「言の葉の庭(アニメ映画)」

総合得点
85.8
感想・評価
1993
棚に入れた
9499
ランキング
215
★★★★★ 4.1 (1993)
物語
3.9
作画
4.6
声優
4.0
音楽
4.0
キャラ
3.8

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ネタバレ

雀犬 さんの感想・評価

★★★★★ 4.3
物語 : 4.0 作画 : 5.0 声優 : 4.5 音楽 : 5.0 キャラ : 3.0 状態:観終わった

雨の新宿御苑

2013年公開、新海誠監督の5作目となる劇場アニメ。
新宿御苑を舞台にした、雨の日に出会う男女の恋物語です。
46分の中編なので気軽に見れる作品でもあります。
「君の名は。」の大ヒットを受けて配信や再上映もされたので
最近ご覧になられた方も多いかもしれません。
本作のヒロイン、ユキノは糸守町の教師として「君の名は。」にも登場することで有名です。

風景を味わう映画です。
切ない二人の恋模様も、情感あふれるピアノの旋律も、
映像の美しさを引き立てるための要素に過ぎないのかもしれない…
そう思えるほどに作画、特に背景美術の良さが際立った作品です。
全編に渡って実写と見紛うばかりの繊細な風景描写がなされていて、文句なしに素晴らしい。
ですので、なるべく良い画質で鑑賞されることをお勧めします。

このアニメは雨のシーンがとても多い。
タカオがユキノに会えるかどうかは、天候次第。
監督自身が「雨は3人目のキャラクター」と語るほど雨が重要な要素となっています。
2人の心の変化に寄り添うように雨の降り方も場面によって変わるので
そういう細かな表現にも注目するとより楽しめるかと思います。

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さて、以下はこの話の結末について考えるネタバレレビューです。
{netabare}
なぜ二人が付き合うことにはならず、
タカオの作った靴はユキノに渡されることなく終わったのか?
疑問に思っていらっしゃる方も多いみたいですね。
確かに雨の中抱き合うシーンがクライマックスに来れば、
そりゃもう恋の成就を期待するのも無理はありません。
監督は「どこか希望を感じさせる終わり方にしたかった」とインタビューで語っていますが
それなら二人が結ばれる結末が一番分かりやすい。

実は「君の名は。」が例外で、それ以前の作品は別れの美学、
「終わりがあって始まりがある」といった考えが貫かれているのですが
ここでは本作のストーリーと演出に注目してみます。

男女の同じナレーションを重ねる、という演出は監督が十八番にしているものです。
本作では突然の雨が降り、ユキノのマンションに行き昼食を食べ終わった後に
この言葉が重ねられます。

「今まで生きてきて 今が一番幸せかもしれない」

これを聞いたら「ああ、二人は両想いなんだな」と思うじゃないですか。
多分違うんだよなぁ。
心の中で同じ台詞を語っていても二人の思いは同じではない、
というのが、この物語の核心なのではないかと思うのです。

「秒速5センチメートル」でも男女の違いがテーマになっていましたが、
男性はロマンチスト、女性はリアリストであるとよく言われます。
タカオは心から今が人生で一番幸せだと思っていても、
ユキノはそうではなく、一時的なその場のムードに酔っているだけで、
いざ告白されると年齢差、物理的な距離、彼の経済力の無さ等が頭をかすめる。
身も蓋もない話、アラサーの女性が付き合う上での現実的な問題を考えないはずがありません。
そしてあっさりとその場で彼を振ってしまう。

ユキノにとってタカオは想い人ではなく恩人であり、この後の階段での
「あの場所で私、あなたに救われていたの」の言葉の通り
彼に抱いている気持ちはこの場面においても恋心ではなく
一番つらい時に孤独から救ってくれた人への感謝だったと理解するべきでしょう。

そしてもうひとつ、ストーリーを読み解く鍵になるのが、
この映画ではぐらかされているユキノ先生が退職する原因となった嫌がらせです。
どのような醜聞を流されたのか明らかではないのですが、
思い出したいのはユキノ先生が元彼の伊藤先生に電話をかけるシーン。
彼はあからさまに他人には聞かれたくない様子で、部屋から出てベランダで会話しています。
二人の関係は曖昧で、監督も「受け取り方は自由です」と語っているらしいのですが
その言い方は答えを言っているようものじゃないですか(笑)
伊藤先生は既婚者であり、不倫関係だったと考えるのが妥当でしょう。
「花澤さんがそんな汚れ役やるわけないだろ!」という反論は知らん。

ユキノは伊藤先生と不倫していることを女生徒に言い広められ、
彼女を信じる生徒たちは根も葉もない噂だと思っているが実は本当の事であり、
二人は別れ、ユキノは退職し実家のある四国に逃避せざるをえなくなった―――
と考えれば全てが繋がります。

さて、話をユキノのマンションの場面に戻しましょう。
ユキノがタカオを拒絶するシーン、

「私はね、あの場所でひとりで歩けるようになる練習をしていたの。靴がなくても。」

これはちょっと妙な台詞です。歩くときは普通靴を履くものです。
しかし彼女の言わんとする所、靴がなくてもと付け加える意味はもうお分かりかと思います。
この場面で「靴」とは、「男の愛」の隠喩であることは明らかです。
情愛に溺れ、自分を見失ってしまった事へ改悛の情が、ユキノにはある。
雰囲気に流されて同じ過ちを犯したくはなかった。
それゆえに靴を履くこと=男女の仲になることを彼女は拒んだのだと思います。

映画としてはタカオの作った靴を履いて歩くシーンで終わる方が収まりは良い。
それがあるべきラストだ、という意見もあります。
しかし観客の感情を抜きにして語るならば、タカオとユキノが付き合わないことも、
タカオがユキノのために作った靴は履かれることのないまま物語が終わることも、
ストーリー上必然の帰結なのだと思います。
つまるところ「言の葉の庭」は片恋の物語なのです。

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この映画で一番良い場面は階段でタカオがユキノを罵るシーンだよね!
言うまでもなく「嫌い」は「好き」の裏返し。
分かる、分かるぞその気持ち!!
初めて観たときは自身の嫌な思い出を掘り起こして涙が溢れて来たよ!!!

はぁ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
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女って本当に我儘で勝手。
{/netabare}

投稿 : 2018/03/16
閲覧 : 416
サンキュー:

57

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