「機動戦士ガンダム 水星の魔女 Season2(TVアニメ動画)」

総合得点
72.6
感想・評価
273
棚に入れた
902
ランキング
1092
★★★★☆ 3.6 (273)
物語
3.4
作画
3.9
声優
3.7
音楽
3.6
キャラ
3.5

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ネタバレ

アジオフライ さんの感想・評価

★★★☆☆ 2.3
物語 : 1.0 作画 : 3.5 声優 : 3.5 音楽 : 2.5 キャラ : 1.0 状態:観終わった

物語を成立させる責任から逃げるなアア!!

 『境界戦機』が売れなかった理由が,「『ガンダム』じゃなかったから」だとこの作品が証明してくれました気がします.もちろん,『境界戦機』自身にはちゃんと市場から見放された要因があるわけですが,少なくとも内容面ではこの作品も同レベルだと思います.この作品が,今後のシリーズスタンダードにならないと良いですが….

・学園と企業
{netabare} 第二次ガンプラブーム後初の新作となるこの作品は,「主人公が女性」「舞台が学園」「テーマが企業間闘争」という三点で,過去作との差別化を試みていました.一つひとつなら何の変哲もない要素も,『ガンダム』シリーズの名のもとにかけ合わせればさぞ面白くなるだろう,と期待したのも今は昔.残念ながらこの作品は,上記3要素のどれも十二分には扱えていませんでした.
 まず学園要素ですが,今作の舞台となるアスティカシア高等専門学園にはまともな教師キャラが一人も登場しません.先生のいない学園ドラマって何?!しかもそこに通う生徒たちが,何を目的に,どんなことを学んでいて,卒業後どのような進路を辿るかといった情報も不明です.主人公・スレッタは,故郷の水星に学校を作ろうと考えているキャラクターでしたが,彼女が所属するのはなぜかパイロット科で,特に理由付けもありません.一方で,何故か学園で行われる「決闘」周りの描写については重厚なので,この作品における学校は,キャラクターに決闘をさせるための舞台装置になってしまっています.どこの世界に,決闘をしに学校に通う学生がいるんでしょうか…?学園ドラマとして成立していない以上,この作品が学園を舞台にすることには,何ら意義も特異性もないと考えます.
 次に企業間闘争については,エアリアルの取り扱いを筆頭に,決闘要素の食い合わせが悪いと感じました.それを抜きにしても,ミオリネが目的意識が曖昧なまま株式会社ガンダムを設立したのを筆頭に,社会派作品的な描写は全体的に稚拙だと思いました.とりあえず,会社≒勢力は4つも5つも必要なかったと思います.正直,未だに名前もよく分からないキャラクターが何人かいます.
{/netabare}

・主人公と物語
{netabare} そして「主人公が女性」についてですが,これについては主人公の性別云々以前に,スレッタというキャラクターが主人公である必然性を感じませんでした.前半はエアリアルに乗って数多の決闘を無双していた一方,後半はサブキャラクターが推し進めていくエピソードに満足に関わることができない状態に陥ります.他方,序盤は三下の悪役同然だったグエルが,父親の死と地球民の現実に直面して精神的な成長を遂げ,ヒロイックな活躍をするようになっていくので,次第に彼の方が実質的な主人公に相応しく思えてしまいました.さすがに終盤は,彼女も様々な苦難を乗り越えて成長を遂げるわけですが,メインのMSに乗れなくなったり,いち市民として戦争と向き合ったりという展開が,グエルの後追いでしかないのが皮肉に映りました.また,彼女は最初の決闘でミオリネの「花婿」になりましたが,それがスレッタの成長にプラスに作用するような要素になったようには,作中描写からはとても思えませんでした.繰り返しにはなりますが,二人の同行を描くには,この作品はキャラクターを多く出し過ぎです.
 そんなスレッタの母・プロスペラが考案した計画「クワイエット・ゼロ」は,データストームの範囲を著しく広げることで,そこでしか生きられないエリクトのための世界を作り出すというもの.概要から『エヴァ』っぽさが漂っていましたが,なぜ『ガンダム』で『エヴァ』っぽい話をしたがるのか…?また,その全貌は終盤までひた隠しにされており,計画には何が必要で,そのために彼女がどんな暗躍をしているのかが不明瞭でした.よく「プロスペラは計画がガバったのでオリジナルチャートを走っている」と言われますが,もう少し設定を整理すればそう見える表現にはならなかったと思います.結局,クワイエット・ゼロは巨大人工衛星であることが終盤に判明しますが,あまりにも唐突な設定開示にため息が出ました.
{/netabare}

・終盤
{netabare} それからというもの,この作品は見事に迷走します.スレッタがどこからともなく出てきた新しい機体「キャリバーン」に乗り込んだと思えば,ミオリネが何故か亡き母がトマトに残した遺伝子コードでクワイエット・ゼロを止めては,宇宙議会連合とかいうのがソーラー兵器を引っ提げて攻撃を仕掛けてきます.ただただ”先が読めない”だけで,伏線もなければメッセージ性も皆無の展開が続きます.理由は明白で,スタッフが2クールという尺を意識できていないんですよね.少なくとも,勢力やキャラクターはもっと減らすべきでしたし,決闘関連のエピソードは1クール目で一区切りを置くべきでした.大風呂敷を広げては,終盤に大慌てで畳み始めるという流れは,大河内氏がシリーズ構成を務めた作品ではよく見られる光景ですが,まさか令和の世にもその悪癖が治っていないとは….
 結局ソーラー兵器はエアリアルを取り込んだキャリバーンの超パワーで機能を停止し,クワイエット・ゼロはガンダムもろとも何故か粒子化して消滅,地球と宇宙の対立構造はミオリネが突然グループの解散を宣言したことで丸く収まり,データストームに侵されていたはずのスレッタは,後日談にて回復した状態であっさり登場します.散々大風呂敷を広げた割には,とりあえずなんとか終結まで漕ぎつけられた点は,一応四半世紀の作家人生を誇るベテラン脚本家の手腕でしょうが,そのためにこの作品が犠牲にしたものは,メッセージ性という重大なものだったように思います.特に,戦争による対立構造やエリクトの消失問題といった,作品の根幹を担うレベルの要素を,唐突な展開で安易に解決してしまうのは,今作が取り扱ってきたテーマがいかに軽薄かを喧伝するようなものでしょう.もしそれを,販促スケジュールのために満足にテーマを扱えなかったせいだというのなら,それはもはやプロの仕事ではないと個人的には考えます.
{/netabare}

投稿 : 2023/07/03
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サンキュー:

9

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