「新世界より(TVアニメ動画)」

総合得点
87.4
感想・評価
3340
棚に入れた
15914
ランキング
149
★★★★☆ 3.9 (3340)
物語
4.2
作画
3.6
声優
3.9
音楽
3.9
キャラ
3.8

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ネタバレ

アベベ晴明 さんの感想・評価

★★★★☆ 4.0
物語 : 4.0 作画 : 4.0 声優 : 4.0 音楽 : 4.0 キャラ : 4.0 状態:観終わった

本当は怖い超能力

だいぶ前にみた作品なので、記憶をたどって思い出せる範囲でちょっとだけ感想を・・・


{netabare}
実は、このアニメで人間のカタチしてる奴ら、つまり主人公たちは人間じゃーありません。いや人間なんだけど、1000年単位という途方も無い時間で、まるで原種のコメを長年かけて品種改良し、コシヒカリとかササニシキという美味しいコメを生み出していったのと同じような「新人類」です。

彼らの超能力は海を割り、山を消しとばす程、いやそれ以上の絶大なものですが、それ故、常に暴走の危険性を孕んだ一個の爆弾であり、たった一人がコントロール不能になっただけで、下手すりゃ地球自体消滅しかねない恐ろしいもので、当然為政者たちはそういう個々の兆候を監視して、時が来たらおもむろに対処・・・「間引き」します。実にえげつない話ですが、世界を守るためなので致し方ないといったところ。そんな新人類にも、一応の安全機構はあって、他「人」を殺してしまうと自分も死に至るという、遺伝子改良でそういう仕組みが組み込まれてます。しかしそうなると、もし「不良品」を見つけたとして、仲間同士で処刑する事ができない。そこでバケネズミどもの出番となります。バケネズミにはそういう枷がない。つまり殺す事自体は可能なわけです。
しかしバケネズミは「人型」でないので、新人類はその超能力でバケネズミを三枚おろしにも、八つ裂きにも、いや跡形も残さずこの世から消滅させる事すらできます。おそらくたった一人の新人類によって、この世全てのバケネズミ廃滅も可能でしょう。
つまり、この世界でのバケネズミとは、人類たちの便利な道具扱いで、人類の胸先三寸で生き死にが決まるようなドレイ同然の存在です。







さて、新世界が超能力のある人類の住まう場所だと説明しましたが、では使えない方の人間どこにいるの?ていうと・・・呪力、つまり超能力とか使えない「バケネズミ」と称される生き物ですね。あれは見てくれこそあんなですが「人間」なんです。だってボク達、超能力使えないでしょ?つまり、そゆ事。

・・・察しの良い人ならそろそろ分かったと思いますが、このキモーいキモーいバケネズミは、我ら人類の成れの果てです。僕らと同じ似姿の新人類はむしろ、突然変異で生まれたミュータントの子孫・・・いわば勝ち組ですね。
つまりこの作品は、そうやって地球の王者の座から追い落とされて、かわりに成り代わった新人類の咳払いや箸の上げ下げにまでビクつきながら生きていく「オレやキミの子孫たち」の物語といえます。

いやー、実に胸糞の悪いハナシですな。だってよーするに、僕たち私たちの子孫が新人類とかいう訳の分からぬ存在によって、醜く汚らわしいケダモノの姿へと堕とされ、その本来「バケモノ」であるはずの新人類は、よりにもよって俺たちとおんなじツラぶらさげて我らが元人類を顎でこき使い、そして粗相働いて新人類様のご機嫌損ねたら、いやそれどころか、あいつらがちょっぴり虫の居所悪いだけで、あるいは村ごと焼かれても仕方ないって話ですもの。気分良い訳ないよ。

・・・ですがそんなバケネズミだって、死ぬまで怯えながら暮らすのは嫌だ!こうなったら我々バケネズミの未来のためやったらー!えいえい、おーっ、とばかりに秘策をもってクーデター起こすんですが、結局は秘策も破られ首魁は捕らえられ、その「英雄」は、死より悲惨な無間地獄の刑に処されます。クーデターに参加した部落は、いやひょっとするとその地域全部かな、とにかく焼き討ち鏖殺のようです。もー散々ですな。
そして以前より万全の監視体制を整えながら、これからも新人類は困難もあるでしょうがなんとか存続しつづけるのでしょう・・・めでたしめでたし

そんなヘドの出る結末でした。

けれども、この作品がただの胸糞エンドで終わってないのは、バケネズミが滅べば新人類たちの未来も失われるという極めて危ういバランスが、すんでのところで保たれていることが暗に示されている点です。
下等種=バケネズミの生殺与奪を握ったかのような新人類ですが、実はバケネズミなしには、たった一人の不良因子の間引きも満足にできないため、例えばバケネズミたちが示し合わせて鏖殺も辞さず間引きをボイコットすれば、それだけでシステム崩壊もありうるって事になります。
つまり、新人類側の首脳陣は、せいぜいバケネズミを飼い慣らしながらもその反乱を常に警戒しつつ、想定外の「バグ」を一件一件しらみつぶしにした上で、それでもなお「本当に万全なのか?他に見落としはないのか?」と不安に怯えながら暮らさねばならないってことになります。これはとんでもないプレッシャーですよね。なぜなら、例えばその辺の原発一基が不手際によって吹っ飛んだとして、大量の犠牲者と放射能汚染こそあれ、どっこい人類は生きてるでしょうが、「新世界」においてはたった一つの見落としで、自分らどころか地球が消えちゃうかもしれないんですもの。

そして他のレビューでも散見されますが、これは極めて業の深い物語だと言いますよね。では一番業が深いのは誰なのかというと・・・主人公の早季なんですね。早季はムラオサともいうべき、倫理委員会議長・朝比奈富子の正統後継者として認められ、村の中でもごく一部の者にしか知り得ない情報にアクセスできるようになります。そしてこれまでの冒険も踏まえて彼女ら新人類こそイビツな、まわりの生き物、いやそれどころか同族にまで手をつけ捏ねくり回して、本来の形とは全く違う異質な存在に「改竄」してでも存続しようとする、文字通り一人一人がこの世を滅ぼしかねない迷惑千万な「バケモノ」達なのだと、むしろ我々が忌み嫌うバケネズミの方が、ソレよりかははるかに無害な「普通の生き物」ではないかと悟ってしまう。けれども早季は、大本命ではなかったはずのサトルと子を成し、本来、罪のないバケネズミに対する「平和的統治」というドレイの首輪もまた、外す事が出来ない。全ては早希たちの属する「新人類」という他の生態系にとっては害虫か病原体に他ならない存在を、単に永らえさせたいというエゴのため・・・。


{/netabare}

本意とは程遠い妥協的選択をしながら、さして明るいとはいえない、祝福なき未来にむけて漕ぎ出すのって、見回しても灯台一つ見えない真っ黒な海原で行う、闇夜の遠泳のようなもんですね。

お見事。

投稿 : 2017/04/08
閲覧 : 274
サンキュー:

8

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