「 DEVILMAN crybaby[デビルマン クライベイビー](Webアニメ)」

総合得点
75.9
感想・評価
328
棚に入れた
1045
ランキング
745
★★★★☆ 3.9 (328)
物語
4.0
作画
3.8
声優
3.9
音楽
3.8
キャラ
3.8

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ネタバレ

蒼い星 さんの感想・評価

★★★★☆ 3.7
物語 : 3.5 作画 : 3.5 声優 : 4.0 音楽 : 4.0 キャラ : 3.5 状態:観終わった

湯浅政明監督の特性と表現力。

【概要】

アニメーション制作:サイエンスSARU
2018年1月5日にNetflixで配信開始された全10話のwebアニメ。
原作は、1972年-1973年に「週刊少年マガジン」にて発表された、
永井豪による漫画版の『デビルマン』
(所謂、メディアミックス作品であり、当時のアニメ版は漫画版とは別物)

監督は、湯浅政明。

【あらすじ】

21世紀の現代の物語。人のために泣ける、心優しい高校生の少年・不動明は、
医師である両親が海外で活躍してる一方で、幼馴染の牧村美樹の家に預けられて居候している。
エースで高校陸上界のアイドルでもある牧村美樹に引きかえ、不動明は非力で足が遅かった。

不動明は幼馴染で親友で大学教授である飛鳥了と再会。飛鳥了曰く、近年世界で多発している、
未解決の残忍な事件の数々は「悪魔」の仕業であり、
悪魔は人間に憑依して身も心も奪われた人間のふりをしながら、
人間社会に紛れて次々と人間を殺しているのだという。
飛鳥了は古代の先住民を研究しているフィキラ教授がアマゾンの奥地で悪魔になるのを目撃。
古代の先住民とは悪魔のことであり、他の生物と合体して力を手に入れているという。

その事実を公表すべく証拠を手に入れるため、人間が悪魔に取り憑かれる条件を把握済みの飛鳥了は、
不動明を連れて、「サバト」と呼ばれるドラッグパーティーに潜入する。
そこで飛鳥了は悪魔を呼び出すために、「サバト」を流血沙汰の暴力現場に変えてしまう。
飛鳥了の目論見通り次々と発生して人間を食らう悪魔たち。
悪魔に殺されかけた不動明も悪魔の戦士アモンに憑依されかかるがそれを克服して、
逆に人間の心を保ったままに悪魔の力を手に入れてしまう。「デビルマン」の誕生である。
見違えたようにワイルドな容姿と高い身体能力を手に入れた不動明は、
飛鳥了とともに人間を守り悪魔を殲滅するべく動き出すのだった。

【感想】

名作と呼ばれる漫画版デビルマンの醍醐味ってなんでしょうか?

作中で説明されているとおりに、悪魔と人間は食物連鎖の上位と下位の関係にあり、
人間の情愛・優しさ・思いやりが何の役にもたたずに、
人間が悪魔によって無慈悲に蟻の行列のように踏み潰されていく。
そして人間も疑心暗鬼と恐怖心で狂っていき、残酷さを顕にして他者を蹂躙していく。
人類の終末の地獄の光景を読者が神の視点で傍観する「黙示録」的な内容を、
サイコホラー風味のショータイムとして当時の読者が心待ちにしていた。
当時は、現代より性的で暴力的な過激な描写が少年誌で多かったとはいえ、
それにも増して、人類の滅亡の地獄絵図を50年近く昔の少年誌で描ききったことが凄かったのか?
そしてそれは、当時複数の連載を掛け持ち(wikiによると月産400~500ページ)しながら行った、
多作な執筆活動の一部であるという作者・永井豪の当時を思うに、
面白い面白くないは個人の感想として、
伝説的な漫画家の一人として数えられるに相応しい実績の持ち主と言えるでしょうね。

漫画家・永井豪の作風として、コメディであれシリアスであれ、
お色気・暴力・ナンセンスが描かれる傾向が強く、人間の性(サガ)は欲望に根ざしており、
権威や秩序に対して反抗的であり、奔放に露悪的に描かれた人間の姿が描かれていますね。
作者の作品のひとつのハレンチ学園のとんでもなさの一例として、すぐ裸になることは序の口で、
小学生が料亭で酒盛りをしてぐでんぐでんに酔っ払うなんて今の御時世では通らないでしょう。

デビルマンと言えば終盤の凄惨すぎる展開が有名ですが、
実はこれ、ハレンチ学園のハレンチ大戦争の焼き直しに見えてしまうのですよね。
ハレンチはけしからんと歪んだ正義感で戦争を引き起こし虐殺を楽しんでいる、
「大日本教育センター」は、デビルマンで悪魔狩りをする悪魔特捜隊、
そして牧村邸を襲撃した暴徒と行動が重なります。

対するハレンチ学園の面々は、どうせギャグマンガだから死なねーよ!とたかをくくっていたのに、
マシンガンで小学一年生の子どもたちがバラバラに千切れていく。
イキドマリやアユちゃんなどレギュラーキャラですら戦車の砲撃で木っ端微塵に砕け散る。
残酷ショーの連続はデビルマンで悪魔や人間によって命を奪われる数々の悲劇と重なりますね。

登場人物のひとりひとりを掘り下げるよりも、愚かな人間という群体として俯瞰していく。
実写ほど生々しくはないものの、ポルノやスナッフビデオに似たドキドキハラハラな展開で、
読者に思わぬ衝撃を与えていくというシチュエーション重視タイプの漫画家なんでしょうね。

このDEVILMAN crybabyは漫画版デビルマンをベースにして、
時代に合わせてのアレンジが多いですよね。

それは漫画原作よりも直接的な性描写であったり、ラップの多用やドラッグやホモセクシャル。
刺激的な映像作りに関しては他の演出家には真似できないセンスの健在さに溢れてはいますね。
そこらあたりは原作との噛み合わせが一致していたのではないでしょうか。
迫力重視の劇画タッチの原作の作画と比較して、
このアニメではデフォルメ重視のぐにぐにした作画なのには疑問はありますが。

まあ、それらの要素は演出の一環として表層的なものであって、
ほんとうの意味での違いは原作漫画よりも人間の心の扱い。
狂気や負の感情に侵されていく人の醜さが描かれているの同時に、
情愛を持った人たちの正しく人間でありたいという精神などを掘り下げることで、
物語の結末に向けての悲劇性や無常観を強調しているということ。

その象徴が原作漫画版とは名前と家族構成以外の共通点が存在しない、ヒロインの牧村美樹。
漫画では一人称が「セッシャ」二人称が「オヌシ」父親は「オヤジ」
気弱な「サイレン明」をからかって遊んでたのに、
デビルマンとなってワイルドなタフガイになった途端に強いオスに惹かれるがごとく明にメロメロ。
不良にムカつけばいきなり殴りかかる「平手美樹」恐怖心はあるけど豪胆で向こう見ずなお転婆娘。
彼女は自衛に飛び出しノコギリを持ち歩くハチャメチャさで、身を守るためなら徹底的に戦う。

それが、crybabyの美樹は明への家族愛に溢れている。人の悪口は決して言わない。
人間の善意をどこまでも信じ、美しい言葉で周りを説得しようとする心優しい聖女化。
リバイバルものにありがちなのが、物語の終着点から逆算してのキャラクターのアレンジ。
悪意やパニックに流される人間たちの姿との対比で善性の象徴として、
聖女化された美樹を通して物語のメッセージ性を高めるという、
なかなかに挑戦的な作りであったとは思います。

ですが、湯浅監督の演出は外連味(けれんみ)が主体。
「大げさなはったりや、ごまかし」を何度も何度も積み重ねて、
幻覚的なサーカスのような奇抜な演出が真骨頂でファンから絶賛されているポイントですよね。

しかしながら、情動を表現するには作画が合ってないかなと感じますね。

原作漫画にはないアレンジ要素である、デビルマンであるミーコや幸田の葛藤のストーリーがそう。
ホモセクシャルやら号泣やらラップを通した交流とかで飾ってあるものの、
作画による感情の表現が淡白すぎるゆえに、登場人物の心の痛みが観ていても伝わってこない。

このアニメでの人間は滝のように涙や鼻水を流しながら大口を開けて号泣をするのですが、
単に大袈裟にすれば人間の感情が描けているとする、そのやり方が古いと言いますかな?
近年は『イエスタデイをうたって』など日常芝居が見直されたアニメ作品が増加傾向にあり、
かつての日曜夜の定番であったフジテレビの世界名作劇場の系譜を継ぐジブリのやり方ですら、
過去のものになりつつあるアニメの感情芝居のアップデートに湯浅監督が対応できないのでしょうか?

そこの弱さを湯浅ギミックに頼り切った演出方法で補っていると言えますが、
キャラの素材そのもので勝負しなくてオーバーで記号的な表情芝居なうえに添加物たっぷりな演出は、
誤魔化しのノイズに感じられてしまいますね。

折角の人間の感情に敢えて踏み込んでアレンジされたシナリオに、
作画や演出がついてこれてないのではないか?

異論のある人もいるでしょうがあくまでも個人としてこう感じた!との印象であり、
このアニメを見た物足りなさがありますね。お手本とすべく映像作品の傾向の違い。
例えばクエンティン・タランティーノ監督的な映像作品が好きな人には、
このアニメは合うかもしれません。
この感想は、あくまでも好みの違いとしてとどめておいたほうが良いかもしれませんね。


これにて感想を終わります。
読んで下さいまして、ありがとうございました。

投稿 : 2020/10/04
閲覧 : 397
サンキュー:

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