界で様々なロボット達の死が毎話続きます。全体的に暗〜い世界観、リーマンショック直後のどん底の世の中を反映したものなのか。

救いは、ヒロイン役リュズとの恋バナ。姉の仇としてキャシャーンを憎む心が、キャシャーンと旅を続けるうちに揺れ動く。やっとキャシャーンに心を開いた時には、リュズの身体にも腐食が・・・・・

不治の病がヒロインをよりヒロインたらしめています。

追伸:登場してくる女性キャラがエロいんです。ビジュアルにエロいんじゃなくて、メンタルにエロイというか・・・・まあ、好みにもよりますが。(´・ω・)

投稿 : 2024/05/04
♥ : 2
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