「さよならの朝に約束の花をかざろう(アニメ映画)」

総合得点
88.9
感想・評価
651
棚に入れた
3475
ランキング
93
★★★★★ 4.2 (651)
物語
4.2
作画
4.5
声優
4.2
音楽
4.1
キャラ
4.1

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ネタバレ

はあつ さんの感想・評価

★★★★★ 4.5
物語 : 4.0 作画 : 5.0 声優 : 4.5 音楽 : 4.5 キャラ : 4.5 状態:観終わった

妖精と人間の家族の絆

数々の青春群像劇の脚本を手掛けられた岡田麿里さんが、脚本だけでなく自ら監督も志願され手掛けられた作品。
初監督として、自身が好きな要素である、かつて「あの花の名前を僕たちはまだ知らない」「凪のあすから」で描いた“時間のズレで生じる切ない感情“を掘り下げた物語を作りたかったそうです。

アニメ制作会社P.A.worksさんとしても映画初挑戦であり、岡田監督と組んだのは「凪あす」の主要スタッフの方々です。
私、P.A.さんのアニメ作品では、「凪あす」が一番好きなので、この制作情報を知り、期待を膨らませて観てきました。

作画は、劇場の大画面で見る価値あり!

「凪あす」でも私の心を虜にしたファンタジー世界を形作る美術は一級品。
美術監督、東地和生氏のセンスは美しさだけじゃなくノスタルジーも誘います。
冒頭から、桃源郷の中の神殿のような佇まいのある伝説の民が住まう里や、繊細美麗な織物に目を奪われます。
「凪あす」同様、水のある風景画も美しいんですが、特に、翼竜の舞う空は、表情豊かに溢れる雲と光のコントラストが絶妙でうっとりできました。
(余談ですが、P.A.のアニメ「SIROBAKO」で、雲にこだわりを見せた美術スタッフは東地氏がモデルなんでしょうか?)
作品を通して、数多くの素晴らしい一枚絵を堪能できました!

音楽に関しても、場面毎の劇判曲は、情感の盛り上げ方が上手くてそつがなく、最後に流れるrionosさんの主題歌も、しっとりと温かく歌い上げられ、優しい余韻を味わえました。

で、肝心のストーリーについて

私から申し上げるなら、公式の作品紹介を見ずに鑑賞された方がイイように思います。(なのでそれにあたる部分は一部伏せます)
本作のファンタジー設定{netabare}~若い容姿のまま、おそらく400~500年の長命を保つ伝説の民イオルフ~
その民の一人、当時15歳くらいの親のいない少女「マキア」が故郷を離れ、私達同様の寿命である常人の赤ん坊「エリアル」(男の子)を拾い育てる事になります。{/netabare}
このコアとなる舞台設定を作る事で、初監督として一番魅せたい、共に生きながら時間の進み方が違う事で生じる切ない感情の変化を、意欲的に描き上げています。

不安、戸惑い、苦悩、葛藤、覚悟、決意が、目まぐるしく交錯していく心情描写は、岡田監督らしい心をえぐる様な激しさも見せます。

主軸は親子の様な関係性にあるので、スムーズに親子愛や母性愛に感動できる方も多いと思います。

しかし、老化現象とも言える私の感度の鈍ったアンテナでは、主軸とその周辺の多彩な感情の波を上手に拾えなかった様で、感動しきれませんでした~

以下、ネタバレで言い訳がましく愚痴感想~(^^;
{netabare}
自分の心はひねくれてるんでしょうか~
ぶっちゃけ、ここぞで入る回想シーン、泣かせにキテる感を感じて、逆に泣けなかった~
主役の2人、エリアルには感情移入できたけど、マキアには人の母親らしい感情描写が薄く、妖精さんなら、この答にたどり着くんだろうとしかみえず、感情移入できませんでした。
鑑賞前に作品紹介から、単純な親子物の感動を期待しすぎたのもいけなかった様です。

エリアルは、幼少時、母親をからかわれても大好きで、母親から苛立ちをぶつけられても、おどけて機嫌をなおしてあげようと振る舞う健気さを見せ、思春期らしい感情描写も切ない。
母親を憎むような事が無い限り、息子にとって母親は、最初の理想の女性像になることはままある事。
その上、血が繋がらず、いつまでも若いとなれば、際どい情念がもたげてくることも仕方ない。
願い続けてきた、愛してくれた親への報労の思いとの葛藤が切なく伝わり、
「このままでは守ることができない!」
と、別れを決意する場面は激しく胸を打ちました。
そんなエリアルに肩入れし過ぎたせいなのか、マキアには、せめて母親としてエリアルをもっと受け入れてあげて欲しいと、もどかしく感じたんです。

私の、独りよがりかもしれませんが、ありきたりでも、マキアが親として苦労する姿と親子のふれあいで得れる親の喜びをもっと描いて欲しかった。
エリアルの6才頃から15才頃に時間がひとっ飛びしますが、その間の10年近い移り住みながらの暮らしは、マキアにとって計り知れない苦労だったでしょう。
それでも乗り越えてこれた「モゾモゾ虫」の様な息子とのふれあいによる充足感を感じる事が、もっと沢山あったはずです。
そんなシーンを観ていれば、ここぞの場面での回想はもっとシンプルでも、マキアの心情がダイレクトに伝わり、強烈に心を揺さぶられたと思います。

また、マキア達の対比として必要だったレイリアとその娘メドメル。
親子の情愛は育て育てられてこそ育まれる物だと主張したかったのか、あれだけ会いたがってたのに「私の事は忘れて!・・」と突き放し、「・・とても綺麗な方なのね。」なんて諦観したようなセリフで締める非情な別れは、本作で最も岡田脚本らしいエグさが表れてました。
ですが、結局、両親から見放されて終わるお姫様は、物語中、一番不幸で救われない。
大人の勝手で、生まれ捨てられる子供に罪は無く、直後の壮大なシーンでまぎらわされますが、思い返すと後味が悪いです。

他の登場人物の関係性も、あとは想像にお任せします的な描き方が多くてモヤモヤします。
妙にレイリアに気遣う王国の軍団長イゾルの心情は?
ハーフのバロウとマキアの最後の関係は?(ラストに映ったのは2人の子供たち?)

あと、ストーリーにアクセントを付けるための戦闘シーン。
敵影の見えない草原を騎馬が横列突撃したり、伏兵や寝返り無しの城内大乱戦とか、違和感ありすぎて安っぽく見えました。

映画の限られた尺の中、これらの中途半端に見える設定や要素を少し削って、もっと親子の関係性に絞った構成ならと個人的には惜しまれます。
(逆にこれだけの題材なら、1クールか2クールのアニメドラマが観たかった!)

声優さんについて

マキア役の石見舞菜香さんは、最近流行りの若手女優が演じる不安定さはなく、安心して観れました。
欲を言えば、イメージどおりの声だと抜擢したのが岡田監督なので、演技も監督の指示どおりなんでしょうが、年月を経てもマキアの見た目が変わらない分、心の変化を感じさせる様な、もう少し声音や口調に変化を加えて欲しかったです。
その点では、レイリア役の茅野さんは、感情の変化の激しいヒロインを強調できてたと思います。

最後に

長々と勝手な不満を述べましたが、初監督としての岡田さんの意欲を感じたし、P.A.worksさんの映画制作の力量も十二分にある事が分かったので、このタッグでの次回作に期待します!{/netabare}

投稿 : 2018/03/02
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サンキュー:

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