「機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ(アニメ映画)」

総合得点
76.5
感想・評価
176
棚に入れた
709
ランキング
692
★★★★☆ 4.0 (176)
物語
3.8
作画
4.5
声優
4.0
音楽
4.0
キャラ
4.0

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ネタバレ

なばてあ さんの感想・評価

★★★★★ 5.0
物語 : 5.0 作画 : 5.0 声優 : 5.0 音楽 : 5.0 キャラ : 5.0 状態:観終わった

胡桃のなかのミノフスキー・クラフト

おそらくきょうが、大阪では最後のドルビーシネマ回。ブルク7のシアター1で都合4回目。

原作は未読。宇宙世紀は『逆シャア』まで履修済み。自分はガノタではないけど『Z』世代のはしくれではあり、「ダカールの日」のスピーチはいまでも大好きというくらいの、・・・その程度のライトユーザである。

正直言って、作品のグランドデザインはけっして好みではない。わたしはTRIGGER的な作風が好きなのであって、いわゆるProduction I.G系のフォトリアリズム(ただ、たんに「リアル」とか「リアリズム」とか言ってドヤ顔をしてる輩はもうすこし日本語を勉強すべき、・・・ここにあるのはまぎれもなく「写実性」)を追求する作風は、キライじゃないけど積極的に推したいとは思わない。それはもちろん「{netabare}攻殻{/netabare}」シリーズや「{netabare}PSYCHO-PASS {/netabare}」シリーズ、そして押井守全盛期の作品はすごいと思う。思うけれど、それはある種醒めた評価であって、激賞という感じではなかった。

ところが。

もう本作は激賞するしかない。好みの方向性ではないにもかかわらず、もうすべて褒めちぎるしかない。非の打ち所がない。マジメに考えるなら、これは、ハリウッドの数年に一度出るかどうかの大作をアニメに置き換えたようなデザインである。アニメの強みを誇張してそれを最大限展開していくTRIGGER風の方向ではなく、実写の強みを整理してそれを最大限置換していく方向である。具体的にいうと、レイアウトとカメラワークがすごすぎるという話。こういうとラストのモビルスーツ戦がすごいのかって思われがちだけど、それはまちがいではないけど、真の意味ですごいのは、日常パートである。

飛行機の機内、ホテルのロビー、崩壊していく街、火の海になる公園、あわただしい船着き場、ひなびたスラム、リゾート然としたビーチ、熱帯雨林を偽装した秘密基地、・・・そのすべての場面で、すべてのキャラクタが自分の立ち位置を綿密に座標として割り当てられていた。これは、すべての場面を3DCGで組んでいるというわけではない。そうではなく、レイアウト参考でCGを使って、キャラクタの立ち位置と顔や身体の向きをひとつひとつ設定し、適切なカメラワークを繰り返し試行することでベストのバージョンを決定し、そのうえで、原画参考にそのアウトプットが回されているということ。

もちろん、きょうびのマジメに作っているアニメはどこでもやっていることだけど、このレイアウトとカメラワークの目指すべき方向性について、厳密に実写のそのレベルを凌駕するということで関連スタッフの意識が統一されており、そして実際にそれを成し遂げてしまったということが、いままでのアニメとはまったくことなる表現レベルに到達した理由だろう。もちろん『{netabare}シン・エヴァ{/netabare}』における、あのひとり歩きした「プレビジュ」という製作技法もこれと近いところがあるのだが、スタッフの目指すべき方向性(落とし込む完成形)のイメージがまったく異なっていたということだろう。

告白すればわたしは作品のグランドデザインとしては『{netabare}シン・エヴァ{/netabare}』のほうが好きだ。アニメをアニメたらしめている曖昧模糊としたやわらかくてこぼれやすい理想みたいなものに触れられるような、アニメアニメした方向性が好きだ。けれども、本作のこの作品の完成度のまえには、ひれ伏さざるをえない。実写とCGでこれと同じ作品を作ることは容易で、そしてその作品は佳作ではあっても傑作ではない。この実写が培ってきた説得力を強引に、けれども、あくまでさりげなくアニメというメディアに載せ替えているその手際が鮮やかすぎて、目が離せなくなるのだ。

その他、作画、脚本、撮影、演技もろもろ、どこにも瑕疵はない。

ひとつ、印象的なシーンを挙げるとすれば、ふたつめのPVでも使われていた、{netabare}夜の公園でガウマン搭乗のメッサーがペーネロペーにとどめを刺されて、機体から派手に降り注ぐ火花をバックに、ハサウェイとギギが抱き合う{/netabare}場面。画的にも文句の付けようながいほど整っていて、かつその耽美さは涙腺を刺激するほどであり、一方ストーリィ的にもハサウェイの今後を象徴する味わい深さがある。良く出来ている。いや、出来すぎている。嫌味なほどに、完璧なのだ。もちろん時代時代で完成度の基準は推移するわけだが、ここまで研ぎ澄まされた作品というのは、どこまでふり返らなければいけないのか。たぶん『{netabare}GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊{/netabare}』は当時似たような立ち位置だったのだろう。

いずれにせよ、本作はアニメ史の流れを分岐させる、もしくはアニメ史の世界線を跳躍させるだけのインパクトを持った作品である。ガノタであろうとなかろうとにかかわらず、絶対に見た方がいい、しかもドルビーシネマで。ドルビーシネマでみないと、あの夜戦のシーンの迫力は伝わらない。ドルビーシネマというひとつのメディアの存在意義を、もっとも明快に示す作品でもあって、その意味では、アニメ史にとどまらず映画史やメディア史でも参照されるべき作品となった。

褒めっぱなしなのも居心地が悪いのでひとつだけ難点をあげると、TRIGGER好きのわたしからすると、本作はちょっと「文学コンプレックス」が感じられなくもない。まあそれが富野節ということなのかもしれないけれど「登場人物の感情や心理的な機微が織りなす高揚と悲嘆」みたいなものこそが作品の本質である、・・・的な価値観がうっすら感じられなくも、ない。別の言い方をするなら、本作を「作画アニメ」とのたまう輩はたぶん出てこない。それは作画の素晴らしさが目立たないくらい、ほかのあらゆる要素が素晴らしく、なによりストーリィが素晴らしいからだ。ほとんど難癖でしかないけれど、けれども、この難癖は最上級の賞賛のトッピングと思っていただければ幸いである。

あと、ギギちゃんがかわいいすぎて胸が苦しい。

衝撃:★★★★★
独創:★★
洗練:★★★★★
機微:★★★★★
余韻:★★★★☆

投稿 : 2021/08/12
閲覧 : 200
サンキュー:

6

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