「ハチミツとクローバー(TVアニメ動画)」

総合得点
76.3
感想・評価
593
棚に入れた
4076
ランキング
713
★★★★☆ 3.9 (593)
物語
4.0
作画
3.8
声優
3.8
音楽
3.8
キャラ
4.0

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シェリー さんの感想・評価

★★★☆☆ 3.0
物語 : 3.0 作画 : 3.0 声優 : 3.0 音楽 : 3.0 キャラ : 3.0 状態:----

ハチクロの好きなところ、そうじゃないところ。個人的なことを交えて。

レビューではありません。
ただの僕個人の回想記です。アニメ関係ありません(笑)

 僕がハチクロと出逢ったのは、またその強烈な魅力に捕らわれたのはちょうど一年くらい前でした。漫画というものに惹かれ始めたのはその少し前。九井諒子さんと市川春子さんの作品がきっかけでした。彼女らの作品は僕の目にとても眩しく映りました。それらは、今まで少年漫画にしか触れてこなかった僕の漫画に対するイメージの崩壊と新地開拓を強制づけ、それまでになかった「ものの見方」に気付かせてくれました。そして今でも僕の中で漫画の持つ可能性とその魅力は地を貪る砂漠の浸食のように貪欲にそのエリアを拡大しつつあります。読むたびに新たな発見がありいつまでも新鮮な感動を提供してくれます。
 九井さんと市川さんの絵にももちろん十分に心を揺さぶられていましたが、その頃はどちらかというと彼女らが作り出す物語やその中で扱われる表現に注目して読んでいました。ですがそんな僕の注視をぶっとばし絵の魅力を嫌と言うほど押し付けてきたのが羽海野チカが描く『ハチミツとクローバー』でした。その前にも短編集『スピカ』を読んでいましたが、その魔法に夢見るこどものようにかかってしまったのは『ハチクロ』を読んだときでした。
 猫がたまたま踏んで鳴らしたピアノの音と、一流のピアニストが弾く音ではまるで違うと言われています。残念ながら僕にはまったくわかりませんが(そもそも音階すら分からない)、でも絵ならなんとなく、ほんとうになんとなくですがその違いが分かる気がします。というより真似して実際に描いてみればその結果は歴然としていました。ペットボトルひとつでさえ僕には彼女の絵は真似できませんでした。
 彼女の絵は大胆に筆を走らせる姿が目に浮かぶ楽しげな雰囲気もあれば、大切に呟かれるシーンでは普段は見ることのできない隠れた繊細さによる一本一本の柔らかな線が登場人物たちをかたどります。描かれる絵は決して線が多くなく必要最低限に、けれど現実に忠実にあることで、僕たちは漫画を手に取りページを広げた瞬間からその世界に容易に入ることができます。
 さらに感傷的なシーンでは少女漫画タッチの雰囲気を醸し出し、余白とコマ割においては漫画家としての実力をこれでもかと魅せる圧倒的センスを発揮したその物語には彼女のたおやかな意志が流れています。これは息をのむほど澄んでいてとても素晴らしい。登場人物たちのその場での気持ちをページに押し込めておくがごとくの表現に加え、会話や告白や自問自答にポエムを挟み込むことでその"もやもや"はそこでは死なず、広がりを内包しつつ、教訓とまだ残された希望がどこかにあることを微かに示唆します。反対に、すこぶるテンションが高いときには様々なデフォルメと、ページいっぱいに書き込まれた字や絵が読み手を楽しませてくれます。本当に好きで描いておられるのがそれを通して感じられます。最上級の愛情表現です。
 もっとも、漫画に詳しい人や実際に描いておられる方に言わせてみればもっと称賛すべきところはあるのでしょうが、僕が感じられることはせいぜいこのくらいです。

 ではストーリーはと言いますと、正直なところ竹本くんの自転車逃避行以外はそんなに好きではありません(逆にこの話は一番好き)。ハチクロの主な内容は、「若さゆえの行動の過ちと青春の終末の予感」だと僕は思っています。後半の方で森田さんが言った言葉。「親が子供に教えなければならないのは『転ばない方法』ではなく、むしろ人間は転んでも何度だって立ち上がれるということじゃないか!?」(7巻)。僕の見解はいささか悲観的ですが、これを敷衍して僕のと混ぜて簡単に言えば、つまり「上手な自分の生き方の模索」ではないかと思います。
 でもちょっと「役」が前に出過ぎていた感じが否めません。どうしたってそうしないわけにはいかないんだ。というよりはむしろ僕には、自ら進んで破滅の道を歩んでしまっていたような気がします。まるでレミングの集団自殺のように。目の前に広がる深い霧の中、まるで横たわるようにある真っ黒な沼にみんながみんな傷を負ったようなフリをして足をつけて体を沈ませていきます。そこには死と恐怖の臭いが立ち込めているのにも関わらず、絶えずより深きを求めます。周りの人がいくら声をかけてもまるで聞く耳を持ちません。手に入れたいのか、感情に流されているのか。行動の起源を模索するにはもう遅すぎた若者たちは痛々しいまでにスポイルされた状態です。
 話や人物描写に多少の好みや首を傾げてしまうところがありますがそれだけで全てを否定するわけではありません。1つの視点だけでものを見るほど愚かなことはありませんから。僕の中には羽海野チカさん独自の表現を交えた中でいくつかの描写は強烈なまでに印象に残っています。折れたシソの枝の比喩、冬のキリン、リカさんのお墓参り、原田が月に向かって泳ごうとしている夢の中の比喩、9巻の幕開けのモノローグ、森田のお兄さんの想像力について、最後の観覧車の比喩などなど。僕にとっては心に留めておきたいほど好きなところもあれば、逆になんだかなあと思ってしまうところも確かにあります。けれど人の内面を絵を通して伝える技術のレヴェルは高く、唯一無二です。作者と描き出す物語を通しての読み手との共振性は高く、多くの人々に感動とほのかな温もりを届けられました。ある人にとっては先を見、ある人にとっては振り返るこの物語には古びない幻想がどこまでも広がっているように思えます。行き場を失くした想いと共に。
 絵に関して言おうとすると、これはほんとうにキリがない。腕や手、足や体全体、服や特に顔の表情はそのひとつひとつが洗練されていて魅力で溢れています。それぞれがそれぞれに拍車をかけ無限の連鎖を繰り返しひとつの総体を成した小宇宙のような途方もない広がりを持っています。それは見た者にしかわからない輝きを内包していて言葉にはとても収まらない"なにか"があります。漫画家としての矜持を持って描かれた、漫画たる漫画が羽海野チカさんの作品であると思います。

 この漫画の中にはよくよく見れば(好きな人にとってはそんなことしなくとも)大切なものがたくさん落ちています。同じように嵐の後の海岸ではたくさんのものが砂を被って漂流しています。僕らは折に触れ天命を他で感じながら、ひとつずつ拾い上げては丁寧に砂を払って大切に自分の中にしまい込みます。そして、それはある日のそのときまでぐっすりと死んだように眠ります。ものごとの見えない糸がつながりを見せ、物語の秘密をあなたが納得するその日まで。
 その場その場で暇を潰すための大衆娯楽漫画とは一線を画した立派な一作。夜中に独りで見上げる月の光のように温かい作品です。




余談

関係のないことを長々と書いてしまいました。
失礼を承知の上ですが僕の感じる魅力が少しでも伝わればと思っています。
漫画の絵に関して言えば他にも好きな方はたくさんいます!
今日マチ子さんや雨隠ギドさんや森薫さんや笠井スイさんや河下水希さんなどなど!

3月のライオンもばっちりチェックしています。
こっちは頭から尻尾まで全部好きです。本当に素晴らしいです。うんうん。
まあそんなこんなで。あでゅー。

投稿 : 2015/01/09
閲覧 : 599
サンキュー:

6

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