短編アニメで初恋なアニメ映画ランキング 2

あにこれの全ユーザーがアニメ映画の短編アニメで初恋な成分を投票してランキングにしました!
ランキングはあにこれのすごいAIが自動で毎日更新!はたして2024年06月02日の時点で一番の短編アニメで初恋なアニメ映画は何なのでしょうか?
早速見ていきましょう!

67.4 1 短編アニメで初恋なアニメランキング1位
詩季織々(アニメ映画)

2018年8月4日
★★★★☆ 3.5 (64)
286人が棚に入れました
【陽だまりの朝食】北京で働く青年シャオミンは、ふと故郷・湖南省での日々を思い出す。祖母と過ごした田舎での暮らし、通学路で感じた恋の気配や学校での出来事...子供時代の思い出の傍には、いつも温かい、心のこもったビーフンの懐かしい味があった。そんな中、シャオミンの祖母が体調を崩したとの電話が入る。【小さなファッションショー】広州の姉妹、人気モデルのイリンと専門学校生のルル。幼くして両親を亡くした2人は、共に助け合いながら仲良く一緒に暮らしていた。しかし、公私ともに様々な事がうまくいかなくなってきたイリンはついルルに八つ当たりしてしまい、2人の間には溝ができ、大喧嘩をしてしまう。【上海恋】1990 年代の上海。石庫門(せきこもん)に住むリモは、幼馴染のシャオユに淡い想いを抱きながら、いつも一緒に過ごしていた。しかし、ある事がきっかけとなり、リモは石庫門から出ていき、お互いの距離と気持ちは離れてしまう。そして現代、社会人になったリモは、引っ越しの荷物の中に、持っているはずのないシャオユとの思い出の品を見つけるのだった。

声優・キャラクター
『陽だまりの朝食』坂泰斗、伊瀬茉莉也、『小さなファッションショー』寿美菜子、白石晴香、安元洋貴、『上海恋』大塚剛央、長谷川育美

けみかけ さんの感想・評価

★★★★★ 4.5

全然観に来てる人が少なくて嘆かわしい!!!これは正しく2010年代版『秒速』ですよ!!!

新海誠監督の制作拠点としてもお馴染みのコミックスウェーブフィルムの新作
新海作品に強い影響を受けた新世代スタッフを中心に、中国のハオライナーズが「中国の都市を舞台に、中国の衣・食・住・行(行は交通)といった文化をテーマにした『秒速』みたいなのを作りたい!」と実に10年も前に持ちかけた話がキッカケとなった短篇3部作です




~陽だまりの朝食~
雨の降る北京を足早に行く男性、シャオミン
彼は喧騒とした都会の朝の中で、ふと故郷の朝の思い出を蘇らす
幼少期の好物であった三鮮米粉(さんせんビーフン)を祖母と食べた日々
そして淡い青春の日の隣にも三鮮米粉はあった
いま彼の目の前にあるのは、チェーン店で量産された米粉だ
もう思い出の味を口にすることは無いのか…そう思った矢先、1本の電話が入る…


~小さなファションショー~
中国第3の都市、広州は世界中のアパレルメーカーが拠点を置く現代のシルクロード
そんな広州で一流ファッションモデルとして働く女性、イリンは服飾の専門学校に通う実の妹のルルと二人暮らしをしていた
順風満帆かに見えたイリンの人生だったが、モデルとしての人気にも陰りが見えてきたことに焦りを感じ、自分を追い込んでしまう
やがてやるせなさの矛先は妹のルルに向けられ、イリンとルルは喧嘩してしまう
仲直りのキッカケを掴めぬまま、イリンはモデル引退をマネージャーに切り出すのだが、マネージャーからは1枚のメモが託される…


~上海恋~
90年代、上海の石庫門(せきこもん)と呼ばれるポピュラーな集合住宅で青春を過ごしたリモ、シャオユ、パンの3人
リモ青年は建築設計士となって上海に戻ってきたが、仕事は上手くいかず憤りを感じていた
そんな最中、男友達パンが引越しを手伝ってくれていると1本のカセットテープが発見される
それは淡い想いを抱いた幼馴染、シャオユとの交換メッセージを送りあったテープだった…
なぜリモはテープをシャオユに返さなかったのか?
なぜリモとシャオユは離れ離れにならなければいけなかったのか?
全てを思い出す為に、リモはテープを再生出来るラジカセを探し始める




まず率直に今作、『秒速5センチメートル』『言の葉の庭』『君の名は。』といった新海作品が好きな人に是非観ていただきたいです


美麗な美術や作画は言うまでもありませんが、今作が描いているのはSFでもファンタジーでも無く、中国の等身大の日常です

中学校の制服がジャージだ、とか
蕎麦でも饂飩でもなく米粉が朝食だ、とか
日本で言うところの団地や長屋に相当する石庫門の作り、とか
色んなものが“あの『君の名は。』クオリティ”で丁寧に描かれつつも、オイラの様な日本人にはとても新鮮な光景に映るんです


ところが今作のストーリーの根幹で、“国や文化の違いがあっても人の青春は新海作品で描かれているモノと同じなんだ”という新海作品との共通点に辿り着くんです


新海作品と違うアプローチをしながらも、新海作品と同じ着地点に辿り着く
こんなに美しく、斬新で、面白い映画は今までにありませんでしたよ
文字通り、10年前では思いつかなかったであろう、2010年代版『秒速』ですねこりゃ


にも関わらず、プロモーションが上手くないのか東京都でも封切り時の公開館数は僅か5館
大作サマームービー真っ盛りの季節ということもあって、上映回数も来客数もまばら…


おかしい!
こんなに新鮮な作品を、今観ないで何時観るのか!?
けみかけは『詩季織々』を応援していきたいと思います
鑑賞料金は一律1300円の特別興行でお得
どうせ後からBDを後出しするんでしょうけど、鑑賞チケット提示で本編DVDも買えます(買いましたw)


個人的に、今後の日本のアニメ業界は“日本のアニメ制作の技術を海外の顧客や出資者に買ってもらう時代”が来てると思ってます
もう日本のヲタクの財布をアテにする時代は終わりました
そういう意味でもハオライナーズ、ビリビリ動画、NETFLIXが配給に協力している今作は新時代への回答を既に提示してると言えるでしょう


その一方で、エンドクレジットを観れば純粋な日本人のスタッフが制作現場の中心を担っていることがよくわかります


誰にでも出来るわけではない
日本人だからこそ作れるアニメを、世界の人にお金を払って観てもらう時代の到来と言えます
あなたも今作を鑑賞してみて、時代の先駆者になってみるのは如何でしょうか?

投稿 : 2024/06/01
♥ : 20

nyaro さんの感想・評価

★★★★★ 4.2

新海色が強いですが、映像・話・詩情・テーマすべて高水準です。

 チャイニーズ新海です。とはいっても出来は悪くないです。日本との合作のようですが、中国というのはやはり文化文明の国ですね。ここまでのレベルに到達しましたか。ちゃんと詩情があるじゃないですか。良い映画だったと思います。

 映像も日本の真似ではあるでしょうけど、日本だってアメリカやヨーロッパ、古くは中国文化へのあこがれと模倣でやってきた国ですのでお互い様です。日本の真似からどこまで独自性を生み出してゆけるか、というところまで届きそうです。


 1番目のビーフンのやつの出来は素晴らしかったと思います。食事と食堂という視点で成長と時代を見事にとらえ「豊かさとは何か」を描けていると思います。

 手間暇かけた化学調味料を使わない、1つの料理だけ出し続ける店。その食事の調理方法の説明は映像を含め素晴らしい出来栄えです。そして家族である祖母と一緒にいつも通りに食べる食事。素朴で質素で単純であるけど、そこにある精神的な充実と食事の本質を描写していました。

 そして、青春時代。機械が入って子供時代よりも多分味も質は落ちたでしょうけど、ビーフンを愛する奥さんが切り盛りする店の味はおいしいでしょうし、何といっても初恋の味ですね。
 おそらく儲けたいか楽したい旦那の葛藤の末、なくなってしまった食堂。ここに中国の資本化…日本でももっと昔に経験した失われた何かが表現されていました。
(なお、中国人の料理人は試験を通った料理人以外はかなり低い地位で、常に違う職に移る…という風俗らしいですので、それも入っているかも)

 そして超近代化した北京で食べるチェーン店のビーフン。まあ、機械と化学調味料の味ですよね。そしてそこで終わらないでラストですね。時代の節目を感じさせる良い終わり方だったと思います。
 もう少し視聴者を信じてセリフを少なくて映像だけで見せたほうが数段良くなったかな、という気はします。


 2番目のファッションモデルの話。これはちょっと話を作りすぎたかな、という気がします。家族に対する義務感とか売れなくちゃ、加齢に対する恐れを妹とライバルの若いモデルを使って描かれています。ちょっとステレオタイプな女性的な男性も出てきますし、うーん…という感じです。
 妹が描きたいテーマなのか、自分らしさなのかを切り分けて集中した方がもっと自然なストーリーになったかな、という気がしました。もちろん、妹がいたからこその義務感とプレッシャーだったんだとは思いますけど…誕生日とか恋人とかライバルがちょっとうるさかったかな。「すずめの戸締り」の環さんのまだ挽回できる年齢バージョンですね。

 作画も1話目よりは落ちる気がしました。印象として現代の中国の方がもう日本よりもスタイリッシュですよね。ここもちょっとテンプレ感はありますがタワーマンションの生活やファッション界の描写はなかなかよかったと思います。

 3番目は気持ちのすれ違いもの、ですね。それこそ秒速5センチメートル感がかなりあります。もちろん詩情とかダメージとかカタルシスとかそういうのは本家にはかないませんが、本作も結構いい話になっていました。青春ものとして、立派に「あの頃」とか「実は」とか「過ぎた時間」についていろいろ考えさせる作りになっていると思います。

 まあ、最後は新海監督ほどマゾじゃないんだと思いますが、そこをどうとるか、ですね。私はほっとした半面、そこが惜しいなあという気はしました。


 ということで、1番目のビーフンはかなり秀逸。日本に持ってきても上位に食い込む出来だと思います。3番めは露骨な新海フォロワー過ぎますが、ほろ苦くもさわやかな青春もので良い出来です。2番目がもう少し絞り込めていれば…という気がします。もう少し頑張りましょう、かな。

 全体として食事の描写がよく、自分の家族、家、故郷、文明化によって失われるもの、時間などなど一貫したテーマのオムニバスとして、非常にいい出来だと思います。

 作画はうーん…2番目がなあ…4かな。話は4点…いや、1番目が素晴らしいので4.5。キャラはオムニバスですが、3作とも主役の出来がいいので4.5。音楽・声優は調整で両方4にします。
 時間的にも80分もないですので、ストレスなく見られましたし、主観的にも満足度は高いです。

投稿 : 2024/06/01
♥ : 6
ネタバレ

ハウトゥーバトル さんの感想・評価

★★★★★ 4.3

20年前の朝食ってなんだった?

この話は三篇の話
四季折々といいながら(いってない)三篇に渡って構成されている中国アニメ。

三篇といっても個々の共通点はゼロ。強いて言うなら舞台は中国、という以外全て独立してます。ただテーマは一貫した物となっています。
共通といってよいのかわかりませんが、「時代の移り変わり」を様々な視点から捉えた作品となっています。
本作を一応中国アニメ、と評しますが制作チームの中には「」新海誠さんたちが所属する作画チームが参加しています。新海誠らしさは感じ取れませんでしたが、やはり雨の描写は流石でしたね。

中国アニメ、といえばとりあえず戦ったり、とりあえず世界最強決定戦を開いたり、と荒々しいイメージでしたが、本作は「時代を移り変わり」を主としているため、イメージとしては「言の葉の庭」のような(制作会社が同じで雨の描写が印象的だったというのもあります。)静寂かつ鮮明な心象を表しいている作品となっています。
この「時代の移り変わり」に着眼点を置く、というのも良いのですが、それを複数の異なる焦点をもって捉える。この発想は素晴らしいですね

別に小説(複数の作家の短編を載せているやつ)などでは珍しくはない表現の仕方なのですが、アニメでは珍しく、新鮮なものでした。
「時代の移り変わり」は日々の生活にあふれているもので、それ自体は珍しくありません。が、それを多角度から捉え、意識することでなんてことない日常を時代の移り変わりを感じさせる特別なものに感じさせる(残念ながら未だに日々を特別に思えないのですが)、そんな作品となっています。

話の内容としては「朝食」「ファッションショー」「上海」、と一般市民から見た「時代の変化」を表したかのような内容。
客観的な自己視点、という描写が多かったのも特徴的であり、このテーマの意義と非常に合致しています。
これを他者による語りならば実感はなく、ただただ空想にしかなりませんでしたし、ただの主観的感想を述べているだけだったら日記となんら変わりません。
しかし、客観的な自己視点を採用することで過去現在、そして未来の自分にまで範囲を広げることが出来ます。非常に考えられたものであり、評価せざるを得ません。
一つあたりの尺が短く、気軽に見れるというのも長所の一つです。

しかし
{netabare}
時代の移り変わり、というどうしようもなく抗うことの出来ない事象に対して、それでも抗ったり取り戻したりしようとする、という行為を描いているくせに、終わり方は完結。移り変わりという流動的な現象を完結という手法にしてしまうせいで違和感となり、本作を見終わったときに「ええ終わったのか」とあっけなさ、というか物足りなさを得る。まぁ純粋に一つあたりの尺が短いから、というのもありますが。
{/netabare}
さらに、テーマを重視したおかげで内容自体が薄い
{netabare}「過去を回想しながら今日も飯を食う」「トップモデルで限界が見えたが妹のためにもモデル続ける」「テキトーに返事しまくったらアンジャッシュしてたけど、夢を叶えたあと再会した」てだけですからね。かなり薄い。{/netabare}
まぁ雰囲気やテーマに合わせるのならば仕方のないことなのでしょうが。
しかし、やはり着眼点やテーマは素晴らしく、好印象です。
内容自体は薄く、矛盾してるかのような作品でしたが、楽しめたことには変わりなく、間違いなく中国アニメの印象が変わる作品であると思っています。

{netabare}
個人的には朝食は面白かったです。時代の移り変わりをダイレクトに、そして客観的に描写しており、「儚くも鮮明な人生」を体現したかのような、作品。
しかもそれを朝食、という一つのものに焦点を当てただけで表現できるんですから本編は純粋に褒めなければなりません。着眼点もさながら脚本も「移り変わり」を意識したものであり、詩季織々にあっていると思います。
{/netabare}

「陽だまりの朝食」の監督は中国の方
「小さなファッションショー」の監督は日本の方
「上海恋」の監督は中国の方

作画はかなりよく、さすがといえる出来栄え。
主題歌はビッケブランカさんの「WALK」

移ろうのは時代だけだったか
ということで締めます

投稿 : 2024/06/01
♥ : 2

62.4 2 短編アニメで初恋なアニメランキング2位
陽なたのアオシグレ(アニメ映画)

2013年11月9日
★★★★☆ 3.7 (75)
266人が棚に入れました
内気な小学4年生(ヒナタ)は、クラスで人気者の女の子(シグレ)のことが大好きな男の子。でもシグレと話をすることも出来ないヒナタは、彼女のことを思い描きながら妄想する日々を送っていた。そんなある日、突然シグレが転校してしまうことに…。悲しみに暮れるヒナタ、クラスメイトに見送られ去っていくシグレ。「僕はシグレちゃんに想いを伝えるんだ!」決心したヒナタは走り出す。

声優・キャラクター
伊波杏樹、早見沙織
ネタバレ

renton000 さんの感想・評価

★★★★★ 4.6

良い監督が現れた!

 18分のショートフィルム、石井祐康監督の劇場版デビュー作です。
 石井祐康監督は「フミコの告白」と「rain town」で話題になった方ですね。どちらも監督自身がyoutubeに全編を上げています。両方合わせても10分か15分くらいだったかな。気になる方はご覧になってはいかがでしょうか。

 本作のあらすじは、「シグレちゃんのことが好きな小学生4年生のヒナタくん。シグレちゃんを見ては、妄想に浸ってばかり。そんなある日、シグレちゃんの転校が決まってしまって…」といったところですね。18分の作品なので特にひねられたストーリーではありませんが、構成も演出関係も非常に良かったです。
 後半の大半がまるごと山場といった感じなんですけど、何度見ても飽きない力強さがあります。物語評価は納得の5点。作画評価はモブが動いてないところがあったので減点しています。劇場作品で、しかも18分しかないのですから、モブでも手を抜いてはダメです。それ以外の動き、特に躍動感は素晴らしかったです。石井監督が「フミコの告白」で見せた疾走感も健在です。


パンツ?:{netabare}
「ジャパニメーションになくてはならないとされる二つの柱、その一つが『華やかさ』を引き受ける可愛い婦女子の笑顔とパンツ、そしてもう一つがアニメの 『派手』の代名詞とさえいわれる『爆発』だ。ジャパニメーションの真骨頂はこの二つである。偏見ではない。この二つが揃ってこそ正統なジャパニメーションだ。」
 これは石井祐康監督の言葉ではなくて、今敏監督の言葉ですね。

 この作品にはパンツのシーンが3回出てくるんですよ。18分の作品で3回です。そのうちの1回は残念ながら(?)ヒナタくんの方なんですけどね。で、こんなにパンツエピソードいるのかな、と。のび太くんとしずかちゃんを彷彿とさせるヒナタくんとシグレちゃんなんですけど、このほのぼのとした二人のお話にパンツは邪魔なように思えました。
 ただ、その後に爆発シーンがあるのでとりあえずは許すことにしました。なんか笑顔とパンツから来る「華やかさ」と「爆発」がジャパニメーションに必要らしいので。個人的には、シグレちゃんの笑顔だけで十分!とも思うんですけどね。

 あと、石井祐康監督って、笑いの作り方が結構古典的なんですよね。悪いとか嫌いっていうのではないですけど、もうちょっとサッパリしたのが見たいかな。まぁ、この作品に関しては子供向けを意識していると思われますので、分かりやすい笑いのでも良いんですけどね。
{/netabare}

 雑談は以上。ここから本題ですけど、基本的には既視聴向けとして書いています。いつも通り遠慮なしに書いてしまうので、未視聴の方はご注意ください。というか、基本的には未視聴の方には非推奨です。この作品はかなり綺麗にまとまっていますから、アニメの読解力を試すにはうってつけの作品です。ご自身の解釈を得た上で、私の解釈に触れていただければと思います。


鳥と花(植物):{netabare}
 作品内では、妄想と現実が頻繁に切り替わるんですけど、両者をつなぐ象徴物として使われているのが鳥と花(植物)と電車ですね。ここでは鳥と花(植物)について述べます。
 鳥と花(植物)がヒナタくんの妄想につながるきっかけは、鳥がシグレちゃんの持っているキーホルダーで、花がシグレちゃんのカチューシャです。カチューシャには白い花の飾りが付いています。

 妄想内では、シグレちゃんのカチューシャのワンポイントは赤い花に変わっています。文字通りバラ色ってことなのでしょう(ツバキかもしれないけど)。で、ヒナタくんは鳥籠を模した閉塞空間で鳥と植物に囲まれて絵を描いています。そして、シグレちゃんとの思い出を積み重ねていくたびに、鳥の種類が増えていき花が咲き誇っていきます。ここまでが前半。

 シグレちゃんの転校が明らかになった後は、カチューシャの赤いバラが散って、植物に囲まれた鳥籠は現実の廃墟に変わってしまいます。妄想に浸って絵を描いているときは廃墟が気になっていなかったけど、別れを目前にして現実に引き戻されてしまった、ということなのでしょう。

 決意の後からが山場突入です。鳥の力で廃墟の鳥籠を壊して、鳥の助けを借りながら追いかけます。この際には、ビル群や電車がだんだんと植物に覆われていきます。山場での妄想シグレちゃんは、現実と同じ白い花のワンポイントが付いたカチューシャをしています。バラ色の妄想が終わってしまい、現実のシグレちゃんを意識しているのでしょう。妄想の世界と現実の世界がリンクを強めていることは、現実でのシグレちゃんの涙が妄想内にも届いていることからも分かります。

 山場での演出の肝は、「鳥が助けてくれる」というのと「植物に覆われていく」ですね。これはそのまま「シグレちゃんと積み重ねた思い出である鳥と植物が力になって助けてくれる」ということなんだと思います。素敵な表現でした。
{/netabare}

電車:{netabare}
 山場で空へと昇っていってしまう電車。このフラグは、ヒナタくんのパンツシーンのときにシグレちゃんが読んでいた本ですね。「銀河鉄道の夜」。これに七夕メニューの給食(宇宙を連想させるもの)が関連することでその意味合いを補強しています。銀河鉄道は死へと向かう鉄道ですけど、今作では別れの鉄道として使われていたようです。

 現実での「タクシーに乗って遠ざかってしまうシグレちゃん」に、シグレちゃんが読んでいた「銀河鉄道の夜」の思い出が影響することで、「空へ昇って行く別れの電車」になっていたんだと思います。唐突に空へと昇っていったわけではなく、きちんとフラグが用意されていました。
{/netabare}

エンディング:{netabare}
 銀河鉄道に乗られると「死んじゃうのかな?」というイメージが強いせいか、電車で別れたシーンには「今生の別れで、二度と会えないのかな?」という印象を受けました。このシーンはすごくさわやかに描かれているので、強烈なギャップを上手く描いているなぁと感心してしまいました。

 最後の後語りを見たときに「やっぱり会えるのかな?」と感じたところもあるんですけど、この描き方ってやっぱり会えないっぽいですよね。
 シグレちゃんの青い目がどうにも引っかかっていたんですけど、シグレちゃんの引っ越し先であるお父さんの実家って、これ外国ですよね? お父さんとおばあちゃんに加えクラスメイトも外国人ぽいし、教室内はアルファベットだし、お弁当はみんなサンドイッチだし、市場も外国人だらけだし。「お互い気には掛けているけど、もう会う機会はない」ってのが結論のような気がしました。「夏休みにはまた帰ってくるよね?」という質問にも返事がなかったですからね。


 この作品て、たった三ヶ月の話なんですよね。黒板の日付などから5~7月の三ヶ月だっていうのが分かります。正確に言うのなら1学期の終わりだと思われる7月25日まで。現実の植物の描写として青い葉のイチョウや咲いたアジサイなんかが出てきますから、そこからも季節を察することが出来ます。

 鳥や植物のように表立って使う演出もあれば、本のタイトルや日付などのこっそり隠す演出もあって、作品としてのバランスは非常に良かったと思います。無駄なものが一切なく、きちんと作品内で説明し切っていますし、見終わった後の余韻もしっかりありました。短編とは言え、ここまで練り上げた構成力は称賛すべきものだと思います。
 石井祐康監督には早く長編を作ってほしいですね。{/netabare}

投稿 : 2024/06/01
♥ : 11

ひろたん さんの感想・評価

★★★★★ 4.1

子供から大人へ一歩成長する、その瞬間をたったワンシーンで描いて見せた貴重な作品

小学生の男の子が同級生の女の子を好きになるお話です。
キャッチフレーズは、「男子小学生の全力告白アニメーション!!」です。
主人公は、自分の想いを伝えるために全力で走ります。
最初から最後まで一直線な物語でした。


■妄想

この物語で何よりも面白いのは、その演出です。
主人公の現実と妄想が交互に描かれ、主人公の気持ちを「妄想」で表現します。
嬉しければ、花が咲き、鳥がうたいます。
悲しければ、花は散り、ガラクタが散乱します。

私たちが子供のころ、何かに夢中になっている時のことです。
自分は何者かになったような妄想をしませんでしたか?

速く走っていれば、何かに向かって駆け抜けているヒーローのように。
傘を持ってくるくる回していれば、それこそ魔法少女のように。
そこの小さい側溝を飛び越える時でさえも、まるで空を飛んでいるかのように。

子供のころは、自分を妄想の中に置いていたような気がします。
逆に子供だからこそ何の迷いもなくできた妄想なのかなと思います。
大人になるにつれて、何者にもなれない自分を知り、いつしか、妄想をやめてしまう。
そして、気付けば、現実でしか物事を考えなくなっている。
そんな乾いた心に潤いを与えてくれる、そんな作品です。
この作品は、現実と妄想を行ったり来たりする「童心」をとても上手く描けています。


■こうして、子供から大人へ一歩成長する。

主人公は、最後、告白しなければならないと決意するときがやってきます。
そして、好きな女の子のもとへ全力で駆けていきます。
走る、走る、そして、走る。
この疾走感の描き方は、とても上手いなと思いました。
しかし、実は、普通に考えたらとてもじゃないけど追いつけない状況なのです。
でも、主人公の想いを「妄想」がバックアップし不可能を可能にしてしまいます。

そして、ついに女の子に告白するときがやってきます。
頭の中の妄想では、告白はバッチリできそうだと思ったその瞬間、目の前に現実が。
さて、実際の告白は、いかに?

このシーンは、とても良いと思いました。
とても子供らしく微笑ましい結末でした。
その一方で、主人公は、妄想と現実とは、やはり違うことを自覚し始めました。
こうして、子供は、大人へと一歩成長するんだなと言うのがよく分かります。
それをたったワンシーンで描いて見せたのがすごいなと思いました。


■まとめ

子供から大人へ一歩成長する、その瞬間を描いた貴重な作品だと思いました。
私は、とても楽しめました。

投稿 : 2024/06/01
♥ : 18
ネタバレ

さんの感想・評価

★★★★★ 4.8

西壁に刺さります

監督は石田祐康氏
学生の時に制作したフミコの告白で文化庁メディア芸術祭アニメーション部門優秀賞を獲得した若手のアニメーターにして演出家。

この人の作品の良さはとにかく場面展開が気持ち良いところ。
設定の面白さや物語の深さに重きを置いている方は合わない可能性もある。
しかし、この気持ちの良さは、出そうと思っても簡単に出せるものでは無いし、観る人にちゃんと気持ち良いと感じさせるのは更に難しいはず。
それが出来てしまうのは、監督自身の鋭く磨かれた感性、そして研究の成果もあるだろうけれど、丁寧な作品作りがあってこそなんだろうなー
これは短い作品だから出来た事かもしれないけれど、妥協することなく手間暇をかけて制作したからこその結果なのだと思った。

フミコの告白から引き継がれたドジな主人公に、精一杯の走り描写。
最初は随分ませた小学生だなあなんて思っていたけれど、ひなたくんの一生懸命過ぎる想いに、次第に目が離せ無くなって、最後はボロ泣き。

涙脆くなったよなあ…前はそんなでも無かったのになあ…と思いつつ円盤をポチった。
そして限定版を持ってるのにも関わらず、ゲオでレンタル版を借りるという奇行に走る。

声優の演技力も凄いし、作画の演技力も高いし、スピッツの曲「不思議」もピッタリで感動する。
セリフの半分くらいを「ひなたくん」「しぐれちゃん!」で占めていても良いと思う。ジョンレノンとオノヨーコだって二人の名前を呼びあうだけのCDを出してるし、語彙が無くても想いは伝わるもの。


たった18分の物語。是非多くの方に見てもらいたい。


そういえば、物語の内容について{netabare}しぐれちゃんが行ってしまう時の演出で、なぜ電車が飛んでいるのだろう?鳥を魅せたいための演出かな?と勘ぐっていたら、もう一重重ねた設定になっていたのには驚かされた。{/netabare}
根幹は凄くシンプル。
しかし、さりげなく散りばめられたイベントが面白いかったり、盲点を突いていたりするから面白く感じるのかもしれない。

投稿 : 2024/06/01
♥ : 21
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