「魔法少女まどか☆マギカ(TVアニメ動画)」

総合得点
90.9
感想・評価
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棚に入れた
37391
ランキング
45
ネタバレ

たばこ さんの感想・評価

★★★★★ 4.5
物語 : 5.0 作画 : 4.5 声優 : 4.5 音楽 : 4.0 キャラ : 4.5 状態:観終わった

敵は一体誰なのか(レビュー紹介追加)

最近アニメ自体はちょこちょこと見ていたものの、中々「レビューを書きたい」とそう思わせる作品に出会わなかった。酷評を書く労力さえもったいない、そういった「気の抜けたコーラ」みたいな薄味のアニメばかりにあたっていたので、この作品は久しぶりの良作だった。

見た目からして、いかにも秋葉原近辺をうろつくキモオタニートたちの「おかずネタ」アニメだろうと邪推していたんだけど、どうにも評価が高いので見てみたら、どっこい、すばらしい出来である。
多分ここ数年で一番の話題作だろうし、語るに尽くされた感もあるんだけど、ひとつだけやはりラストの閉め方、その落とし方の秀逸さについては書いておきたい。しかし、それを述べるまえに、押えるべき点がいくつかある。

●本作における「敵」は誰なのか?
多分、というか、間違いなく、本作を語る上で、もっとも重要な問いかけがこれである。
この魔法少女まどか・まぎかって作品では、一体誰が「悪い奴」なんだろうか。簡単なように見えて、実はなかなか簡単ではない。笑

●悪い奴候補その1: 魔女
物語序盤、「魔女」について語られる。それは人類にとって、一言で言えば、「災い」だ。人を惑わせ、自殺に追い込んだり、殺人などの罪を犯させたり、ひいては地震や竜巻などの自然災害(の原因)として多くの人を死滅させる類の「悪」として描かれる。
そして、それを「退治」するのが魔法少女、という按配だ。よくある魔法少女系アニメお決まりの勧善懲悪の構図。幼児向けの水戸黄門といった具合だ。
しかしながら、この魔女、実は昔は皆「魔法少女」だったということが明らかになる。希望に溢れた、まぶしい魔法少女、それらがじわじわと滅入り、輝きを失い、希望をすり減らし、一歩一歩、歩を進めるたびに全身から憂鬱が滴りおちる、そして最終的に絶望したとき、この魔女に堕ちる。こうして、魔法少女―魔女という不毛な一連のサイクルは営々と循環し続ける。
つまり、魔女とは「諸悪の根源」ではないのだ。氷山の一角であり、一連のサイクルにがっちりと組み込まれた「生産物」でしかないのだ。
この魔女をいくら退治しても、それはなんの根本的な解決にもならない。無数に沸くゾンビをぶちのめし続けるようなものだ。だから、こいつは「敵」ではない。物語において、敵とは、それを倒すだけで全てが解決する、そういった類の存在なのだから。

●悪い奴候補その2: キュウべい
では、一体誰が本当の「敵」なのだろうか?ここまで来れば答えは簡単だ。「魔法少女―魔女循環システム」を造りだし奴こそが真の敵だ。お分かりだろうが、それは、キュウべい(もしくは、それが代表する地球外生命体:インキュベーター)に他ならない。
このキュウべい、実は序盤から要所要所で「不気味なもの」として描写されていて、その「醜悪さ」については注意していると割りと簡単に気付くはずだ。何を語るにも不気味なほど感情を表に出さず、気味の悪い赤目だけをギョロギョロとぎらつかせる。二言目には「僕と契約して、魔法少女になってよ」とそそのかす。まるで、人の良いおばあさんに高値の羽毛布団を売りつける悪徳業者のそれである。悪いことをしているという自覚もなく、ただひたすら自身の利益のみを貪欲に追求するモラルのぶっ壊れた生物だ。
事実、こいつはまどからに対して「ひとつの願い」をかなえることを引き換えに、魔法少女になる真のリスクなどを一切明かさずに契約を迫る。どこぞのブラック会社のような詐欺まがいのことを平然でやってのけるのだ。
もうこいつで「敵役」は決定だ。ただし、こいつは何度殺しても復活するから、こいつの大元である「インキュベーター」それ自体を破滅させないといけない。


ところが、だ。
そうは問屋が卸さないのだ。笑

確かに、このキュウべい、魔法少女をだまくらかして、醜悪な「魔法少女-魔女循環システム」に組み込もうとはする。しかし、このシステムも、実は大きい目で見たとき、マクロ的な視点で俯瞰したとき、人類全体にとって「利する」ものだ、ということが明かされる。

キュウべいはこのような説明をする。(といっても、私の説明だがw)

宇宙の法則のひとつに「熱力学第二法則」というものがある。それは、高質なエネルギーから低質なエネルギーへのエネルギーの方向性は一方的であり、不可逆的であるというものだ。例えば、ここにひとつほかほかの温かい肉まんがあったとして、それを食べずにほうっておくと「勝手に」冷めてしまう。しかし、当然だけれど、それをいくら放置し続けても「勝手に」もとのとおり温かくなることはない。ひとりでに肉まんが熱々になることは有り得ない。これが乱暴だけれど、熱力学第二法則だ。
そして、ここからが重要な点だが、この冷めてしまった肉まんをもしまた温めようとすると、電子レンジなり、蒸し器なりでもう一度「加熱」しないといけない。そこには新たなエネルギーが必要となる。そしてエネルギーとは、有限の、限りある資源である。
つまり、人間は「未来永劫、肉まんを温め続けることはできない」のである。いつかは、必ずエネルギーが枯渇して、肉まんを温めることができなくなってしまう。人類はこのままだと将来的には、冷えた肉まんしか口にすることができなくなってしまうのだ。
そしてこれは、地球だけの問題ではなかった。宇宙ではより早くこのエネルギー資源の問題にぶち当たっていた。キュウべいこそが、その問題に真正面から取り組み、その解決策を見出した生命体であった。彼らは人間の「感情」がこの貴重なエネルギー資源になることを発見した。他の生命体は持ち合わせていない、この「感情」が石炭であり、石油であり、原子力であり、液化天然ガスになるのである。そして、それを上手く循環させる仕組みこそが

「魔法少女―魔女循環システム」

に他ならない。取り分け、もっとも感受性豊かな10代前半の少女らの「希望―絶望」その転位こそが豊富なエネルギー資源となり、大量の「乾電池」を作るリソースとなる。上手く人間をこのシステムに組み込むことで、半永久的に資源を得ることができるのである。優れたシステムなのだ。人類のように限りある石油を単に消費し続けるだけのアホではない。それを半永久的に継続させるシステムを造りだしたのだ。
そしてそれは宇宙の寿命を延ばすことであり、つまりは、地球の寿命を延ばすことでもある。
さらには、このキュウべいらインキュベーターは、人類の有史以来、連綿とこのシステムを持続させており、その見返りとして、人類の文化的な発展にも寄与し続けてきたのである。なんのことはない、彼らはむしろ「良い奴」だったのだ。もちろん、我々人類の感覚からすると「異端」であるし、不気味である。しかし、全体最適を考えた上での、最良のシステムを作ったのが彼らなのだ。感謝こそすれ、恨まれるのは筋違い、とでもキュウべいは思っただろう。

では、一体全体、誰が敵なのだ?

その答えはこうだ。

●敵がいない。

これには本当にびっくりした。良い意味でびっくりした。仮にも魔法少女アニメという体裁を取って置きながら、その実「倒すべき敵がいませんでした」というひっくり返しかた。本当に意表をつかれた。やられた、といった感じだ。

●まどかの選択の意味
さて、これまで振り返ったように、魔女もキュウべいも敵ではない。このアニメに敵は存在しないのだ。しかし、ひとつだけ唯一救われない存在がいる。そう、「魔法少女」だ。いくらマクロ的に有益なシステムであっても、その中で永遠に希望から絶望へと叩き落とされる魔法少女たち、彼女らだけがミクロ的に見たときに唯一の報われない存在なのだ。彼女らには絶望しかない。
その中で、まどかの決断はこうだ。

●過去、未来全ての時間軸において、魔女を無くす。

というものだった。これによって、これまでの「絶望して魔女に転移する」というサイクルを断ち切ったのだ。それはすなわち、過去からの全ての「魔法少女―魔女循環システム」で作られてきた歴史を改変することにつながった。結果、再編された世界では「魔法少女vs. 獣(?)」といったシステムへの書き換えが起きている。この「獣」の詳細は語られてはいないが、おそらく人類の恐怖や絶望といった負の感情エネルギーはほうっておいても自然発生するものであり、それらの権化が「獣」のようなものになるようだ。そして、それを魔法少女が刈り続け、その結晶をキュウべいに渡すことで資源のサイクルを回す仕組みになっている。このサイクルにおいて、魔法少女が闘い続ける、という構造は変わっておらず、彼女らに残酷な運命が課されていることにも変わりはない。しかし、これまでのように、絶望して報われないまま死ぬ、あるいは魔女になるということはなくなった。希望を灯したまま、最後には報われて逝くことができるようなシステムになったのだ。
それこそが、まどかの願いだった。

このラストのオチ、人によってはすっきりしないかもしれない。魔法少女が生み出され、孤独に戦い続けるシステム自体は変わっていないじゃないか、とそう思うかもしれない。事実、最終第12話のエンドロールが終わったあとのシーン、禍々しいドス黒い羽をほむらが纏って獣らを倒しにいく最後のあのシーンは、間違っても能天気なハッピーエンドを示唆してはいない。むしろ、今後も苦しみ続ける魔法少女らの未来を予感させる陰鬱なエンドだった。しかし、だ。それこそが直視しないといけない現実なのだ。資源のサイクルを回す過酷なシステムに組み込まれた彼女たち。しかし、それは過酷ではあるが、必要なシステムでもあった。必要悪といってもいい。まどかはそれをわかっていたのだ。そのシステムを無くすことは簡単だ。馬鹿でもできる。しかし、じゃあ誰が宇宙の全生命を保証するのだ。誰が、地球の生命を保証するのだ。誰が、愛する家族の生命を保証するのだ。それをしっかりと認識したとき、まどかはそのシステムの中で、折り合いをつけつつ、それでいてなお、彼女のほんの小さな願いをかなえる決断をしたのだ。

「全ての魔法少女たちが、希望を持って死ねますように」

と。

●レビュー紹介1
まずはこのレビュー。

偽ニュー隊長氏「わたしの、最高のアニメ(95点)」
http://www.anikore.jp/review/25017/

サンキュー数でソートするとこのレビューが断トツで評価されているから読んでみたんだけど、まずもって長いw
けど、長いんだけど、ものすごい熱量でこの「まどか」を語っていて、それがひしひしと伝わる。「ああ、この人、本当にこのアニメが好きなんだな」と。で、単に好きなだけじゃなくて、それを自分の言葉にしてしっかりと語っておられる。これ、簡単なように思えて実は結構難しかったりする。というのも、人って何かに感動したり、心を動かされることがあったとしても、それをしっかりと自分の言葉で書けるかどうか、形にするかどうかってのは面倒だったり、言葉にならなかったりでおざなりにすることは良くある。けど、そうやってそのときの自分の感動を形にしないと、その時心を動かされた自分っていうのがどんどん薄れていくもんだ。
作中のさやかをはじめ数多の魔法少女が「最初の希望を失って、徐々に絶望していく」ように。

話は随分それるけど、本居宣長だったか、そこらへんの国文学者が確かこんなことを言っていた。

●「言うは難き」

これ、普段の我々の感覚からするとむしろ逆で、普通は「言うは易し」、と皆思っている。言葉にするのは簡単だ、って意味だ。けど、実はそうじゃない。実は「言う」のこそ難しい。自分の言葉で、自分の感覚、思ったこと、感じたこと、考えたこと、そうした取りとめもないぼんやりとしたものを、しっかりと言葉にして、形に落とし込む。そうした作業は実はとても難しいものなのだ。「言葉で言うのは簡単」なんていっている奴は、単に頭が悪いだけだ。そういう奴らは、稚拙なボキャブラリーでもって「やべーっす!」とか「すごいっす!」みたいな「鳴声」を発しているだけに過ぎない。
たかがいちアニメのレビューかもしれない。たかが、一般人の感想文なのかもしれない。けど、こうして誰かが「形にした感覚」を、言葉を通して、その言葉の意味以上の「熱」を受け取る。この確かな通信に、感動を覚える、と私は思う。

と、このレビューを読んで、そんなことを考えていた。笑
皆様も、お時間があれば、かつ、このアニメをすでに見ているのであれば、是非一読してみてはいかがだろうか。

●レビュー紹介2

お次はこれ、
電撃隊氏「魔法少女の「仁義なき戦い」」
http://www.anikore.jp/review/615892/

常々思うのは、「ある事柄をもっと別の身近な例えにすること」はものすごく価値のあることなんだけど、実際それは難しいよな、ということだ。
んで、それができてるのがこのレビューだw

いや、まいったね。この「まどか」の世界って、例えるならば意気揚々と理想を持って入社した社会人一年目が、徐々に社会という現実にぶつかって折り合いをつけていく、その「サラリーマン社会」に似ている、と。この例え、本当に秀逸だな、と思う。

魔法少女系アニメってのは通常ファンタジーにどっぷり浸かった世界で、まさにその現実ばなれした御伽噺に、皆夢や希望を膨らませるわけだ。
しかし、この「まどか」は、まさにその欺瞞をこそ暴いた。
いや、みんな魔法魔法って頭お花畑にしとるけど、実際に魔法少女がいたらこういうもんでしょ、と。だからマミが頭をぱっくんちょされたわけだし、だから、皆そこに衝撃を受けたわけだ。メルヘンに浸ってたら、いきなり現実に引き戻された、とw

けど、だからこそ、やっぱり最後のまどかの決断が光る。
このアニメは、「メルヘンな御伽噺(魔法少女)」を「リアルな現実世界(サラリーマン社会)」の中に落とし込む一方で、それでもなお「夢や希望」を叶える現実的な方法を模索するまどかの姿を描いたのだ。そこにこそ、今この現実に生きている我々の心に刺さるひとつのリアルなメッセージになりえたのだ、と思う。
最後に、この方のレビューでもっともすばらしい一文を紹介して、このレビュー紹介を終える。

「でもだからこそまどか、ほむら、さやか、マミ、杏子たちが等身大の人間として輝いており、愛おしく尊敬できる。萌えじゃなくて酒飲みながら人生語りあいたい」

投稿 : 2013/08/08
閲覧 : 896
サンキュー:

29

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