「アリスとテレスのまぼろし工場(アニメ映画)」

総合得点
72.8
感想・評価
65
棚に入れた
180
ランキング
1070
★★★★☆ 3.9 (65)
物語
3.8
作画
4.3
声優
4.0
音楽
3.8
キャラ
3.7

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ネタバレ

てとてと さんの感想・評価

★★★★★ 4.4
物語 : 4.5 作画 : 4.5 声優 : 4.5 音楽 : 4.5 キャラ : 4.0 状態:観終わった

未来が無くても愛は尊し、これぞセカイ系の神髄。マリー節濃厚な割には割と爽やかなラブコメだった

「さよならの朝に約束の花をかざろう」に続く、岡田麿里監督の二作目の劇場作品。
時間が停滞してる?閉鎖空間?の鉄工所都市を舞台に、閉塞感や情動抱えた主人公ヒロインのセカイ系ラブロマンスな感じ。

【良い点】
世界観が面白い。
過去作だと「ゼーガペイン」とか「グリッドマン」彷彿とするが、主人公たち以外の街の住人全員がセカイの仕組み理解しているケースは珍しい。
寂れた鉄工城下町の(多分)昭和~平成初期ぽい?郷愁と相まって、時が停滞している世界観に引き込まれた。
また、この世界観を出し惜しみすることなく、序盤から家族との会話劇などで丁寧に視聴者に開示、セカイの秘密に過度にのめり込むよりも、少年少女のドラマに注力していた。
この手の過去作と比較して、良くも悪くもドラマ重視。
次第に明かされるセカイの真相や、綻び破滅が近付いていく予感を丁寧に描写、ドラマを飽きさせなかった。

寂れた時の停滞した街を舞台に、中学生の行き場の無い鬱憤…からの、面倒くさそうでいて結構素直なラブコメが良かった。
ヒロインはかなりマリー節の効いた拗らせ女子な割に結構可愛く見える、これは世界観をドラマの舞台と割り切った作劇と、三角関係の一方の軸が幼女で対抗軸になっていない故に、ドロドロしそうでいて意外とドロドロを回避していた。
次第に明かされるセカイの真相を追う過程で、逃れられぬ儚い関係性と結末が提示されている故に、ドロドロするよりもセカイ系の真骨頂な美しいラブロマンスに昇華したのが上手い。
破滅が不可避な状況でなお強い絆で結ばれる少年少女、これぞセカイ系ラブコメの真骨頂。
ラスト、主人公ヒロインがどうなったかの過程は開示されないが、現実世界で成長した娘ちゃんが鉄工所跡を訪れるシーンの繊細な機微から、多くを語らずとも美しい物語だった良き余韻残した。

ヒロインが(実は実の娘?)に対して恋敵として容赦しない姿勢は流石はマリー作品。
娘ちゃんを現実世界に送り出すシーンでの「未来はあなたのもの、けれど彼は私が貰うッ!」はゾクゾクした。
マリー節炸裂の名場面だけど、セカイ系純愛ドラマとして美しい故に、ドロドロも綺麗に思える不思議。
例えセカイが滅びても愛は勝つ!これぞセカイ系ラブコメの神髄であり、本作は見事にそれを体現していた。

本作のテーマは複数あり、「ツァラトゥストラはかく語りき」をモチーフに宮崎駿作品「君たちはどう生きるか」以上にどう生きるかを問うて見せたり、
たとえ滅びが不可避でも生きるんだ的な意志も素晴らしい。
主人公ヒロインの選択は「放課後のプレアデス」の謎の少年や、近年だと「サニーボーイ」も少し彷彿、未来の有無に関わらず、選択する意志の尊さ感じる。

マリー作品の割に不快なキャラが少ない点も良い。
親との関係がそこそこ良好だったり(けど母娘の緊張感はやはり凄まじいが)ちゃんと愛はあるのでかなりマシな方。
何気にカルト教祖?も面白いキャラで憎めなかった。
悪役ではあるがセカイの仕組みを鑑みて維持を目指した男、主人公の父が「あいつが正しかった」と認めた通りだったり、主人公父との拗れた友情ドラマも良かった。
周囲のキャラが特異な世界観で精一杯生きる生き様を見せており、彼らの存在もセカイの魅力に貢献していた。

作画は寂れた工業都市と時間停滞したセカイの不気味さが伝わる良作画。
声優陣は久野美咲氏は流石のプロ幼女、上田麗奈氏のマリー節との相性の良さ。
他には教祖役の佐藤せつじ氏も良かった。ガノタ的にはターンAのジョセフしか知らないけれど、大塚芳忠氏を彷彿とさせた。

主題歌が中島みゆきソングで素晴らしい良曲。
きちんと作品の主題を表現して心に響く。主題歌はかくあるべし。

【悪い点】
セカイ系ロマンスが良かった一方、もう一方のどう生きるか方向での作劇がやや浅かった。
停滞を望まず変化する者は消滅する(エンジェルビーツの成仏を彷彿)、主人公も未来が無いセカイに絶望しながら成長ドラマとこれは良かったが、
そこからセカイ系ロマンスに持っていくのが矛盾を少し感じる。
丁寧に見ると心情の変化はちゃんと描かれているんだけど、背反するテーマを欲張り過ぎた感も。
尺不足なので、できればセカイ系ラブロマンスに絞ってほしかった。

主人公と娘ちゃんの交流とロマンスが今一つ。
感情表現が未熟な野生児的幼女では、三角ラブコメの一方の軸にはなりづらなった。
そこは過度にドロドロしない良い点でもある。

【総合評価】9~8点
マリー節でセカイ系をやればこうなると見せてくれた。完成度も高い。
賛否ありそうだけど自分は大好き、前作母子物よりも好みだった。
自分はセカイ系全般が大好きなので。
評価は「とても良い」

奇しくも同年の「君たちはどう生きるか」と重なる要素が多いけれど、本作の方がドラマやテーマが分かり易かった。

投稿 : 2023/09/28
閲覧 : 69
サンキュー:

5

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