「はたらく魔王さま!(TVアニメ動画)」

総合得点
88.5
感想・評価
5726
棚に入れた
27528
ランキング
106
★★★★☆ 3.9 (5726)
物語
4.0
作画
3.9
声優
4.0
音楽
3.7
キャラ
4.1

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ぽ~か~ふぇいす さんの感想・評価

★★★★☆ 3.8
物語 : 4.0 作画 : 3.5 声優 : 4.0 音楽 : 3.5 キャラ : 4.0 状態:観終わった

ライトノベルにみる現代社会構造の変容

第17回電撃小説大賞銀賞受賞のライトノベルが原作
銀賞といっても電撃の銀賞はちょっと格が違います
数千の応募作の中から受賞にこぎつける難易度は
他のライトノベル新人賞の大賞受賞と同レベルかそれ以上でしょう
私は電撃小説大賞どころか電撃文庫ができる前からライトノベルを読んできましたが
裾野が広がり過ぎたおかげで巷は糞みたいなライトノベルで溢れ返っている中
近年の電撃の受賞作は本当にはずれがありません
・・・もっとも受賞作の続編やら第二作以降で一気にクオリティ低下して
そのまま消えてしまう作家も少なくありませんけどね

最近はすこしでも人気の出たライトノベルは次々と奪い合うようにアニメ化されていますが
その源流をたどればスレイヤーズ!や魔術師オーフェン、ロードス島戦記といった
もはや古典といっても差し支えないような作品群に行きあたるでしょう
しかしそれらを出発点としたラノベアニメですが
そのトレンドは以前とは大きく変わりつつあるように感じます

まだライトノベルという呼称が定着していなかった頃
大塚英志は著書「キャラクター小説の作り方」において
いわゆるライトノベルにあたる作品群をキャラクター小説と呼称し
キャラクター小説のアーキタイプは貴種流離譚にあるとしました
貴種流離譚というのは国文学者折口信夫が提唱した神話の雛型で
『高貴の血脈に生まれ、本来ならば王子や王弟などの高い身分にあるべき者が、「忌子として捨てられた双子の弟」「王位継承を望まれない(あるいはできない)王子」などといった不幸の境遇に置かれ、しかし、その恵まれない境遇の中で旅や冒険をしたり巷間で正義を発揮する』
とwikipediaには説明されています
確かにライトノベルでは亡国の王子であったり
素性を隠して旅をする王女といったようなそのものずばりの作品も多いです
「はたらく魔王さま」もまさにその典型と言っていいでしょう
大塚英志はその考え方を拡張し
魔道士協会を飛び出して旅をするスレイヤーズ!のリナ;インバースや
牙の塔のエリート魔術師候補生からドロップアウトしたオーフェンのようなものも
貴種流離譚の派生形であると捉えました

しかし、リナ・インバースやオーフェンと本作の真奥貞夫には決定的な違いがあると思うのです
ライトノベルに限らず文学作品の流行というのは世相を強く反映したものになります
スレイヤーズ!が第1回ファンタジア長編小説大賞にて準入選を受賞したのは1989年
もう今から25年も前のことになるんですね・・・
当時バブル景気の真只中
社会の歯車として日夜を問わず汗水たらして働いている社畜やその家族にとって
リナ・インバースのようなだれにも縛られない自由奔放な生き方は夢であり憧れでした
しかしその生き方に付随する経済的な不自由や社会的ステータスを考えれば
そう簡単にその夢に飛びつくことはできません
リナ・インバースの生みの親である神坂一のように30歳で脱サラして作家として大成功
なんてサクセスストーリーは大抵の人には夢物語でしかありませんでした
つまり人々が憧れる自由の象徴としてリナ・インバースは人気を博し
社会のしがらみに縛られた読者の身代わりとして大暴れしていたわけなんですね

それに対して真奥貞夫の夢は世界征服の足掛かりとして
マグロナルドのバイトに励み正社員に昇格すること
なんとも慎ましいというかみみっちぃというか・・・w
なんにせよ、かつてのラノベ主人公像とは真逆なんです

バブル経済の崩壊とともに終身雇用神話も崩れ去りました
その結果人々の憧憬の対象は脱サラした自由人から堅実な正社員へと変化
日々の労働を真面目にこなしながら正規雇用を目指す真奥の姿に共感を覚えるようになりました
自由という言葉を放縦と履き違えている人を時折見かけますが
自由というのは何でも好きなようにしていい、何をしても許されるという事ではありません
自由というのは何でも好きなようにしていい、ただしその結果には全責任を負いなさいという事です
自由=自己責任と言い換えてもいいでしょう
自由主義社会とはすなわちスペンサーの言うところの適者生存の原則が強く働く過酷な競争社会なわけです
かつて共産主義国家の圧政に耐えかねて自由主義国家へ亡命した人たちの中には
夢にまで見た自由を命がけで勝ち取ったはずが
「自由なんてクソ喰らえ、共産主義のほうがよっぽどましだ!」
などと吐き捨てて祖国に戻っていく人が後を絶たなかったそうです

つまり、たとえある程度自由を制限されることになっても
その見返りとして庇護を受けられる大集団に帰属したいという願望が
ハイリスクな自由を求める声を上回っているのが今の世相であり
それが顕著に表れているのがこの作品なのではないでしょうか
この作品以外のライトノベルやその他の漫画やアニメなどでも
全体としてはやはり同様の傾向がみられると思います

まぁほらリナ・インバースって身も蓋もない言い方すればただのニートだし?





おまけ:アニメ版に関して

1クール使って2巻分しか消費しないのはとても好感が持てる
じっくり末永く楽しめるってことだしね
1話1巻とか無茶な駆け足でラノベをクソアニメ化する制作会社は
爆死しまくってとっととみんな潰れてしまえ!

全体的に作画は悪くなかったと思うけど
原作付作品なんだしヒロイン達に変顔させるのは
もう少し自重してほしかった
ギャグとして面白いのは分かるんだけどあれは度を超えている
ヒロインがその顔はあかん・・・

声優についても大きな不満は無いけど
この作品が今の東山奈央ブームの引き金の一つなのは間違いないと思う
東山キャラ=明るい元気娘みたいな風潮あるよね?できちゃってるよね?
クロワーゼや兵部京介での東山奈央を高く評価している身としては寂しい限りです

投稿 : 2014/02/16
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サンキュー:

37

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