「平家物語(TVアニメ動画)」

総合得点
77.2
感想・評価
343
棚に入れた
1069
ランキング
629
★★★★☆ 3.9 (343)
物語
3.8
作画
3.9
声優
4.0
音楽
3.8
キャラ
3.8

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ネタバレ

青龍 さんの感想・評価

★★★★★ 4.1
物語 : 4.0 作画 : 4.5 声優 : 4.0 音楽 : 4.0 キャラ : 4.0 状態:観終わった

「びわの役割」と「歴史モノ」と「声優全員主人公問題」

本作は、日本人なら誰もがその結末を知る軍記物語『平家物語』のアニメ化作品である。物語は、平家の栄華の頂点から始まり、後半はそこから平家が一気に滅亡に向かって転落していく展開に引き込まれる。また、私は、予てより平氏は武家でありながら貴族として伸し上がろうとし、源氏はあくまで武家のまま天下を取ろうとしたところに両氏の明暗を分けた重要な差異があると考えていたところ、本作は、その対比がうまく表現されていると感じた。
以下、本作を視聴する上で気になった点が3つあるので、それについて書いていく。


【「びわの役割」について】
本作に登場するびわは、歴史上の人物ではなく、彼女が歴史の大筋を改変してしまえば、それはもはや『平家物語』ではなくなってしまうから、平家の大筋の歴史に介入することはない。
また、平家物語は、登場人物が多いため、それぞれの登場人物の異なる視点から語ったのでは、視点がコロコロと変わって視聴者が見難くなる。そこで、びわは、彼女からの固定された視点を通じて、平家一門の栄枯盛衰を眺められるよう視聴者の便宜のために設定された、いわゆる「狂言回し」である(例えば、NHK人形劇三国志で紳助竜介が演じたシンシンとロンロン。なお、「狂言」は能狂言の意であり「トリックスター」とは異なる。)。
したがって、彼女は、視聴者のために設定された便宜上の存在にすぎず、本当に存在したかのようなリアリティをある程度付与されてはいるものの、基本的に物語に介入しないのが「お約束」になっていると考えられる。

確かに、観る側は、彼女が作中の人物として描かれ(未来が見えるだけに物語に介入できそうに見える)、かつ本作は悲劇なのであるから、彼女に救いを求めてしまう気持ちはわかる。しかし、彼女は、基本的に傍観者であり、視聴者と同じ存在といえる(彼女の未来が見える設定は結末を知っていても何もできない視聴者の暗喩といえ、見た目が変わらないことも架空の存在であることを匂わせる。{netabare}また、重盛から受け継いだ左目は、負の連鎖を断ち切る「赦し」「鎮魂」の象徴なのだろう。我々が平家物語を通じて平家を忘れないことが鎮魂になる。なお、徳子が渦に巻き込まれる未来視は、彼女の死を暗示するものであるが、史実通り彼女は生き残る。この辺りは、本来何も出来ないはずのびわについて、監督が観る者の感情と折り合いをつけるための工夫だったのかもしれない。{/netabare})。


【「歴史モノ」について】
本作は、栄華を極めた一族(登場人物が多い)が一気に没落するまでの壮大なストーリーを全11話にまとめたのだから、どう考えても尺が足りない。それゆえ、それぞれの登場人物に複雑な背景を書き込んでいくだけの余裕がない以上、人物描写は簡略化せざるを得ない。その辺は、見た目、わかりやすい行動など、アニメである点を上手く活かしてキャラ付けが補完されていると感じた。

確かに、ある程度歴史の知識を持ち合わせた人間からすると、そんな乱暴なキャラ付けがあるかと憤る気持ちもわかる。しかし、冒頭で書いたように、「平氏は武家でありながら貴族として伸し上がろうとし、源氏はあくまで武家のまま天下を取ろうとしたところに両氏の明暗を分けた重要な差異」があり、それに基づいた意図的な色分けを感じた(平氏の貴族化と源氏(木曽義仲と源義経)の武者振りとの対比、源頼朝は両者の中間のどっちつかず(源氏の将軍が3代で終わり、後の北条氏による執権政治の暗示ではないだろうか))。
また、前述のとおり尺が限られており、説明不足の表現はかえって分かりにくくなるから、このように伝えたいテーマを絞って(大筋を改変しない限度で)歴史を再編集することは、情報の発信者としてむしろ好ましいとすらいえる。本作は限られた尺の中で上手くまとめられていると感じた。

このように歴史を再編集した場合、「歴史と創作」は、「原作とアニメ」の関係と同じ問題、つまり可能な限り史実(原作)に基づいた創作でなければならないのかという問題が生じる。これは、視聴者が歴史として学んだことや他の創作物から形成された既存のイメージとの乖離によって起こる。単純にいえば、自分が思っていた『平家物語』と違うことからくる違和感である。

確かに、「歴史モノ」である以上、本筋を変えない範囲(この辺の許容範囲も人によって異なるとは思われる)という制約はある。しかし、史実(通説)と異なると思われる演出には、製作者側に何らかの意図があるものだ。
例えば、『三国志演義』では、史実以上に関羽の武勲が盛られている。それは、演義を羅貫中に書かせた商人の出資者に、商人の神様であった関羽の名声を高めようとする意図があったらしい(youtubeの「ゲームさんぽ」で早稲田の渡邉義浩教授が言っていた。)。
もっとも、そうであるからといって、世界的に愛されてきた創作としての三国志演義の価値が低下するものではない。

「歴史モノ」は、あくまで創作であるから、フィクションの部分に史実と異なる違和感が生じがちである。しかし、それは製作者が一定の意図に基づいて歴史を再編集した結果生じるものであり、そこに製作者の独自性がある。また、その製作者の視点が歴史モノの面白さの一つだろう(同じ演目でも演者によって変わる落語みたいなもの)。

とどのつまり、『平家物語』も古典とはいえ庶民の娯楽でありアニメもエンタメなのだから、その製作者の独自性が、史実に基づいているかより、あくまで作品としての面白さにつながっているかが常に優先されるべきだろう。


【声優について】
本作では「声優全員主人公問題」が発生している。これは、声優をかつて主人公を担ったことがあるような豪華な配役にした際によく起きる現象である。
この問題は、配役がその人物の声に合っているかや演技の善し悪しではなく、「登場人物が多い作品であるにも関わらず」主人公のようなイケボばかりで特徴的な声の人物が少ないため、「声だけで誰かを判別しにくくなる」という問題である。また、男性の登場人物が多いため、びわを女性にしたのだろう。そのため、尺が足りない問題に加えて、「見た目」の差異に頼って人物を特徴づけざるを得なかったと思われる。

本作では、清盛役の玄田哲章さんや後白河法皇役の千葉繁さんは周囲との違いがわかりやすく、重要な役どころだけに配役への配慮を感じる。もっとも、声を聞いただけで声優の名前を判別できる層には共感されない(笑)。しかし、若本規夫さんが自分のように特徴的な声を持つ若手が育っていないことをよく危惧しているように、ポスト玄田、千葉、若本に該当する若手声優がいるのか?と問えば少しは共感してもらえるだろうか。
(追記:本レビュー投稿後、『Re:ゼロから始める異世界生活』のペテルギウス役の松岡禎丞さん、『ゴブリンスレイヤー』の鉱人道士役の中村悠一さん、『ダイの大冒険』のクロコダイン役の前野智昭さんが普段の主人公的イケボと違う特徴的な声を出していたことを思い出す。普段の発声を変えてまで出演を求められるくらいなのだからこういった声に需要はあるはずだ。今後はこういう芸達者な人が生き残っていくのだろうか。)

声優で特筆すべきは、上で書いたように「びわ」が架空の存在のため、ふわふわとした現実味のない役どころで演技によっては一気に現実味を失う危険もあるのだが、悠木碧さんの演技に違和感はなかった。琵琶法師としての歌にも迫力があった。

投稿 : 2023/07/09
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