「アルドノア・ゼロ(第2期)(TVアニメ動画)」

総合得点
82.0
感想・評価
1687
棚に入れた
9726
ランキング
371
★★★★☆ 3.9 (1687)
物語
3.7
作画
4.1
声優
3.8
音楽
4.0
キャラ
3.8

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ネタバレ

退会済のユーザー さんの感想・評価

★★★★★ 4.5
物語 : 4.0 作画 : 4.5 声優 : 4.5 音楽 : 5.0 キャラ : 4.5 状態:観終わった

お姫様への恋と、地球への羨望

第一クール、第二クール両方の紹介と感想です
感想がとても長くなってしまったので、短いバージョンの紹介文を先に記します
この物語は、火星対地球という戦争の中で、男の子二人がお姫様を取り合う恋(?)のバトルでもあります。
火星の圧倒的な戦力に対して、地球の少年達は限られた戦力の中で戦い、頭脳を駆使して火星人をやっつけていきます。
その様がとても爽快。
また、火星のヴァース帝国の政治や資源の乏しさ、それに不満を持つ者や、地球と火星のはざまで苦しむ者の姿などもあり、社会派としての側面もあります。
個人的には、前半は地球の少年伊奈帆の無双を楽しむもので、後半は地球生まれの火星騎士のスレインの無双を楽しむのがいいかなと思います。
それぞれのキャラクターの思いがどのような結末を招くのか、ぜひご視聴あれ


では、長い方の感想
{netabare}このアニメには小さな物語としての恋愛バトルと、大きな物語としての火星対地球の戦争という物語がある。

このアニメにも賛否があるわけだが、否定的な声として多いのは、恋愛バトルの方であろう。
地球の学生である界塚伊奈帆と火星の軍人であるスレイン・トイロイヤードによる、火星の第一皇女アセイラム・ヴァース・アリューシアをめぐる争い。
だが、その結果は、アセイラム姫が終盤突如として現れたクランカイン(クルーテオ)伯爵と結ばれるという結果に終わった。
この放送当時はこの言葉があまり流行っていなかった気がするが、つまり“NTRエンド”ということだ。
いや、“BSS”(僕が先に好きだったのに)というやつかもしれない。
脳を破壊された視聴者が、否定的な感想を持っている、というところだろう。
いやしかし、果たして、この勝負は引き分けだったのだろうか。

いや、僕は伊奈帆の勝利だと思っている。
空が青いのは、「光の屈折」が原因だとスレインはアセイラムに言った。
それを伊奈帆は「レイリー散乱」の影響だとアセイラムに言った。
アセイラムを騙るレムリナ姫は、スレインの言葉通りに空の青さを「光を屈折」によるものだと言った。
皆がレムリナ姫を本物のアセイラムだと信じる中で、伊奈帆は偽物だと気づく。

アセイラム姫の権力を利用し、アセイラムの望まない戦争の道へと突き進むスレイン。
アセイラムを想う気持ちは本物だっただろう。
しかし、それはアセイラム本人を無視した、一方的な押し付けに過ぎなかった。
ましてや自分に好意を持つレムリナ姫の感情まで利用していた。
対して伊奈帆は、アセイラムが和平を望んでいたことを考慮して、同じ意志を持つ火星騎士のマズゥールカ伯爵を、捕虜から解放し、助けとなるためにアセイラムの元へと送り込んだ。
そして、「スレインを助けて欲しい」というアセイラムの言葉を尊重し、スレインの命を救った。
アセイラムの願いを受け止めた。
スレインは姫から救われたことを知り涙する。

最後、アセイラムが口にした、空の青い原因は、「レイリー散乱」であった。
互いに互いの言葉を受け止め、言葉として残った。
伊奈帆はアセイラムを自分の一部のように思い、アセイラムも伊奈帆を自分の一部のように想う。

伊奈帆はアセイラムを自分の一部のように誤認していた。
アセイラムの願う平和は、伊奈帆の願いでもあったということだろう。
その願いが叶ったことで、二人は幸せなのだ。

その願いのためにアセイラムは理性的な判断を下した。
火星軍による侵攻を止めるために、力を持つクランカイン(クルーテオ)伯爵と政略結婚する。
その前には、地球に行ったという自分の行いのせいで多数の犠牲者が出たという後悔や、皇帝であるおじいさまが老衰していく様を見て悲しい気持ちもあっただろう。
しかし、結婚という色恋が絡むものまで利用した、理性的な判断であった。
伊奈帆に守られるだけでなく、スレインに流されることもなく、自立し決断した。
絶望的な立場からでも平和に向けて戦い、正義を執行した。

理性的な判断を下していたのは伊奈帆も同じであった。
アセイラムが絞殺されかけた時、お姫様に対して躊躇うことなく人工呼吸をする。
それは、他の学生たちは冷やかすことがあっても、真面目に訓練を受けた結果であった。
「戦争ですから」という理由で、いつも目的のために理性的な判断を下していた。
戦う動機は、亡くなった友達に対する後悔だったかもしれない。
あるいは、アセイラムへの恋だったのかもしれない。
もしかしたら、単にスレインが憎かっただけかもしれない。
しかし、常に分析を怠らず、理性的な判断を下し続け戦い抜いた。
どんな危機に陥っても平和のために正義を執行した。
無茶をし続けたのも、そこに勝算があったからだろう。

己の欲望をむき出しにするのではなく、他者を尊重し、目的のために戦った。
その結果、アセイラムの願った平和へと辿り着いた。
地球には、まだ不完全ではあるが、平穏な日々が戻った。
憎しみや下心といった感情に流されることなく、理性を持ってして得た幸せだった。
アセイラムの願った平和、そのために戦えたことそれ自体が恋であり、伊奈帆にとっての幸せだったのだと思う。
でなければ、最後左目のアナリティカルエンジンを捨てることなんてしなかっただろう。
まだ使えるはずだが、戦争が終わったのであれば、必要がないのだ。

最後のスレインの涙は、救われた喜びもあったのだろう。
何より、自分はアセイラムの言葉を受け入れられなかったのに対して、伊奈帆はアセイラムの言葉を受け止めた、という悔しさがあったのだろう。
だから、やっぱりこのバトルは伊奈帆の勝利だったのだ。

では、地球対火星の戦争はどうだったのだろうか。
まず伊奈帆と同じ戦艦デューカリオンのメンバーである鞠戸大尉に注目したい。
15年前の火星との戦争で、圧倒的な戦力差を前に危機に陥り、戦友であるヒュームレイを炎の苦しみから解放するために射殺した。
その後悔から、PTSDを発症する。
戦いのたびに、PTSDを発症し、出撃できなかったりもした。
そんな鞠戸大尉だが、火星騎士マズゥールカとの戦いで、相手の攻撃により意識を失いかける。
意識を失えば当然、敵にやられてしまう絶体絶命の場面だ。
そんな中で、PTSDを発症する。
過去の行為がフラッシュバックして、失いかけた意識ははっきりと戻る。
結果、戦闘に勝利するのだが、PTSDを発症したことを主治医である耶賀頼先生に相談する。
すると先生は、自分を守るために無意識のうちにあえて発症したのではないかと、語る。
鞠戸は、過去の後悔を、自分を守る術として、コントロールしたということだろう。

自分をコントロールしたという点では、同じくチームデューカリオンのメンバーであるライエ・アリアーシュも挙げられる。
火星のスパイとしてアセイラム姫を暗殺した(が未遂に終わった)父を持つ。
その父を火星人であるトリルラン卿に、口封じのために殺される。
その恨みから火星人を敵視するようになる。
しかし、自分もまたその火星人であり、地球人に救われながら身元を明かすことはできない。
だが、火星の皇女アセイラムは、その正体を明かし、地球人とも仲良くする。
その現実を嘆いたライエは、アセイラム姫を絞殺してしまう(も未遂に終わった)。
怒りと憎しみ、そして苦しみという感情に流されてしまった。
しかし、その後、戦いの中地球人にも受け入れられるようになり、葛藤の中成長し、火星人マズゥールカ伯爵を殺さずに敵の揚陸城へと送り込んだ。
火星に対する怒りを抑え、コントロールできるようになった。

コントロールするのは、感情だけでなくロボットも同じだ。
敵であるヴァース帝国(火星)のロボットでカタクラフトは、無敵のバリア、ビームの剣、ロケットパンチ、そしてそれらを全部組み合わせた攻撃など、「アルドノアドライブ」という動力源を用いて、アニメみたいなド派手な戦い方をする、いやアニメに違いはないが。
対して、地球側にはアルドノアドライブを起動することはできず、しかも伊奈帆が使うカタクラフトは訓練用のものだった。
それも、コントロールしやすいように、伊奈帆はあえて訓練用のオレンジ色の機体を選んだ。
圧倒的な戦力差に対して、観察と分析をして、とんちを働かせ、倒していく。
最小の力を完全にコントロールし、最大限の力を発揮した、伊奈帆たちの勝利であった。
逆に火星側は、自らの名誉のためにと、単騎で突っ込んでいたため、強大な力があっても、コントロールしきれなかった。
また、地球人を蔑み見下し慢心していたことも、伊奈帆たち地球の金星を生んだのだろう。

そんな火星の軍人である軌道騎士たちをまとめあげたスレインも、結局は、力を握ることや憎しみをそのまま行動に移し、アセイラム姫の望まない戦火へと流されていってしまう。
しまいには、アセイラムを拘束することにもなった。
最後の自爆も、アセイラムをNTRされたから、あるいは自分の思ったように行かなくなったから、何より、アセイラムのことを蔑ろにしてしまった後悔から、自暴自棄になった結果ではないのか。
海辺で自分を射殺するようにおでこに指を差したのも、かっこつけようとしたところがある。
自分の感情をコントロールできず、力を得ることに躍起になり、力に溺れていった。

地球側の「チームデューカリオン」のメンバーは自己をコントロールし最大限の力を発揮できたのに対して、火星側、スレインは力をコントロールできずに感情に流されていったように見えた。

こうした、伊奈帆、スレインの恋物語だけでなく、キャラ一人一人の小さな物語の積み重ねが大きな物語である戦争にも影響している。

大きな物語の主役は、いや黒幕は、火星騎士ザーツバルムだ。
戦争のきっかけとなったアセイラム暗殺を企てた首謀者だ。
その方法は、親睦を深めるために地球に来訪したアセイラムを、地球人によるテロに見せかけて暗殺する、というもの。
どこか、史実を想起させる。
地球を見下し、羨み、その資源を欲していた火星の騎士たちは、地球侵略のための大義名分を手に入れ、一目散に地球へと攻め込んでいった。
忠義を示すべきアセイラム姫のご意向など無視するがままに。
圧倒的な軍事力により、火星側が優位に戦いを運ぶが、次第に地球側も伊奈帆らが反撃に出て戦いは長引く。
そこでスレインが先頭に立ち、アセイラム姫(偽物)の名の下に「アルドノア・ドライブ」の起動権を手に入れ、地球に王国を作る宣言をし、火星騎士たちをまとめ上げ、更なる攻勢にでる。
スレインはライエの逆で、火星軍に所属する地球人だ。
だから、地球人を見下す騎士たちに疎まれてきた。
そんなスレインが、ザーツバルムに取り入って養子になり、武勲をあげ、力によって出世し、好き放題するという話。

ザーツバルムは、地球を憎んでいたが、火星も憎んでいた。
火星は資源も乏しく貧しい。
しかも封建制度により格差は激しい。
そんな中でも皇族は工業化を推し進め、不平不満は、地球へと向けさせた。
そもそも、人類が火星にたどりついたのは1972年。
それから作中の2014年までたった42年だ。
それまではともに地球で過ごしていた友だったのに、42年で、「火星人」「地球人」と憎しみ合い戦う。
戦争の起きた15年前ならば27年間の歴史しかない。
それまでの期間で地球への敵対心を育み国家を維持していた。
他民族や他国を憎む感情は国民統合の道具として簡単に生成されるということだろう。
ザーツバルムは、資源が豊富で空を飛ぶ生き物(=鳥)を食べられる贅沢な地球を羨み妬む。
一方で、そんな妬みの感情を育ませた皇族も恨んでいた。
そんな社会を作ってしまっている原因は、火星の技術の源になっている「アルドノアドライブ」の占有にあるとザーツバルムは見た。
その意志は、どういう経緯かわからないが、アセイラム姫が受け継いだ。
アセイラムの平和を願う気持ちは、自己のエゴではなく、万人を思う気持ちからだった、というところだろう。

こうした各キャラの成長や、逆に堕ちていく様、そして政治的な話も噛み合う、緊張感と儚さが交わる物語であった。{/netabare}

投稿 : 2022/11/06
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