「劇場版ポケットモンスター アドバンスジェネレーション 裂空の訪問者 デオキシス(アニメ映画)」

総合得点
62.4
感想・評価
118
棚に入れた
826
ランキング
4803
★★★★☆ 3.5 (118)
物語
3.5
作画
3.6
声優
3.5
音楽
3.4
キャラ
3.6

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ネタバレ

ナルユキ さんの感想・評価

★★★☆☆ 3.0
物語 : 1.5 作画 : 4.0 声優 : 3.5 音楽 : 3.5 キャラ : 2.5 状態:観終わった

シナリオを面白く見せるテクニックが感じられない。スケールも小さい

東洋龍をモチーフとした伝説のポケモン・レックウザと宇宙から飛来した幻のポケモン・デオキシスが激突する本作。当時の触れ込み通り、レックウザの『はかいこうせん』が(後で『じこさいせい』するとはいえ)デオキシスの肉体を粉々にしてしまうなど、エグ味もあるド迫力なバトルシーンが冒頭で描かれている。
怪獣映画として申し分ない展開。そこに少年・トオイの『ポケモン恐怖症』と彼に手を差し伸べるトレーナーたちのジュブナイル要素も入ってくるのだが────

【ココがひどい:グダグダなタッグバトル】
毎作のお楽しみである映画ならではのバトルシーンがトオイのせいで台無しだ。しかし冒頭で彼がポケモンを恐れるようになった出来事がしっかりと描かれているだけに、この時点から彼を責めることが出来ないのが実にもどかしい。
{netabare}そもそも静寂が求められる図書館と喧騒止まないバトル会場が同じ施設にあるのが可笑しな話で、そこからトオイの弁明を聞かずにサトシと組ませてバトルに出場させる杜撰な係員、手違いを押して棄権しようとするトオイにポケモンを貸し与えてまでバトルをやらせようとするサトシと続く────まあ忘れられがちだがサトシは10歳の少年でもあるし、直前に対戦相手であるリュウの挑発を受けていたのでトオイもろとも棄権するなんて選択はしたくなかったのが台詞から伺える。
貸し与えたポケモンのチョイスも悪くない。サトシはピカチュウ(でんきタイプ)、対戦相手はバシャーモ(ほのおタイプ)とカメックス(みずタイプ)という選出だから『ポケットモンスターAG』の手持ちでベターなのはヘイガニ(みずタイプ)となるが、ヘイガニのやんちゃな性格では他人の指示を素直に聞くとは思えない。よってカメックスに弱点を突かれてしまうがおとなしい性格のコータス(ほのおタイプ)を代わりに、というのは実に理に敵っている。
しかしトオイ選手、そんなコータスに対して1度も指示を出さない。後でポケモンたちによる大縄跳びには回し手を買って出ているのに、遠方からの指示出しは出来ないのだと言う。
2vs1でボコされるピカチュウ、ついでにカメックスの『あわ』攻撃や『こうそくスピン』を棒立ちで受けてしまうコータス。一方的な動物虐待を見ても少年は何もしようとしない。事情を知らないサトシは当然「やる気あるのか?」と不快に思うし、視聴者も冒頭でポケモン恐怖症のことを知らなければ同じように思う筈だ。
結果は勿論、サトシらの敗退。恐怖症の少年に「もういい」という罵声を浴びせたり胸倉を掴んだりしたサトシにヘイトを向ける人が多いが、この見せ方は制作陣の「サトシsage」にも感じトオイへの同情はそこまで出来なかったシーンだった。{/netabare}

【ココもひどい:どこかで見たことあるパニックホラー展開】
{netabare}中盤からは復活したデオキシスが本作の舞台であるラルースシティに襲来する。デオキシスは分身とも影ともつかない分裂体を大量に生み出し、人間やポケモンを空から捕まえて連れ去っていく────デオキシスのエイリアン的なデザイン含めて『宇宙戦争』か何かのオマージュだろう。UFOは流石に登場しないが。
ポケモン映画では珍しい反面、あまり期待しなかった展開だ。オニスズメの群れに格上トレーナーの数々、過去の劇場版作品では圧倒的な力を持つミュウツーやエンテイにも臆することなく立ち向かったサトシや、そんな彼に勝利したリュウすらデオキシス・シャドーの物量を前に逃げ出してしまう。ハルカたちも逃がすための殿(しんがり)は進んで務めるものの、前述のパニックホラー展開に持っていくためのキャラ変が垣間見えたシーンだ。
施設に籠城し、お腹が空いたので結局危険を犯して外へ食糧を取りに行く。その際に襲撃されてまた仲間が拉致されるという“パニック映画あるある”は本作から『ピカチュウの夏休み』系のミニアニメの同時上映が無くなった分伸びた尺の無駄遣いだろう。トオイのポケモン恐怖症もなかなか治らずデオキシスの目的もわからない。同じような展開とシーンが40分以上も続いてしまって趣に欠ける。{/netabare}

【ココもひどい:伝説のポケモン(笑)】
さらに本作の看板ポケモンとなったデオキシスとレックウザ、両者の目的や行動理由がやけにチープである。
2004年発売のゲーム『ポケットモンスター エメラルド』において、レックウザは大地の化身・グラードンと海の化身・カイオーガの激突を止めた調停者として描かれていた。そんな「争いを止める側」だったポケモンがデオキシスに対しては激しい敵意をぶつけてくる。デオキシスはレックウザに何をしてしまったのだろうか────?
{netabare}なんてことはない。ただ地球へ飛来する際に「オゾン層を通過した」だけである。てんくうポケモンであるレックウザはオゾン層全域を縄張りとしている。高度25000mの縄張りを侵すポケモンは地球上では確かに1匹も存在しなかったのだろう。それを初めて侵したポケモンこそ宇宙からやってきたデオキシスだったのだ。
しかし、怒り過ぎである。1度は北極で肉体を跡形もなく吹き飛ばしたことで気が済んでもいいくらいなのに、4年後に復活したデオキシスを追ってこちらもラルースシティにやってくる。そして『はかいこうせん』を連発。有志によると劇中で放った光線は23発にも及ぶとか。たった一度の領空侵犯を咎めるにしてはあまりにも過剰かつ執念深すぎるのではないだろうか。
その個体がとてつもない力を持ち人から「伝説」や「神話」を与えられても、ポケモンはポケモンであり理性の少ない“獣”でもある。獣は縄張りを保持しそこに立ち入ったものに容赦なく攻撃する。そういった“生き物”の原点の主張をやりたかったのかも知れないが、このレックウザの縄張りへの執念と報復はどうしても「伝説のポケモンのくせに器が小さい」という印象がついてしまう。{/netabare}

【ココもひどい:幻のポケモン(笑)】
{netabare}一方、デオキシスの目的は先に隕石状態で地球にたどり着いた「仲間に会いたい」といったもの。その隕石はロンド博士がラルースシティに持ち帰って研究しており、その場所を特定してラルースシティにやって来た筈なのだが────どうやら詳しい位置までは把握できなかったようだ(笑)
生物や機械が微量に放つ電磁波すら過敏に捉えて自身の視界の妨げになってしまうため、不気味な分身を大量に生み出した人海戦術で邪魔な人間やポケモンたちを退かしながら仲間を探していたというのが事の真相だ。
なので拐われたトレーナーたちは別に取って食われたりエキスを吸われたりするわけではない。皆、1つ所に集められて無事でいる。これが解ってしまうと逃げも隠れもする必要がなかったことにも気づいてしまい、上記のパニックホラー展開も「茶番」に思えてしまう。どちらにしろ拐われた人たちが無事で済むのなら前作『七夜の願い星 ジラーチ』のメタグラードンのようにデオキシスが凶悪なポケモンで、捕らわれた人たちに命の危機を設けた方が落胆せずに済んだ筈だ。
デオキシスに「仲間・同胞を求める」という行動基盤を与えたのもどうなのだろうか。キャッチーでマスコットフォルムなシェイミなどなら良く似合っているが、不気味なエイリアンを彷彿とさせ、フォルムチェンジや『サイコブースト』など強大な力を持つデオキシスにはもっと「孤高」な存在であって欲しかったと思う。{/netabare}

【キャラクター評価】
トオイ
4年前の出来事からポケモンを恐れるようになり、そのせいで友達も出来なかったなど、ポケモンと人間が密接に繋がっているこの作品世界で大きなハンディキャップを抱えてしまっている少年だ。本作はそんなトオイが主人公であり彼の成長譚が盛り込まれている。
{netabare}しかしこの『ポケモン恐怖症』、あまりデオキシスやレックウザと関連がなかったのが残念。せいぜいポケモンに触れなかったせいでマイナンが拐われてしまったのを悔やむくらいしかないし、それも話を追えばそんなに深刻になる必要もなかった。{/netabare}
{netabare}ポケモンへの恐怖を「治す」という結果も(キッズアニメに言うことじゃないかも知れないが)ありきたりでつまらない。ポケモンは炎や電気、謎の力を発する危険な生き物なのだから恐れを抱くこと自体は「正しい」感情の筈である。それを克服という全否定をするのではなく「どう向き合っていくのか」を魅せてくれれば大人も唸る独創性のあるポケモン映画になっていたのではないだろうか。{/netabare}
{netabare}ポケモンは無理だけどデオキシスの精神体には明るく話しかけられるというのも特に伏線めいたものがなく、彼に割いた多くの尺や設定は物語全体で見ると不必要だったのではないかと考えてしまう。{/netabare}


【総評】
一見して他のポケモン映画と遜色ない作品だが、真剣に追って観れば観るほどストーリーが浅く、構成も悪い。
時系列を入れ替えてしまうとメインターゲットである児童が混乱すると危惧したのかも知れないが、物語の時系列を起こった出来事順に1から見せてしまったせいで構成に捻りがないだけでなく、トオイの設定に驚く機会が喪われつつ、事情の知らないサトシの言動・行動を見て視聴者が印象を悪くするといった負の連鎖が生み出されてしまった。ここはセオリー通り、
{netabare}①ラルースシティに訪れるサトシら一行
②トオイとサトシのタッグバトル
③初めてトオイがポケモンを避ける理由が明かされる(過去回想){/netabare}
とした方が良かっただろう。
{netabare}こちらも「前作までずっと続いていた構成なのでマンネリだった」と擁護的に考えられなくもないがハッキリとした悪役(ヴィラン)が用意されていなかったのもエンタメとして致命的。デオキシスもレックウザも深い事情がなく「仲間を見つけるため」「縄張りを侵されたため」と酷く単純なものになっており、そういった100%ポケモンにある問題を人間(トレーナー)側が解決してあげるという流れは劇場版よりも地上波アニメでやるようなスケールの小さいお話である。そこにトオイの成長譚で水増しもしてしまい、いまいち各要素の調和が取れていない。{/netabare}
伝説ポケモンたちの圧倒的な戦闘描写、プラスル、マイナンらマスコットポケモンたちによる微笑ましい1シーンなどポケモン映画の伝統的な部分は辛うじて守られているものの、20作以上に及ぶシリーズの中でちょっと人にオススメするのは憚られてしまう。そんな作品だった。
{netabare}まあこれらの反省は当時とっくに済ませていたのか、次作『ミュウと波導の勇者 ルカリオ』ではルカリオの主観によるミスリードと時間花と呼ばれるアイテムでのタネ明かしなどストーリー面もやや上向きに修正されているので、もしサトシ引退を機にポケモン映画だけでも見直すか、と思っている方がいたらジラーチの次は1作飛ばしてあちらを観ると時間の節約になるやも知れませんね。{/netabare}

投稿 : 2023/03/15
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サンキュー:

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