「もしドラ(TVアニメ動画)」

総合得点
59.1
感想・評価
550
棚に入れた
2107
ランキング
6244
★★★★☆ 3.2 (550)
物語
3.1
作画
3.1
声優
3.4
音楽
3.2
キャラ
3.1

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ネタバレ

オキシドール大魔神 さんの感想・評価

★★★★☆ 3.5
物語 : 3.5 作画 : 3.5 声優 : 3.5 音楽 : 4.0 キャラ : 3.0 状態:観終わった

コンセプトは達成されている

 川島みなみは東京都立程久保高校2年生。7月の半ばに、病に倒れた親友で幼なじみの宮田夕紀に頼まれ野球部のマネージャーを務めることになった。
 マネージャーになる際に、「野球部を甲子園に連れて行く」という目標を立てるが、監督や、幼なじみでキャッチャーの柏木次郎を始めとする部員らの反応はやはり冷めたものであった。事実、全国屈指の激戦区である西東京地区を勝ち抜くことは、現在の程高の実力では到底無理で、甲子園出場など夢のまた夢。さらに部内でも部員のやる気のなさや、監督の加地とエースピッチャー浅野との確執など問題が山積していた。だが、逆境になるほど闘志を燃やすタイプの彼女は、諦めるどころかやりがいを感じていた。
 まずはマネージャーのことを理解しようと、書店で「マネジメント」の本を探すみなみは、店員に薦められるままにドラッカーの『【エッセンシャル版】マネジメント〜基本と原則〜』を購入する。だが、それが起業家や経営者のための本だったことを知り、「確認してから買うんだった!」と後悔する羽目になったが、「せっかく2,100円も出して買ったんだし……」と気を取り直し、初めは参考程度に読み進める事にする。しかしその途中本文にあった「マネジメントに必要な唯一の資質は真摯さ」という言葉に衝撃を受け、なぜか号泣してしまう。その後、彼女はこの本の内容の多くが野球部の組織作りに応用できることに気付き、次第に夢中になっていく。
 こうして組織や団体、機関の管理者としてのマネージャーの資質、組織の定義付け、マーケティングやイノベーションの重要性など、『マネジメント』を通じて様々なことを学んだみなみは、自分が「マネージャー」となって野球部をマネジメントできないものかと考え、夕紀や加地、後輩マネージャーの文乃、同じく『マネジメント』を愛読している二階らに協力を仰ぎ、『マネジメント』で学んだことを野球部の運営に当てはめ、部をより良くしていく方策を次々と実践していく。
 『社会に対する貢献』を視野に入れた彼女のマネジメントは、野球部のみならず同校の柔道部や家庭科部等、程高の他のクラブにも好影響を与えていく。程高野球部が打ち出した「ノーバント・ノーボール」作戦は、後に高校野球にイノベーションを起こし、「程高伝説」と呼ばれるまでになる。
 西東京地区予選を破竹の快進撃で決勝まで上り詰め、甲子園にリーチをかけた程高野球部。しかし決勝戦を前に、突然の悲劇がみなみを襲う(Wikipedia引用)。

 『マネジメント』の文章を引用しながら、その実践方法を物語にうまく溶け込ませている。作品コンセプトは達成されていると言っていいだろう。最初は結束が薄かった野球部が、みなみのマネジメントとその実践、秋季大会での敗北をきっかけとして目覚ましく成長、他の部との交流によって学校全体を盛り上げ、みなみが三年次の夏大会では快進撃を続け、最終的には甲子園出場を果たすというサクセスストーリーも、エンターテイメントとして悪くなかった。特に、準決勝で戦犯になりかけた選手が、決勝戦で、小学生の時にサヨナラヒットを打ったみなみと同じ戦法(一球目を大げさに空振りすることによって、相手投手の油断を誘い、二球目を叩く)をとってサヨナラタイムリーを打ったシーンは、なかなか良かった。現実ではたったの一年で弱小高校が、それも激戦区で甲子園出場など到底有り得ないが、それが有り得るのがフィクションでありエンターテイメントの醍醐味だろう。変にリアリティーを出して、ベスト8くらいには進出するけど敗北、甲子園出場ならず……のような展開ではなく、サクセスストーリーをやり切ったのはポイントが高い。
 しかしながら、少し納得がいかない理屈と、個人的に好かない展開が一つある。まず納得がいかない理屈についてだが、それは、「ノーバント・ノーボール」作戦だ。作中では「送りバント」と「ボール球を打たせる投球術」が否定されているが、この二つの技術こそ、アメリカ発祥の大味なベースボールに対抗して、日本が磨いてきた技術だろう。「送りバント」はリスクが高いと作中では言われるが、打者によっては一概には言えないはずだ。ヒッティングが苦手な打者にとっては、まだバントの方が期待値が高いだろう。また、「送りバント」は戦法として単純につまらないとも言われるが、それについても共感できない。むしろ戦略性や駆け引きが増えて面白いと思う。たとえば、「送りバント」と見せかけてバスターエンドランを仕掛けるなどだ。「ボール球を打たせる投球術」についても、勢いやキレを疎かにしている、投手の成長を妨げている、球数が増える、ゲームが長引く、北京オリンピックでは打ち込まれている、などを挙げているが、球数が増える、ゲームが長引くのはその通りだとして、他の批判点については共感できない。「ボール球を打たせる投球術」が、勢いや切れを疎かにしている、投手の成長を妨げている事の因果関係が見えない。実際作中でも、とにかく弊害が大きいの一点張りで、具体的な因果関係は説明されない。仮にそうだとしても、それはそれで駆け引きなどにリソースを割いているだけであり、それが悪いとは微塵も思わない。それこそ、作中でも言われている取捨選択の一つのはずだ。ノーボール戦法を掲げるのは勝手だが、「ボール球を打たせる投球術」を貶める意味が分からない。ノーボール戦法のメリットを挙げていくなら分かるが、「ボール球を打たせる投球術」のデメリットばかり(しかも半分以上的外れ)挙げる事自体、プレゼンテーションとしては不快極まりない。北京オリンピックで打ち込まれているとも言われているが、高校野球の相手は同じ日本人である。だからこそ、遊び球が一切ない投球に、相手は面食らうというのは分かるが、それを見破った相手側に、ある程度は打ち込まれないとおかしいとは思った。実際作中だと打ち込まれる試合もあれば、そうでない試合もあるのだが、打ち込まれない試合についてはご都合を感じた。某野球漫画の、高校生にして156キロのジャイロボールを投げる化け物ならともかく、主人公チームの投手はそのような具体的スペックも提示されないまま、「それなりにできる投手」という設定しかなかったからなおさらだった。エンターテイメントとして思い切った戦略を掲げたのは分かっているし、一部正論である部分もある。本作は野球メインではなく、コンセプトは作品タイトルである事も分かっているし、それが達成されているのも分かる。しかし、それらを差し引いても、「ノーバント・ノーボール」作戦の理論に十分な共感ができる程の理屈がなかったのは、残念な点と言わざるを得ない。
 次に、個人的にあまり好かない展開についてだが、これはみなみの親友が死んでしまうことである。皆で笑顔で終了するのが一番好きな自分にとっては、キャラ退場はどうしても好きではない。
 総括として、エンターテイメントとしては悪くないし、作品コンセプトが達成されている点については見事。ただ、一部野球理論に共感できなかったのと、親友の死亡が残念だった。
 OPはなかなか。声優は微妙。作画はNHKにしてはしょぼいが、まあそれほど悪くもない。

 全10話の本作は、10日連続で集中放送された。一週間ずつ待たされなかったという点では、ストレスがなくて良かった。

投稿 : 2016/07/15
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サンキュー:

7

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