「バブル(アニメ映画)」

総合得点
67.7
感想・評価
80
棚に入れた
272
ランキング
2281
★★★★☆ 3.6 (80)
物語
3.1
作画
4.3
声優
3.3
音楽
3.8
キャラ
3.4

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ネタバレ

薄雪草 さんの感想・評価

★★★★★ 4.2
物語 : 3.5 作画 : 5.0 声優 : 4.0 音楽 : 4.0 キャラ : 4.5 状態:観終わった

ささやきは物語の終わりに

ある日、世界中に降泡現象と呼ばれる "泡" が降り注いだ。
それは {netabare} 地球外生命体であり、重力に干渉し、意思を持つもの {/netabare} だった。

HSPと思わせる少年が、東京タワーの展望デッキで聞き留めたのは "不思議な旋律" 。
それを発していた "一つの泡" が、少年の意思を見留め、やがて二人は接触する・・・。

物語の始まりは、出会うはずのない、すれ違って当たり前だった二つの意思が、偶然にキャッチしあった、消えかけてしまいそうに微かなコミュニケーションでした。

それを SFチックなファンタジーものとして昇華し、いろんなアイテムを駆使しながら、隠喩的メッセージを送り出してきている。
そんな印象でした。

てすから、受け取り方は、たぶん人それぞれの解釈で良さそうです。
私の視聴直後の感情をひと言にするなら、「Cool Romantic!」でした。

~    ~    ~

キャラの軸としては、少年のヒビキ、 {netabare} "泡" が人格化した {/netabare} 少女のウタ、研究者のマコト、彼らをサポートするシンの4人のように思いました。

彼らは降泡現象が創り出した巨大なドームに寝ぐらをしつらえ、若い熱量をパルクールに跳躍し、鋭気と英気をぶつけ合っています。

設定は「アニメ・デカダンス」にどこか似ているかも知れません。
{netabare} 閉ざされた空間、重力コントロールバトル、自己利益の輩、真理の追求、魂のふれあい、そして環境負荷としてのディストピアがふんだんに盛り込まれています。{/netabare}

ヒビキとウタは、パルクールや日々の生活を通して、それぞれの隔たりを縮め、言葉を探しながらお互いを尊重していきます。

実は、なぜ世界中に降泡現象が起きたのか、そしてなぜ東京にだけドームがあるのか、作品には説明がありません。

でも、ある日、ウタが「絵本・人魚姫」に興味を示すことから、物語に大きな方向性をもたらします。

「人魚姫」ならワールドクラスのファンタジックラブストーリーだと誰もが直ぐに分かるでしょう。
そしてどういう結末を迎えることになるのかも、思い描くことになるのです・・・。

惹きあう心が、相手の幸せを願ったとき。
響きあう気持ちに、互いの想いが触れたとき。
引き裂かれる激情に、身を焦がし、捧げたとき・・・。

何を胸に残すことになるのか。
深い余韻が終幕に待っています。

~    ~    ~

あと一つ。
急激な環境の変化が描かれていますから、現在の地球環境への社会的負荷の増大が念頭に置かれているのは明らかです。

それに対して、若者たちが、警鐘する声を挙げることはできても、政治に参加できない閉塞感と、大人への不信感が、本作の伏線に滲んでいます。

"泡" と "渦" とが示唆するものを、バブル経済と社会的奈落というリアリティーと、宇宙の原子のはたらきというミクロや、破壊と再生という壮大なマクロへとつなげて、{netabare}「じゃあね、またね。」{/netabare} とウタの気持ちを歌うEDにまとめていきます。

東京のあちらこちらに佇んでいるようなウタの姿は、ようやく最後になって、明々と、でもどこか遠望する優しさで、せつと訴えかけてくるのです。

泡沫とはウタカタと読みますが、たとえ泡のような人生に見えていても、ふとした出会いにも恋は芽生え、全身で愛に生きる日常は、街のそこかしこにはあるものだと受け止めました。

そして多様性を認め合う未来への "訴え" を、ウタカタの先へと届かせなければならないのだろうと感じます。

~    ~    ~

ウタと人魚姫。
憧れにすれ違ってしまうストーリーは同じでも、全く違う解釈が作品には込められています。

そのヒントは、この数ヶ月〜数年の身近な世相に見え隠れしています。
力による一方的な現状変更を強いる群勢に、本作の泡群の振る舞いを、つい私は重ねてしまうのです。

意思を通じ合わせられるものなら、命を煌めかせる恋、燃え尽きるほどの愛に、魂を響かせる関係性であってほしい。
そう思うと、直後に感じた「Cool Romantic!」は、本作にあまりふさわしくないのかも知れないと思いました。

また、今に響かせたいのは、加虐する銃砲の音ではないし、被虐に倒れる断末魔の声でもありません。
人魚姫がモチーフであればこそ、人間への憧れを汚すようなリアルな現実に、想いを強く馳せることも大事なように感じます。

ちなみに、ちまたに不評を言われるような作品ではないと私は思います。
むしろ劇場のスクリーンにこそ、本作の真骨頂が描き出されるように感じました。

どうぞ映画館に足をお運びいただき、「 Cool Romantic 」とは違うあなた自身の言葉を、物語のなかに見つけてみてください。



おまけ。
{netabare}
ほとんどの映画館で、本作は上映が終了しています。
「もう一度スクリーンで」との願いは、もう難しくなってしまいました。

人肌感にも戸惑うウタとヒビキの心情は、「人魚姫」の物語をたどることでどうにか窺い知ることができます。
個人的には、それでも満足できているのですが、もう一方では、SFものとして成立している本作です。
本作への批判、問題点はそこにあるのでしょう。

いったい、どんなやりとりが、"ウタと泡" との間にあったのか。
禍々しい泡や、異常な重力場に狂う街を、どのような概念や定義で共有し、また包摂すれば、ヒビキへと取り戻せたのか。
その描き方があんまりにも弱いです。

宇宙空間で起きる銀河星雲の衝突は、スターバーストと呼ばれています。
それに匹敵するのが、二人が惹き合う想いの強さだろうし、躍動する構図なんだろうなと思うのです。

それなら、ウタが消滅する必然性としての明確なスキーム、納得できる落としどころが、物語の骨格としてあらねばならないはずです。
でも、残念ながら、そのコアとなる十分なアニメーションが見当たりませんでした。

もしかしたら尺不足が背景にあったのかもしれません。
結果的にですが、ウタに固有する意識性と、泡の集合知の目的意識性とが "画然としたままに切れてしまった" という受け止めになりました。
そこを描かなかったのは、とてももったいないなと思いました。

~    ~    ~

そこでいよいよノベライズに "答え" を求めました。
ライターは「響け!ユーフォニアム」の武田綾乃さんです。
それなら、これは読んだほうがいいに決まってます。

その一文一句は、劇場スクリーンのスピード感のままに、優れて魅力的でした。
加えて、監督の荒木哲郎氏が、以下の主旨を解説文にお書きになられています。

"虚淵氏が設定した泡の正体、目的が、アニメではほとんど伝えられなかったものを、武田さんは、言葉としてしっかり伝えて下さいました。"
"アニメとノベライズの、ふたつで一つの作品なんですね。" と。

全くそのとおりに感じました。
アニメをご覧になられた皆さま方。
後追いで全然大丈夫ですので、どうぞご一読くださいませ。

SF設定を埋めるピースとしては、スッキリできると思います。

~    ~    ~

本作は『人魚姫』をモチーフとし、リスペクトしています。
なれば、"プレスティージロマンティック" に匹敵する、相応の "グランドデザイン" や "スキームポリシー" が対峙するべきなのです。

そうでなければ、導かれるビジョンに翳りが残ってしまうし、アレゴリーとアクチュアリーへのアプローチに曖昧さが生じてしまいます。

ロマンティックとサイエンティフィックから芽生え、微かに伝わってくる泡のように淡いメッセージ。
それをすくい取ることが、一番大事なんだろうと思っています。

{/netabare}

投稿 : 2022/06/22
閲覧 : 279
サンキュー:

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