「クズの本懐(TVアニメ動画)」

総合得点
83.1
感想・評価
1025
棚に入れた
5254
ランキング
332
★★★★☆ 3.6 (1025)
物語
3.5
作画
3.7
声優
3.6
音楽
3.6
キャラ
3.5

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ネタバレ

エイ8 さんの感想・評価

★★★★☆ 3.9
物語 : 3.5 作画 : 4.5 声優 : 4.0 音楽 : 3.5 キャラ : 4.0 状態:観終わった

遂げられたのは果たして本懐?

『クズの本懐』(クズのほんかい)は、横槍メンゴによる日本の漫画作品。『月刊ビッグガンガン』(スクウェア・エニックス)で2012年Vol.10から2017年Vol.04まで連載された。テレビアニメとテレビドラマも同月に最終回を迎えたことから、同時完結となった。
2017年1月より3月まで、フジテレビ「ノイタミナ」枠にて放送された(wikipedia)

ある意味リアル路線な恋愛劇、そこに独白の応酬やエフェクトをかけてそれっぽくしている感じでした。大体みんなこういったドロドロした現実が嫌なので創作には純愛を求めることが多いと思うのですが、本作はドロドロ感はそのままに文学的修辞でさも美しい話であるかのように仕上げております。
ただ所詮はモテモテたちの自己憐憫物語に過ぎないので共感できるかどうかは視聴者のリア充度にかかってるような気がしますw大人だとそこそこいそうな気もしますが、さすがに高校生だとクラスに一人か二人いれば良い方じゃないかと。多少偏差値で増減しそうではありますが。本来なら大学生の物語であるぐらいが適正の内容だと感じました。

作中で主人公の一人である粟屋 麦(あわや むぎ)くんもチラッと似たようなことを言ってましたが、本作は何処となく恋多き女性アーティストの歌詞にありそうな世界観です。或いは少女漫画ってこういうのが多いのでしょうか、とにかく言い訳の連続です。最初のうちは「はえ~、大変なんやなあ」ぐらいの感じで観てたんですが登場人物のどいつもこいつもが理屈理屈理屈自虐自己正当化のオンパレードでやや食傷気味。わかったわかったから!どうせ結局やることやるんでしょっていう。というか最中事後でもぐだぐだぐだぐだぐだぐだぐだぐだ……まあ本来的にはこのグダグダこそが本作のウリなのかもしれませんが、ここが合うか合わないかで一番評価が変わってきそうな気がします。個人的には分量稼ぐために水増しされた小説の地の文読まされてるような気分になりました。

傍から見れば性に奔放な人達、但しご本人たちからすればむしろ一途で純情で身体よりも心を求めている、つもりの人たちの物語。手に入れられないから忘れるためにも他を求め、それでも尚忘れられないからより一層代替品を求めるという悪循環に陥り悩み苦しんでいるらしいのですが……いやはやとっかえひっかえできるご身分の時点でうらやましいことこの上ありません。

序盤にメイン主人公の安楽岡 花火(やすらおか はなび)が麦に惹かれた理由として「自分と同じ眼」をしていたからとかなんとか言っていたと思いますが、はっきりいって高嶺の花に片想いすることなんて全然珍しくもなんともないので単純に彼の容姿が目当てだったのだと思います。実際麦くんモテモテですもんね。鴎端 のり子(かもめばた のりこ)ことモカちゃん(最可=「最も可愛い」の略だそう。そういや昔のモー娘。に「極度に可愛い」と自負というかキャラ付けしてた人がいたことを思い出しました。)からは幼少の頃からずっと好かれ続け、早川芽衣という先輩とは中学の頃からただれた関係を続けるという生粋のジゴロキャラ。で、そんな彼の部屋にまでほいほいついていった挙句自分から手を出しにいくという……まあどう見たって彼女の中で理屈と感情が食い違ってるだけですよね、あれ。色々言い訳してますけど単純に一途じゃなく多情なだけだと思います。実際うだうだ言い訳しながら茜先生のセフレにまでほいほいついていってますし。

とはいえ麦くんはそんな花火ちゃんを据え膳にセルフお預けを割りと余裕で行います。こ、高校生にして何という自己抑制……と感心しちゃいましたがおそらくだからこそ設定上早川先輩との関係があったのでしょう。彼女の超ド級のプロポーションはそのためにあったのだと思います。とはいうものの現実だととてつもないナイスバディと特訓を積んだからと言ってそうとはいえない相手に余裕が生まれるとは限りません。やっぱり麦くんがすごいのです。モテる男はこうでなくっちゃ。
しかしそんな麦くんをもってしても事前には確認を取ります。それについて彼自身、特にモカちゃん相手にはやけに自虐的になってましたが今のご時世確認取らなくても問題にならないのはオメーみたいなイケメンだけだよ!とか思わず叫びそうになりました。しかしやっぱり彼みたいなモテ男になるとまずは相手の気持ちを優先することを考えるのでしょう。さすがでございます。「(モカの方から)好きって、俺が言わせたみたいなもんだ……」みたいなことも仰ってましたが、これを誇るのではなく負い目に感じる辺り外側だけでなく内面も立派なイケメン様であると存じます。

序盤の頃はそんな麦くんのイケメン無双道中記かと思ってました。彼の名言「思春期のおもちゃだね、オレって」……こちとらある意味今でもおもちゃのままなんですが?だからこそこうやっていい歳こいてあにこれでこんなん書いてるわけなんですが?なんでこうも麦くんが言うのと全然見え方が違ってくるのでしょうか、不条理です。

と、まあそんなこんなで若いイケメンに対する嫉妬がふつふつと湧き上がってきた矢先に舞い降りたる一輪のラフレシアこと皆川 茜(みながわ あかね)センセ。いや~良いですね~ドビッチですね~。以降は彼女の悪女っぷりに首ったけで実に楽しく視聴させていただくことができました、中盤までは……。

問題が生じたのは鐘井 鳴海(かない なるみ)が存在感を出してきてからです。彼はほんともう純然たるさわやかメガネキャラで、あろうことかビッチ茜の本性を知っても尚彼女の全てを受け入れようとします。
この流れはちょっと意外というか興ざめでした。だって本作のタイトルは『クズの本懐』ですよ?なので実は花火の母親とデキてたとか、裏でいつも花火の残り香をくんかくんかしてたとかの変態エピソードの一つぐらい用意してると思っていたら主要メンバー唯一と言っても良いまさかの「真っ当な人」設定。ほんととんだ期待外れでしたよ。というかね、ここ普通に花火ちゃんと恋させときゃ良かったんですよ。少女の頃片想いしてた年上の男性と恋が成就した、とても嬉しい!だけど大人になって改めて考え直したら「おいこいつ未成年に手ぇ出してやがってたぞ?とんだクズヤローだったな」ってできるんですから。それをあえてせず彼だけ「真っ当」に拘ったのは何故なのでしょうか?せいぜい少々のマザコンと髪フェチをこじらせてるぐらいではとてもではありませんがクズなどと謳えません。それどころかクズをクズのまま廃品になる前に回収するという変人っぷり。というか茜さん、彼のプロポーズを前にして「めちゃくちゃ浮気しますよ?」だなんて……こんなん昭和の男の言い草ですよw

正直よくこんなオチに出来たなあって思います。浮気された経験というか、搾取された側からすれば嘘でもこんな茜みたいなキャラにパーフェクトなハッピーエンドを用意して文字通りの花を持たせることを良しとなんてしない気がしますが。いやだってこれ『クズの本懐』でしょ?と言われるかもしれませんが、茜センセにとっての本懐は搾取することそのものであってこういう「全てを受け入れてくれる旦那さま」ゲットじゃなかった筈です。(というか、それなら別に麦くんでも良かったわけですし。)しかも最後には花火ちゃんにブーケトスよろしく花を贈ったりしたわけです。もしこれが嫌味100%のマウント行為だったとしたら確かに茜センセの本懐が達成されたと言って良かったのかもしれませんが。

或いはひょっとしたら茜を救済したかったというよりは鐘井先生を完全無欠の理想的男性に仕立て上げる方が目的だったのかも。そしてこれこそが誰かさん(達)の本懐だったという可能性も無くはないのかもしれません。(実際、作中で本懐を遂げたのは変人であってもクズとは言えない彼だけでしたし。)
ある意味茜センセは彼の「男を上げる」ために異常なレベルのクソビッチにさせられたのかもしれません。こうやって見ると男も女も真に求めるは浮気を許容してくれるパートナーなのかもしれませんねw

さてこのようにお兄ちゃんどころか終盤には事実上主役の座すら奪われた形の花火ちゃん。最後は本物を求めるとかどうとか言って麦くんと別れます。ですがその直前まで彼女ヨリ戻す気満々だったんですよね、新しい契約がどうのこうの言ってwだけど先に麦くんの方からハシゴ外されたもんだから急遽方向転換してのあの流れなわけです。そう、実質彼女フラれてるんですよ。それをお得意の脳内独白で無かったことにしてるんです。ほんっと彼女も終始こんなんばっかでした。結構難関の学校に通われてるようですが、せっかくのお利口な頭がそんなことにばかりに役立てられていて……親御さんが知ったらどう思うでしょうか。
とはいえ、最後の最後で自分に好意をもってくれた相手への気遣いを見せることができたのは素直に成長したと言っていいのでしょう。というか序盤のあの名言「興味のない人から向けられる好意ほど気持ちの悪いものってないでしょう? 」、これネットでちょくちょくみかけてはいたんですが出典がこの作品だったんですね。彼女本人がすぐにブーメランと気づいたように実際は彼女の内面の未熟さの象徴としての言葉だったんでしょうが、ネットではあたかも真理のように悪用されちゃってますよねw煽り文句としては確かに優秀かもしれませんが、これを本気で捉えてしまうと初期花火ちゃんと同レベルのメンタリティということになってしまうので気を付けましょう。

そういえば花火ちゃん、アニメでは茜センセの男の一人であるタクヤとの関係はオチないままでしたが原作ではどうなったのでしょうか?彼女は茜センセへのコンプレックスから彼を手玉に取ろうとしましたが観てて滅茶苦茶危なっかしかったです。そもそもヤリチ〇が〇リチンやれてるのって場数踏んでる上に成功体験が多いからなんですよ。そんなん相手に妄想こじらせたような戦法で駆け引きしようとするだなんて自殺行為もいいとこです。こういう「火遊び」は相手みてやらないとえらいことになりますよ……と言いたいところなんですがそういう相手だからこそ「火遊び」やりたがるんでしょうねえ。人間の本能とはおそろしいものです。

ひょっとしたら作者はその辺わかってあえて描いてるのかもしれません。物語を観てても気持ちを守りたいからと平気で身体を道具に使おうとしたり、その一方で身体を通じて気持ちを得ようとするなどどう見たって矛盾の塊なのは結局本能を理屈で捻じ曲げてるだけという事を言いたかったのかも。茜センセもあれだけ女子マウントを取りたいがために略奪行為を繰り返してると言っときながら最後の方では「当事者意識が低い」との大どんでん返し。理屈張った作品でありながら本質的に理屈の世界じゃないんですよね、この作品。だからちょくちょく幼少期の姿を利用して、その感情と合致したあり方を正解であるかのように擬装しているわけです。(これを言ってしまうと身も蓋も無いのですが、総じてキャラクターの心情から行動を導き出してるのではなく、選んだ行動の言い訳をそんな風に取り繕ってるだけのようにも見えるのは……さすがに言わない約束ですよねw)

例えば茜センセの場合、もし鐘井と結ばれたことが「こんなに気持ちよく」、彼を選ぶことが正解なのだとしたら「めちゃくちゃ浮気しますよ?」とはならない筈なんです。あれはツンデレではなく彼女自身が「人はすぐには変わらない」と独白したように、ぶっちゃけ改心するほどの経験ではなかったんだと思います。視聴者としてはああいうシーンを見せられると彼女の中でのコンプレックスが解消され「浄化」されたかのように見えがちですが、実際は単に大げさなレトリックをみせつけられただけです。

まあ、現実に茜センセみたいな人がいたら間違いなく不倫おばさんになるでしょうね。だけどどれだけアンチエイジング頑張ってもそれが通用するのはアラフォーぐらいまで。それ以降でも選ばなきゃ相手自体はいくらでもいるでしょうが女子マウント基準となると難しいと思います。浮気しないような人ならわざわざおばさん相手にリスク負うことは無いでしょうし、テストステロン満載の浮気上等タイプなら若い子優先しますから浮気することそのものが二番手以降ということを自覚させられるという矛盾行為になっちゃいます。
そしてそんな満たされない、不幸で不幸でたまらない私にも素敵な彼くんが!というところで鐘井先生の出番です。彼なら茜センセが誰からも相手されなくなっても変わらず愛を注いでくれることでしょう、おそらく髪を切ったとしても。
それどころかどこの馬の骨ともわからん相手と子供こさえてきても分け隔てなく育て愛してくれるでしょう。まさに理想の旦那様。昨今重要なのは血縁でなく関係性と言う声が強くなってますが、まさにそれを象徴するかのような「真っ当な男性」として漫画化されSNSを席巻する日がくるかもしれません。案外マジでスピンオフ始まったりして。

ただ、男視点からすると鐘井先生みたいなのは男向けラブコメとかエロ系に出てくるただただ主人公に都合の良い巨乳美少女みたいなもので全く現実味がありませんでした。にもかかわらずノイタミナで流してもらえるような評価を得られるのなら凡百の男向けハーレムラブコメなんかでも独白しまくりゃ奥深くて良い作品って思ってもらえるかも。ただ売れなくなるでしょうけどね。

それはそうと作者の横槍メンゴといえば結構前に「君は淫らな僕の女王」で知っていたのですが本作では全く違う作風で結構面喰いました。正直面影あるのはレロレロ描写ぐらいでこんなに変わるものなのかと、しかも調べてみたらほとんど連載期間被ってる!?……と、よくみたらあっちは原作付きだったんですね、いやあビックリしましたよ。

投稿 : 2022/07/10
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サンキュー:

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