「たまこラブストーリー(アニメ映画)」

総合得点
83.0
感想・評価
1240
棚に入れた
6586
ランキング
334
★★★★★ 4.1 (1240)
物語
4.1
作画
4.3
声優
4.0
音楽
3.9
キャラ
4.1

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ネタバレ

ヤマザキ さんの感想・評価

★★★★★ 4.5
物語 : 5.0 作画 : 5.0 声優 : 4.0 音楽 : 3.5 キャラ : 5.0 状態:観終わった

いなくなってわかる、非現実的な鳥・デラの重大すぎる役割

※こちらのコメントを読む前に、「たまこまーけっと」について私が書いたコメントを読んで頂けると非常にありがたいです。よろしくお願いいたします。

「たまこラブストーリー」です。「たまこまーけっと」の続編であり、完結編です。でも「続・たまこまーけっと」でも「たまこまーけっと完結編」でも「劇場版たまこまーけっと」でも、ましてや「新編たまこまーけっと・もち蔵の逆襲」(<なんだそりゃ?)でもありません。「たまこラブストーリー」という、別のタイトルを持った作品です。

もちろん登場人物はほとんど変わりません。「まーけっと」で多くの人の・・・、いや、厳密にはわからないから、少なくとも私の心を確実にわしづかみにしていったたまこも、相変わらず明るく朗らかで、けなげで、そしてやはりちょっと抜けています。でも、この「ラブストーリー」と「まーけっと」は、同じようでいて、実は非常に対照的な性質を持った作品なんだろうと思うに至りました。いわば、「まーけっと」が「静」で「ラブストーリー」が「動」、「まーけっと」が「陰」なら「ラブストーリー」は「陽」です。

「ラブストーリー」を語る前に、「まーけっと」のコメントで敢えて書かなかったことをこちらで書きたいと思います。「まーけっと」は、たまこが高校1年生の終わりから2年生の正月明けまでの話です。季節は冬→春→夏→秋→冬と巡ります。たまこも実際に進級します。でも、季節は変わっていくのに時間が流れている感があまりありません。例えばこれを順不同にして、「サザエさん」や「ちびまる子ちゃん」のようにスポンサーの都合で打ち切りにならない限りは永遠の刻を刻み続けるような作品にすることもできたはずです。でも、京アニはそれをしなかった。おそらくは意図的に。そう、この「ラブストーリー」を名作として残すために。そしてそれは、ある意味「まーけっと」を捨て石、踏み台にする行為でもあったかとも思うのですが。

おそらく「まーけっと」で時の流れを意識させなかったのは、「ラブストーリー」で否が応でも時の流れを、そして、たまこをはじめとする登場人物達の成長を描きたかったからじゃないかと推察しております。さらには「ラブストーリー」でたまこを応援させるために、「まーけっと」ではたまこをひたすら愛されるキャラにしておきたかった。永遠にうさぎ山商店街をスキップしながら闊歩する愛される人物として視聴者に「勘違い」をさせておきたかった。・・・のではないでしょうか?

「ラブストーリー」が始まるとすぐに、たまこの友人達が将来の夢を語り始めます。たまこはそれがわからない、というか、少なくとも実感が湧かない。自分はずっとうさぎ山商店街にいて、早朝おもちを握ってから学校に行って、授業を受けてバトン部で友人との交流を楽しんで、そして商店街で買い物をしながら帰ってきて、夕食を作って父親、祖父、妹と夕食を食べて、もち蔵と他愛のない話を糸電話でして、そして寝るという生活をずっと送るものだと思っている。高校の卒業すらもさほど意識していない。でも否応なく時は流れていくし、しかもみどりにけしかけられてもち蔵は告白してくる。自分はなにも変わらない、むしろ変わりたくないと思っていても、周囲は十分に変わっていく。だから自分も変わる必要があるのに、ちょっと抜けているたまこにはそれがなかなか理解できない。本当なら視聴者はそこでたまこのことを「じれったい」とか、「もしかすると真性のアホの子なんじゃないか?」と思っても不思議はないのだけど、でもたまこが愛らしいのでそこまで批判する気にならず、むしろそれを受け入れられずドジを繰り返すたまこに同情すらしてしまう。物語後半になって、またもやみどりにけしかけられて、たまこはやっと自分の気持ちに気がつく。ずっと向かいに住んでいて、そしてこの先もずっと向かいに住んでいると思っていたもち蔵がどんなに大事か、そして失うとどんなに悲しいかを。やっと自分の気持ちに気づいたたまこは駅に走る。もち蔵に気持ちを伝えるために・・・。その時、やはり視聴者はたまこを応援してしまう。彼女の恋の成就を心から願ってしまう。

興味深いのは、「まーけっと」には出ていて「ラブストーリー」には出ていないデラの役割。「まーけっと」において事件を起こすのはたいていデラ。ところが「ラブストーリー」にはデラはいない。そのデラの替わりを「ラブストーリー」において担うのはみどり。でも、明らかにデラとみどりの作用の仕方は違う。デラはたまこの家の居候、みどりは友人。この立ち位置の違いが物語に対して異なる作用をもたらす。同居しているデラは「まーけっと」においてストーリーをかき回す。ただそれはかき回すだけであって、ストーリーを推進させはしない。なぜなら、自分が居心地がよければそれでいいのだから。いわば、洗濯機がどんなに回っても、洗濯が仕上がったときに同じ場所に置いてあるようなもの。ところが友人であるみどりは違う。デラとは違った視点でたまこを愛している。だから目先の近視眼的な幸福感にとらわれないで、むしろ長期的な視野でたまこのことを心配し、そして実際に行動することでストーリーを動かしている。しかも、元には戻れない場所へと転がしにかかる。

私が敢えて「まーけっと」のコメントの中でデラについてほとんど触れなかったのは、このことを書きたかったから。デラというこの一連の物語において明らかに異質な存在は、たまことその周囲の人たちにとって、大きな引き留め役であったのだろうと思う。ストーリーを敢えて動かさないことで、たまこというキャラクターをじっくりと味合わせてその魅力を引き出させ、そして視聴者に愛されるようにするという、重大な役割を持った装置であったのだろう。でもそれは「まーけっと」だけを観ていたのではわからない。「まーけっと」のコメントの中でよく「あんな非現実的な鳥、いらねえよ」「デラがいなければもう少し名作に近づいたのに」という意見をみる。たしかに「まーけっと」においてはその通りだと思うし、私もやはり実際にそう思った。でも「ラブストーリー」を観て始めてその存在理由、さらにはその大きさに気がつく。なんだ、この周到さ?「ラブストーリー」の映画公開前提で、テレビシリーズの「まーけっと」を作ったのか?京アニ、本当におそるべし。

他の要素にも触れておきましょう。作画は、相変わらず「さすが京アニ」としか言いようがない。特に、「響け!ユーフォニアム」でも遺憾なく発揮された水の描写は見事。現実より美しい。「けいおん!」「四畳半神話大系」にも出てきた鴨川デルタがここでも出て来てちょっとニヤリ。
音楽、主題歌は「プリンシプル」。「まーけっと」での「ドラマチックマーケットライド」があまりに印象的だったのでそれに比べるとちょっと弱いかな?悪い曲ではないけれど、12回に渡って脳内に勝手に入り込み、脳細胞を駆け巡った「ドラマチックマーケットライド」と比べるのはちょっと気の毒、かも?

つらつらと書いてきましたが、やはり傑作ですね。ただそれは「たまこまーけっと」というテレビシリーズを見た上、というのが前提になります。もちろんテレビシリーズを見なくても楽しめるでしょうし、実際京アニも「映画単体でも楽しめる作品」として作ったようですが、是非テレビシリーズを観てから楽しんで頂きたいものです。

投稿 : 2017/04/01
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サンキュー:

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