「銀河英雄伝説(TVアニメ動画)」

総合得点
89.1
感想・評価
945
棚に入れた
4043
ランキング
90
★★★★★ 4.3 (945)
物語
4.6
作画
3.8
声優
4.5
音楽
4.2
キャラ
4.5

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ネタバレ

退会済のユーザー さんの感想・評価

★★★★★ 4.5
物語 : 5.0 作画 : 4.0 声優 : 5.0 音楽 : 3.5 キャラ : 5.0 状態:観終わった

【超私的】必然か偶然か-こだわりを持って使ってこそクラシック音楽は生きる-【劇伴論】

【個人的殿堂入り作品】
ストーリーの面白さ、キャラの良さ、声優の素晴らしさなどは今更語るまでもないのだけれど、
音楽については少し語ってみたい。

そもそもクラシック音楽をBGMとして使うことで何か得られることがあったのだろうか?
単純に劇を盛り上げる為に使うのなら、
画面との調和という観点ではそうした場面用に作られたオリジナル曲の方が圧倒的に良い。
クラシック音楽と場面を調和させる為には、
作画や演出のほうから音楽に擦り寄る必要があるのだけれど、
残念ながらこのアニメはそのようには作られていないようだ。
悪く言えば音楽の垂れ流し状態なのである。
(ごく稀に場面に嵌ることがあったが)
では何かそれとは別のこだわりがあるのだろうか?
マーラーが多用されている?
それは単純に音源と選曲者の好みの問題だろう。
確かに多用されてはいるが、使われ方に意図が感じられずあまり意味がない。
劇伴に意味なんてあるの?
オリジナル曲ならただ場面を盛り上げるというだけで、
それ以外の意味は殆どないと考えて良いのではないだろうか。
だが既存の曲は違う。
誕生から今までの間に、その曲にはたくさんのストーリーが付随しているものだ。
その期間が2、300年にもなるクラシック音楽なら尚更だ。
そうした曲の持つストーリーとアニメのそれを上手くリンクさせた時に初めて、
オリジナル曲では得られない意味と効果があるのだと私は考えている。
ひとつの例を挙げてみよう。


《ブルックナーの響きに想いを馳せて》
{netabare}第26話「さらば、遠き日」を観ていてハッとした。
この回ではキルヒアイスが殺される。
そしてラインハルトとキルヒアイスの永遠の別れのシーン。
私はさぞや悲しく感動的な曲がかかるのだろうと思っていた。
しかし使われたのは意外な曲だった。

ブルックナー 交響曲第7番ホ長調 第1楽章冒頭部

バロック時代の作曲家マッテゾンはこのホ長調という調性を
「絶望に満ちた、あるいは全く死ぬほどの悲しみを比類なくよく表現する」
と言ったらしいが、少なくともこの曲に関してはこれは当てはまらない。
何となく感動的ではあるが、別段悲しい曲ではない。
だから単純に曲の感じだけでこの場面に選んだものではないように思う。
そしてそこには何か意図があるのでは?という考えに至る。
それは何か?
謎を解き明かす手がかりになりそうな言葉がある。
『ヴァルハラ』だ。
ヴァルハラとは北欧神話におけるオーディンの宮殿で、死せる戦士の魂が向かう場所である。
このアニメでは一応そうした北欧神話を念頭に使われているが、
もっと広く『あの世』(天国)のような意味合いをも持っているようだ。
一方、クラシック音楽の世界においては、
ワーグナーのオペラ『ニーベルングの指環』に登場するヴォータンの城の名である。
そこにもやはりワルキューレに連れられた戦死した英雄たちが集う。
さて、あの場面。
キルヒアイスは今まさにそのヴァルハラに旅立とうとしている。
となると黒く塗られた二人の背後に、
巨大なヴァルハラが何やら薄っすらと見えてくる気がするではないか。
だからといって、ここでワーグナーのオペラ『ラインの黄金』から
『ヴァルハラへの神々の入城』の音楽を使ってしまうのはいくら何でも単純過ぎる。
大体あの曲には『死のにおい』が全くない。
あの場面で視聴者にヴァルハラを意識させようとするならば、
直接的な『死』とその行き着く先の『壮大さや神々しさ』を併せ持つ曲が必要だ。
そこで登場するのがブルックナーの交響曲第7番である。
何しろこの曲は死の予感に満ちている。
こんなエピソードがある。
ブルックナーはワーグナーを敬愛して止まなかったのだが、
この曲の作曲中(第2楽章)にワーグナーは危篤となり、そのままこの世を去ってしまった。
訃報を聞いたブルックナーは人目も憚らず号泣したという。
そして第2楽章は悲しみに満ちた(しかしどこまでも美しい)葬送の曲となった。
一方、その前に置かれている第1楽章には壮大さや神々しさがある。
なるほど。
確かに第2楽章まで見通せる目が必要ではあるが、
それさえ分かってしまえばこの場面にこれ以上相応しい曲はないと思えてくる筈だ。
実はブルックナーの曲はかなり純音楽的で、具体的な情景が浮かんでくることはあまりない。
しかしこのアニメを観てから、彼にはこんなイメージがあったのではないかとさえ思えてくる。

深い霧の中(静かに流れる弦のトレモロ)
その中に浮かぶ巨大な建物の輪郭(チェロによって奏でられる第1主題)
やがて霧が晴れてゆき、壮大なヴァルハラが姿を現す(オーケストラによる第1主題)

きっとこんなイメージを思い浮かべてしまったから、ワーグナーは死んでしまったのだ。
・・・と、ここまで書くと流石に妄想が酷すぎる気がする。
大体ワーグナーはヴァルハラに行けるほど、良い人物ではなかった。
しかしだ。
ブルックナーにとってはワーグナーは遥か彼方に仰ぎ見る真の英雄だったに違いない。
だから私はこの妄想を簡単に消し去ることは出来ない。
これからもきっと・・・。

さて、ラインハルトとキルヒアイスの永遠の別れのシーン。
これを観、そして聴いただけでこれだけのことが一気に頭の中を駆け巡った。
わずか数十秒の曲でも使われ方が良ければ、
そこからいくらでも想像の翼を広げることが出来てしまう。
クラシック音楽とは本来こうして使われるべきなのだと私は思う。{/netabare}


これを読んだ方は「何だ、ちゃんと意味のある使われ方してるじゃん」と思ったことだろう。
私自身もそう思いたいのだが、実はそう思えない部分もある。
では何がいけなかったのか?
その理由を以下に記し、この『超私的劇伴論』の〆とする。


《ブルックナーの響きに戸惑いを覚えて》
{netabare}第106話「柊舘炎上」でもこの曲は使われている。
ラインハルトが自分の子の名前を考えるシーンだ。
曲が流れた時点で名前は決まったようなものだ。
(曲の助けがなくても十分予想は付くが)
このようなライトモティーフ(示導動機)的な使い方は、
音楽面で統一感を持たせるという意味ではとても好ましい。
・・・好ましいのだが、今回の場合は効果が少し薄かったように思う。
なぜならここまでの間にこの曲が数回使われてしまったからだ。
しかも割りとどうでもいいシーンで。
それがなければ「お~!」となったに違いない。
こうした無秩序な選曲によって、
第26話におけるブルックナーの使い方が必然であったという私の論に、
自ら疑問符を付けざるを得なくなってしまった。
やはりあれは単なる偶然で、そこまでのこだわりはなかったのだろうか?
・・・まあともかくだ、最低でもこれだけは言っておきたい。

『大事なシーンで使った曲はもっと大切に使おうよ!』

これではブルックナーも草葉の陰で泣いているに違いない。{/netabare}

【視聴メモ】
音楽以外で不満があるとすれば、ナレーションの多さである。
何せ登場人物が多いので、ナレーション抜きでは「この人誰だっけ?」となるのは間違いない。
しかし艦隊戦のシーンではもう少し少なく出来なかったものだろうか?
あれでは気分がイマイチ盛り上がらない。

【各話評価:平均6.35点】
1→110
☆◎☆☆☆☆◎☆☆◎○☆◎☆神☆◎☆☆神☆☆☆◎◎神☆◎◎◎☆☆神☆◎◎☆☆◎◎◎☆☆☆☆☆☆神◎☆
神☆神☆☆☆☆☆◎☆☆☆神☆◎☆☆◎◎神☆神☆☆☆◎◎☆神☆☆神神◎◎☆☆☆☆☆◎☆◎神☆☆☆☆☆☆
◎神神☆☆神☆☆☆☆

【神回】
第15話「アムリッツァ星域会戦」
新世界よりをBGMに本格的な艦隊戦。

第20話「流血の宇宙」
捕虜は使いよう。オーベルシュタインの冷徹さが光る。

第26話「さらば、遠き日」
ブルックナーの7番の使い方が神がかっていた。

第33話「要塞対要塞」
巨砲の打ち合い、探り合い、陽動。

第48話「双頭の蛇〜ランテマリオの決戦〜」
マーラーの音楽に乗っての艦隊戦。展開も面白かった。

第51話「バーミリオンの死闘(前編)」
フレデリカに憧れるユリアンの気持ちが良く分かる^^ そして死闘が始まる。

第53話「急転」
まさに急転。こうした戦闘以外のシーンの魅力こそ銀英伝の真骨頂。

第63話「聖地」
狂信者の恐ろしさ・・・。

第70話「蕩児たちの帰宅」
1年ぶりに手にする置き土産。

第72話「マル・アデッタ星域の会戦(後編)」
ビュコック元帥の見事な最後。民主主義に乾杯!

第79話「回廊の戦い(前編)〜常勝と不敗と〜」
ショスタコーヴィチの音楽をバックにした序盤戦。ファーレンハイト・・・。

第82話「魔術師、還らず」
自然と泣けた、泣けてきた。そして本気で泣いた。

第83話「祭りの後」
想像以上の喪失感。まさに祭りの後。

第94話「叛逆は英雄の特権」
ミッターマイヤーの苦悩。最後はブラームスの音楽で締める。

第102話「敢えて武器を手に」
ユリアン指揮による最初の戦い。戦いの後に何とも言えない高揚感。

第103話「コズミック・モザイク」
冷徹なオーベルシュタインと熱血なビッテンフェルトの対立が面白い。

第106話「柊舘炎上」
沈黙提督・アイゼナッハ、ついに言葉を発する!w

投稿 : 2015/04/13
閲覧 : 241

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