「言の葉の庭(アニメ映画)」

総合得点
85.8
感想・評価
1995
棚に入れた
9506
ランキング
215
★★★★★ 4.1 (1995)
物語
3.9
作画
4.6
声優
3.9
音楽
4.0
キャラ
3.8

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ネタバレ

無心 さんの感想・評価

★★★★★ 4.8
物語 : 4.5 作画 : 5.0 声優 : 5.0 音楽 : 5.0 キャラ : 4.5 状態:観終わった

超真面目な大人アニメ(長文注意‼︎‼︎)

とても良かった。キャッチの方に男目線アニメだよと言われスルーしていたが、もっと早く観れば良かったな。

まず、作画。背景や木々はもちろんだが、新海作品は水だったり光だったり、形のないものを描くのがうまい。まるで実写のようで、透明感がありつい見惚れてしまう。

わずか46分という短いお話なので、ストーリーはあってないようなものかもしれない。靴職人を目指す男子高校生タカオ、歩き方を忘れてしまった女教師ユキノ、2人がとある雨の日に偶然出会い、一緒に過ごすうちにお互いにかけがえのない存在になっていく。言ってみればストーリーはそれだけである。
でも一瞬一瞬の描写に何一つムダがなく、後半はグッと心を鷲掴みにされてしまった。

【 歩き方を忘れるということ 】

男女関係の疑いをかけられ生徒から嫌がらせを受け、それが保護者にまで飛び火し問題となり、学校にいられなくなった女教師ユキノ。
毎日スーツを着て電車に乗ろうとするも、どうしても学校に行くことが出来ず、新宿御苑のベンチでビールを飲んで現実逃避をする。

まぁ確かに、道につまづくには十分な動機ではあるが、ユキノがこうなってしまったのは、むしろ伊藤先生の存在こそ大きいのでは?と自分は見ている。

まるで壊れものに触れるみたいにいかにも優しそうに話し、息をするのも辛かったあの頃に周りの声ばかりを気にして信じてはくれなかったあの男である。
なんでもかんでも恋愛に結びつけてしまう思考がスイーツのようでちょっと恥ずかしい。だが、実際のところそんなもんだろう。

男性は女性が思っている以上に体面を気にし、自らの社会的立場というものを死守する人が多いように思う。自分などからすると驚くばかりだが、いざという時に保身に走られるとそりゃ味覚障害にでもなろうというものである。
細かな経緯は描写されていないが、伊藤先生がベランダでタバコを吸いながら電話をしていた際、カーテンの向こうに見えた人影を自分は見逃すことが出来なかった。
自分の1番辛い時に味方になってくれず、先生はもう自分の知らないところで新しい生活を始めている。それにひきかえ自分は歩き出すことが出来ず立ち止まったまま。そんな状態で学校へなんて行けるはずがない。

別れた後も親身に相談に乗り、手続きまで代行してくれる先生は非常に優しい人なのだが、優しさゆえに時に人を傷つけることをこの先生は分かっていない。ユキノが本当にしてほしかったのは、そういうことじゃないんだよ。

なぜに自分がここまで伊藤先生に拘るかと言うと、アニメではサラッとしか触れていないが、小説では色々あったらしい。アニメは基本的にキャラの年齢が低いので、タカオより伊藤先生とユキノの大人の恋愛が観たかったな。他の新海作品みたいに3部構成にして、ここの部分をじっくり描いてほしかった。

【 タカオの存在 】

そんなユキノの精神状態から言って、タカオの存在は大きかったのだろう。最初は気晴らし程度に過ぎなかったのに、段々と会うのが楽しみになり、気づけば雨の日を待ち侘び、晴れの日が恨めしく思えてくる。

自分の下手な料理も否定せず笑って流してくれ、夢を語る青年の姿は年下といえどやはり魅力的に見える。

【 ユキノという女性 】

自分はユキノという女性が割と好きであるが、27歳にしては見た目よりやや未熟に見えた。タカオからは大人の女性に見えるユキノが、実はとても弱い人で、どこか依存的。少なくとも不遇な現状を打破するバイタリティさはユキノには見られない。強かではない。
ユキノ自身、「27歳の私は15歳の私より少しもかしこくない、私ばっかりずっと同じ場所にいる」と語っている通り、本人にも自覚はあるようである。それでは貴女の12年間は一体何だったのかと突っ込みを入れたくなるほどに頼りない。
ほぼ初対面の自校の生徒に恋の歌を詠んだり、あれだけの経験をしておきながら、元?生徒を自宅に入れてしまうなど、ユキノは教師としていささか脇が甘いような気もする。
でもそんなユキノだからかな、親近感が湧いて、嫌いにはなれない。

実際に付き合ったら、こんなつまんない女もそういないかな。ワガママも言わなそうだし、冒険しないし。妻にするにはもってこいだけど。


【 気持ちをぶつける 】

今作の唯一にして最大のクライマックス。階段踊り場でのシーンは演出の良さもあり何度観ても泣いてしまう。
タカオの涙まじりの真剣な台詞がとにかく良かったね。グッときた。

「ユキノさん、さっきの忘れて下さい。俺やっぱり貴女のこと嫌いです。
(中略)自分のことは何も話さないくせに人の話ばっか聞き出して
(中略)アンタが教師だって知ってたら俺は靴のことなんて話さなかった。どうせ出来っこない、叶いっこないって思われるから。
(中略)俺が何かに誰かに憧れたってそんなの届きっこない、叶うわけないってアンタは最初から分かってたんだ。だったらちゃんと言ってくれよ。
(中略)アンタは一生ずっとそうやって大事なことは絶対に言わないで自分は関係ないって顔してずっと一人で生きていくんだ。」

それに対しユキノが
「あの場所であなたに救われてたの。」
と、初めて心情を吐露する。

涙腺崩壊ですよ。ベタだけど。
音楽の入り方も絶妙で。本当このシーンが好き。

【 その後 】

あれから2人は文通をし、この時点では切れてはいない。最後はタカオの「いつか会いに行こう」で物語は終わる。それで、結局2人はどうなったの?という部分は視聴者に丸投げする辺り、さすがは新海作品である。大事なことは絶対に言わない。だが、それがいい。


この作品は真面目な大人アニメです。短いながらなかなかに深いテーマを扱ってるなと思いました。
途中からかなり真剣になって観たので長くなってしまいましたが、最後に、こんな素晴らしい作品を世に出して下さった制作者の方と、こんな長ったらしい文を最後まで読んで下さった貴方に感謝します♪♪
どうもありがとうございました^ ^

投稿 : 2014/11/15
閲覧 : 408
サンキュー:

65

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