青陽 さんの感想・評価
4.7
物語 : 5.0
作画 : 5.0
声優 : 4.0
音楽 : 5.0
キャラ : 4.5
状態:観終わった
ありがとう…ありがとう…!
時代背景、堀越二郎という人物、結核という病気…事前に予習をばっちりしていったので、一度目に観たときの感涙はやばかった。
庵野監督が主演声優という不安もあったが、彼はまさしく二郎だった。唯一、菜穂子と再会したときのセリフ「あっ!あの時の!」だけはなんか笑えたが。
物語として
二郎の夢に向かう情熱的な姿も印象に残ったが、最も心打たれたのは、やはり2人の愛の形だった。
二郎と菜穂子、2人に残された時間はあまりにも短かった…。だけど、短くともたしかに存在するその時間を2人は大切に、懸命に生きた…。この時代には、結核の抗生物質は無い。また、結核は空気感染の危険もある。文字通り、命がけの新婚生活だ。
映画を観た人の中には二郎の妹のように、菜穂子がかわいそうだと思った人もいるだろう。でも、それが2人の選んだ生き方だったんだから、妹も私たちも口出しできない。
菜穂子も、一緒に暮らせるとは考えてなかった。最初は、病院を抜け出し、二郎に一目会えたら帰るつもりだった。どうしても彼が愛しくて、会いたい。駅での再会のシーンは久石さんの音楽の素晴らしさも含め、涙無しには観られなかった。
病院を抜け出してきた菜穂子、その気持ちに対する二郎の答え・覚悟が「一緒に暮らそう」というものだった。菜穂子はさぞ驚き、嬉しかっただろう。二郎の覚悟に対し、菜穂子もまた覚悟を見せる。
2人の強い覚悟を黒川さんも汲んでくれた。二郎を家に匿ったり、結婚式を準備してくれたり、彼は本当にいい上司だと思う。
結婚式のシーン、二郎のもとに向かう菜穂子はジブリ作品の中でも屈指の美しさを感じさせた。
あの横顔、佇まいは現在の女性にはあまり見られない凛とした美しさがあった。だけど、見ている側はその命の儚さを知っているから、その顔がどこか切なく見えて、涙を流さずにはいられない。
結婚式が始まってからの
二郎視点で描かれた華やかで美しい菜穂子も素敵だったが、このシーンには敵わないと思うのです。
「ふたりが暮らした。」
ハウルのときのキャッチコピーですが、この作品にも合っているなーと思います。
仕事に行く夫を見送ったり、帰ってきた夫の着替えを手伝ったり、一緒に眠ったり…こう書くとありふれた時間のようだけど、2人にはかけがえのない大切な時間だったんですよね。
なんかミスチルのsignとも合ってる気がします。
そして、そんな幸せな日々にも終りが来ます。九試単戦の飛行テストに向かう二郎を見送った後、菜穂子の表情が切なげになるんですよ。もうこの時点で涙が…
彼女は自分の病状が悪化していて、もうこれ以上一緒に暮らせないことを悟っていたのでしょう。
ひとり山奥の病院へと帰っていく菜穂子。彼女の気持ちを汲み取った黒川夫人の
「美しいところだけ好きな人に見てもらったのね」というセリフに涙腺を砕かれました。
そして、ラストシーン。随所でキャストの方が
セリフが変更され、良いラストになったと語っていました。
絵コンテ集で確認したところ
菜穂子のセリフが
「あなた、きて…きて」から「あなた、生きて…生きて」に変わっており、最後のカストルプ氏のセリフは
「私たちも行かねばならん」から「君は生きねばならん」と変わっていました。
最初は、二郎が亡くなった後、天へと導かれる感じの終幕だったのでしょう。しかし変更後は、二郎がこれからも生きていくことを示しています。素晴らしい性能を誇るゼロ戦を作ったが、結局戦争に向かった機体は一機も戻ってこなかった…。打ちのめされた二郎だが、それでも菜穂子の言葉で生きていくことを決意します。
実在の堀越二郎は、戦後に国内初の旅客機を設計しています。
きっと映画の二郎も美しい夢を追い続けるでしょう。
あ〜良い映画だったと思ったら、エンディングで流れるひこうき雲にまたやられました。
40年も前に作られた曲ですが、本当に映画に合っています。この曲を元にして映画ができたのではないかというくらい。
実写、アニメ、映画、TV…今まで観てきた全てのエンディングの中に、これほど泣いたものはありませんでした。
飛行機が美しい夢なら、映画もまた美しい夢です。
こんなにも美しい夢を見せてくれた宮崎監督はじめ、スタッフの皆さんに感謝いたします。
最後(?)に素晴らしい作品をありがとうございました。