「ワンダーエッグ・プライオリティ(TVアニメ動画)」

総合得点
71.9
感想・評価
313
棚に入れた
1001
ランキング
1214
★★★★☆ 3.6 (313)
物語
3.3
作画
4.1
声優
3.5
音楽
3.6
キャラ
3.5

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ネタバレ

キャポックちゃん さんの感想・評価

★★★★☆ 3.1
物語 : 2.5 作画 : 2.5 声優 : 3.5 音楽 : 3.5 キャラ : 3.5 状態:観終わった

ストーリーが迷走…残念な野心作

(作品分析のため、ストーリー展開をすべてバラしています。アニメを見ていない人は読まないでください)
 自分のせいで身近な人に死なれた---そんな重荷を背負った少女の姿を描きながら、途中から脚本家が方向性を見失ったかのように、ストーリーがフラフラと迷走する。テーマが重すぎて執筆に行き詰まったのか、意表を突こうとして失敗したのか。いずれにせよ、とても残念な出来に終わった野心作である。
 「死なれる」とは、自動詞が受動態になった表現で、欧米の人にはほとんど理解されない日本語独特の言い回しである。喪失感よりつらく罪悪感ほど倫理的でない情動をもたらすが、本アニメは、「死なれた」としか言いようのない状況に置かれた少女が、どのようにすれば立ち直れるかという問題意識から出発する。
 この作品の基本的なプロットを表すのに、私は、「贖い(あがない)」という言葉を使いたい(作中では用いられない)。新字体で記したときの「購い」が単に金を払って物を買うことを表すのに対して、旧字体の「贖い」は、「代替物を差し出すことで罪の許しを得る」行為を意味する宗教用語である。少女たちは、自分が関わった死に対する苦悩から逃れようと、贖いの道を模索する。

 主要登場人物は、14歳の4人の少女。
 アイは、オッドアイ(左右の虹彩の色が異なる)という身体的特徴のために学校で苛められる。大人びた転校生の小糸が手を差し伸べるが、彼女は人気教師との関係が疑われて孤立、真相が曖昧な転落死を遂げる。アイは、自身が同じ教師に思いを寄せていたこともあり、小糸の本心まで慮ろうとしなかった。
 元ジュニアアイドルのリカは、彼女を熱狂的に推すちえみから金をせびりとり、挙げ句、容姿について暴言を吐いて遠ざける。ちえみは拒食症に陥って死んだ。
 ボーイッシュで同性に人気のあった桃恵は、友人と思っていたハルカから身体的接触を迫られ、動揺のあまり激しく拒絶。ハルカは自殺する。
 ねいるは、人工授精によって作られた天才少女で、大企業の社長を務めていたが、彼女の才能に嫉妬した妹あいるにナイフで切りつけられ、重傷を負った。あいるは、直後に飛び降り自殺をする(余談だが、ねいるの天才性は作中で描けていない。第9話の幾何学の問題など、少し数学の好きな中学生なら1分で解けるものだし、「オッカムの剃刀」などのキーワードを間違った形で引用する)。
 こうして4人の事跡を並べるとわかるように、死者に対する責任にかなりの差があり、罪の意識も異なっている。リカは最も強い罪悪感を抱き、自傷行為を繰り返しながらも、「罪悪感はあるが責任を感じる必要はない」と自分に言い聞かせる。桃恵の苦悩は「自分はどうすれば良かったか」という問いの形をとる。一方、アイとねいるは、明確な罪悪感を持たない。ねいるは被害者なので当然と言えば当然だが、アイの心情はアンビヴァレントで行動原理が曖昧である。
 もちろん、4人の心理がバラバラなのは人間らしさの現れであり、話の展開として何の不都合もない。問題なのは、その4人を特定のプロットにはめ込もうとした点である。

 オリジナル脚本を執筆した野島伸司は、『高校教師』など心の闇をことさら強調するテレビドラマの作家として知られる。今回が初のアニメ作品であり、おそらくその点を強く意識したせいだろう、過度に“アニメ的”なプロットを採用した。主人公が4人のガールズグループであること、異世界でのバトルが繰り広げられることなど、多くのアニメで採用されるフォーマットをそのまま使った。
 おそらく、野島による当初の構想では、異世界でのバトルを通じて、身近な死に対する贖いを遂行するというプロットだったろう。しかし、置かれた状況も死についての思いも異なる少女たちを、異世界バトルという共通の枠組みで扱うのは無理がある。戦う相手は極端に戯画化されたワンダーキラーと呼ばれるモンスターなので、死者への思いと結びつけられるような現実味に乏しい。バトルの目的も曖昧である。アイやリカは、バトルに勝利すれば死者が蘇ると信じているようだが、そう信じるに至った根拠は明示されない。
 そもそも、死者を生き返らせるというのは、物語として一種の反則行為である。魔法が使える世界を描いたファンタジーでも、死者の蘇生は禁忌とされる。ゾンビなどではない生きた姿への蘇りを描いた物語は決して稀ではないが、大人を納得させるだけの倫理的正当化ができた作品はほとんどない。私の知る限り、カール・ドライヤーの映画『奇跡』などごくわずかで、それも、死んだ直後に息を吹き返すケースに限られる。時間が経った後で恒久的な蘇生を果たすというプロットは、現代の物語としては無謀である。

 ガールズグループによる異世界バトルという“軽い”プロットと、贖いや蘇りという“重い”テーマを、執筆を開始した時点で野島がどのように結びつけるつもりだったのかは、わからない。『高校教師』などにおける投げやりなラストからすると、落としどころをきちんと考えていなかったのかもしれない。話が進むにつれて、いかに無理筋かがだんだんと見えてきたのではないか。
 本作は、2021年1月に放送がスタートしたものの、第8話として総集編が挿入されたせいで3月末までに収まりがつかず、6月に特別編(1時間枠だが、前半がまたも総集編で後半が実質的な最終回)を放送してストーリーを落着させた。1クールアニメで番外編が挿入され、以降の放送スケジュールが乱れるケースは、『ゴッドイーター』『バビロン』などたまにあるが、いずれも制作体制に問題が生じたせいだと思われる。本作の場合、脚本が間に合わなくなった---というのが私の勝手な推測である。
 この推測の根拠は、第8話以降、ストーリー展開がそれまでと全く異なるものになったこと。しかも、必要な伏線が張られておらず、後出しジャンケンのように新たな設定を追加し、結果的にストーリーが迷走してしまった。アイデアに詰まった脚本家が、破れかぶれに書いたようにも思える。
 最も奇妙な追加設定は、「死への誘惑」を生み出すAIを登場させたこと。これでは、身近な死に対する罪悪感といった、それまで築いてきた人間ドラマの辻褄が合わなくなる。物語構成上、どう考えても、このAIはない方がすっきりする。
 さらに、終盤で世界線の分岐という設定が加わり、死者の蘇りは、異なる歴史をたどったパラレルワールドでの出来事とされる。異世界バトルが死に対する贖いとして軽すぎるため、死の重みを相対的に軽減しようと企図したのかもしれないが、生と死の対立が持つ絶対性が失われ、少女たちの置かれた状況に切迫感がなくなってしまう。SF的な言い訳をせず、ファンタジーの枠内で筋道を付けてほしかった。
 「バトルの相手が、実は自身の傷ついた心が捏造した虚構だった」という新たに示唆された要素は、それまでの展開と整合的なので、当初の構想に含まれていたとも考えられる。特に、アイにとっての憧れの教師がワンダーキラーとして登場するエピソード(第12話)は、この世界を生きづらいものにするのが彼女自身の心であることを明らかにして、興味深い。しかし、ならば第2話の新体操部顧問や第4話の痴漢などについても、被害者自身の妄想であることを示す伏線を用意しておいた方が、作品の方向性が明確になったろう。
 終盤のエピソードは、どれも必要性がない上に後味が悪い。マンネンらお助けキャラが惨殺されるのは、旧約聖書に登場する犠牲の羊を思い起こさせ、異世界バトルが贖いに値しないことの代償にも見えるが、いかにも唐突である。 第10話に登場するトランスジェンダー少女のエピソードは、同じモチーフの下品な繰り返しに過ぎず、不必要だ。ねいるの妹あいるの描き方も、以前のストーリーと整合的でない。意表を突いた展開と言うには、あまりに場当たり的である。

 第8話以降の迷走は、どうも脚本家に責任がありそうだ。だが、その一方で、第7話までの脚本は充分に面白い。特に、第4話から第5話にかけての少女たちの言動には、各人の心情が見事なまでに浮き彫りにされており、近年のテレビアニメの収穫と言って良い出来である。14歳という悩み多き時期の女子中学生を取り上げ、その心の痛みを正面から描いた点は、高く評価できる。全体としては、構想に無理があり優れた作品とは言い難いが、それは野心的な企画が空回りした結果として受け容れ、中盤の何話かだけに意識を集中して鑑賞すれば、それなりに感動できる作品である。

投稿 : 2021/09/18
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サンキュー:

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