「FLAG[フラッグ](TVアニメ動画)」

総合得点
60.2
感想・評価
72
棚に入れた
388
ランキング
5831
★★★★☆ 3.4 (72)
物語
3.6
作画
3.7
声優
3.2
音楽
3.5
キャラ
3.3

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ネタバレ

どらむろ さんの感想・評価

★★★★★ 4.1
物語 : 4.5 作画 : 4.5 声優 : 4.0 音楽 : 4.0 キャラ : 3.5 状態:観終わった

カメラ越しの、超硬派な戦争ドキュメンタリー風味のロボットアニメ。(全13話)

架空の小国の内戦を、女性従軍記者のカメラ越しに淡々と描いていく、戦場ドキュメンタリー風な、超硬派リアルロボットアニメです。
第三者視点を徹底的に排し、ひたすら一人称視点のカメラファインダー越しの画像で物語が進んでいく。
…舞台のモデルは「チベット」っぽいですが、現実のチベット問題とは切り離して観た方が良さげ。
戦争は「湾岸戦争的なハイテク戦争」のイメージか。(ニンテンドー・ウォー)

「装甲騎兵ボトムズ」「ガサラキ」などリアルロボット物の代表格・高橋良輔監督が放つ、超実験的な異色作です。
普通の「娯楽作品としてのアニメ」のセオリーから逸脱しており、評価は極端に割れそうですが、琴線に触れた人にとっては、唯一無二な名作。

{netabare}『物語』
中央アジアの架空の小国(チベットがモデルか)の内戦に介入する国連軍のロボット部隊に、女性カメラマン・白州冴子が(宣伝広報目的の)御用カメラマンとして同行。
一方、白州の先輩カメラマン・赤城圭一はフリーカメラマンとして、国連介入の裏で犠牲となる住民の実情を写していく。
物語は赤城圭一が語り手となりつつも、白州視点も交互に切り替わり、ファインダー越しに淡々と描かれていく…。

大多数のアニメは多かれ少なかれ第三者視点で「お芝居」を観ているワケですが、本作は徹底的に臨場感重視、お芝居感が無い!
…非常に不思議な感覚です。
他作品のようにセリフでの状況説明が無いので、何が起きているかは視聴者が頑張って察するべし。
視点が目まぐるしく入れ替わる構成もあり最初は分かりづらいものの…惹き込まれて見入っていれば、分かります。
ブレるカメラ視点、断片的な情報の羅列…
それらが他作品には無い異質な臨場感を生み、次第に事態が進展していく。

物話のポイントは、カメラマンふたりの視点・立場の違い。
若く無邪気な白州は、国連軍が内戦を終わらせる「正義に好意的」、ロボット部隊の隊員たちに親しくインタビューしていく。
一方、ベテランの赤城は、端から国連の「大義に懐疑的」、戦闘の影でこの国に何が起きているのかを探ろうとする。
どちらが正しく、どちらが間違っているワケではない…
白州がインタビューする国連軍たちは皆好感が持てる人々で、正義と任務に誇りを持っている事が(説明台詞は無くとも)自然と伝わります…
一方の赤城は、出逢った少女(チベット仏教モチーフの現地宗教の聖女)から

「この国を撮ってくれて、ありがとう」

と感謝を受けて困惑する…。
序盤のこのシーンは本作の肝であり、この時点で漠然と本作のメッセージが察せられます。
…否。察するべし。
このシーンから(漠然とでいいから)ナニかを感じられないならば、この時点で本作は合っていない可能性大かも。
…序盤に視聴継続か否かの目安置いてくれる、ある意味親切な構成。


序盤~前半は淡々と進み過ぎて地味なんですが、緊張感が徐々に高まり、見所は6話の戦闘シーン。
「ガサラキ」の系譜を継ぐ「無敵ではないけれど、局所戦闘で威力発揮する」国連軍のロボット兵器による、閉所戦闘が凄まじいです。
まさにガサラキを発展させたリアルロボットの極致!
夜襲の前の長距離砲撃での緻密な計算や、タイムリミット迫る中での準備段階で既に燃える。
敵が潜む洞窟内を索敵する緊迫感!モニター越しのテレビゲームのような淡々とした映像が、逆に臨場感ハンパ無いです。
「湾岸戦争」のテレビ報道をリアルタイムで観ていた者にとっては、イメージするハイテク戦争ってこんな感じなのか…と。
機械越しなので敵の悲鳴や血しぶきが感じられない冷たさが逆に恐ろしい。
…この戦闘シーンをつまらないと見るか、うおーっ!と燃えるか(不謹慎?)で、やはり評価は両極端に割れそうです。
いや~、最高です!たまにはこういう作品も良い。

7話以降も地味に戦闘シーンは多く、後半は敵ロボット(明言されませんが、明らかに中国…?)との激戦が手に汗握る。
ただ、プロの兵士たちが淡々と戦うので、他アニメのようなヒロイックな見せ場は淡白。
そういう作風なので…。


その後ドラマは、国連上層部の黒い思惑や、報道の虚実、現地で戦争に巻き込まれる人々の姿などなど…
淡々と、しかも断片的なピースを散りばめていく感じなので、纏まった物語としては分かり難い。
地味で、ラスト含めて物語的なカタルシスも無い。
最終的に明確に確定しているテーマも難しく、そこもドラマとしてはとっつき難い。
でも。
最後まで観ると、赤城の回想や、白洲が残したモノが何であったのか…何となく分かります。
ふたりの戦場カメラマンが見た、ハイテク戦争と生の人間たちの実情…
国連の闇が暴かれてめでたしめでたし!…とはいかぬ虚しさ。けれど。
「この国を撮ってくれて、ありがとう」
と微笑んだ少女の想いは、確かにそこにあった。本作の映像の断片から、そう伝わりました。


総じて、高橋良輔監督が挑んだ、実験的な映像作品でした。
監督が本作へのインタビューにて
“『FLAG』の中で試みている「ドキュメンタリーのような」味わいというものが魅力的であるとすれば、どなたかがまた「ああいう作品を作ってみたい」と、そう思わせることが出来て、その中から一つでもヒットが出ればそういう方法論や表現が定着していくと思う”と答え、
“アニメーションの枠がちょっとでも広がればいい”

との事。
FLAGという作品には確かに「ドキュメンタリーのような味わいと魅力」が素晴らしかった。
その一方で2016年現在、後続の作品が続いていないのを見るに、残念ながらこういう作風は異端児だったのでしょう。

…まあ、アニメって、あくまでも娯楽ですから。
リアルロボットといっても、ここまでガチのリアルが面白いかは別問題でして。
それでもアニメ史上特筆に値する名作であり、アニメってこういう作風もあるんだな…と見せてくれました。

※追記
そういえば「ガサラキ」のベギルスタンも中央アジアの国でしたっけ。


『作画』
キャラデザは地味だし、静止画の使いまわしは多いし…
しかし。全てカメラ越しに描かれる生々しい臨場感は凄いです。
唯一無二の演出は素晴らしいの一言。
無骨なリアルロボット兵器もカッコイイ、ハイテクなオペレーション描写も含む緻密な戦闘シーンも圧巻。
…好みは激しく割れそう、作画的に凄い!と思えるか否か。
静止画使いまわしは低予算故なのですが、それすらも計算され尽した演出(に思えてくる)。

『声優』
白洲冴子役の田中麗奈さんは女優で、本職の声優ではないので演技は拙いものの、そこが本作の作風に合っていたような(贔屓目)
語り部の石塚運昇さんの渋さが絶品なのが高評価。
国連軍などその他配役も地味ながら良かったです。
元聖女の少女役の折笠富美子さんも出番少ないながら印象的。

『音楽』
主題歌「Lights」は地味ながら、戦闘シーンの重火器や砲撃、ロボットの駆動音など、効果音がリアルロボットとしての盛り上がりに貢献。
地味といえば地味なんですが。
これがまた堪らんです。


『キャラ』
徹底的にカメラ越しを貫く為か、名有りのキャラクター固有の魅力は分かりづらい。
でも、それは本作の欠点にはならないです。

白洲は人懐っこく、無邪気な好奇心で国連軍の素顔を写し取る。
未熟だがバイタリティー溢れる女性としての魅力は何となく分かります。

赤城の方が渋い魅力あり。彼の方が主人公視点なので感情分かり易いのですが、やはり「戦場カメラマンA」な感じ。
それもまた本作の魅力…。
赤城の同業のカメラマンたちが個性派揃いでした。

国連軍は好人物多い。国連上層部は腹黒そう。

元聖女の少女が一番印象的でした。{/netabare}

投稿 : 2016/11/29
閲覧 : 526
サンキュー:

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